ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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ちょっと大人要素入ります


二人の違い

「じゃ、聞かせてもらおうか」

「うん……」

 

 夜、シャルルの引っ越しを終えた一夏とシャルルは向き合っていた。

 動きやすいようにとシャルルはジャージに着替えていたが、コルセットは外しているのだろう。胸の膨らみが隠されることなく、強調されている。

 男装をやめたシャルルを見て、ふと臨海学校はどうするつもりだったんだろうなと一夏は思った。

 確か、自由時間は海に入れるはずだが、と。

 

(まあ、んな事は今はいいか)

 

 関係ない方に思考が逃げるたのを、一夏は頭を振ってかき消す。

 聞かせてもらおうと言ったものの、どう話を持っていこうかと一夏が思っていると、シャルルが頭を下げた。

 

「今更だけど、本当にごめん。迷惑かけちゃって」

「最初に謝ってくるなよ。もう少し俺に責めさせろ」

 

 冗談っぽく言ったが、空気が軽くなることは無かった。

 やりにくい。率直にそう思った。

 そもそも、一夏は重苦しい空気は嫌いなのだ。

 腰を上げると、一夏はコーヒーをカップに注ぐ。

 少しでも明るい雰囲気にしたかった。

 

「ミルクか砂糖はいるか? オススメはブラックだが」

「えーと……どれでも」

「ああ、そう」

 

 どれでも、というのが一番困るのだが。

 シャルルからは自分がこうしたいという意思を感じない。

 これまで、一度でも自分の意志を示したことがあったか、束の間思い返したが、心当たりはない。

 

「ほらよ」

「ごめ──っ」

「っと」

 

 カップを渡す時に、持ち手の部分で一夏とシャルルの指先が触れ合った。

 それに驚いたのか、シャルルが慌てて引っ込めようとしたところで、カップが揺れ、中身が少し掛かってしまった。

 いつもは水出しコーヒーが主だが、タイミングが悪く、今日はホットコーヒーだった。

 そのせいで、黒い液体が掛かった箇所は、少し赤くなってしまっていた。

 一夏は直ぐに水で冷やしたが、シャルルはベッドに腰を下ろしたままだ。

 

「冷やせよ。火傷になるぞ」

「ごめん」

 

 何を謝ることがあるのか。

 手を冷やした後、カップに一口付けたシャルルから味の感想はなく、少しだけ一夏は寂しく感じた。

 自分も、黒い液体を啜るが、いつもの様に美味しくは感じなかった。

 雰囲気はまるで変わってないが、そろそろ良いだろうと一夏が切り出した。

 

「取り敢えず、俺がわかっている事を聞くけどさ。お前はフランスの大手ISメーカの御曹司って扱いなんだよな?」

 

 現実は、御曹司ではなく、御令嬢なのだが。

 お嬢様、という意味ではセシリアと同じはずなのだろうが、醸す雰囲気はまるで別人だ。

 どこか躊躇うようにシャルルが頷くのを見て、一夏は続けた。

 

「そんな奴がなんでこんな事してんだよ。鈴やラウラみたいに普通に転校してくればよかったじゃねえか」

「それは……」

 

 しかし、シャルルにその質問をぶつけても意味はなかった。

 結局の所、シャルルも男装して学園に行けと命令されただけだろうと一夏は思っていたからだ。

 だから、一夏は聞き方を変える事にした。

 

「で、男装してまで俺に近づきたかった理由はなんなんだ?」

「えっと、その……デュノア社は今、経営危機に陥ってんるだけど……知ってる?」

「ああ。俺の先生はヨーロッパの二人だからな。そこら辺の情報は入ってる」

 

 大手と言えるデュノア社だが、第三世代機の開発が遅れているのだと。

 セシリアのイギリス、ラウラのドイツはすでに第三世代機をほぼ完成させ、IS学園でテストしている。

 だが、フランスはまだそこまで至っていない。その責任が、デュノア社に向かっている、と。

 それを踏まえて、一夏はシャルルに男装を命じたデュノア社の意図はわかっていたつもりだ。

 

「お前が男装している理由は、フランス政府に対する札の一つと言ったところか? 貴重な男性操縦者を抱えている会社に国は圧力をかけられないだろうしな」

「うん。その通りだよ。それとね──」

 

 だが、国は確認しなかったのか。

 一夏はそこが気になったがその疑問は後に回した。

 他にも男装している理由を、シャルルが話し始めたからだ。

 

「──同じ男子なら、接近もしやすいだろうって。白式のデータは勿論、一夏と……その……同じ部屋ならそういう事をする機会も作りやすいだろうって……」

 

 伏し目がちに告げるシャルルだったが、一夏はそれほど驚くことは無かった。

 シャルルに聞いたのは確認の意味で、前者はともかく、後者の目的で近づいてきたのだろうと一夏は悟っていたからだ。

 だが──

 

「──お前には向いてねえよ」

 

 言って一夏は、シャルルの肩に両手を置く。

 顔を近づけると、シャルルの瞳が恐怖で揺れる。

 

「男装を見た時から思ったけど全然仕込まれちゃいねえな、お前」

 

 そのまま、一夏は体重をかけてシャルルをベッドに押し倒す。

 片手で、シャルルの髪に振れるとピクッとシャルルが震えた。

 そのまま、頬に手をやると、ますます身が強ばる。

 

「いち……か……?」

 

 今度は、ハッキリと嫌悪感がシャルルの顔に現れたが、頬に触れられた手を振りほどこうとはしない。

 わずかに、一夏の胸のあたりに手をやり、力なく押し返そうとするだけだ。

 一夏はしばらくシャルルを至近距離で見つめていると、シャルルがぎゅっと目を瞑った。

 

「もしくは、こうやって同情を誘って、抱いてもらおうとでも思ってたのか?」

「ちが! 僕は──」

「そういう命令が出てるんだろ? なら、今はチャンスじゃねえか?」

 

 しばらく、そのままでいたが、シャルルの手が一夏の身体から離れた。

 諦めた様に、シャルルは一夏を見上げる。

 

「良かったな。正体はバレたけど、命令は果たせそうだぞ」

 

 一夏も、ベッドに頭を預け、シャルルの耳元で囁く。

 シャルルが、身を縮こまらせたのを感じた。

 

「…………」

「無視、か」

 

 前にも、どこかでこんなやり取りをしたなと一夏は思い出す。

 そうだ。セシリアとも、こういう会話をした。

 その時は、アイツにならと一夏は思ったが、不思議とシャルルにはそういう気持ちを持たない。

 と、一夏はシャルルから身体を離し、隣のベッドテーブルに置いたカップに手を伸ばす。

 

「え……?」

 

 ホッとしたような、そんな間抜けな声がシャルルから漏れた。

 

「お前を抱くつもりはねえよ。ちょっと確かめさせてもらっただけだ」

「何、を……?」

 

 シャルルは、横になったまま呆然とした表情を一夏に向けていた。

 先程まで、恐怖で揺れていた瞳に、今度は困惑の色が混ざっている。

 

「いや、本当にお前が嫌々させられているのか、気になってな」

 

 一夏が迫った時、シャルルの瞳には確かに拒絶する意思が現れた。

 それも演技、と言われたらそれまでだろうが、信じてみようと一夏は思ったのだ。

 

「俺にこうやって迫ってくる奴は、何もお前が初めてって訳でもない。──セシリアもな。国から命令されているんだよ。俺に抱かれろってな」

 

 小さく、シャルルが息を呑む気配を感じた。

 それを知っていながら、何事もないように一緒にいるのが不思議に思ったのだろうか。

 しかし一夏は、シャルルのそんな様子に構うことなく、言葉を続けた。

 

「まあ、セシリアも迷ってんだろうよ。自分の家のために、国の命令を守るか。それとも、自分の気持ちを優先するかをな」

 

 まだ、その答えは出ていないようだが、セシリアならその内、見つけるだろうと一夏は思っていた。

 その時は俺も真剣に考えなければならないとも、思っているが。

 

「お前とは立場は似ているけど、あいつはお前みたいに安易に諦めたりしねえ。どうにか出来ないかって答えを探そうとしてるんだよ」

 

 ここまで言って、一夏は気付いた。

 なぜ、シャルルにこれほどまで辛く当たっていたのかを。

 知らない間に、シャルルにセシリアという存在を重ね合わせていたのだ。

 

「自分の意思もなく、流されるがままの奴を俺は抱いてやらねえよ。もし仮に、それでお前が救われるんだとしてもな」

 

 吐き捨てる様に呟くと同時に、シャルルが鼻をすする音も聞こえたが、一夏は聞かなかったことにした。

 しばらくの間、シャルルは音を立てていたが、今は静かだ。

 まるで事後だな、と一夏はぼんやりと思った。

 ベッドで丸くなっているシャルルと、その傍らでコーヒーを啜る一夏。

 誰かに部屋に入ってこられたら、誤解されても仕方がないと思えた。

 

「一夏さん。今よろしいでしょうか?」

 

 ドアの向こうからセシリアの声。

 ベッドで丸くなっていたシャルルがガバっと身を起こす。

 どうしよう、シャルルからそんな視線を向けられた様な気がした。

 

「どうしようもねえ。諦めろ」

 

 にべもなく言い放つと、シャルルはしゅんと肩を落とす。けれど、一夏にもどうする事も出来ないのだからしょうがない。

 取り敢えず、セシリアを放って置く事も出来ないから、今いくよと、一夏はドアの向こうに声を投げて腰を上げた。

 

「どうした?」

 

 ドアを開け、一夏はセシリアに対面する。

 さり気なく、中が見えないように立ったが、違和感はないだろうか。

 セシリアが少しだけ訝しげな表情を浮かべたが、先ずは用件を先に話すことにした。

 

「いえ、食事に来られませんでしたので。どうされたのかなと」

「ああ。引っ越しやら、同室のルール決めやら色々あってな」

「そうですか」

 

 後手でドアを閉めながら、一夏は食堂に足を向けた。

 

「デュノアさんはよろしいので?」

「ああ。引っ越しの疲れが出たのか分からんが、体調が悪いみたいでな、飯はいらないみたいだ」

 

 だからお前が来てくれて丁度良かったと、続ける。

 やはり、疑われているのか、セシリアが一夏に向ける視線はいつもより鋭い。

 

「その、デュノアさんの事でお話があります。皆さんがいるところでする話でもありませんし、わたくしの部屋にきませんか? お食事は用意してますし」

「ルームメイトがいるだろ? 大丈夫か?」

「一夏さんを呼ぶと言ったら、気を利かせて出ていってくれましたわ。今日は帰ってこないそうですわ」

「相変わらずだなあ、お前のルームメイトも」

 

 別に、そういう事をするつもりはないのだが。少なくとも、今は。

 

「んじゃ、そういう事ならお前の部屋に行こうかな」

「ええ。色々聞かせてくださいね──彼女の事も」

 

 やはり、セシリアにも気付かれていたのな、と一夏は思った。

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