ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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ちょっとだけ甘えてみようと思ったのです

「こんな時間まで精が出ますわね、一夏さん」

「悪いなこんな時間に呼び出して」

 

 時刻は夜。セシリアは一夏の部屋に足を運んでいた。

 理由は一夏に食後に部屋に来て欲しいと頼まれたからだ。

 夜に自室に呼ぶ。その事に少しだけ期待した自分もいたが、他に理由があるのだろうと、なんとなく察していた。

 部屋に入ると、一夏は例によって用意していたのであろうコーヒーを口にしながら、なにやら真剣な目でタブレットを眺めていた。

 そのまま流れる動作で一夏の隣に座り、セシリアは一夏が眺めていたディスプレイを覗き込む。

 ……わざわざ、一夏の顔の前まで頭を持っていきながら。

 

「おいコラ。画面の前に割り込むなって。お前の後頭部しか見えんぞ」

「こうでもしないと、一夏さんは気付いてくれないような気がしてまして」

「ちゃんと出迎えの言葉は言っただろ」

「そういう事ではありませんわ」

 

 傾けていた身を元の位置に戻しつつ、セシリアはいたずらっぽく笑う。

 どういう事だ、と言いかけて一夏はどこか違和感を感じたのか鼻をひくつかせる。

 少しして違和感に気付いた彼は、わざとらしく大きなため息を吐いた。

 

「香水を変えたんだな。……俺はさっきまでしてた方が好きだが」

「あら、そうでしたか。でしたら明日は違う物を試すことにしましょう」

「前使ってたのに戻せば良いだけだろ」

「そういう訳にはいきませんわ。もっと良い物が見つかるかもしれませんし」

「面倒だねえ。女ってのは」

 

 ぶっきら棒に一夏が言うと、セシリアは呆れたように一夏の飲むコーヒーを指差してみせた。

 

「毎度毎度、飽きずにコーヒーのブレンドを試している貴方の言葉とは思えませんわね」

「ブレンドは試すたびに違う出来になる。最初から匂いがわかってる香水とは違う」

「本当に、あなたはああ言えばこう言うを地で行く人ですわね」

「そういう性分なんだ。諦めろ」

 

 そう言って一夏は再び、ディスプレイに視線を戻す。

 先程までのどこか軽い飄々とした雰囲気はそこにはない。

 正直、シャワーを浴びてまで香水を変えた反応がこれだけというのはセシリアとしては面白くはない。

 では、そんな自分を放っておいて一夏は一体何を真剣に見ているのか、セシリアは改めてディスプレイに視線を落とす。

 一夏が見ていたのはIS同士による戦闘。それも、つい先程発生したラウラとの一戦の映像だった。

 

「ラウラさん対策、ですか」

 

 セシリアの表情からも先程までの不満げな色は消え、鋭い目つきを携えていた。

 

「ああ。試合を重ねるごとに差が見えてくるからな」

「わたくしの目には善戦している様に思えましたが」

 

 もっとも、それは一夏がラウラに対応しだしたからか、あるいはラウラが一夏の実力を見切って合わせたのかどちらかは定かではないが。

 

「あのAICさえなければまだいい。つーか意味がわからねーよ、動きを止めるってのッt!?」

 

 段々と声を荒げ、やってらんないと言わんばかりに頭を振る一夏。

 こういう苛立ちを隠そうとしない彼の姿は珍しいだけに、よほど今日の手合わせ結果に不満を抱いているらしい。

 尚もブツクサと文句を言っていた一夏だが片手に持ったグラスを口に運び、そこで「んっ!?」と表情を変えた。

 

「どうかなさいました?」

 

 よもや、なにか気になる事でも見付けたのかと見守るセシリアの前で、一夏は満足そうに顔をほころばせた。

 

「いや、今回は昨日のブレンドをベースにローストを深めてみたんだが、こいつはいいぞ!」

 

 どうやら、飲んでいるコーヒーの感想らしい。セシリアはがっくりと拍子抜けする。

 いくらコーヒーが好きでもそこまで凝ることはないでしょうに──と、自身の紅茶へのこだわりを棚に上げながらセシリアは内心呆れた。

 

「豆を変えたのも良かったかもしれんが……」

 

 先程の不機嫌はどこにやら、一夏自身は美味しそうにグラスを傾けて様子は、まるでサンタさんからプレゼントを貰った子供の様だ。

 

「入学式に淹れたコーヒーがあっただろ? そのブレンドを応用してみたんだ」

「はあ」

「キリマンジャロに代えてパカマラを使ってみたんだ。自分が言うのもアレだが、こいつは良いブレンドだぞ!」

「はあ」

 

 適当に相槌を打つセシリアを気にした様子もなく上機嫌な一夏。

 ラウラ対策はどうしたんだと言いたいが、先程の不機嫌さを全面に押し出すのよりはマシだろう。

 

「セシリアならさ、どうやってラウラと戦う?」

「わたくしなら、ですか?」

 

 突然矛先を向けられたセシリアだったが、特に困った様子もなくそうですわねと顎に手をやる。

 

「ラウラさんも遠距離用の武装はありますし……何よりも厄介なのはこのワイヤーブレードですわね」

 

 ディスプレイを操作し、一夏がワイヤーブレードによって右腕を取られアリーナの壁にぶん投げられた場面を映し出す。

 射出されているワイヤーブレードはセシリアが確認できただけで六本。

 有線式とはいえ、セシリアの扱うビットと同じ様に意のままに動かせる兵器は厄介だと思ったのだ。

 

「AICじゃなくてか?」

「ええ」

 

 どうにも一夏はAICの事が気になるらしい。

 無理もないとは思うが、少々囚われ過ぎに思えた。

 セシリアとしてはその辺りから指摘しても良いのだが、あえて黙っておくことにした。

 今までの経緯から、一夏が自分で考える頭を持っている事は十分わかっている。

 そして、人に言われるよりも自分で考えて試すことは良い事だとも思っている。

 故に一夏はAIC対策だけに気を取られているが、それで得られる事もあるのだろうとセシリアは判断したのだ。

 

「わたくしもまだ、直接戦った訳ではありませんからハッキリとは申し上げられません。けれど、AICの有効射程はそこまで長くないと見てます」

 

 AICはPICの応用で相手の動きを止めたり、攻撃を防ぐ事を可能とする第三世代兵器だ。

 そして、PICを応用しているというのは鈴の駆る『甲龍』の第三世代の衝撃砲と同じ括りになる。

 違う点は、あちらは『質量を持った塊を撃ち出す』事が目的だが、AICの目的は『その場に縫い付ける』事だ。性能的には可能かもしれないが、技術的には遠距離の相手に使うのは難しいだろう。

 一夏との試合でも、距離が離れている間はAICは使っていなかった事を考えれば、この予想はそうは外れていないだろう。

 

「遠距離でも動きを止められるのであれば、使わない道理はありませんもの」

 

 もっとも、ラウラが一夏に合わせて遠距離で使わなかった可能性も捨てきれないのだが。

 

「要するにアレか、近距離で使われたとしても端っから近距離を捨てているお前には関係ないって事か」

「事実ですけど、そのおっしゃり様は酷くないですこと?」

「おっと、悪い悪い」

「むう……」

 

 悪いと言いつつも全くもって悪びれた様子はない。それどころか軽くセシリアの頭を撫でる始末である。

 そして、それを嫌と跳ね除けないセシリアもセシリアなのだが。

 

「それと、仮にわたくしの動きをAICで止めたところで影響はそこまでありませんわ」

 

 頭から離れていく一夏の手を名残惜しく思いながら、セシリアはAICを気にしない理由を続ける。

 セシリアの言葉を聞いた一夏は、一瞬どういう事だと眉を潜めたが、直ぐに得心が行ったと言わんばかりに手をポンと鳴らす。

 

「なるほどな。別にビットがあるんだからそっちを動かせばいいだけだし」

「その通りですわ」

 

 セシリアの動きを止められたらビットを動かす。

 ビットの動きを止められたらセシリア本人が動く。

 複数箇所からの攻撃手段があるからこそ取れる策でもある

 逆に言えば、複数箇所からの攻撃手段を持たない一夏からすればセシリアの対策は使えないいという事になる。

 

「参考になりましたか?」

「んーまあ、参考にはなったけど、俺が同じことを出来る訳でもないしなあ……」

 

 苦笑まじりに呟くと、頭をガシガシと掻き回す。

 調べても調べても、AIC攻略の糸口が見つからないことに苛立ちが募るのを一夏は自覚した。

 

「悪かったな、こんな時間に呼び出して。聞きたいことは聞けたしもう帰ってもいいぞ」

 

 このままだと、またセシリアに八つ当たりしそうだと一夏は考えたのだが、それを受けたセシリアは不満げそうに頬を膨らませる。

 

「こんな時間に呼びつけておいて、自分の用事が終わったら帰れってのはあんまりにあんまりですわ」

「お前そんな風に駄々こねるタイプじゃねえだろ」

「だって今日は二人っきりの時間が少なくて寂しかったんですもの……」

「まあ確かに、今日はラウラも殆ど一緒にいたけどさ」

 

 もしこの会話を箒が聞いていたら羨ましいという言葉では収まらないほどの感情を抱くだろう。

 なにせ、一夏と二人で過ごす時間は殆ど無いのだから。

 だったら自分からもう少しアクションを起こすべきなのだが、生憎と彼女にはそこまでの行動力は無かった。

 

「って納得しかけたけど俺ら付き合ってないよな!? なに当然のように彼女面してんだお前!?」

「周りからどう思われているかは一夏さんも知っているでしょう?」

「お前が入学当初から散々付きまとってきたせいでな!」

 

 ふふ、と楽しそうに笑うセシリアと他愛も無い会話を重ねていると、不思議と心が落ち着くのを感じる。

 ラウラ対策は結局思いつかなかったが、それでもセシリアを呼んでよかったと一夏はぼんやりと思った。

 

「あなたは何かあると直ぐに根を詰めますからね。程々にしていただきたいですわ」

 

 今度は、心底心配してるのだと一夏の体調を憂う様に気遣わし気な表情を浮かべたセシリアが一夏の手に重ねるようにして自身の手を這わす。

 

「そうは言ってもさ、ラウラとは明日も戦うってのに何の対策も持ってきませんでしたってのは悪いだろ」

 

 重ねられたセシリアの腕を振りほどく様にしてグラスに手をのばす。

 手を払われたセシリアから「あ」と切なげな声が漏れる。

 しかし、直ぐに取り繕うと今度は一夏にジト目を送る。

 

「教えを請う立場として、その考えは立派ですが徹夜をしてまでするのはどうかと思いますわ」

「まだ徹夜するとは言ってないんだが」

「あなたなら絶対します」

 

 ピシャリと言い放つセシリアに一夏はそんな事は無いと返したかったが、前科を考えると言いにくかった。何より、自分自身も今日は徹夜になりそうだと薄々感じていたくらいだからだ。

 

「いっそ、一夏さんが寝るまでわたくしが子守唄でも歌いましょうか? もしご希望なら添い寝なんかもサービスしますわ」

「ムグッ!?」 

 

 丁度グラスに口をつけたタイミングでのセシリアの発言に、一夏は思わず噎せ返る。

 逆流してきたコーヒーが鼻の奥の方にまで昇ってくる。

 ツーンという痛みも辛いし、こんな方法で自慢のコーヒーの香りを味わいたくなかった。

 

「お前なあ!? 何馬鹿な事言ってんだ!? ああくそ、滅茶苦茶痛えんだけどコレ!」

「あら、そんなに喜んで頂けるなら本当にしましょうか?」

「絶対にやめろ!」

 

 寝かしつけるための手段としては明らかに不正解だ。

 子守唄はともかく、添い寝なんかをされたら絶対に寝られる気がしない。

 そうなったら、セシリアの本来の目的としては本末転倒ではないだろうか。

 

「本当にお前はさあ……」

「膝枕をして欲しくないのなら、大人しく寝ることですわね」

「なんか増えてるけどもうツッコまねえぞ」

 

 口ではそう言いつつも、やってもらうのも良いかもなと思ったのは絶対に口にしないようにと一夏は固く心に誓った。




この話のブレンドはキリマンジャロが尽きたものの買い出しに行けず半ばやけくそでパカマラに変えて生まれました
計算して淹れるよりもこうやって適当に淹れた方が美味しかったりするとなんだか複雑な気分になります。
あと、本当に久しぶりにコンビニでコーヒーを買ったんです。
クラフトB○SSのブラックなんですが、結構美味しくてびっくりしました。水出し特有のすっきりとした香りも良かったんですが、何よりもエグみというかいがっぽい感じが無かったのが良かったです
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