ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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シャルル・デュノアの憂鬱

「はあ……」

 

 食堂で夕飯を食べていたシャルルが、ため息を吐いた。

 一緒に食事をしていた一夏や鈴、それにセシリアがちらりと視線を向けたが、それだけだ。

 何を言うでもなく、三人は食事を再開したが、シャルルは動かない。

 

(お腹、あんま空いてないや)

 

 今度は、声に出さず呟く。

 食欲などなく、シャルルは手に持っていたフォークをそっと下ろした。

 最近、どうにも食事が喉を通らないのだ。

 

「はあ……」

 

 また、ため息が漏れる。最近、ため息を吐く回数が増えているなと、妙に客観的に思った。

 シャルルがIS学園に入学して一週間が経とうとしていた。

 彼女の表情は少しずつだが陰り、心なしかやつれて来てもいる様にも見える。

 シャルルとて、楽しい学園生活が待っているとは思っていなかった。むしろ、デュノア社からの命令と、男装しなければならない事から乗り気ではなかった。

 そこにきて、初日に一夏に正体を見抜かれ、その後ラウラと鈴にも立て続けに正体を見抜かれてしまったのだ。

 特に、一夏とラウラに対してはっきりと苦手意識を持ってしまい、その上男装している関係上常に付き合わなければならないというのが、よりシャルルの負担になっていた。

 

「──ご馳走さま。俺は部屋に戻るわ」

 

 居心地の悪さからか、残ったご飯をさっさと口にかきこむと、一夏が席を立つ。

 今度は、ホッとした様なため息がシャルルから漏れた。

 

(大分、嫌われてんなコレ)

 

 背を向けた一夏は、シャルルのため息を感じとり、そんな感想を抱いた。

 無理もないとも思っているので、一夏が気を悪くすることはないが、今のままで良いかと言ったら、そうではないのだ

 

(どうにかしねえと不味いよな……)

 

 食器を戻しつつ、さり気なく周りを見渡すと、サッと顔を背けた生徒が何人もいる。

 やはり、男が二人いると目立つ。

 それだけなら良いが、注目を集めているのは、別の理由もあった。

 

「……あの二人なんかあったのかな?」

「……デュノアくんの感じ見るに織斑くんがなんかしたんじゃないの?」

 

 本人達は隠して話しているつもりだろうが、一夏の耳にはしっかりと届いていた。

 内容は一夏が危惧した通りの内容だ。

 一夏とシャルルの気不味けな雰囲気をしっかりと感じとっている。

 本人達は意図した訳ではないが、ある意味では事実を口にしているのも厄怪な所だ。

 

(本当、面倒な事になったな)

 

 それも、事態をより混乱させた原因なのが自分だと分かっているので、その事が一夏をげんなりとさせた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「アンタねえ、ビビリすぎよ」

「だって……」

 

 一夏が食堂を出て行くのを見届けた鈴が、シャルルに向けてジト目と共に言葉を投げる。

 しかし、シャルルからすればどうしても抵抗はあるのだ。

 着替えの際に問い詰められた時の一夏の目の冷たさ。

 そして、夜に感じた男を感じさせる恐怖。

 アレは確かめるためにわざとそう振る舞った。そう言われても感情が先立って納得するのは難しいのだ。

 

「その分だと、早々に皆さんにもバレそうですわね。折角一夏さんが黙っていて下さるのに」

「セシリアもそういう言い方しない」

 

 そして、生活が長引くにつれてセシリアの方も余裕は無くなっている様だ。

 想い人が、女性と同じ部屋で生活しているというのは、辛いのだろう。

 もし、鈴がまだ一夏を好きだったら同じ感情を抱いていたに違いない。

 

(ヤバい。本当に面倒よコレ)

 

 シャルルだけでも面倒なのに、セシリアもとなるとキャパオーバーだ。

 ラウラが居れば、とも思うがそうすると今度はシャルルが大変な事になりそうだ。

 取り敢えず、鈴はセシリアの方は置いておき、目下の課題に目を向ける事にした。

 

「まあ、セシリアの言い方はどうかと思うけど、シャルルは振る舞い方をもう少し意識しないとね」

 

 男装を知られている人がいるとわかったからなのか、精神的に余裕が無くなってきたからかはわからないが、ただでさえ杜撰だったシャルルの男装が、より酷くなってきている。

 今もテーブルの影に隠れているが、座っている足は内股に座っている始末だ。

 

「もう少しどうにかなんないの?」

「どうにかって言われても……」

 

 初日は貴公子ぶりが板についていたとセシリアが証言している。

 なにせ、一緒に昼食を食べて欲しいと大挙してきた生徒に向けて『僕のような者の為に咲き誇る花の一時をを奪うことはできません』等と言ったのだから。

 一夏のエセキザっぷりとは格が違ったらしい。

 鈴としては一夏のキザったらしい言い回しがどんなのだったかも気になるが、シャルルはやろうと思えばそういう振る舞いも出来るのだから、最低限のレベルを保ってもらわねばこちらもサポートしきれないのだ。

 

「取り敢えず、そのオドオドした態度はやめなさい。一夏みたいに堂々としてろとは言わないけど」

「う、うん。やってみるね」

「その返事からして、もう心配だわ」

 

 大げさに頭を抱えてみせると、シャルルはあははと乾いた笑い声を上げる。

 まあ、空元気でも笑えるならまだ大丈夫だろう。

 と、シャルルが「ずっと気になってたんだけど」と切り出す。

 

「どうしたの?」

 

 シャルルが自分から話題を振るのは珍しい事だ。

 セシリアも何を言うのか気になるのか、食事の手を止めた。

 

「オルコットさんって一夏の事が好きなの?」

「ええ、まあ」

 

 それがなにか? と言わんばかりのセシリアに、シャルルが呆けたような顔をした。

 聞いといてその反応はとも思うが、ここまで堂々とされたらシャルルの反応もやむなしだろう。

 

「……どこが良いの?」

「デュノアさんはよほど一夏さんの事が嫌いですのね」

 

 普通は、こういう会話になった時は「どこが好きか」と聞く。

 シャルルの言い方は、まるでダメ男に惚れた人に対する言葉のソレだ。

 これでもまだ、オブラートに包んである方だろう。

 シャルルがもう少し前に出れる性格なら「あんな男なんか碌でもないよ!」とか言いそうな勢いだ。

 

「どこが良いかと言われたら……どこでしょう?」

「一夏が泣くわよ、ソレ」

 

 思わず、鈴が口を挟む。

 一夏の良いところなど、簡単に見つけられるのだから。

 

「まず、見てくれが良いわね。料理も出来るし……普段は大人っぽい癖に時たま見せる子供みたいな所もグッとくるわね」

「よくそれだけスラスラと出て来ますわね」

「出てこないアンタが異常なのよ」

「でも、どうせならありきたりな言葉ではなくて、わたくしだけが知っているような事を言いたいですわ」

 

 セシリアはそれっぽい事をそれっぽく言ってはいるものの、結局思いつていない。

 だったらまだ、一夏のここが好きだとはっきり言う鈴の方がマシだろう。

 

「えっと……鈴も一夏の事が好きなの?」

「まあね。正しくは──好きだった、だけど」

 

 とか言いつつも、一夏に告白されたらOKする程度には未練はあるが。

 しかし、一夏から告白される事は無いだろうなとも思っている。

 

「なんで一夏の事が好きだったの?」

 

 やはり、シャルルはそれが気になるようでしつこい程に聞いてくる。

 見方を変えれば、歩み寄ろうとしているのかと思い、鈴は好きだった頃の話をしようと思った。

 

「シャルルは意外かもしれないけどさ。基本一夏って困ってる人を放っておけないのよ」

「そうなの?」

 

 シャルルの顔は信じられないと言わんばかりの表情だ。

 無理もない、と鈴は素直に思った。アレだけ、冷たくされたのだから。

 だが、一夏の本質はそうではないのだ。

 

「あたしが一夏に会ったのは小4の時かな。あたしが中国からの転校生って事もあって、結構イジメられてたんだけど、一夏がそれを助けてくれたのよ。──主犯格と殴り合いの喧嘩。それはもう、大変な勢いのね」

 

 教室の中は滅茶苦茶。

 そう言えば、相手側は椅子などを投げつけていたが、一夏はそういう事はしなかったなと鈴は思い返した。

 変わってしまった今でも、一夏はそういう事はしなさそうだ。

 

「それこそ、意外ですわね。一夏さんって手を出すよりも先に弁舌でどうにかしそうなタイプですし」

「私や箒からすると今の姿の方が意外なんだって。変わったのはそうね……千冬さんがドイツに行くことになった頃かな」

 

 それまでの一夏は、良くも悪くも無鉄砲な所があった。

 無茶ばかりするものだから、それが原因で千冬に頭を下げさせる事もあった程だ。

 それこそ、鈴を助けた際も、教師に見つかり、千冬は教師に呼び出され謝っていた。

 当時は、自分を助ける為に立ち向かったのに、なぜ一夏が怒られているのだとも思ったが、今なら分かる。

 イジメていた側の恨みが、鈴にいかない様にしていたのだ。下手に鈴の名前を出したらどうなるか、そう考えて一夏は黙って受け止めていたのだ。

 

「これ以上、千冬さんの手を何時までも煩わせられないって言ってたのを覚えてるなあ……実際、それから大人びて見えるようになったし」

 

 その前に、誘拐されたとかでそれまでの明るさがまるっきり消え失せたのもあるが……鈴はその事を言うつもりはなかった。

 シャルルに話せば、同情心を煽られるだろうが、一夏の望む所では無いだろうと思ったのだ。

 誘拐されたショックで大人しくなったとも思ったが、もしかしたら一夏の言葉そのままで、千冬という姉から自立するために大人になろうと思ったのかも知れない。

 

「ま、あたしもその後直ぐに転校しちゃったからよく知らないけどね」

 

 再会した時、鈴は一瞬だが自分の目を疑った。

 それだけ、一夏はさらに大人になっていたのだ。

 纏う雰囲気は中学の頃より落ち着きを増していた。

 

「ごめん。なんか私が一夏を好きになった話から結構逸れちゃったけど満足?」

 

 苦笑しながら鈴は話を終えた。

 殆どが一夏の変化についての話になってしまったが、セシリアは一夏の過去を少しだが知れて満足そうだ。

 それに、シャルルも気にした様子はなく首を横に振る。

 

「そんな事ないよ。一夏の事少しは分かった気がするし」

「そう。なら一夏の事好きになれそう?」

「……それはまあ、ノーコメントで」

 

 困ったように笑うシャルルに、と鈴は内心でため息を吐く。

 コレばっかりは一夏のやり過ぎなので、仕方がないだろう。

 

(根深いなあ……)

 

 表面上は付き合い易そうな(タチ)に見えるが、意外と、根に持つタイプかも知れない。

 

(昔の一夏なら、もっと寄り添ってあげてたのかな)

 

 今の一夏が、シャルルに対して冷たいとは思わない。

 シャルルに対して、同情していない訳ではないのだ。

 むしろ、どうにか出来ないかと動き回ってすらいる。それこそ、デュノア社や学園の思惑まで考え、千冬から本当の狙いを聞き出すことにも成功している。対応としては、満点に近い。

 昔の一夏、それこそ鈴をイジメを救ってくれた頃の一夏なら、ここまで器用に立ち回れていたかと聞かれると、まず間違いなく不可能だと言える。

 だが、その頃の一夏ならシャルルをここまで不安にさせる事もなかった、とも鈴は思うのだ。

 デュノア社や学園など、広い視点で物事を見ることはなく、あくまでもシャルルだけ(・・)に気を回す筈だ。

 シャルルを慰め、デュノア社に怒り、具体策は無いだろうが『俺がどうにかする』とシャルルに寄り添っていただろう。

 そしてそれは、シャルルにとって何よりも嬉しい存在だろう。頼もしく感じる事だろう。

 

(ままならないわね……)

 

 一夏がシャルルを切り捨てているのなら、まだいい。一夏も気にすること無く、事務的に接するだろう。

 だが、一夏はシャルルに対して気を病んでいる。だからこそ、二人のすれ違いが鈴にとっても辛かった。




ちょっと前にあとがきでキャラのイメージを書いたんですが、もうちょっと補足したいなと思ってキャラ設定を書かせて貰います。
皆、性格変わってますが、原作からまったくかけ離れた成長ではなく、あくまで原作ベースにこの境遇ならこういう路線もあり得たな、と判断したのです。

ちょっと大人枠:一夏、セシリア
共に両親不在ですが、頼れる存在が近くにいた事が大きいですね。
一夏なら千冬
セシリアならチェルシー
後は、理由付けがしやすかったのも大きいです。
一夏は元々千冬に迷惑をかけたくないと思ってました。なので誘拐されたことで、千冬の名声にを傷付けた事を気に病んでしまいました。
セシリアは家を守らないと、という義務感に駆られてましたので、そこら辺の想いを強化しました。
まあ、こういう理由でちょっと大人な視点を持とうとしている訳ですね。

格好いい姉御枠:鈴、ラウラ
鈴の両親は離婚したとは言え、どちらも健在ですので、ISヒロインズの中では一番環境が良いですね。それに本人の性格的にも、姐さんキャラになれるなと判断しました。
ラウラは一見、不憫枠に入りそうですが、こちらは千冬という存在に救われています。
原作も、千冬に対する感謝と恩義は相当な物を書かれてますので、この辺を強化しました。
基本ラウラってヒロインじゃない場合は妹枠になる事が多い中、どちらとも違うルートを歩んだラウラは稀有な存在かもしれません。

不憫枠:箒、シャルル
いやもう、本当にファース党とシャルロッ党の皆様ごめんなさいとしか。
全員が全員大人になってちゃ物語にならねえよというメタ的な理由はありますが、彼女らは上四人と違い、原作と変われる要素がなかったのです。
箒だけは暴力要素を抜いている(暴力ヒロインが嫌い)ってのもあって僅かだが大人になってますが、シャルはどうしようもない。
愛人の娘、デュノア社のアレコレ。そういった事情にテコ入れは難しいと判断した結果、原作よりも不憫な扱いに……。
基本二次創作だと一夏はシャルに同情して惚れさせるムーブが多い中、今作の一夏は彼女に辛く当たるというこれまた稀有な例を見せつけてくれました。
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