ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
結局、一夏は状況を打開できず、そのままラウラに敗れた。
一夏はそのまま、セシリアがいたピットではなく、反対側のピットに戻ってきていた。
なんとなく、セシリアのいるピットに戻る気にはなれなかったのだ。
「くそっ!!」
ISを解除するやいなや、一夏はピットの壁を殴りつける。
何度も繰り返す内に、皮が破け血が滲んでくるが、そんな事もお構いなしに壁を殴り続ける。
負けた事は悔しい。そもそも、代表候補生が相手なのだ。勝てる見込みは少ないのはわかっていた。それでも、もう少し上手く立ち回れると思っていたのだ。
セシリアとの試合は、いい勝負まで持っていった。
不明機との戦いでも、主導権を握れた。
しかし、それは自分の実力だけではなかったのだ。
セシリアとはビットを使わない条件で、その上こちらは
それらの条件が揃わなけれな、結局はこの程度の実力しか無いと証明された事が情けなかった。
「その辺でおやめなさいな」
「……お前、なんで」
ここにいるはずのない人に声をかけられ、思わず一夏は睨むような、剣呑な視線を向けてしまう。
腰に手を当てる例のポーズを取りながら、呆れたような眼差しを向けるセシリアが、ピットの入り口に立っていた。
一夏が違うピットに戻るのを見てから移動していては、これほど早く来ることはできない筈だ。
ということはセシリアは、一夏がピットに戻リ始めるよりも早くここに来ていたという事になる。
「……ったく、お見通しって事かよ」
「一応、わたくしはあなたと触れる時間が多かったですからね。今のあなたは、わたくしに会いたくなかったのではと思いまして」
「そう思ったんなら放って置いてくれてよかったんだけどな」
いけない。これではただの八つ当たりだ。
そう思っても、吐いてしまった言葉は戻らない。
「あーその、アレだ。……完敗だな」
絞り出した言葉は、謝罪ではなかった。「悪い」という一言すら言えない自分が、これまたどうしようもなく情けなかった。
「そうでしょうか。よく食い下がった方だとは思いますが」
「世辞はいらねえ」
また、こういう言い方になってしまった。
ネガティブな考え方をし始めてしまうと、どうにも自分を抑えられない。妙に客観的に自分を見れてはいるが、自分の意思とは裏腹に口は勝手に動き言葉を紡いでいく。
「結局、俺はアイツに一撃も与えてねえどう攻めても対応される気配があった。どう守っても崩される予感があった。駆け引きも向こうの方が遥かに
「──それがわかっていれば十分だ」
「ラウラ……」
一夏とは違うピットに戻ったラウラもこちらに来たのだろう。
悔しさ、不甲斐なさを感じ顔を歪めている一夏とは対照的に、ラウラはどこか充実感をにじませていた。
「お前がどう思っているかは知らないが、オルコットが言った通り善戦した方だ。私はお前の実力をもう少し下に見積もっていたからな」
それは、ラウラの嘘偽りない思いだった。
セシリアとのクラス代表決定戦の試合映像を見て、そこから一ヶ月という期間で一夏の現時点の実力を大凡で見積もっていた。
ラウラが一夏の顔を重点的に狙ったのも偶然ではない。ISに守られているとはいえ、顔を狙われるというのは正直ゾッとしない。それこそ、一ヶ月程度のIS乗りでは、頭でわかっていても、無意識にかばう動きを見せるし動揺もするのだ。
だが、一夏にはソレがなかった。
それこそ、既に命の危機に瀕した様な、死線を乗り越えたことがあるような雰囲気すら感じる。
「剣術と我流が折り混ざった風だが、ある意味ではそれが功を奏する場面もあった。近接戦に大きな問題はなさそうだ。……自分でわかっているとは思うが駆け引きの面ではまだまだ学ぶところは多いがな」
「そうですわね。近接戦という面では、一年の中では上位の方でしょうし」
「その近接戦で俺はコテンパンにやられたんだが?」
ここまで来て、おや? とセシリアは疑問を覚える。
妙に一夏が自分を卑下しすぎている風に思ったのだ。
と言っても、普段の彼が自信に溢れる不遜な態度をとっている訳ではない。それでも何か一夏の言葉に引っ掛かったのだ。
「私は仮にも代表候補生だぞ? たった一ヶ月しか乗っていない奴に負けるわけにはいかないだろう」
「というより、AICを引き出させた時点で金星の様なものですわ……勝ってませんし負けてますけど」
セシリアがポツリと付け加えると、余計な事を言うなと言わんばかりにラウラが睨む。
そんな彼女の視線をセシリアは肩をすくめて流す。
らしくない一夏の姿だが、ラウラはこうなった時の対応はわかっている風だった。逆に、いつもの様な冗談をぶつけ合う事はできなさそうだと察したセシリアはこの後はおとなしくしていようと思った。
「試合中にも言ったが、AICは使うつもりはなかった。正確に言えば、使わなくても倒せると思っていた」
ピクリと一夏の肩が震えた。
「使わなくても、結局は私が勝っていただろうがな、その場合はもう少し手こずったと思う」
「少し、ね……」
俯いた一夏の表情は、二人にはわからない。
それでも、彼がどんな表情をしているのか、二人はなんとなく分かった。
暫くの後、顔を上げた一夏の表情に、悔しさは滲んでるが、暗いものは感じない。
「編入したばっかで疲れているかもしれんけど、もう一手頼めるか?」
それは、純粋に強者との戦いに期待するような表情だった。
そして、これまでセシリアが感じていた、高みを目指す力強い眼差し。
「ああ、勿論だ」
そして、横柄な感じで頷きを返したラウラも、どこか満足した表情を浮かべていた。
さて、意気揚々と再びアリーナに出ていった二人とは対象的に、セシリアはどこか物憂げな表情を浮かべていた。
(違和感は感じませんわね……)
彼女はラウラの真意を未だ測りかねているのだ。
模擬戦の中では、おかしなところはなかった。攻撃を加えた箇所は危ない部分ではあるが、セシリアとて狙撃の際は顔面は狙う。
模擬戦の後の反省会もおかしなところはない。
自らを卑下する様な発言を繰り返していた一夏に対し、あえて挑発する物言いをしたのも一夏の性格をよく知っているが故だろう。
ただ一つ気になることがあるとすれば──
「──どうしてあの方は一夏さんに構うのでしょうか?」
一夏に対し、悪意というものは無いのはわかった。
千冬にお世話になったというラウラの言葉から考えれば、間違いないだろう。
それがどうして一夏の面倒を見ることに繋がるのかは理解できないが、まあ害するつもりが無いのならば良いかとセシリアは置いておく事にした。
「わたくしも頑張らないといけませんわね」
一夏や、ラウラの事ばかりにかずらっている余裕は、セシリアにはあまりなかった。
イギリス政府からは一夏に対する命令が出ているから関わっても良いのだが、それとは別にセシリアのIS乗りとしてのプライドの問題があった。
やはり、胸に残り続けるのは乱入があって流れてしまった鈴との試合。
あのまま続けていれば、勝敗はどうなっていただろうかと今でも頭を過るのだ。
(おそらく、わたくしは──)
その先に行き着く前に、頭を大きく振って考えを打ち消す。
それは、あり得たかもしれない未来だが、しかし、確定された未来ではないのだ。
「わたくしも頑張らないとですわね」
少なくとも、近接戦は代表候補生を比べる事は愚か、一般生徒とそうは変わらないレベルなのだから。
なんかとんでもないセシリア作品が投稿されてて草