ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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セシリア・オルコットという少女

 放課後、セシリアが帰り支度をしていると、真耶が慌てた様子で教室に駆け込んできた。

 

「織斑くん、まだ教室にいたんですね。良かったです」

 

 どうやら、目的は一夏のようだ。

 周りを見ると、なぜ真耶が戻ってきたのか気になっているのは自分だけではないようで、クラスメートの殆どが残っていた。

 

「えっとですね 寮の部屋が決まりました」

 

 そう言って部屋番号の書かれた紙とキーを一夏に渡す。

 

(決まりました? まるで、寮に部屋が用意されていなかったような言い草ですわね)

 

 疑問に思ったのはセシリアだけではないようで、一夏が口を開いた。

 

「俺の部屋、決まってないんじゃなかったですか? 一週間は自宅から通学するって話でしたけど」

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理やり変更したらしいです」

 

 なるほど。

 織斑一夏は唯一(今のところは)の男性操縦者だ。万が一ということもある。そうそう自宅に帰す訳にはいかないだろう。

 まあ、その当人たる一夏はなんとも悲しげな表情を浮かべているが。

 真耶も真耶で、普段は温厚そうで気弱な感じのくせに、今現在は有無を言わせない雰囲気が醸し出している。

 いずれににせよ、一夏に拒否権はないようだ。

 

「……部屋はわかりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備出来ないですし、今日はもう帰っていいですか?」

 

 と、一夏がせめてもの抵抗をしようとしたところで、教室に千冬の声が響いた。

 

「荷物なら私が手配しておいた。……まあ着替えと携帯の充電器があればいいだろう?」

「ちょっとまって下さい。荷物は持ってきたって――」

「安心しろ。コーヒーメーカーは持ってきてやった。全部という訳にはいかんが豆も持ってきておいた」

 

 たしなめるように一夏に言うと、千冬はメモを手渡す。

 メモを受け取った彼はざっと目を通し、顔をしかめた。

 

「……お言葉ですが織斑先生。こちらのリストですが持ってきた豆に偏りが見受けられるのですが」

「気のせいだ」

「いやでも――」

「気のせいだ」

 

 有無を言わせぬ迫力で一夏の言葉を遮る千冬。

 セシリアには良くわからないが、一夏はどうにか納得したらしい。……ものすごい形相で千冬を睨んでいるが。

 一夏のある種恨みがましい視線を受け流し、簡単に学校のシステムなどを伝えて千冬たちは教室を去っていく。

 千冬はすでに居ないのに未練がましく彼女の去っていった方を睨んでいる一夏に、セシリアが声をかけた。

 

「コーヒーのブレンドが趣味だというのは嘘ではなかったようですわね」

「まあ、別に嘘を付くことでもないしな」

 

 ようやく視線を外した一夏は気を取り直すように鞄から水筒を取り出し中身をコップに注ぐ。

 それをセシリアに差し出し一言。

 

「教科書のお礼だ。一杯どうだ?」

「あら、準備が良いようで。ありがたく頂きますわ」

「言っておくが、俺はブラック専門だからな。ホワイトなんてないぞ。今回のコイツにホワイトは合わんし」

 

 ホワイトってどういう事? と首をひねるクラスメートをよそにセシリアはコップに口をつける。

 すると、口の中に芳醇な香りが広がった。ブラック故に苦味があるかと思いきや、そうでもない。

 むしろ甘みすら感じるのだ。そして、不思議なことにどこかで飲んだことのあるような、懐かしさも感じるようなコーヒーである。

 

「……おいしい」

「そいつは良かった」

 

 途端、一夏の表情が綻ぶ。

 そういえば、彼がここまで純粋な、心から笑っているような表情を見せたのは初めてだったなと、ぼんやりセシリアは思った。仮に自分が一夏の立場でも余裕のある振る舞いが出来るか、正直自信はない。

 

「それで、感想はそれだけか?」

 

 自作のブレンドを『おいしい』と言ってもらえて嬉しいのだろう。

 そしてそれだけで満足せず、もっと感想を聞かせて欲しい、と。

 どことなくそわそわしている彼の様子を見て、セシリアの頬が思わず緩む。

 

「苦味が少ないですわね。ブラックなのに、むしろ甘みすら感じるような」

「そこを意識したからな。俺が飲む分には苦くても良いが、女子だと苦いのは嫌いって人もいるだろうし」

 

 どうやら、最初から誰かに飲ませるつもりで作ってきたようだ。

 誰に飲ませようかと、彼がタイミングを見計らってたかと思うとなんだかおかしな感じがした。

 そう考えると、彼は意外と余裕があるのだろうか。

 

「俺の淹れるコーヒーは殆ど水出しだ。なんでかって言うとこうすれば苦味──というよりはいがっぽい感じだな、これは出にくい」

「なるほど。たしかに飲みやすいですわね。それから、一つ気になったのはこちらのコーヒーどこかで飲んだことのあるような気がして……。いえ、まったく同じではなく、どこか似ている程度ですが……」

 

 セシリアの言葉を聞いた一夏は「ほう」と驚いた様子を見せた。

 

「お前、お嬢様なのは見かけだけじゃなかったんだな」

「どういう意味ですの、それ」

「悪い悪い。──飲んだことがある気がするのは、使った豆の効果だな。キリマンジャロAAって言えばわかるか?」

「キリマンジャロAA……確かイギリス王室御用達だった豆ですわね」

「そう、それだ。まさかイギリスから来たやつに飲んでもらえるとは思わなかったがな」

 

 なるほど、どこかで飲んだことがあると感じたのは気のせいではなかったようだ。

 自分がイギリス代表候補生だということは自己紹介で言っている。故に、一夏はイギリスから来たセシリアにこそ飲んでもらいたいと思って渡してきたと考えるのは深読みのしすぎだろうか。

 

「しかし、使った豆はこれだけではないですわね。キリマンジャロだけでは、この甘さは出ませんし、もっと酸味があるはずですから」

「ご明察。水出しコーヒーで酸味を増やしすぎるのはご法度。このブレンドにはキリマンジャロ以外に二種類の豆を使った。コロンビア・カトレアとサントスNo.2だ」

 

 セシリアはコーヒーは飲むが、紅茶ほどのこだわりは無い。種類と言われてもほとんど知らない。

 とは言え、これだけの味を生み出す豆なのだ。適当な豆を使ったわけではないだろう。

 そして、良い豆を使ったからと言っても必ずしも美味しいコーヒーが出来るわけではない事もセシリアは知っている。

 

「どういう豆かは興味があったら調べておいてくれ。説明すると長くなるしな」

 

 言いつつ、一夏はセシリアからコップを返してもらい、コーヒーを注ぐ。

 箒に「お前もどうだ?」と差し出す。

 一夏に差し出されたコップを受け取り一口飲んだ箒が「うっ」と声を漏らした。

 

「むぅ、箒にはまだわからんか、大人の味は」

 

 飲みかけのコップを箒から返してもらった一夏は実に美味そうに黒い液体をすする。

 

「そ、そんな事無いぞ! もう一度渡してみろ! 今度は飲み干してみせる」

「無理すんなって。今度は豆を変えてミルクに合うように作ってやるから。というかなんだ、飲み干してみせるって。人の自慢のコーヒーを毒物みたいに扱いやがって」

 

 ムキになった箒をたしなめている一夏に、セシリアが声をかけた。

 

「これだけのコーヒーをタダで頂くのは申し訳ないですわね」

「いや、教科書の解説のお礼のつもりなんだが」

「アレはわたくしが勝手にやっているだけだとお伝えしたはずでは?」

「……お前、結構頑固だな」

「簡単に引くようでは、貴族の名折れですので」

 

 先程の一夏に言われた事にかけて言ってみると、一夏は返す言葉が見つからなかったのか、口をつぐんだ。

 そしてセシリアは一夏が口を閉ざしたのを良いことに、自分の胸に手をやり一言。

 

「お礼は、わたくし自身でいかがでしょうか?」

「…………おいお前、それはどういう意味で」

「ふふっ。言葉が足りませんでしたね。わたくしがISの事を教えて差し上げる、そういう意味ですわ」

「だったら最初からそういう意味で言えよ……。なんでわざわざ勘違いさせるような言い方をしたんだお前」

「一体、どういう意味で受け取ったのかお聞かせ願いたいですわね」

「そりゃあ、お前──」

 

 と、なにやら続けようとしたした一夏だったが、周りをみて言いかけた言葉は飲み込む。

 ここで言っていい内容ではないと察したようだ。

 気を取り直すように一夏が咳払いを一つした。

 

「で、ISの事を教えてくれるって事だが、もう十分に教わってるしなあ」

座学(・・)の面では、そうですわね。そちらの篠ノ之さんにも教わっているようですし」

 

 座学というところを強調して言うと、一夏も気付いたようで目を見開く。

 

「となると実技の方か。おい、箒。なんか向こうから言い出してくれたぞ」

「まったく、お前という奴は……。──オルコット、私から良いか?」

「ええ、何なりと」

 

 なぜ一夏ではなく、箒が質問するのか気になったが、敢えて指摘することでもないだろう。

 セシリアとしては、一夏のセリフの方が気になるが。

 

「どうして一夏に肩入れをする? 教科書だけならわかるが、実技ともなると異常だ。仮にもお前は来週一夏と戦うのだ。わざわざ敵を鍛える意味は何だ?」

 

 箒がセシリアを見る目は鋭い。

 気概だけで言えば、一夏よりよほど戦い甲斐があるだろうとセシリアに思わせた。……もっとも、気概だけで勝てたら苦労はしないのだが。

 

「ではお答えしましょう。ISというものはとても危険な兵器(・・)です。乗り手が良く理解しないまま乗ると重大な事故を起こす危険性がある。それを防ぐためにも経験者のサポートが必要だと判断しました」

 

 ISは現行兵器を遥かに凌駕する性能を持つ。

 それだけに、初心者がおいそれと扱って良いものではない。

 

「だが、一夏を鍛えるとお前はそれだけ不利になるんだが、それで良いのか?」

「おい箒──」

 

 一夏が箒の言葉を訂正するより早く、セシリアが口を開いた。

 腰に手をやり、呆れ気味に一言。

 

「たかだか数日素人に教えただけで、このわたくしが負けるとでも? 苦戦するとでも?」

「それ、は……」

「わたくしの態度は傲慢に見えますか? ……むしろ、たかだか数日でわたくしに追いつける気でいる方が傲慢かと」

 

 うっと言葉をつまらせた箒を見て、一夏は言わんこっちゃないと頭を押さえた。

 どうやら、彼は彼我の実力差を見る目はしっかりとあるようだ。

 

「オルコット。お前の言いたいことはわかったからもう箒を責めてやるな。悪気があって言ったわけじゃないんだ、すまん」

「いえ、わたくしも強く言い過ぎてしました。その点に関しては謝罪を」

 

 素直に頭を下げると、一夏の方に改めて向き合う。

 箒がなにかセシリアに言おうとしていたが、彼女は敢えて無視をすることにした。これ以上なにか言われても話が脱線する一方のようだ。

 

「それで、織斑さん。どうでしょうか、指導の件」

「俺からしたら、願ったりだ。正直、お前に頼もうとしていたくらいだしな」

 

(なるほど、先程『向こうから言い出してくれた』とおっしゃってましたが、彼もそれを望んでいたということですか)

 

 やはり彼は馬鹿ではない。

 クラス代表決めでの立ち回りといい、頭の回転は良いようだ。

 

「それでは、専用機が用意される明日から放課後に訓練を行いましょう」

「OK問題ない」

「報酬は、織斑さんのご自慢のブレンドで如何でしょう?」

「うんまあ、お前の好みに合うかわからんが善処しよう」

「随分、歯切れの悪いお返事ですわね。朝は『俺も自慢のブレンドを用意しよう』と自信がお有りでしたのに」

「まあ、そうなんだが……」

 

 苦笑交じりに一夏はセシリアにメモを渡す。

 先程、千冬に渡されていたメモのようだ。

 

「……これは豆の種類でしょうか?」

「ああ。千冬姉が俺が寮生活になるからって家から持ってきてくれた豆のリストだ。──思いっきり千冬姉好みの豆ばっかだ。ブルーマウンテンとかその辺の甘い系の豆は全然持ってきてくれてねえ」

 

 なるほど、それで千冬にメモを受け取った時彼はなんとも言えない顔をしていたのだろう。

 というか千冬は一夏にコーヒーを淹れてもらうつもりなのだろうか。

 あの厳格な千冬がそんな事を考えて運び出す豆を選んでいる光景を想像して、セシリアはなんともおかしな気分になった。

 

「それでは、わたくしはこれで失礼します」

「ああ、また明日」

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室からでたセシリアは、そのまま寮に帰るという事はせず、アリーナの更衣室に足を向けていた。

 新しく用意された男性用の更衣室に入り、そのままピットに足を伸ばす。

 周りに人が居ないことを確認し満足気に頷くと、懐から携帯電話を取り出した。

 電話帳に表示された名前がイギリス本国のIS整備部門担当者であることを確認し、通話のボタンを押す。

 程なくして、通話がつながる。

 

「セシリア・オルコットです。定期報告を」

『よろしい。──周囲に誰もいませんね?』

「ええ、ここは男性用の更衣室ですので」

 

 唯一入ってくる可能性があるのは一夏だが、今日は来ないだろう。

 彼にはまだ専用機は用意されておらず、訓練機の申請をした様子も無かった。

 女性がわざわざ男性の更衣室に入ったりはしないだろう。──セシリアは自分の事を棚に上げそんな事を思った。

 

『それでは本日の報告……とはいえ、初日ですから特にないとは思いますが』

「そうですわね。本日は実技訓練もありませんでした。しばらくは座学中心のカリキュラムが組まれているとの事です」

『わかりました。けれど、ブルー・ティアーズの稼働は可能な限り行うように。セシリア・オルコット、あなたがIS学園に派遣された理由は今更説明しなくても良いですね?』

「わかってますわ。この報告後にもブルー・ティアーズは動かしますわ」

 

 セシリアは自分自身の実力が高いものであると疑っていない。だが、盲目的に信仰しているわけでもない。

 事実、このIS学園にもイギリス代表候補生の先輩はおり、実力もそちらの方が僅かに上回っている事は自覚している。

 それでも、イギリスの開発した最新鋭の専用機は彼女ではなくセシリアに渡された。その意味がわからないセシリアではない。

 ISに関する情報はいかなる情報でも開示しなければならない。これはアラスカ条約で決められている事だ。

 だが、国のすべてを結集して開発した技術を公表なんてしたくない。

 だが、ここでIS学園が出てくる。あらゆる干渉を跳ね除けられるIS学園なら新規開発の技術を公表することなく、そしてテストを実施することも出来るというわけだ。

 つまり最新鋭の機体を渡すなら、二年生三年生より新入生に、という事になる。まあ、セシリアにイギリスの第三世代機が渡された理由はそれだけではないのだが。

 

『それと、織斑一夏の件ですが、接触は出来ましたか?』

「ええ。座学の面は幼馴染の篠ノ之さんに席を奪われましたが、実技の方は明日の放課後から指導をする名目で共に過ごす時間を得ました」

『おお。それは素晴らしい』

「それと来週の金曜日、クラス代表決めで彼と模擬戦をする事にもなりましたので」

『なるほど。彼にとって初の実戦が我が国の最新鋭のブルー・ティアーズとですか。我が国にとってもよいお披露目になりますね』

 

 セシリアが専用機を渡されてから、ブルー・ティアーズを使っての実戦はまだない。

 そういう意味では、相手が世界初の男性操縦者というのも悪くない。

 だが、そんなセシリアの気分に水を差すような言葉が携帯から聞こえた。

 

『話は変わりますが、織斑一夏は寮部屋になったと思うのですがご存知ですか?』

「……まさか、織斑さんが寮生活に切り替わったのは」

『ご明察のとおりです。我が国だけではなく、各国からそういった要請がされたそうです。貴重な男性操縦者はIS学園で軟禁──もとい厳重に警護するべきだと』

 

 まったく、この手の話題は憂鬱になる。セシリアは髪を乱暴にかきあげた。

 それは教室では決して見せなかった仕草だった。

 

「それで? わたくしにどうしろと?」

『私の口から言わせますか? ミス・オルコット』

「…………わかってますわ。わかってますとも」

『具体的には?』

「織斑一夏をイギリス本国につれてこい、でしょう?」

『まあ、連れてくるのは赤ちゃんの素だけでも良いですけどね』

 

 本当に、本当にこの手の話題は苦手だ。

 苦虫を噛み潰したような表情をセシリアは浮かべる。

 

『エージェントの調べでは、織斑一夏はこれまで交際した女性は居ないとのことですが、それは彼が枯れているのか、それとも女性に興味がないのか。教室で様子を見ていてどうでした?』

「そうですわね……。話の流れで『お礼はわたくし自身』と申し上げましたら、それなりに反応してらっしゃいましたので女性に興味がない訳ではないかと」

『……一体どういう話の流れでそういった言葉が出てくるのか疑問ですがそれはまあ、良いでしょう。折をみて、織斑一夏の部屋にお邪魔するように。ぼやぼやしていると他国に出し抜かれますよ』

 

 担当の言葉を聞いたセシリアは、はぁとため息を吐く。

 それは電話越しにも伝わったようで、担当者からすかさずフォローが入った。

 

『一番は、織斑一夏があなたに惚れることではなく、あなたが織斑一夏に惚れることですね。私だって、十五の少年にハニートラップをかけろだなんて言いたくはないですから。どうです? 顔はイケメンでしょう?』

「まあ、見てくれは良いですし、粗野な男性と違って思慮深そうではあります。それでいて、自分の趣味の世界に没頭してしまう視野の狭さもある意味では魅力的な部分かもしれませんね」

『おや、中々の高評価。良いじゃないですか。押し倒しちゃいましょうよ』

 

 少しずつ、言葉が崩れてきた担当にセシリアは苦笑いを浮かべる。

 まあ電話の相手も、二十代前半。こういった話は興味があるってことだろう。そして、あまりダークな話はしたくない、と。

 

「それでも、その程度で惚れるなんて事はないですわね。わたくしはそこまで軽い女ではないと自負してますので」

『とか言って、簡単に恋に落ちるのが女って生き物なのよ』

 

 どうやら、担当者様は完全に恋バナモードになったようだ。

 これ以上の通話は意味がないと判断したセシリアは「アリーナの使用時間が迫ってきてますので」と伝え通話を終わらせる。

 チラリとアリーナを見たセシリアはほんの一瞬ではISを展開した。

 本来はISスーツに着替えた方がエネルギー効率が良いのだが、今回は少しだけズルをしてしまった。

 

(自分で決めたこととは言え、気分が良いものではありませんわね)

 

 自分はまだ十五歳。まだまだ子供の年齢だ。それで、あんなドロドロした話に首を突っ込んでいるのだ。

 良い気分なはずもない。これで、相手がどうでも良い男ならまだ割り切れる。

 今日、何度も一夏と言葉を交わしてわかってしまった。彼は、セシリアにとってどうでも良い男のカテゴリーから外れてしまった事を。

 少なからず、彼と会話することを楽しんでいる自分がいた。それがまた、セシリアの気分を憂鬱にさせる。

 

 いっそ、嫌いになれれば良かった。ハニートラップに引っかかり、裏切られたと絶望する顔を想像してセシリアも少なからず気分は良くなる。

 

 いっそ、惚れてしまえば良かった。命令されずとも積極的に一夏に迫ることが出来た。

 

 あくまでも今は、彼を良き友人として見ているのだ。

 それでも、国にイギリスに尽くさねばならないのだ。それしか自分には選択肢がないのだ。

 そう自分に言い聞かせたセシリアは、今日は訓練メニューを無視して自由に飛ぼうとアリーナにISを向けた。

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