ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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一夏とセシリア不在回です


尋問

「──お前が、一人になるのを待っていた」

「ボーデヴィッヒさん……」

 

 一夏が出て行って、すぐだ。

 ラウラがこうして部屋に入ってきたのは。

 昼間、生徒に向けた時も威圧感を感じたが、今はそれ以上だ。

 

(ころ、される……)

 

 ラウラから放たれている気配は、紛れもない殺気だ。

 逃げないと。そう思ったが後手で鍵を閉められ、部屋からはは出られない。

 なら、窓から。

 そう思ってシャルルが視線を飛ばした瞬間──

 

「──っ!?」

「余計な事をするな。次に変な動きをした瞬間、お前を殺す」

 

 ごくり、とシャルルの喉が鳴った。

 わずかにシャルルが視線を切った瞬間に、踏み込まれたのだ。

 馬乗りにされ、喉に付けつけられたナイフを見て、シャルルの背中に冷たい物が流れた。

 

「脅しだと思わない事だ。性別を偽って一夏に近づいている事は分かっている。万が一殺してしまっても大義はこちらにある」

「……はい」

 

 最悪、殺す覚悟は出来ていた。

 それに、名分もこちらにあるとも。

 性別が違う事に気付き捕らえて学園に引き渡そうとしたが、シャルルが逃走しようとしたため、止めようとしたところ、已む無く──そういう事にすればなんとかなると思っていた。

 勿論、無罪という事にはならないだろうし、ドイツとフランスの間で何らかの問題が起きるだろうが、ラウラにとってそれが躊躇う理由にはならなかった。

 

「ISをこちらに渡せ。展開して逃げようとしても無駄だ。それよりも早くお前の喉を掻き切る。それに、もし防げてたとしてもお前がISを纏ったのは確実に学園に伝わり、先生方が駆けつける」

 

 身体を起こしつつ、待機状態の状態のISを受け取り、ラウラは突きつけていたナイフをどかす。

 ようやく、シャルルが息を吐く。

 正直、生きた心地がしなかった。

 

「シャルル・デュノア。……本名はシャルロット・デュノア。フランスの最大手デュノア社の社長、アルベール・デュノア氏の娘だが……正妻との間の娘ではなく、愛人との間に産まれた子だ。その後、父と顔を合わせることは無かったが二年前母親の死後に引き取られ、ISの操縦を叩き込まれた。──ここまでで違いはあるか?」

「ない、です……」

 

 一体、いつの間に調べ上げたのか。

 ドイツ軍の特殊部隊の部隊長という事は知っていたが、まさかコレほどとは思っていなかった。

 何より、一夏の為にここまでするのかという驚きもある。

 

「ここからは私の予想だが、一夏の存在の発覚と第三世代機の開発の遅れがキッカケで、お前は送り込まれた。愛人の子だという事が公表されていることは不思議だが……」

「ちょっとラウラ! そんな言い方無いでしょ!」

 

 すっとラウラがシャルルから離れた。

 いや、性格には鈴がラウラの腕を掴んで強引に引き剥がした格好だ。

 

「凰、さん?」

 

 いつの間にいたのか、シャルルは鈴の存在に気付いていたなかった。

 それだけ、ラウラの方に意識が言っていたという事だ。

 

「鈴でいいわ。あたしもシャルルって呼ぶから、ね?」

 

 鈴は気安い感じで言うと、袋を持ち上げる。

 今度は何が出てくるのかと身構えたシャルルに、鈴は安心させるような笑みを浮かべた。

 

「喉渇かない? 今日は暑いし、飲み物買ってきたのよ」

「そうだな。冷たい物が丁度飲みたかったところだ」

 

 言って鈴は、ホットの缶コーヒーを一本。そして、オレンジジュースが入った缶を二本取り出した。

 

「好きな方をどうぞ。私達は残った方でいいわ」

「ありが、とう」

 

 シャルルが選んだのは、缶コーヒーの方だ。

 ラウラがちらりと視線をずらすと、傍らには一夏の淹れたであろうコーヒーがカップに入っている。

 

(なるほど、こういうタイプか)

 

 細かい気遣いが出来る。

 それだけ見れば、スパイ向きの性格だ。

 しかし、この気弱さ。

 本心か、それとも、狙ってか。

 狙ってだとしたら、一夏の事をよく調べてあるという事だ。

 

「この様子だと、一夏にも、気付かれちゃってるわね?」

「あ、うん」

 

 おそらく、実習の前の移動時間で、一夏も見破っただろう。

 一夏とシャルルの間に僅かだがぎこちなさを感じた。

 それに、今こうして女の格好をしている。知られていなければ、女の格好など出来ないだろう。

 まあ、シャルルが一夏を襲おうとしていなければ、の話だが。

 

「涙の跡が見えるわね。それに、布団にくるまっていた所を考えると……一夏になにかされた? アイツは、少し熱くなる所があってね。酷い事をされたのならアタシから文句言おうか?」

 

 鈴は言いつつ、シャルルの座るベッドの対面に腰を下ろした。

 

「いや! 一夏は何もしてないから! ……悪いのは僕なんだ」

「そうなの?」

 

 鈴は出来るだけ、気遣うような、憂うような表情を意識して、ベッドに座るシャルルを見上げるように下から覗きこむ。

 だが、それに答えたのはシャルルではなかった。鈴の右側に座ったラウラが、不機嫌そうに口を挟んだ。

 

「そうに決まっているだろう。コイツはスパイで、一夏の身を害そうとした。酌量の余地は無い」

 

 ひっと、シャルルが小さく悲鳴を上げた。

 身を縮こまらせたシャルルの頭を、鈴が優しく撫でる。

 

「きっと理由が合ったのよね? その怯えた様子を見ればわかるわ。アンタには悪いことなんて出来るはずがないわ」

 

 まっすぐと、鈴がシャルルの瞳を覗き込む。

 僅かな安堵と、それ以上に罪悪感の色を感じた。

 シャルルはスパイに、乗り気じゃない。鈴はこの時点で確信を持った。

 後はラウラがどう思うか、だ。

 

「鈴、理由なんてどうでもいい。コイツが性別を偽って入学してきたのは事実だ。織斑先生に突き出すべきだ」

 

 ラウラの声音は、厳しい物だった。

 

「おっと」

 

 と、ラウラが手に持ったペットボトルを落としてしまう。

 床に、オレンジジュースがぶちまけられた。

 

「すまない。手が滑ってな」

「まったく……しょうがないわね」

 

 ため息を吐きながら、手慣れた様子でジュースを拭き取る。

 急いで吸い取ったから、跡にはならないだろう。

 

「ラウラの飲み物がなくなっちゃったわね」

「あ、なら僕のを」

「……自分で落としたんだ、自分で買ってくるさ」

 

 言いながら、ラウラは部屋から出ていく。

 あからさまに、シャルルがほっとしたような顔をした。

 

「怖かったよね? ラウラも悪い奴じゃ無いんだけど、一夏の事となると余裕がなくなるみたいでね」

 

 言いながら、座る場所を移動し、シャルルの隣に腰を下ろす。

 こちらの方が、親身に付き添っている風に見えるはずだ。

 

「ラウラが戻ってくる前に、訳を話してくれない? ラウラに話す時はあたしも助けて上げられるし、ね?」

 

 しばらく、シャルルは考えている様だったが、程なくして小さく頷いた。

 それを見て、鈴は内心で息を吐いた。

 取り敢えずは、上手く行ったようだ。

 

「えっとね……僕のお父さんはデュノア社の社長でね──」

 

 それから、シャルルはつっかえながらも、鈴に理由を話す。

 それを、鈴は黙って聞き続けた。

 

「──大変だったわね。お母さんが亡くなってから、アンタは本当に頑張ったわ」

「でも、僕は一夏を騙そうとして、でも、僕はお父さんの命令を聞くしか……」

 

 分かってるわ、と鈴はシャルルの背中を優しく擦る。

 

(あたしはまだ幸せな方なのかな)

 

 自分の周りの人は、殆どが本人の望む望まざるを関わらずISに乗せられる人が多い。

 一夏、箒、セシリア、ラウラ。そして、シャルル。

 自分の意思でISに乗れているだけ、鈴はマシなのだ。

 

「ラウラにはあたしから説明しておくわね」

 

 安堵するように、シャルルが微かに頷いた気がした。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「──終わったか」

「ええ。シャルル本人は被害者寄りね。だからと言って、完全に白とは言えない感じかな」

 

 部屋を出た後、しばらく鈴は廊下を歩いていると、すっとラウラが近寄ってきた。

 ジュースを買いに行くと言って出たラウラは、結局戻ってくることはなかった。

 それは打ち合わせ通りなのだが。

 もともと、ラウラが脅し役。そして、鈴が慰める役と別れていたのだ。

 ラウラ曰く、初歩的な尋問のやり方だそうなのだ。

 初犯、それに後ろめたいと思っている者に有効だとラウラが提案し、実行したのだ。

 これで、言わないようなら自白剤でもなんでも使うと言っていたラウラの目は本気だった。

 

「シャルルは男装して、一夏と白式のデータを入手しろと言われただけ。期間は三年間……要は在学中にやれって事ぐらい」

「……期間がやけに長いな。長く在籍すれば、その分露見するリスクが増えるだけだ。こういう任務の場合、普通は短期決戦を仕掛けるはずなのだが」

「それに、報告の義務も無いみたい。むしろ、連絡をしてくるなって言われたらしいわ」

 

 ラウラが顎に手をやって、考え始めた。

 

「本来は、もう少し準備をしてから送り込む。男装も、こんなお粗末なはずもない。連絡は最低限という事は分かるが連絡をしてくるなときたか……」

「素直にゲロったのは演技かと思ったけど……そういう風には見えないのよね」

 

 ラウラに対する怯え方。

 そして、心に迫る独白。

 あれが演技とはとても思えなかった。

 

「ああ。男のフリも下手という事も考えると、そもそも仕込まれてないのだろう」

「準備不足なのに、送らざるを得なかった事情が合ったのね。……デュノア社ってそんなにヤバいの?」

「そも第三世代機の開発が遅れている責任を押し付けられそうだってのは小耳に挟んではいるが」

 

 とはいえ、ラウラもそこまで他国の事情を知っている訳ではない。

 シャルルの事を調べたのも、自分の部隊を使ってだ。

 一日で本名や出自までたどり着いたのは流石だが、それ以上は調べられなかった。

 

「そう」

「どうした。何か気になる事でもあったか?」

 

 興味なさげに鈴が呟いたのをラウラが目ざとく気付いた。

 シャルルの事で何か気になる事でもあるのかとラウラは思ったが、鈴はもうそんな事はどうでも良かった。

 

「アンタってさ、どうしてISに乗ってんの?」

「どうした、いきなり」

 

 ラウラの表情には、困惑の色。

 突然、こんな事を言われたらこの反応も当然だろう。

 

「どうして、と言われてもな……私の場合は、生まれながらの兵士だ。その為の存在だから、としか答えるしかないな」

「だよね」

「だからとて、同情はいらん。一夏を筆頭に、そういう者は意外といるな……っと本当に、どうしたんだ」

「や、あたしはまだ幸せだなって。自分の意思でIS操縦者になるって決められたんだから」

 

 鈴らしくない。

 ラウラは率直にそう思った。

 シャルルとの話はそれだけ精神に来てしまったか。

 

「私と役割を交代するべきだったかな?」

「あはは。何その冗談」

 

 ラウラとしては、真面目に言ったつもりだったが、流されてしまった。

 適材適所の配役だと思った。しかし、精神的負担が大きいのは鈴の方だ。

 やはり、軍人の自分が全てやるべきだったとラウラは少しだけ後悔の念を覚えてしまった。




一応、キャラごとにイメージはまとめてあります
ちょっと大人枠:一夏、セシリア
格好いい姉御枠:鈴、ラウラ
不憫枠:箒、シャルル
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