ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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転校生きます


月イチ転校生

 6月。クラスの中は何処か、緊張感に包まれていた。

 ラウラが転校生としてやってきてからもうそうだったが、ラウラを警戒するような空気こそあれど、今とは少し違う。

 無理もない、そう一夏は思った。

 なにせ、今日から初の実習。訓練機とは言え、ISに乗る授業が始まるからだ。

 後は今月末に控えている全員参加のトーナメント戦があるのも一因だろう。

 

「緊張してんなあ」

「あなたも最初はそうでしたわ」

 

 セシリアにそう言われては、何も言い返せなかった。

 実際、緊張して碌に操縦できなかった。地面に激突したことなど良い思い出だ。

 その後の醜態を考えると、中々最悪なデビューだった。

 

「まあその点、こいつらはラッキーだろ。俺以上に出来ねえ奴はいねえよ」

「そうですわね。皆さん入試の時に動かしてますし」

 

 付け加えると、とラウラも一夏の机にやってきた。

 

「入試の時とは違い、皆はこの二ヶ月間座学をしっかりと学んでいる。実技と言えど、装着と歩行程度なら問題ないだろう」

 

 操縦に慣れている専用機持ちが集まって会話するとやはり目立つ。

 もっとも、ラウラは敢えて目立つことで全員に聞かせているのだが。

 やはり、軍属で部下を持っているラウラは、こうしてさり気なく緊張を解す術を持っていた。

 

(流石だよなあ)

 

 ラウラの言葉を聞いたクラスメートも、不安の表情を完全に消し去るという事は出来なくとも、自信も少なからず見せている。

 ラウラの言った言葉が、嘘の励ましならこうはならなかったかもしれないが、彼女は嘘は言っていない。

 これまでの皆のやってきたことを言っただけなのだから。

 と、一夏がラウラの行動に感動していると、息せき切って教室に飛び込んでくる影があった。

 

「大ニュース大ニュース! このクラスに転校生が来るって!」

「そうか、転校生か」

「驚きが足りなーい!」

 

 相川は、セシリアとラウラをかき分ける様にして、一夏の机を両手で叩く。

 だが、一夏はやれやれと肩をすくめてみせた。

 

「考えても見ろよ。4月に鈴が転校してきて5月にはラウラだろ? そう考えたら6月に誰かが転校してきても俺は驚かんね」

 

 毎月毎月転校生に来られたら、こういう反応もやむなしだ。

 事実、盛り上がっている人もいるにはいるが、大多数は「ああ、そう」とそっけなかった。

 

「ノリが悪いなあ……もしかして織斑くんの知り合いだったりして?」

「いやあ、流石にISに乗ってそうな知り合いはねえよ」

 

 鈴のように知らず知らずのうちにという事はあるだろうが、考えにくかった。

 それよりも、この時期の転校生で考えるとしたら、別の方向で気にはなる。

 

「代表候補生ってのは間違い無いだろうな」

 

 一夏が言うと、それに同意するようにセシリアとラウラも頷く。

 何の後ろ盾もない普通の生徒がおいそれと編入できる程、IS学園の敷居は低くない。となれば、国という強固な後ろ盾がある代表候補生と自然と行き着く。

 実際、これまで転校してきた鈴とラウラも代表候補生という肩書を持っている。

 

「面倒くせえなあ……」

 

 一夏が小さく呟いた言葉に、セシリアが少し反応を示す。

 伺うような感じで目だけを動かし一夏を捉える。

 

「何かしら、面倒事に絡まれるんだろうなあ」

 

 代表候補生は四組にいるという女子を除けば、全員と絡んでいる。

 鈴とラウラはまだマシだ。昔からの知り合いという事で、おかしな事は起きない。

 だが、これから来る代表候補生にセシリアと同様の命令が出ていると考えたら、憂鬱としか言いようがなかった。

 

「いっそ男とか来ねえかな?」

「流石にそれは無いってー」

 

 だよなあ、と笑い合う一夏と相川。

 そんな二人はSHRの時、表情を凍らせる事になるとは、この時は考えてもいなかった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 真耶の言葉など、一夏の耳に一切入っていなかった。

 いや、一夏だけではない。殆どの生徒が聞こえていない。

 

「マジか……」

 

 思わずそう呟いた一夏の言葉も、誰の耳にも届いている様子はない。

 

「──シャルル・デュノアです。フランスの代表候補生をしています。皆さん、よろしくおねがいします」

 

 転校生、シャルルと名乗った少年(・・)は貴公子然とした印象を与える笑みを浮かべて礼をする。

 

「お、男……?」

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を、と」

 

 誰かが呟いた一言にこれまたにこやかにシャルルは返した。

 中性的な顔立ち、髪は濃い金髪で長い髪を背中で丁寧に束ねている。

 

「マジでマジかよ……」

「ホントに来ちゃったね……」

 

 先程まで一夏と話をしていた相川までも苦笑いを浮かべていた。

 もちろん、一夏も同じ気持ちである。だが、少しだけ相川とは感じ方は違う。

 男性が来た事に対する驚き──ではない。

 中性的、そう言われればその通りだろう。だが、一夏は僅かな引っ掛かりを覚えていた。

 

「お前ら。今日から実習だと言うのに何を呆けている」

 

 ぱんぱんと手を叩いて、千冬は意識を切り替えようとした。

 クラスの者は、それを聞いて表情雨だけはなんとか取り繕う。

 それでも、視線だけは今日の授業内容を伝える真耶ではなく、シャルルに向けられていた。

 

「おい織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう?」

 

 SHRを終え、実習の為に着替えようと更衣室に向かったところで、千冬に呼び止められた。

 少しだけ、千冬の真意を読もうと視線をぶつけ、逸らす。

 

「あー……。はい、わかりました」

 

 ここで言っても、答えてくれるはずもない。後で聞けばいいかと一夏は頭を切り替えてシャルルの方に向き直った。

 

「男子は空いているアリーナ更衣室で着替えだ。これから実習の度にこの移動だから早めに慣れてくれ」

「う、うん……」

 

 教室を出て、更衣室を目指して歩く。

 隣ではなく、後ろを歩こうとしたシャルルに歩くスピードを合わせる。

 シャルルが少しだけ、躊躇うような素振りを見せたが、一夏はそれを気にせず、口を開いた。

 

「知っているとは思うけど、織斑一夏だ。よろしく」

 

 自己紹介を始めてしまえば、後ろに下がるという事は出来ない。

 観念したのか、シャルルも歩調を合わせながら口を開く。

 

「うん。よろしくね、織斑くん」

「それと、同じ男同士だし、名字読みはやめようぜ。俺もシャルルって呼ぶから」

「わかったよ一夏くん」

「その、くん付けもいらねえ。なんかムズかゆくてしょうがねえ」

 

 続けて、同じ男同士だしなと締める。

 そうだね、と答えるシャルルはやはりどもっている。

 

「織斑くんおはよー。今日から実習──って男!?」

「ええええええ!? まさか転校生って男の子だったの!?」

「え、なんで!? やばいんですけど!?」

 

 そうなるよなー、と一夏は思わず脱力する。

 机があれば、突っ伏していたところだ。

 けど、シャルルは驚いた様子はない。いや、どこかキョトンとしている。状況が読めていないのだ。

 

「何!? なんでみんな驚いているの!?」

「いや、それはお前、男の操縦者なんて今まで俺しかいなかったからな。そこに来て、新しく追加されたんじゃ驚くだろ」

 

 一夏は呆れた様子で、シャルルを見る。

 少しだけ、その視線は冷たくなっていたが、群がる女子生徒に気を取られているシャルルは気付かない。

 

「それともアレか。お前の住んでたところは男性操縦者がウジャウジャいたのか?」

「あ、いや! そんな事無いよ。僕だけだったから大騒ぎだったよ……?」

 

 シャルルの弁明に、一夏は「だろうな」と吐き捨てる様に呟き、群がる生徒の方を向く。

 一夏の呟いた声音は、普段を知る者なら違和感を覚えるだろうが、シャルルは気が付かない。

 

「悪い。コイツに色々質問したいだろうけど、俺等はこれから織斑先生の授業なんだ。遅刻はしたくないしさ」

「あ、そうだよね。ごめんね!」

「また後で色々話聞かせてね-!」

 

 道を開けてくれた生徒に手を振りながら、一夏とシャルルはその間を通り抜ける。

 

「ちょっと急ぐか。遅刻したらマジで洒落にならん」

「あ、うん。わかった」

 

 少しだけ、歩く速度を上げる。

 速歩きになったシャルルの足を運びを見る一夏の視線は、やはり冷たかった。

 程なくして、更衣室にたどり着いた一夏は、念の為更衣室をぐるりと見渡す。

 それを不思議そうにシャルルは見ていたが、なんでという言葉を口にするよりも早く、一夏が口を開く。

 

「着替える前に一つだけいいか?」

「う、うん。なにかな?」

 

 じっと、シャルルを見ていた一夏は「うん」と、腕を組んで頷いた。

 

「──男と女が同じ更衣室で着替えるのは危ないと思わんか?」

 

 シャルルの表情が凍りついた。

 一夏はの方は、相変わらず冷たい視線をシャルルに向けている。

 先程までは、周りに人がいたからか、表情を取り繕っていたが、今は目元だけではなく、表情を見ただけで冷たい印象を受ける。

 

「な、何のことかな? 僕は男だよ」

「そうか。じゃあ早く着替えろよ」

 

 そう言って一夏は腕を組んだまま、ロッカーに身を預ける。

 だが、シャルルは動かない。スーツを入れた袋をぎゅっと握りしめているだけだ。

 

「どうした? 着替えないと遅れるぞ?」

「あ、あんまり見られていると緊張しちゃうって。一夏だって同性の前で裸になるのは嫌でしょ?」

「そりゃ俺だって同性だからって裸になったりしねえよ。けど、上半身くらいなら大丈夫だろう? 龍の彫りモンがあるって訳じゃないだろうし」

 

 最後は冗談交じりだが、笑える様な雰囲気ではない。

 しばらくシャルルを睨みつけていた一夏だが、そこでふと視線を逸らし、小さくと息を吐いた。

 

「素直に認めるんなら、先生に突き出すのは考えてやる。認めないのなら、お前に襲われたと千冬姉を呼ぶ。言っておくがウチの姉さんおっかねえぞ」

 

 そう言ってやると、シャルルはいよいよ俯いてしまった。握りしめた袋が震えていた。

 もうこの時点で認めている様なものなのだった。

 現に、次に顔を上げた時、シャルルの表情からは笑みが消え失せ、どこか諦めたような達観した表情だった。

 

「その前に僕からひとつ聞いて良いかな?」

「いいぞ?」

「なんで僕が女だってわかったの? これでも男装は完璧なつもりだったし、話し方とかも矯正されたんだけど……」

 

 矯正された。その言葉を聞いて一夏は表情を歪めたものの、すぐに冷たい表情に戻す。やはり、向いていない。そう思った。

 色々と踏み入って聞きたいところだが、生憎と今は時間がない。とりあえず、どうやってシャルルの男装を見抜いたのかを説明することにした。

 

「まずはひとつ目、重心の違いだな」

 

 そう言って一夏は「これは一般論だが」と続ける。

 

「歩く時に男は踵よりに重心がかかるのに対して、女性は爪先よりにかかる。特に、海外生まれでヒールを履き慣れているヤツはそれが顕著だな。勿論、男でも爪先よりに重心がかかるヤツもいるが……お前は混ざっていた。教室に入る時やは意識してたんだろうな。踵よりに重心をかけてたが、教室を出てここに移動する時に速歩きにさせただろ? 余裕がなくなったのか、爪先の方に重心が傾いている感じがした。普通のヤツはそういう風に混ざらない。それこそシャルル、お前が自分で言ったように矯正されていなければこういう風にはならない」

 

 昔の自分なら気付かなかっただろうが、最近はラウラの指導で細かいところまで見るようになっているのだ。その御蔭で違和感に気付けた。女の集団に男が入れば目立つだろうが、シャルルは目立たなさすぎた。

 一拍おき、一夏は制服を脱ぎ捨てる。いい加減、時間が危うくなってきたからだ。

 シャルルが小さく悲鳴をあげたが、それに構うこともなく、シャルルに背中を向け着替えを続けながら話を続けた。

 

「俺の適性が発覚してから急ごしらえで準備したんだろうな。こういう些細なところで女を感じるぞ」

 

 苦笑いを浮かべ、指摘してやる。

 或いは、もう見抜かれていると思って、隠さなくなっただけかもしれないが。

 他にも、気付くキッカケになった事はあるが、いちいち言うのはやめておいた。本人が認めたがらないのなら一つずつ並べるが、認めた今となってはその必要もない。

 

「なんで男装なんてさせられたのかってのは後々聞かせてくれ。──まあ、それもおおよそ見当はつくが」

「あの、僕はどうすれば」

「知らねえよ」

 

 すがるようなシャルルに、一夏は冷たく突き放す。

 背後で、シャルルが俯くのを感じた。

 どこか、被害者のような様子を見て、思わずロッカーを叩きつけるように閉めると、シャルルの肩が震えた。

 横目でシャルルの様子を伺う。

 前髪でよく見えないが、頬を伝う何かが見えた気がした。

 少しずつ、この少女に同情しそうになってしまう自分を自覚する。

 本当は、この時点で千冬を呼ぶべきなのだが、一夏にはそれが出来なかった。

 

「男のフリを続ければ良いんじゃねえの。どうせ同じ部屋になるだろうから事情はその時に聞く。千冬姉に突き出すかはそれから考える」

 

 暗に、それまでは言うつもりは無いとアピールする。

 それをどう受け取ったかわからないが、シャルルは消え入りそうな声で小さく「うん」と言葉を返した。

 

「顔も洗ってこい。洗面所のところなら着替えても俺からも死角になるしな」

 

 ぶっきら棒に言うと、シャルルが背を向けて駆け足気味に一夏から離れた。

 程なくして、着替えを終えたシャルルがやってきた。どういう理屈かはわからないが、胸はコルセットかなにかで押さえているのか、目立っていない。

 表情も、先程よりはマシだ。自己紹介したときのような、柔和な笑みを浮かべている。

 

「よくそれで騙せると思ったな」

 

 今はもう、女にしか見えない。

 どちらかと言えば中性的、といった風で、声も明らかに女のソレだ。

 

「ごめん」

 

 責めるつもりはなかったが、シャルルにはそうは受け取らなかった様で、また俯いてしまった。

 一夏は訂正するつもりもなかったのか、シャルルの謝罪を聞き流し背を向け、グラウンドへ向かう為に足を踏みだす。

 慌ててシャルルが追いかけてきたが、先程の様にシャルルと隣で歩くような事をせず、一夏は先を歩き続ける。

 やはり、面倒事に巻き込まれた。一夏は声に出さずに呟いた。

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