ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
(なんてことだ……)
朝、HRが始まる前の教室で、篠ノ之箒は頭を抱えていた。
学年別トーナメントの大会形式が、単独での出場からタッグマッチ形式に変わった連絡が入ったのが、昨日の夕方の話。
殆どの生徒が、一夏かシャルル、どちらかとペアを組もうと画策して、一夏を探すために走り回っていたのだが……。
「俺はセシリアと組むことにしたけど」
「僕はボーデヴィッヒさんと……」
ついぞ見つからなかった二人が、ペアになってくれと迫った生徒に言ったセリフだ。
それを自分の席で盗み聞きしていた箒が、冒頭の様に頭を抱えていたのだ。
「というか二人共専用機持ち同士のペアじゃん! ズルい!」
「ズルいって言われてもな……」
相川の言葉に苦笑いを浮かべる一夏。
しかし、大会規定には『専用機持ち同士はペアを組んではならない』という事は書いていないのだから、ルール違反ではないのだ。
なんだったら一夏は、学園側としては専用機持ち同士のペアを期待しているのでは無いかと思っていたりもする。
襲撃事件対策でタッグマッチ形式に切り替えたとすれば、専用機が固まっている方が敵に狙われるリスクは跳ね上がるかもしれないが、撃退する事も可能だと考えているのではないか、と。
もっとも、こんな事を言うわけにもいかないので一夏がどう答えたもんかと頭を捻っていると、ラウラが口を挟んだ。
「言ってはアレだが、私達専用機持ちと組んで連携は取れるのか?」
「うっ……」
「事情は異なれど、専用機を持っている者はそれ相応の戦績を残さなければならない。そうなると相方に求める技量も高くなるが、私の動きに ついてこれるか?」
ラウラの言葉は厳しく聞こえるが、それは事実を伝えている。
一夏は例外だが、他の専用機持ち国家代表候補生としてIS学園に来ている。故に、間違っても1回戦で負ける事などあってはならないのだ。
もっと言ってしまえば、ラウラとセシリアの専用機はそれぞれ、欧州連合の統合防衛計画『第三次イグニッション・プラン』の次期主力候補としてトライアルに出されているのだ。
つまり、どちらの機体の方が勝ち進んだのか、あるいは直接対決でどちらが勝ったのか、そういった要素も選定の判断基準になり得る可能性はあるのだ。
「私は、相方に足を引っ張られて負けるのはごめんだからな」
「辛辣すぎる!」
「まあでも、本当の事ですわ」
にこりと微笑んだセシリアに、一夏は背筋が寒くなった。
(これ、なんかヘマしたら後ろから撃たれそう……)
そんな事はないと言い切れないのが、なんとも怖いところである。
ペアの解消を申し入れようと一瞬本気で考えたが、そんな事を言ったらそれこそ後が怖そうなのでぐっと堪える事にした。
「箒おはよー」
「ん? ああ、鈴か」
話題の中心の男子二人の周辺の会話を盗み聞きしていた箒を呼ぶ声。
呼ばれた方を見ると、相も変わらずツインテールのをしている少女が立っていた。
「一夏にペアのお誘いか? あいにく一夏のペアは決まってしまったようだが」
一夏とペアを組もうと来たのだろうと察した箒が言いながら、一夏達の方を指をさす。
それを見た鈴が「あー……」と苦笑いを浮かべた。
本当は鈴は一夏とセシリアがペアを組んでいる事を知っているのだが、なんとも白々しいモノである。
「それは残念。相変わらず一夏はモテモテね」
「ふん」
鈴が軽口を叩くと、箒が不機嫌そうに鼻を鳴らす。
あからさまな態度に、またも鈴は苦笑いを浮かべそうになった。
(箒ももう少し素直になればいいのになー)
一夏には真っ向から「好き」と言わなきゃ伝わらないのだ。
いや「好き」と言ったところで「好物の話か?」とか言われそうだが。
なんにせよ、察してくれと思っていても一夏が気付いてくれる可能性は限りなく0に等しいのだから、鈴としては箒にもう少し勇気を持って欲しいところである。
そういう意味では、セシリアがリードしている状況は、当然といえば当然だった。
「箒はペアの相手決まってる?」
「いや、今の所アテは無いが……」
「だったらあたしと組まない?」
「いや……私でいいのか?」
先程の、ラウラが言っていた事を考えると、代表候補生で専用機持ちの鈴が自分を誘って良いのか、気になったのだ。
「あたしが誘ってるんだから良いに決まってるじゃない」
「それは……そうなんだが……」
「ゴールデンウィークに戦った時に思ったけど、アンタは自分が思ってる程弱くないわよ。それに、打鉄を使うんなら相性も悪くないでしょうし」
それに、と鈴がなおも続ける。
「あたしの性分からして、強い相手を倒すほうが性にあってるしねえ。──専用機同士のペアを倒すなんて展開、燃えるでしょ?」
ニヤッと笑った鈴の顔は、本来は可愛らしいと評すべきなのだが、それよりも箒は己の闘争本能を刺激させた。
「そういう事なら、是非よろしく頼む」
「ええ。一夏
「ちょっと待て、なんだその意味不明なコンビ名は」
箒はまずは、自分の耳を疑って、聞き間違いではないと悟って、鈴のネーミングセンスを疑った。
「別にコンビ名などいらないと思うが……?」
「そお? コンビ名とかあった方が盛り上がるじゃん」
むしろ箒のテンションは盛り上がるどころか、下がっているのだが。
誰でも考えそうで、誰もがダサいと思えるネーミングでなぜ鈴は胸を張れるのだろうか。
「一応、他のペアのも考えてるのよね。──えーと、一夏とセシリアがコーヒー紅茶連合軍でしょ? で、ラウラとシャルルが仏独同盟」
「仏独同盟だけ普通だな……」
金銀同盟とか言うと思ったのだ。金銀銅みたいな感じで並びもいいし。
というか、それなら自分たちも日中同盟で良いじゃないかと箒は思ってしまった。
いや、日中同盟というコンビ名にしたい訳ではないのだが。
「お、鈴は箒とペアか」
あちらの会話は一段落したのだろう。
一夏とセシリアがこちらの方にやってくるのが箒の目に写った。
「そうよ。人呼んで幼馴染ーズ」
「……良いんじゃないか」
半ば呆れ気味な一夏。
鈴のネーミングセンスに触れるという事はなかった。
だが、コンビ名を考えているのは気になったようで、自分とセシリアのコンビ名はなんだと聞いていた。
「一夏とセシリアはコーヒー紅茶連合軍よ」
「その通りだけど、素直に認めたくないなそのコンビ名は」
「全くですわ。なぜ紅茶が先ではないのでしょう?」
「いや、そこかよ」
もっとツッコミどころはあるだろうに、と笑う一夏とセシリアは楽しそうで、箒としては面白くなかった。
そんな箒の空気を敏感に察したのか「そういえば」と鈴が声を上げた。
「今回は優勝賞品ってないのよね?」
「確かにないな。クラス対抗戦の時はあったけど無くなったのか」
あちらは、全員参加のイベントではないが、クラスの結束力を高める為、報酬が用意されていた。
故に、タッグマッチトーナメントにはそういった類の物は用意されていない。
「なら、なんか賭けるか?」
「お、いいわね。じゃあ、こういうのはどうかしら?」
そう言って、箒とセシリアを順番に見てニヤリと笑った鈴が続けた。
「優勝したら、一夏に何でも言うことを聞いてもらおうかな」
「いや、それ俺が優勝したらなんの意味もないだろ」
「だったら賭けに参加した人の誰かに言うことを聞いてもらうってのは?」
「まあそれならいいか……」
一夏が納得したところで、話を聞きつけたラウラがやってきた。
詳細までは聞こえていなかったようで、一夏に詳しいことを聞いているようだ。
それを見て、一夏の意識がラウラに行ったのを見計らって、セシリアは鈴の袖を引っ張って教室の隅の方へ連れて行く。
「……なんであんな事言ったんですの?」
「あんな事って?」
「白々しいですわ。──優勝したら一夏さんに何でも好きな事を聞いてもらえるだなんて」
あの場で鈴が宣言したことで、他のペアにもなし崩し的にその権利が発生した。
当人の一夏が明確に否定してくれれば、大事にならなかったのだが、「別にいいぜ」の一言で、一夏公認の話になってしまったのだ。
「一夏さんはどうせ簡単なお願いだと思ってます。そういう風に考えるのがわかった上で、提案したのでしょう?」
「そうね。でもそれが何か問題?」
薄っすらと笑みを浮かべながら飄々と躱す鈴に、セシリアが苛立ちを隠せなくなる。
「鈴さんはわたくしの気持ちを知った上で──」
鈴は、一夏に対する自分の気持ちを知っているはずだ。
それなのにどうしてこういう事をするのだと追求しようとしたところで──
「──だったらハッキリしなさいよ」
鈴にバッサリと切り捨てられた。
彼女の表情からは笑みは消え失せ、瞳の奥には怒りの炎が見えた。
「国と一夏、どっちを選ぶか決めきれていないあんたの気持ちなんて知らないわよ」
「っ!
以前、ラウラにも言われた事だ。
結局、その答えは未だ出ていない。
「一夏と付き合えるようになって、イギリスに一夏の身柄を渡せと言われたあんた、抵抗出来るの?」
「それ、は……」
「イギリスで一夏の安全は保証できる? 日本からイギリスに一夏を大人しく連れていける? ああそれとも、あんたが日本に来る?」
挑発する様に鈴が睨むが、セシリアは答えない。
否、答えられない。
「まあぶっちゃけ、普通の学生同士の恋愛でそこまで考える方がおかしいんだけど、あたしらはほら、普通の学生じゃないから」
言って視線を伏せる鈴。
自分でも、セシリアに酷な事を言ってる自覚はあるのだ。
「一夏と付き合おうって考えるなら、そこまで考えておいて欲しいなって話」
じゃね、と教室を出ていこうとする鈴に、セシリアは何も言葉をかける事が出来なかった。
(……ん? でもそれって優勝の景品の話と何も関係ありませんわよね!?)
気付いてももう遅い。
すでに鈴は教室を出てしまっている。
「鈴さん! きっちり説明して貰いますわよ!」
「急に叫ぶなよ! びっくりしただろうが!」
シリアスな顔をしてると思ったら、急に叫び出したセシリアに、一夏は戸惑いを隠せなかった。