ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:熱烈オルッコ党員

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1週間ぶり2度目の気絶の一夏くん

そしてお久しぶりです皆さん



目が覚めると2

 目が覚めたら知らない天井……という事はなかった。

 つい一週間前にも、こんな感じで横になっていたのを一夏は思い返していた。

 そして、予想通り身体を動かそうとすると痛みが走る。

 

「目が覚めたか。前回よりは、早いお目覚めだな」

「千冬姉……」

「もう説明は面倒だから端折るぞ。例によって無茶な動きの代償だな」

「いくらなんでも端折りすぎじゃねーかそれは」

 

 苦笑いを浮かべながら、周りを見渡すと千冬以外にも、箒と鈴、そしてセシリアもいた。

 

「当事者を除けば、怪我人は無し。よくやったな織斑」

「…………あ、ありがと。それと、ごめん……」

「お前のお陰で、お前以外の人的被害はなかったんだ。誇りこそすれ、謝ることはない」

 

 お礼を言いつつも、一夏は冷や汗をダラダラと流していた。

 同席しているセシリアは、千冬は褒めているのになぜ一夏は何を焦っているのかという感じだが、付き合いの長い鈴と箒は正確に感じ取っていた。

 どうやら、千冬はひどくお怒りの様だ、と。

 だが、千冬がいつものように怒れないのは、自身が一夏を戦場に送り出したという負い目があるから他ならない。

 

「……本当に、お前たちには迷惑をかけた」

 

 顔を見ずともわかる。

 目をぐっとつぶり、血がにじむ程に唇を噛む千冬の表情が。

 だが、なんと返せば良いか、その答えを一夏は持ち合わせてなかった。

 というか、誰にも答えられないだろう、こんな事を言われても。

 そんな事はないと言っても気休めにもならないし、そうだなと言えばまだ千冬の気分は良くなるが、今度は一夏たちが気を病んでしまう。

 いつもの、冷静な千冬ならわかることも、今はわからないでいた。

 

「私は帰るが、お前たちはどうする?」

 

 これでは駄目だと頭を振った千冬は、三人に声をかけた。

 

「わたくし達はもう少し」

「そうか。お前らも程々にしてゆっくり休むようにな」

 

 では、と言い残し千冬が保健室を出るのを見てから、セシリアは箒に向けて一言放った。

 

「箒さんも、部活の方に顔を出さなくてよろしいので?」

 

 この場面では、あんまりにあんまりなセリフである。

 セシリアとて箒が一夏に抱いている気持ちは知っている。それなのに、追い出すというのは如何なものか。

 

「問題ない。私もまだいる」

 

 故に、箒はつっけんどんな態度で返してしまうのは仕方がないとも言える。

 ただ、鈴と一夏はセシリアが箒を追い出したがっているのを敏感に察して、加勢することにした。

 

「問題ない訳ないだろ。ここんとこ俺に付き合ってサボってばっかだったろ」

「うっ……」

 

 入学してから二週間、一夏の剣道の勘を取り戻すのに助力していたのは事実だし、その後のISの教習もピットから覗いていたのも事実である。

 

「セシリアがなんかするかもって心配してるんなら、あたしが止めるから大丈夫よ?」

 

 そして、鈴が言った事を気にしていたのも事実ではある。

 というか、専用機を持たぬ箒が放課後のIS指導をわざわざ見に行っていたのはこちらの理由の方が大きかったりする。

 

「そ、そんな事はない!」

「そう? だったら、心配せずに部活に行ってらっしゃいな」

 

 ムキになった箒は、素直に引き返すということは出来ない。

 たった一週間だが、しっかりと箒という少女の正確を読み切った鈴によって箒はついに保健室から追い出される事になった。

 

「で? 箒を追い出してまでしたいって話は何だよ。……アレか、陰口大会でも開くのか?」

「うわっ。いつからそんな陰湿な性格になったのよアンタは」

 

 そんな風にふざけだした一夏と鈴を横目に、いつになく真剣な空気をまとったセシリアが口を開く。

 

「お二人はどう思われますか?」

 

 主語が抜けた、何を言いたいのかわからない曖昧な問いかけだが、一夏と鈴は何を聞きたいのか察することが出来た。

 それはつまり、今回の襲撃についてだ。

 当事者三人にしかわからないこと。そして、なぜ箒を追い出したがっていたのかもなんとなく気付く。

 

「どうって……まあ、今回の襲撃はなんとかなったが今後はどうなるかわからんし、何より事後処理が一番面倒だろうな」

「所属不明のコアに、無人機でしょ? これ公表すると思う?」

 

 無人機だったこと、無所属の新しいコアが載せられていた事。

 どちらも特級の情報だ。

 

「公表するなら、片方だけってことはないだろうな。所属不明のコアって事を出したら、操縦者にどこで入手したのか聞かせろって騒がれて結局無人機だったってのもバレる」

「逆に無人機だった事だけを公表しても、今度はコアの出処を探られて、新しいコアってバレるわね」

「とはいえ、両方という事もない、と」

 

 一夏と鈴の考えに、セシリアも己の考えを付け足す。

 

「俺らに箝口令を敷いたのもその為かね。学園はこの襲撃があった事自体、隠す可能性もあるわけだ。……まあ、全部を全部隠すってことはないだろうがな」

 

 だが、それは現実的ではないだろう。

 各国の生徒が集まるこの学園で、隠し事をするのは実質不可能だった。

 セシリアも鈴も、祖国に報告する気満々である。

 

「で、そんな話をしたいが為に箒を追い出したのか?」

 

 なんとなく、話の方向性はわかってきているが、せめてもの抵抗でこんな事を口にしてみたが、それに何の意味もないことは一夏自身が強く感じていた。

 

「しらばっくれちゃって。ほんとはわかってるくせに」

「少なくとも、誰が(・・)というのはおわかりになっているでしょう?」

 

 二人の言う通りだった。

 この件に関しては、なぜ(・・)どうやって(・・・・・)というのはわからずとも、首謀者だけは明確にわかってしまうのだ。

 

「新しいコアを作れる人は、この世に一人しかいない。違いまして?」

 

 更に追い打ちをかけてくるセシリア。

 というかここまで言えば、ほぼほぼ個人名を言ってるようなものなのだが。

 

「……どっかの国が開発に成功したとかはないか?」

 

 せめてもの抵抗で一夏はこう言ったものの、この言葉に実感は込められていなかった。

 

「折角開発したのをこうやって使い潰すの?」

「それに、学園を襲うなんて事をせずに開発に成功したと公表すれば良いだけでしょう? わざわざ各国の生徒が集まる学園を襲って逆風に立つなんて事をするとは思えませんね」

 

 やはり、簡単に反論される。

 一夏は目をつぶり、小さくため息を吐いた──降参の証だ。

 推理小説なら、動機や手口を暴かなくてはならないが、これはそんな難しい話ではない。

 千冬がアレほど怒っていたのも首謀者がわかっているからこそだ。

 そもそも、あの怒りはここのいる誰かに向けられたのではない。そして、わかったとこでどうこうすることが出来ない己への不甲斐なさが噴出したものだ。

 

「お前らの思ってるように、今回の首謀者は束さんだろうな。あの人ならコアを使い潰すことに抵抗はないだろうし、人と関わり合いを持ちたがらないあの人が無人機を開発するのも当然ちゃ当然、か」

 

 だが、だとすると尚更疑問なのだ。

 

「他人と関わり合いを持ちたがらなかったあの人が、気を許してた数少ない人が、俺と千冬姉と箒なんだ」

 

 両親とも話していたが、アレは業務的な会話だ。

 束がしっかりと存在を認識していたのは、一夏が挙げた三人だ。

 

「千冬姉と箒があそこに居たのは、あの人だってわかってたはずだ。なのに、アレは最後にそこに向けて撃ちやがった」

 

 多くの人間を巻き込むのなら、観客席を狙う。

 だが、無人機は千冬と箒と真耶という三人しかいない場所を狙った。

 ならば、そこには明確な意思が合ったのだ。千冬、もしくは箒を狙うという。

 

「俺は、あの人にどうしてそんな事をしたのかがどうしても知りたい」

 

 そう締めくくった一夏だが、同時に直ぐにどうこうできる問題でもないともわかっていた。

 とはいえ、いずれは問いただすつもりではあるが。

 しばらくの沈黙の後、その空気を破る明るい声。

 

「ま、これ以上考えていて埒が明かないわね。──じゃ、あたしはそろそろ帰ろうかな」

 

 箒と約束したセシリアの監視はどうするんだろうかこの少女は。セシリアはまだまだ残る気なのだが。

 と、保健室の扉を開いた鈴は「そういえば」と振り返る。

 彼女の顔には、それはもう悪戯っぽい笑みが広がっていた。

 

「ずっと気になってたんだけどさ。もしかしてセシリアって一夏に告った?」

「っ!? な、な、な、なんで」

 

 言語機能がぶっ壊れたセシリアに構うこと無く鈴が言葉を紡ぐ。

 

「や、初日にご飯食べた時に名前呼び云々の話したじゃん? その時に一夏が『恋愛ごとに関しては~』って言ったのがどうにも引っかかってねえ」

 

 言われてみれば、そんな事を言ったような気がすると一夏は苦い顔をした。

 確かに、普段の自分なら絶対に言わない事なのだから。

 

「超絶鈍感朴念仁なコイツがこんな事言うなんて、おかしいなあって思ってね」

 

 

 

「まあ、その反応を見れば返事はまだしてないっぽいけど」

「む……」

「まあ、一夏にも考えがあるんでしょうからアレコレ言うつもりはないけど、早いとこ返事を返してくれないと告った側からすると辛いのよねえ」

 

 言うだけ言って、鈴は一夏の返事を待たず保健室を出る。

 何も言えずに見送った二人は、ほぼ同じタイミングでため息を吐いた。

 

「……おい、あいつなんなんだよ。達観しすぎだろアレ」

「一夏さんは、わたくしの事について何か鈴さんに話されました?」

「ハニトラで近づいてきた奴が実は本気で惚れそうになってるって? 言うわけ無いだろそんなもん」

 

 そして、ただ単純に告白されたわけでもないのだ。

 まあ、その辺りもなんとなく察したからこそせっつかなかったのかも知れないが。

 何にせよ、一夏としては振った相手にこんな事を言われるのは、いい気分にはならないのは間違いない。

 

「雪片……零落白夜。使えましたわね」

 

 と、そんな空気を変えるためか、セシリアがこんな事を言った。

 もしくは、彼女は純粋に気になっているのかも知れないが。

 

「まあでも、今後も使う機会は少ないだろうさ」

「それはまたどうして?」

「使ってみてわかったけど、コイツは危険すぎる。競技用のリミッターがかかってる状態であの威力だ。人間相手に使うのはヤバいと思う」

 

 それを表向きの理由にする事に一夏はした。

 本音のところは、もう少し違ったりはするが。

 これは、誰かを守るための力と思っている。それを、ISが護ってくれるとは言え誰かを傷つける為に振るうつもりはなかった。

 

「そうですか」

 

 釈然としない感情を抱きながらも、理屈としては一夏の言葉は通るのだから、セシリアとしてはこう言う他なかった。

 付き合いが深まってきたからこそ、彼がその言葉の裏に何か隠したのだろうというのはわかる。

 だが、何を隠したかを教えてくれるほどの信頼は寄せられていないのも同時にわかってしまうのが寂しくもある。

 もっとも、一夏としては正直に言うのは気恥ずかしく、それらしいことを言っているだけなのだが。

 

「ああ、にしても……今日は疲れたなあ……」

 

 一夏らしくない、心の声がそのまま漏れ出たような感じだ。

 

「ええ、本当に。お疲れ様でした」

 

 こちらも、素直な言葉が漏れ出た風だ。

 セシリアが優しい手付きで一夏の頭を撫でると、彼は恥ずかしそうに身を捩る。

 

「お前は俺の母さんか」

 

 恥ずかしさを誤魔化すように言ったが、二人ともクスリとも笑わず沈黙が降りる。

 軽い気持ちで言ってしまった一夏だが、その胸中にあるのは後悔だ。

 セシリアは、母に深い尊敬の念と親愛の念を持っているフシがある。そして、失った哀しみたるや相当なものだろう。

 そんな相手に、母を思い返してしまうような事を軽々しく言ってしまった己の迂闊さ。

 そして、セシリアもセシリアで一夏に同情とも言うべき感情を抱いて、二の句を繋げられなかった。

 親に捨てられた一夏は、親からの愛情を受ける機会はなかったと考えるのは当然だ。

 最初から、親の愛情を受けられなかったのと、受けていた愛情を途中で失うのは──果たしてどちらが辛いのだろうか。

 一夏としては、なまじ最初はあっただけに失った時の虚無感を考えると後者の方が辛いと思っているし、セシリアからすればたとえ失ったとしても、それを支えに生きていける。そもそも愛を教えてもらえなかった時の寂しさを考えると、前者の方が辛いと思っている。

 他者を想いやれる性格の二人だからこそ、絶妙にすれ違いが発生していた。

 

「すまん……」

「いえ、わたくしの方こそ……」

 

 ここに、鈴がいれば事情はあまり知らなくとも「何やってんのよこの二人は」と笑い飛ばしてくれるのだろうが、いかんせんこの二人は少し真面目すぎた。

 普段は斜に構え軽口を叩く一夏も、本質は真面目な好青年を地で行く男だし、セシリアも誂うような言動も出来るとはいえ、こちらも本質は真面目な性格だ。

 普段の軽い雰囲気ならともかく、重くなった空気を笑い飛ばす事など出来はしなかった。

 ハニトラ告白の時にしゅんと項垂れたセシリアを一夏が笑い飛ばせたのは、一夏には何の非はなかったからで、自分の方に思うところがあると途端にこうなってしまうのだった。

 

「……わたくしが、母ですか」

「多分、お前は良い母さんになれると思うよ」

「一夏さんの方こそ、良き父になれると思いますが」

「どうだろうな……。俺は親の気持ちなんて知らないし、愛情のかけ方もよくわからん」

 

 というか、子を捨てる気持ちなど知りたくもないが一夏の正直なところだ。

 同時に、親に愛情をかけられた事がないのだから、同じく愛情をどうかけてもいいのかもわからないとも。

 

「……親に愛情をかけてもらえなかった子供は、大人になった時に同じことをするというしな」

「それ、は……」

 

 もしかして、彼が恋愛に関して鈍いのはそういった事情もあるのかも知れないと、セシリアはぼんやりと思った。

 親から純粋な好意を向けられた事がないのだから、それはしょうがないとも思えた。

 もしかしたらある種、打算的な──セシリアの様なハニトラ云々の思惑が絡んだ上で、接した方が気付きやすいのかも知れない。

 

「ま、高校生の今からそんなモン考えててもしょうがねえな。……つーか子供以前に俺はまともな恋愛ができる可能性を模索しよう」

「ですから、わたくしはフリーだと何度申し上げれば」

「いい感じに話がまとまろうとしてたのになんでぶっ壊すかなあ?」

 

 そう言って、二人はいつものように笑みを浮かべる。

 こうして話せるのも、どこか不思議だ。

 もしあの時、少しでも判断が遅れていたら。そもそも、何か一つでも欠けていればこうして笑い合ってなどいられなかっただろう。

 

(それすらも仕組んだことと考えるのは……流石に考えすぎか?)

 

 だが、あの人がそれをする意味はないと思い直し一夏はその考えを打ち消した。

 

「また、何か考えてますわね。今日はゆっくりお休みになって下さい」

「……最初にその話を持ってきたのはお前ら二人だったと思うけどな」

 

 紛うことなき正論である。

 いらぬ気苦労をかけさせてしまったとセシリアは苦笑交じりに謝る他なかった。




なんか久しぶりすぎて文の感じがしっくりこないな
なんでだろ

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