ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
誕生日おめでとう!(なお、出番)
ここは一人部屋なのかと、一夏は束の間思ってしまった。
なぜならベッドが一台、堂々と置いてあったからだ。
「お前、同室の奴に刺されても知らんぞ」
「許可は取ってありますので」
本当かよ。
一夏からの視線を敏感に感じ取ったセシリアが悪びれることなく、続けた。
「如月さんは登山部ですから、寝袋で寝るので大丈夫との事です。今日は温かいですし、外で寝るみたいですわ」
「なら良いけどよ……。俺が同室だったら耐えられねえなコレ」
「その際は、一緒に寝れば良いでしょう?」
「……まあ、それもそうか」
なんて返すのが正解かわからず、結局は同意するように返してしまった。
いつもと違うなと、セシリアも感じ取ってしまった。
それだけ、シャルルのことで追い込まれているのだろうか。
「……サンドイッチか」
一夏は逃げるように、机の上に置いてある食べ物に目を向けた。
「はい。お口に合うかわかりませんが……」
その言い方は、自分で作ったような言い方ではないか。
一夏は、信じられない物を見るような目で机の上のサンドイッチを見やった。
確かに、食堂で出てくるサンドイッチより見てくれは悪い。本当にセシリアが作ったのか。
「大丈夫だよなコレ」
「そんな事を仰るなら食べなくとも結構ですわ」
ぷい、と顔を背けたセシリアに「悪い」と告げ、一夏はサンドイッチを手に取った。
挟んでいる具は、ゆで卵を潰しただけのシンプルな物だ。
「いただきます」
恐る恐る、齧る。
咀嚼した際、卵の殻の感触が来るかと思っていたが、そんな事はない。
マヨネーズをちょっと入れすぎたのではないかとも思うが、普通に食べられる。
「……驚いたな。普通に美味い」
失礼な表現かもしれないが、一夏の偽らざる本心である。
味は、そこまで驚くことはないが、セシリアがまともなサンドイッチを作ったことに驚いたのだ。
「お口に合った様で、良かったですわ」
「いや、もう少しマヨネーズを控えめにしてくれた方が俺の好みではあるが」
「えぇ……」
なんて細かいことを言うのかと、セシリアは一夏を信じられないと言わんばかりに見やる。
普通は、褒めて終わる場面ではないのか。
セシリアの視線に気付いた一夏は、気にした風もなく、肩をすくめてみせた。
「こういうのはな、正直に言った方が良いんだよ」
改善点を言わなければ、変わることはない。
ある意味、ISの特訓と同じだと思っていた。いや、ISに限った話でもないが。
「紅茶もどうぞ」
「ありがとう──アールグレイか?」
「その通りですわ。よくわかりましたわね」
「産地まではわからねえがな」
せいぜい、アールグレイとダージリンの違いが分かる程度だ。
そして、一夏は紅茶を飲んだ後にある事に気付いた。
サンドイッチを食べた後に紅茶を流し込むと、マヨネーズの多さは気にならなくなったのだ。
「紅茶に合わせるなら、マヨネーズの濃さはこれで良いかもな。多分、減らしたら負ける」
「なら、わたくしの作り方は正解という事ですわね」
胸を張るセシリアに、一夏から苦笑いが漏れた。
セシリアが狙ってやったのか、偶然かはわからないが、一本取られたのは事実だからだ。
程なくして、皿の上のサンドイッチを平らげると、一夏は居住まいを正してセシリアに向き直った。
招かれた目的は、食事を振る舞ってくれることではない、シャルルの事だ。
「……匂い」
が、セシリアは鼻をひくつかせると、ポツリと呟いた。
そう言えば、まだシャワーを浴びてなかったなと思ったが、今日はそれほど動いていない。汗臭い、という事はないだろう。
「まだシャワーを浴びてないんだ。臭ったか?」
言いながら、そんなに臭うならと一夏はセシリアと距離を取ろうと動いたが、それよりも早くセシリアが距離を詰めてきた。
「一夏さんの匂いではない、他の方の匂いがしますわ」
「なんで分かるんだよお前……」
アレほど、シャルルに近づけば匂いも移るだろう。
だが、ほんの僅かな筈だ。
しかし、一夏も逆の立場なら分かったかもしれないと思い、言葉ほど驚いた感じはしない。
「多分、さっきシャルルと密着したから……かな?」
「なんでそんな事をしますの!? どんな体勢でしたの!?」
「ああ、もう言葉で言うのは面倒なんだよ!」
言いながら、一夏はセシリアをベッドに押し倒す。
先程、シャルルにやったような体勢になる。シャルルにやった時はなんとも思わなかったのに、今は自分の心臓の音がうるさいくらいに聞こえた。
「こういう体勢だったんだよ。これで満足か?」
「い、いや、満足ですが、不満と言いますか……その……」
あわあわとセシリアが目を白くさせているのが、直接見なくとも分かるような気がした。
少し、このままでいたいなと一夏は思ったが、許してくれなさそうだ。
「──って、どうしてこんな体勢になるんですの!?」
がばっと押しのけるように、一夏を剥がす。
一夏は、少しだけ残念だなと思いながら、どうしてこんな事をしたのか、大人しく理由を話すことにした。
色々と、口を挟みたい所も合っただろうが、セシリアは最後まで黙って聞いていてくれた。
一夏が、全てを話し終わると、おもむろに口を開く。
「──なる程。そういう事なら理解は出来ますわね」
その後小さく「納得はできませんけど」と呟いたのを一夏は聞き漏らさなかった。
これに関しては弁明のしようがないため、一夏は藪をつつく事はしなかったが。
「まあ、あいつも嫌々やらされてるって分かったから取り敢えずは安心したけどな」
「乗り気だったら、どうするつもりでしたの?」
じろり、とセシリアが一夏を睨む。
「どうもしねえよ」
が、一夏はさらりと受け流す。
だが、セシリアはそれで満足しなかったようで、尚も頬を膨らませて文句を重ねた。
「デュノアさんに無理やりという事もありましたわ」
「その場合はISを使うさ。室内で使えば異常に気付いた千冬姉あたりが来そうだしな」
むしろ、その方がなんの後悔もなくシャルルを突き出せた。
そうじゃないから、今も悩んでいるのだが。
「そういや、お前もシャルルの正体に気付いてたんだよな?」
話を逸らすわけではないが、気になったので一夏はセシリアに聞く事にした。
セシリアは、シャルルと殆ど関わっていない。なのに、シャルルが女だと見抜いた。
純粋に、何処で気付いたのか知りたかったのだ。
「肩書で違和感を覚えまして」
「男の代表候補生が、か?」
「はい。一夏さんが発覚してから調査して、デュノアさんの適正が発覚したと仮定した場合、長く見積もっても四ヶ月程度しかISに触れる時間はありません。その間に代表候補生になるのは不可能ですわ。鈴さんの様に乗り出して一年で代表候補生になるのも異例ですのに、それより早く上達したという事になりますので。つまり、デュノアさんは男性ではなく、女性でかなり早い内からISに携わっていたという事になります。……まあ、一夏さんより早く男性操縦者として発見され、隠していたという可能性はありますが」
言いながらも、それはないともセシリアは思っていたが。
男であるのを隠していたのだとすれば、このタイミングで公表する意味はない。
発表するのなら、一夏の存在が公になった直後だけだ。
公表しなかった時点で、そのまま存在を隠し続けるしかない。
逆に、このタイミングで公表する理由はない。だから、違和感があるのだ。
つまり、このタイミングだからこそ、公表した理由があるとセシリアは踏んでいた。
「これで、実力が一夏さんとほぼ同じなら本国で練習していたという理由で納得出来ましたが、そうではありませんから」
一夏は、シャルルの行動を見て見抜いたが、セシリアは情報だけで見抜いたという事になる。
となれば、他の生徒も気付きかねないという事になる。
今はまだ、男が転校してきたという事で浮ついているだけで、落ち着きを取り戻せば、時間の問題だろう。
「で、一夏さんは男装の目的は聞きましたの?」
「ん? ああ、白式のデータと、俺自身って事だな」
「やはり、そうですか」
まあ、驚くことはない。
このタイミングで公表したということは、多少無理してでも一夏に近づきたかったという事だ。
そこまで、デュノア社は追い込まれているのかと、セシリアは少しだけ驚いた。
しかし、そうなるとセシリアとしては他の事が気になってしまう。
「どうして、学園側は受け入れたのでしょうか」
そう、シャルルやデュノア社ではなく、学園側の問題だ。
「そうなんだよ。俺も、そこが引っかかった」
シャルルの男装のレベルが低いとか、そういう事ではない。
そもそもチェックをしたのか、という所からだ。
「俺、検査の時に裸になったんだぜ?」
「いや、別にそこまでは聞いてませんが……」
そう言いながらも、セシリアは一夏が何を言わんとしているかは分かった。
裸になったということは、男性器も見られた、という事だ。
その工程があるというのなら、シャルルがそれをパスすることは不可能だ。
「あいつの時は、ソレが無かったとか? ……まあ、アレは無いんだろうけど」
「まさか、そんな事はありえませんわ。……あとそれ、セクハラですので」
むしろ、二番目だからこそ徹底して調べる筈。
一夏の方も、そんな事は無いと思いながらの発言だ。
「じゃあ、フランスかデュノア社か知らんけど『シャルル・デュノアという男性操縦者が現れました!』と学園に申請して、それを受けた学園側が検査も何もせずに『ああ、わかりました。じゃあ編入させますね』ってなったんだな」
「そんな馬鹿な話が通る訳ありませんわ」
「だが、現実問題シャルルは転校してきた。馬鹿な話が通っちまったんだよ」
学園側がそんな杜撰な事をしたとは思いたくないが、そうだとしか思えない材料が揃ってしまったのだ。
だが、セシリアは他の可能性気付いた。
そう──
「──学園側は、彼女が男ではないという事を承知で受け入れたのでは?」
セシリアの言葉に、一夏は思わず唸った。
ない、とは言い切れない。
「シャルル本人が知らないところで、学園側とデュノア社の間で何らかの話があったという事か」
「フランス政府もまず間違いなく絡んでますわ。代表候補生という肩書が何よりの証拠ですから」
となると、話はますますわからなくなる。
「学園側……いや、織斑先生はこの事を知らないと思いますか?」
「いや、それはない。知らされてなかったとしても、俺が気付くレベルの男装なら、千冬姉が見抜けない訳がない」
一夏が大きく首を横に振る。
予め伝えられていたのであれば、千冬がその事を黙認するのは理解できる。
逆に伝えていなかった場合でも、直ぐに見抜き学園上層部に問いただすはずだ。
「一夏さんの身に危害が及ぶ可能性があるのに、織斑先生が放って置く事はありませんし……」
「だが、シャルルは俺の身体が目当ての命令を受けているとも言っている以上、話が合わない」
本人に知らされていない意図が、必ずあるはずなのだ。
それが分かれば、シャルルの扱いは困らなくてすむ。
しばらく、二人は顔を突き合わせ唸っていたが、これ以上進めなかった。
そもそも、この考え自体も仮説だ。判断するには、情報が足りない。
「……千冬姉に直接聞いてみるか」
なら、情報を持っていそうな人に聞けばいい。
そして、聞くには都合がいいのは千冬だと一夏は思った。
「教えてくれるでしょうか」
「分からねえ。だけど、俺も正体に気付いたと言えば、何か教えてくれるかもしれん」
先程まで、セシリアとした考察も合わせて伝えれば、教えてくれるような気がするのだ。
そして、同時に一夏はセシリアに一つ頼み事をした。
「お前はデュノア社の事を調べられねえか?」
「他国の企業事情ですから、どこまで調べられるか分かりませんが、やれるだけやってみますわ」
助かる、と一夏が笑顔を浮かべた。
そこでふと、セシリアはラウラの事が脳裏に浮かんだ。
彼女は、一夏を守ると言っていた。それは、あらゆる脅威から、という事だろう。
ラウラもシャルルが女性である事を見抜いているはずだ。
そしてそれを一夏に対する脅威だと彼女が判断し、排除しようと動く可能性があった。
その事を、一夏に言おうか迷い──やめた。
明日、ラウラ本人に聞けば良いと思い、セシリアはその事を胸の中に仕舞う事にした。
「──お前が、一人になるのを待っていた」
「ボーデヴィッヒさん……」
一夏とセシリアが、話をしていた頃、シャルルはラウラと相対していた。
やめて!ラウラが軍隊経験を活かして尋問なんかしたら、既に一夏に追い込まれているシャルルの心が折れちゃう!
お願い、死なないでシャルル!あんたがここで倒れたら、本国のお父さんとの約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、白式のデータは盗めるんだから!
次回、「シャルル死す」。デュエルスタンバイ!