ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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少しでも早く時間を進めるために強制的にゴールデンウイークに突入させました


ゴールデンウイーク突入

 季節は巡り、五月の頭。

 いわゆるゴールデンウィークである。

 土曜日まで授業があるというIS学園の特性上、まとまった休みが入るのはこれが初めてという事になる。

 そうなると海外から入学する生徒はこの機会に故郷に戻ろうという者もいるし、日本出身の生徒もせっかくだからと自宅に帰る人が多くいた。

 まあ、全員が全員というわけもなく、学園に残る者もいるのだが。

 

「やっぱ人は少ないわねえ。箒はなんで帰らなかったの?」

「私は帰ったところで一人だしな。──そういう鈴はどうして帰らないかったのだ?」

「……私も帰るのはちょっと、ね?」

 

 アリーナ内で言葉を交わす二人。箒も鈴も、IS学園に残る者達だ。

 箒は、そもそも帰る家がないというのが正しいところだが。……もっとも、親戚の家に身を寄せる事も出来るだろうが「ゴールデンウィーク中お邪魔させて下さい」だなんて連絡をこのコミュ障が出来るはずもなかった。

 鈴の方もある事情で、中国に戻るのは気が進まなかったりする。

 普段は明るく振る舞う鈴の表情がどこか陰ったのをみて、なにか事情があるのかと察した箒はこれ以上の会話はやめた。

 

「まあ、悪いことばかりじゃないしね。殆どの生徒がいないからアリーナも使い放題だし」

「そうだな。私としてもこうして訓練機が簡単に借りられるのはありがたい」

 

 鈴の言葉通り、普段はそれなりの人数が集まるアリーナも今は閑散としている。

 そしてアリーナを使う人が少ないという事は、必然的に訓練機を使う人も少なくなるので、箒の様な一年生でも簡単に訓練機を借りることが出来た。

 

「んじゃ、やりましょうか」

「お手柔らかに頼む」

 

 というわけで、箒は久しぶりにISを動かそうとしているわけである。

 で、どうせなら実戦形式でやろうととんとん拍子で話が進み、こうして二人が退治しているのだ。

 箒は、お手本の様な正眼の構え。

 反対に、鈴は両手にもった大剣をだらりと下げて持つ。

 

「でええええええええやあああああああ!」

「──ふっ!」

 

 喚声をあげ、突進してきた鈴に対し、箒は動じること無く対応した。

 左右に持った大剣が時間差で振るわれたたがそれを弾き、返す刀で鈴に斬りつける。

 

「踏み込みが甘い!」

「別にアタシは(コレ)が本分って訳じゃないしね!」

 

 必中を期した箒の斬撃は、鈴に僅かに届きはしなかった。

 

(衝撃砲を私の腕に当て、軌道を変えたのか……!)

 

 衝撃砲は空間を武器とする。故に、一瞬であれば相手の動きを鈍らせ、動きを変えさせることも可能である。

 もっとも、口にするのは簡単だが、実際にやるのは難しいところなのだが。

 

「さあどんどん行くわよ!」

「ぐっ」

 

 鈴は宙に舞い上がると、その身をコマのように回転させ、両手に持った大剣を雨の様に箒に降らせる。

 それを箒は物理シールドや近接ブレードで弾くのだが、鈴は着地と同時に今度は下段から逆袈裟に両手の大剣を切り上げる。それもなんとか受けきった箒だが、反撃の一手が打てないでいた。

 そもそも、これはISを纏っての勝負なのだ。

 箒がこれまで経験した剣道や学んできた剣術はあくまでも平面での戦い。鈴の様に三次元的な戦いの経験はなかった。

 

「こ……の……!」

 

 半ば無理やり気味にブレードを振り下ろすと、鈴はそれを右手に持った受け止める。

 そこから力押しで押し込もうとするが、びくとも動かない。

 それでも、押し込もうと力を入れる。

 

「そうやって力を入れちゃうと──」

 

 鍔迫り合いの格好で箒が押し込んでいると、鈴がニヤリと笑いその手から大剣を消す。

 次の瞬間、支えを失ったように箒が体勢を崩した。

 

「──こうなっちゃうわよ」

 

 そして、大きくバランスを崩した隙を鈴は見逃さない。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、箒の横を駆け抜けるほんの少し前に、もう一度大剣を呼び出す。

 それをすれ違いざまに振るう事により、箒に少なくないダメージが加算される。

 

「なめる……な……っ……!」

 

 それでも箒は体勢を立て直し、振り返る。

 鈴は未だ背を向けており、今が好機だと判断した。

 

「はい、どーん」

 

 まあ、実際は好機でも何でも無いのだが。

 衝撃砲の砲身は360度どこにでも展開できる。そして、人間の目に映る範囲では死角になるはずの後方も、ハイパーセンサーによって死角にはならない。

 熟練のIS乗りなら騙せないが、箒の様な乗りたてのIS乗りに見破るのは難しいところで、そしてまんまと引っ掛かってしまったのだ。

 ちなみに一夏が箒の立場だった場合は「アイツが無防備に背中を向けるなんて罠以外にない」と判断して深追いはしない為、この罠に関しては避けられるが。

 その後も、鈴はあの手この手で箒を貶めて、子供の様に扱ったのだった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「うーん。基本的な戦い方は問題ないけど、搦手に弱いわねアンタ」

「そんな事言われてもマトモに戦うのは今日がはじめてなんだが!?」

 

 ひとしきり身体を動かした二人は、そろそろお昼時という事もあって反省会をしつつ食堂に足を勧めていた。

 

「一夏がはじめてISで戦った時、そうやって諦めてた?」

「……う」

 

 鈴の言葉に箒は、言葉を詰まらせてしまった。

 思い返せばセシリア戦。

 一夏はそれまでは散々「勝てっこない」「やる気はない」と言っていた一夏だったが、いざ始まれば最後の最後まで諦める事はなかった。

 それに対して今の自分はどうだろうか。

 初日、一夏にあれだけ威勢の良いことを言っておきながら、今の自分は「しょうがない」と言い訳を口にした。

 箒が自己嫌悪でうめいていると、鈴がふと思いついた様に歩みを止めた。

 

「一夏と言えばアイツも今は家に帰ってるんだっけ?」

「うむ。家の掃除と豆の整理をしたいと。後は中学時代に働いていた喫茶店に顔を出すとも言っていたな」

 

 それを聞いて、ふーんと指を立て顎につける鈴。

 それがどうしたのだと箒が声に出すより早く、鈴がよしと声を上げた。

 

「お昼ご飯はそこにしましょ。あたしも久し振りに行ってみたいし」

「まあ、私は構わないが……」

 

 なんでわざわざ、と続ける箒。

 それに対して鈴は、

 

「まあそれは行ってみてのお楽しみお楽しみ」

 

 こう言って笑うだけだった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「一夏ぁ、コーヒーおかわり」

 

 そう言って、カップを差し出す赤毛の少年。

 名前を五反田弾といい、一夏の友人の一人である。

 

「へいへい。俺が言うのもアレだけどコーヒーってそう何杯も飲むようなモンじゃないんだからな。程々にしとけよ」

 

 注文を受けた一夏は、カップをコーヒーを注ぐ。

 格好も制服ではなく、執事を思わされるような格好をしていた。

 お昼時とあって、店は混雑していたがそこは長年働き、既に要領は掴んでいる。

 手際よく注文を捌きながら弾と会話をしていた。

 と、そこへ初老の男性が近づく。

 

「──それにしても悪いねえ。せっかくの休みに手伝ってもらっちゃって」

「いえ、どうせ暇でしたし。というか、俺の方こそ急に働けなくなってすみません」

「あんな事があったのだからしょうがないさ」

 

 彼はこの喫茶店を経営している。

 一夏からはマスターと呼ばれている。彼の落ち着いた雰囲気と喫茶店の雰囲気はマッチしており、そこに溶け込むのに苦労したものだと一夏は懐かしい思い出として胸にしまってある。

 本来は4月からも働く予定だったのだが、ISの適性が発覚してからそれどころでは無くなっていた。

 

「そういや一夏や。女子校生活どうよ?」

「雑に聞きすぎだっつーの。なんて答えれば良いんだ俺は」

「じゃあ彼女出来た?」

「そういう質問ってもう少し順序挟んで聞くモンじゃねえの?」

「文句が多いなお前は。で、いいから教えろよ」

 

 と、促してみたものの弾は答えが返ってくるとは思っていなかった。

 どうせいつもの様に「興味は無い」か「よくわからない」とかそういうつまらない答えだろうと。

 弾とて本気で期待しているわけではなく、いつも通りのやり取りをしたかっただけなのだ。

 

「まあ、ちょっと良いかなって思う奴はいるけど……」

 

 だが、弾のその考えはものの見事に裏切られた。

 照れくさそうに頬を掻きながら言う一夏は、とても嘘を言っているようには見えない。

 思わず二度見してしまったが、自分の見間違いではなさそうだった。

 

「ウッソだろマジで!? 誰だよ!? 俺の知ってる奴か!?」

「聞いといてその反応は失礼だろ。──ってIS学園でお前の知ってる奴って鈴しかいねえだろ」

「じゃあ鈴か!?」

「なんでそうなるんだよ。鈴じゃねえよ」

 

 言いつつ、一夏はさっと入り口に視線を飛ばす。

 ドアを開けようという人影を見つけたからだ。

 ちょっと行ってくると弾に告げた一夏は、お客様を出迎えようと足を向ける。

 

「いらっしゃいませ……って鈴と箒か。どうしたんだ」

「箒がここに顔を出すって言ってたからね。アンタのことだから顔を出すだけじゃなくて手伝うと思ってね」

「流石、お見通しだな」

 

 軽く会話を交わすと、鈴は一夏の案内を待たずに歩き始めた。向かう先は弾が座ってるカウンターだ。

 

「久しぶりね、弾」

「んあ?──ってオイ鈴じゃねえか」

 

 驚きに目を丸くした弾だったが、しかしそこは旧知の仲。

 直ぐに昔話に花を咲かせているのか、笑顔を浮かべる弾の姿があった。

 

「箒も来たのか」

「……私が来たら悪いのか?」

「何怒ってんだお前は。お客様を歓迎しない店員がどこにいるんだ」

 

 一夏の格好にドギマギしている箒は、いつも以上に無愛想な対応をしてしまうが一夏は特に気にした風もなく対応する。

 そのまま箒を引き連れ、一夏は窓際の二人がけの席に案内する。

 鈴は弾のいる席に行っているが、直に戻ってくるだろう。

 箒もカウンターに案内しようかとも思ったが、人見知り気味の箒を初対面の男がいるあの場に放り込むのは可哀想だと判断したのだ。

 

「昼飯に来たんだろ? この店は定食屋っぽいメニューもあるからな。好きなのを頼んでみろ」

 

 言われ、箒がメニューに視線を落とすとたしかに喫茶店に似つかわしくない名前があった。

 

「業火野菜炒め定食……?」

 

 箒がその名を呟くと一夏の方もやっぱそれに目が行くかと肩をすくめた。

 

「うちの調理担当の得意料理の1つなんだよ」

 

 因みにメニューの後ろの方に小さく『絶賛練習中』と書いてあったりする。

 練習中なので金額もだいぶ安くなっている。実質材料費などの原価程度の値段である。

 

「どうせだったらそれにするか?」

「う、うむ」

 

 困惑気味に箒が頷くのを見て、一夏は伝票にさっと文字を走らせる。

 

「お前、結構鈴とつるんでるよな。仲良くなったか?」

「どうだろうか。よく、ISの稽古をつけてはくれるが」

「まじかよ。俺が頼むとアイツ断るくせに」

 

 そうぼやく一夏に、それはお前がセシリアとよろしくやっているからだろう、と思わず言いかけたが、なんとか堪えた。

 実際、一夏とセシリアの間に入るのは難しいのだ。既に出来上がっている空気に入っていけないのだ。最初の頃は座学の範囲であれば教えていたが既に一夏がその域を脱しているのもあり、最近は二人だけの時間は減っていた。

 

「まあ何にせよ、お前にも友達が出来て良かったわ」

 

 そう言ってにこやかに会話をしている一夏と箒を遠くから見つめる視線。

 弾と鈴だ。

 

「あの美人さんの事か……?」

「ん? 箒がどうかしたの?」

 

 もしや、一夏の気になってる人というのはあの女性では無いかと弾が思っていると、鈴がそこに食いつく。

 かつて一夏に想いを寄せていた鈴に言うべきか悩んだものの、結局は言うことにした。

 

「いや、一夏の奴が学校で気になってる奴がいるって言ってたからな。あの娘の事かと思ってな」

 

 弾の言葉を聞いた鈴は「あー」と曖昧に頷く。

 

「違う違う。多分箒のことじゃないわよ」

「そうやって否定するって事は、お前にも心当たりあるってことか?」

「そ。というか、一夏の奴その娘にもう告られてるっぽいしね」

「そいつもまあ、たった一ヶ月でよく思い切ったもんだ」

 

 言いつつ弾がコーヒーを啜ると、伝票を持った一夏がこちらに向かって歩いてきた。

 

「おい弾。業火野菜炒めの注文入ったぞ」

「あいよ」

「何? 弾が作るの?」

 

 鈴の疑問の声に「まあな」と短く応えた弾は手早くエプロンを腰に巻く。

 そしてそのまま厨房に入って行った。

 

「……大丈夫なの?」

「曲がりなりにも定食屋の息子だぞ。料理の腕に関しちゃ俺より上だ」

 

 弾の実家は、この辺では有名な【五反田食堂】だ。

 その店主とこの喫茶店のマスターは古くからの付き合いらしく、一夏がここで働き出したのもその縁があってのことだ。

 そんな弾がどうして料理をしているのかというと、ある日まかないとして振る舞ったところ、それを見ていた常連がぜひ食べたいとなり、そこから口コミで広まり裏メニュー的存在となったのだ。

 

「鈴も同じのにするか?」

「そうね。不味かったら承知しないわよ」

「そいつは弾に言ってくれ」

 

 そうしてゴールデンウイークの一日は終わっていった。

 




プチバトルを書けて楽しかったです。
……セシリア出てないけど次回は出します。

あと、鈴ちゃんが原作は5月だけど矛盾解消のため今作は4月に転校してもらってます。
というわけでその後のキャラたちも前倒しします。……順番は前後しますのでご承知おきを。
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