ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
本編の続きを期待しておられた方は申し訳ないですが、今回は本編から離れたゆるーい感じの日常です。
ここんところシリアス続きで書いているこっちも重くなったのもあるので、箸休め的に書いてみました。
ラウラ・ボーデヴィッヒは軍人である。
故に、IS学園に通ってはいるものの、授業などの必要はあまりない。
ISの基礎的な物はとっくに叩き込まれているし、戦い方や銃火器の扱い方など言わずもがなである。
それでも、授業をサボるつもりがないのは、さすがドイツ人の気風と言うべきところか、あるいは本人の気質が大きいのか。
「ボーデヴィッヒさん! 今いいかな?」
「ん、ああ。どうした?」
ノートで顔を隠すようにして聞いてきたクラスメートに、ラウラは顔を向ける。
要件を促された生徒──相川はおずおずといった感じで口を開く。
「さっきの授業でわからない事があって……」
「なるほどな。ここで躓くということは、その前段階からわかっていないのではないか?」
「……実はそうでして……」
しょんぼりした風の相川に、ラウラは安心させる様に肩を叩く。
「安心しろ。この私が教えるんだ。嫌でもわかるようになるさ」
「あ、ありがとう!」
途端にぱあと表情を明るくさせた相川が、ノートと教科書を広げ、「ここがね」と話をしていく。
それをラウラが丁寧に教えていくのだが、その雰囲気は同級生が教えると言うよりは、教師が生徒に教えるような雰囲気に近かった。
教えてもらっている立場ながら、誰かに似てるなーと相川がふと感じたところで──
「──なんか千冬姉が教えてるみたいだな」
どこか楽しそうな一夏の声が聞こえた。
「茶化す程の余裕があるのなら、お前が代わりに教えるか?」
「そいつは勘弁。相川だってラウラに教えて貰いたそうだしな」
そう振られた相川は曖昧に頷くだけだった。
それに、と一夏続ける。
「俺はアリーナでISを動かす予定だからな」
それだけ言って、一夏はさっさと教室から出ていってしまった。
「織斑くんって凄いよねえ」
見姿が見えなくなったところ相川がそう呟いた。この言葉の凄い、というのは単純な力量の話でそう思った訳ではない。
一夏は、専用機持ちの中では力量は一番低い。
だが、相川が凄いと言ったのは別の意味合いだ。
「私達はさ、自分でISの事を勉強しようと思ってここに来たじゃん? でも、織斑くんは無理やり連れてこられた訳でしょ?」
基本、IS学園に入りたいと思う者の意識は高い。
更に、倍率の高いIS学園に入るために中学時代から相当の勉強を重ねている。
それと比べると、一夏はそうではないのだ。
IS学園に入ることを望んでいた訳でもないし、ISの事を勉強をしていた訳でもない。
事実、入学したばかりの頃の一夏は、ISの事など何も知らず、授業についてくるのもやっとという感じだった。
「だけど、織斑くんは腐るわけでもなく、毎日一生懸命勉強したり、ISを動かしてる」
今の一夏は、座学も勿論、実技ですらクラス上位の成績を叩き出している。
夜遅くまで勉強しているのは、一夏の目の下のくまを見れば一目瞭然だった。
もし自分が一夏の立場だったらどうか。
突然、男子校に入学して、今までまったく触れてこなかった分野の勉強をしろと言われたら。
これほどまでにひたむきになれただろうか。
「だからまあ、そんな織斑くんを見てると私も頑張らないとなあって思うわけでして……」
そう言いながら、何を話してるんだろうと照れた様子の相川に、ラウラがふっと笑みを浮かべた。
「お前達一組の者の意識は高いと思っているよ。私は、もっと酷いと思ってここに来たからな」
無論、高いと言っても軍と比べるまでもないのだが。
が、そもそも比べるのが間違いなのだ。
学生基準で見れば、授業だけでなく放課後にも勉強をするというのは、意識として高い方だろう。
事実、クラスを見渡せば教科書を開いて勉強している生徒は多い。
ここにいない生徒も、おそらくは訓練機を借りているか、整備室で整備の勉強をしているか、あるいはアリーナでISを動かす者の動きを見ている……少なくとも、1組の生徒はそうしているだろうと、ラウラが思うだけの意識の高さはあった。
(昔の私なら、それでも程度が低いと吐き捨てていたかもしれんがな)
いつだったか、クラスの女子が集まってISスーツをどうしようかと話しているのを聞いた事があった。
ラウラからすれば、機能性だけで十分だと思っているが、やはり年頃の娘。やはりデザインもこだわりたいと聞いたとき、複雑な感情を抱いた。
ISを動かすために着用するスーツにデザインを重視するのが、理解出来なかった。ISをファッションか何かと勘違いしているのではないかと。
しかし、そもそもが前提条件が違うのだ。
自分は、軍人として、兵器を扱う様にIS触れてきたが、彼女たちはISを兵器として扱ってきていないのだ。
「まあ、毎日勉強するというのは大事だとは思うがな。何もISだけが人生じゃないぞ? 少しは息抜きをしてもと良いとは思うが」
自分や一夏は、ISからは逃れられない。
だが、他の者はそうではないのだ。
ISだけが全てではない。
他の生き方もあるのだ。
「様々な事に挑戦するのも、学生の仕事だと私は思うがな」
「なんか、本当に先生みたいだね」
「まあ、本国に戻れば指導する側の立場だからな」
相川の言葉に肩をすくめて答えるラウラ。
実際、本国に戻れば、部隊の長として部下を指導する立場にあるのだから。
「じゃあさ、ボーデヴィッヒさんは学生の今だからこそやりたい事ってある?」
もはや勉強の手が完璧に止まってしまった相川が身を乗り出すようにして聞いてきた。
よくよく見れば、周りの生徒も相川と同じような風で、ラウラがなんと答えるか興味津々といった感じだ。
息抜きをしろと言ってしまった手前、勉強に戻れとも言い辛くなってしまったラウラは、ここは大人しく相川の質問に答えようと腕を組んで視線を宙にさまよわせる。
(……何も出てこない)
学生の今だからこそやりたい事と聞かれて、学生の今なら留学生と言ってすぐに敵国に潜入できるし、幼い外見を生かして油断したターゲットに近づける……なんて事しか思い浮かべれない自分は本当に根っから軍人なのだなとラウラは自嘲気味に笑った。
「……逆に、お前たちはどういう事がしたいんだ?」
自分だけで考えては埒が明かないと判断したラウラは、他の者の意見を聞こうとした。
すると、相川が待ってましたと言わんばかりに口を開く。
「やっぱ学生の間にって言ったらアレでしょ。制服デートよ制服デート」
相川の言葉に同意するようにいつの間にか集まってきた生徒がしきりに頷く。
「別に、ソレが特別な事には思えないのだが」
そもそも、デートという概念もよくわかってないラウラだが、服装が違う程度でそれほどまでに盛り上がるのかと本気で疑問に思っていた。
そんなラウラに対し、相川はちっちっちと指を振って見せる。
「ボーデヴィッヒさんはわかってないなあ」
「む」
どこか小馬鹿にされたラウラが唸ったタイミングで、教室に聞き馴染んだ声が響いた。
「なんだ。まだ解散してなかったのか」
それは、先程教室を出ていった一夏だ。
「あ、織斑くん。ISを動かすんじゃないの?」
「セシリアとかはまだやってるけどな。俺は集中力が切れたからやめた」
「じゃあ部屋に戻って休んでればいいのに」
「教科書を取りに来たんだ。身体は動かせなくても勉強は出来るからな」
言って、一夏は教科書を鞄にしまう。
と、そんな彼に相川は先程の話を聞いてみようと好奇心が疼いた。
「織斑くんさ。学生の内にやっておきたい事ってある?」
「学生の間にやりたい事? なんでまたそんな話になってんだ?」
「ボーデヴィッヒさんとさっきそういう話になってね」
ふーんと言いながら一夏は顎に手を当てる。
軽い気持ちで聞いた相川だったが、思いの外真剣に考える一夏の様子に、固唾を飲んで見守る事になった。
ややあって一夏が、おもむろに口を開く。
「やっぱり
「……ごめん織斑くん。IS以外でって言えば良かったね」
「あー……」
なんとも微妙な空気になってしまったが、まさか一夏までもがISにまみれた考え方になってしまっている事にラウラからしても意外だった。
学生の内にやりたい事と言われ直様ISの事を言う程考えているからこその、入学してからの目覚ましい成長の証拠なのかも知れないが。
「わたしはてっきり、コーヒーのブレンドを極めるとか言うと思ったがな」
「いや、それは端から考えてなかったな」
「ほう」
あれほど執着してたコーヒーなのに何か心変わりがあったのかとラウラは思ったが、それを否定するような言葉が一夏の口から飛び出した。
「コーヒーのブレンドの完成形が学生の3年間の間に出来る訳ないしなあ。いや、そもそも一生かかっても出来ないだろうな」
うんうんと頷いている一夏を、相川たちはなんとも言えない目で見ることしか出来なかった。
まあ、ラウラからすれば、それでこそ一夏だと思うが。
「で、お前らは何かあるのか? 学生の内にやっときたい事」
そう一夏が相川たちに質問を投げ返すと、代表して相川が口を開いた。
「制服デート!」
力強く言い放った言葉に、一夏は少し驚いた様子を見せたが、すぐに得心がいったと頷く。
「確かにそりゃ、学生の内にしか出来ないわな」
「でしょ? 織斑くんも制服デートしてみたい! って思わない?」
「まあそりゃ多少は思うがな。俺の場合は制服デートって難易度すげえ高いからなあ」
「あー……」
今度は相川が唸る番だった。
一夏がIS学園の制服を着て外に出れば大騒ぎになる事間違いなしだろう。
幸い、顔は公表されていない(ネットでは出回ってはいる)が、IS学園の制服を着てしまえば正体を公表してる様なものだろう。
「ああでも、学ランなら雰囲気は出るか?」
「織斑くんの中学って学ランだったの?」
「ああ。男子は学ラン。女子はセーラー服だ」
私服のレパートリーが多くない一夏にとって、制服が用意されているのは楽で助かったのはある。
「じゃあ織斑くんが学ラン着てくれれば制服デートは出来るわけね!」
「いやでもコレって同じ学校の制服を着て成り立つモンじゃないのか?」
「いや、だったら他校に通う彼氏とのデートって設定で盛り上がれるから!」
「そ、そうか」
相川の熱意というか、気迫に思わず後退りする一夏。
というか一夏だけではなく、他の生徒も相川から歩幅1歩分くらい離れているのだが。
「つーかアレだな。事情を知らんヤツが見たらお前が俺をデートに誘ってるようにしか見えんぞ」
「あ、いや、その、コレはそんなつもりじゃなくてですね! もし織斑くんとデートするならって話でほんとにするつもりはないかわ!」
「わかってるから安心しろ……つーか何をそんな慌ててんだよお前は」
そんなに俺と一緒が嫌なのかと思ったりしてる一夏はやっぱりアレだった。
デートに誘われてるという風に認識できただけマシなのかも知れないが。
「まあでも、制服で出かけるってのも良いんじゃないか」
「さっきは出来ないと言ってただろう」
「そりゃあ俺はな。でもラウラ達なら出来るだろ?」
「私か?」
ラウラも目立つかも知れないが、まあ一夏程ではない。
けれどラウラからすれば、別に出かける必要性はないのだが。
「学校帰りの買い食いとかってのも学生の内にしかやれないだろ?」
「あ、そっか。下校途中の買い食いとかも滅多に出来ないもんね」
「特にコイツなんかは軍隊暮らしだからな。下手したら街に出たことすらねえぞ」
「失礼な。市街地戦を想定して街に出たことはある」
ラウラが胸を張って答えると、一夏を筆頭にここにいる全員から憐れむような視線を向けられる羽目になった。
そんな視線を向けられたラウラは気にした様子もないが。
そんなラウラを見た相川が「よし」と気合を入れた。
「ボーデヴィッヒさん。これから街に出よう! みんなも来るよね!?」
「い、今からか?」
「レゾナンスの中に新しいパンケーキ屋さん出来てたよね? 私そこに行きたい!」
「ちょっと待て! 私は行くなんて言ってないぞ!?」
慌てた様子のラウラだったが、もはや誰も聞いてくれてない。
外出のためには許可がいるのだが、すでに許可を取りに教室を飛び出している。
もはやラウラに逃げる道は残されていなかった。
「相川はお前に勉強を教えてもらったお礼がしたいんだろ? だったら大人しく受け取ったらどうだ?」
「そうそう! それにボーデヴィッヒさんだって息抜きは大事だって言ってたしついてきてくれるよね?」
「……わかった。なら大人しく連れていかれるとしようか」
ようやく観念した様にラウラがため息をつくと相川が小さくガッツポーズを見せた。
「まあ、お前だって学生なんだ。学生らしさってのを学ばせてもらえよ」
「ああ。ここは大人しく従った方が良さそうだ」
やれやれと呟くラウラだったが、その表情はどこか楽しそうだった。
次回予告。
学園側の決定により、学年別トーナメントの仕様が変更となりタッグマッチ形式になったのだが、『一般の生徒がシャルルとペアを組むと彼女の正体がバレるのでは』という懸念の声があり、シャルルは一夏くんとペアを組もうという話になった。しかしシャルルちゃんはなんだか一夏くんのことがキライみたいで、一夏くんとペアを組みたくなくて、一夏くんの心イタイイタイなのだった。