ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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お久しぶりです



ダッグマッチトーナメント開催

 月日は流れ、学年別トーナメントの開催日がやって来た。

 クラス対抗戦とは違い、来賓の数も多くなるこの行事はまさに学園を挙げてのイベントである。

 特に今年は一夏というイレギュラーな存在がいるせいで、昨年よりも多くの来賓が来ていた。

 来賓の誘導なども生徒による仕事に割り振られているため、この後出場する生徒たちも、慌ただしく対応に追われていた。

 もっとも、誘導に一夏なんか使ったら大変な事になるので、当然彼はその任からは外されている。

 

「暇だな」

「うむ」

 

 という訳で、仕事がない一夏は、食堂で駄弁っていたのだが、そこには箒の姿もあった。

 彼女の方も、ISの開発者である篠ノ之束の妹という事を配慮され、来賓の誘導の仕事を免除されている。

 とはいえ、手隙の生徒は結構いるが、ここには代表候補生であるセシリア達の姿はない。

 

「セシリア達は自分のとこのお偉方に挨拶か」

「代表候補生だからな、仕方がないだろう。……にしても、皆が働いているのにこうして休んでいるのは気が引けるな」

 

 とはいえ、一夏達もずっと休んでいるわけでは無い。一応は、雑用などの仕事は行い、やることがなくなったのだ。

 そして、箒は想い焦がれる一夏と二人きりというシチュエーションだが、そこに浮いた気配はない。

 

「一夏、トーナメント表はみたか?」

 

 おもむろにそう切り出すと、一夏もニヤリと笑みを浮かべた。

 今朝方、トーナメント表が提示された。

 一夏達は事前にどういう組み合わせになるか予想していたが、おおよそ、その通りのトーナメント表だった。

 

「勝ち進めば、箒達のペアはとは準決勝。そしてラウラ達とは決勝だな」

「専用機持ちのペアは皆シードだから、都合五回勝てば優勝という事だな」

「ああ。なんにせよ、初戦でラウラ達じゃなくてよかったよ」

 

 そうなってしまえば、どちらかは初戦敗退という事になってしまう。

 しかしこの組み合わせなら、よほどの事がない限りは問題はないとばかりに一夏は断言する。

 言外に、それは普通のペアには負けないという事を表しており、ともすればそれは傲慢とも思える言葉だ。

 だが、一夏は対戦相手を舐めているわけではない。自身だけではなく、自分とセシリアの実力を踏まえて言っているのが箒にはわかった。

 ならば、それに比べて自分はどうか。

 

「私は、鈴の足を引っ張らないか、不安だ」

 

 これは、箒の偽らざる気持ちだ。

 

「鈴を、初戦で負けさせるわけにもいかない。だがな……」

 

 鈴の立場がわかっているからこそ。

 

「私は、弱いからな」

 

 自身の実力がわかっているからこそ。

 本当に自身が鈴のペアで良かったのかと、ペアが決まってからというものずっと胸の中に燻っていた。

 

「いつになく弱気だな。入学したばっかの時、試合に勝とうとしてなかった俺に喝を入れてなかったかお前?」

「あの時……と言っても数ヶ月前の話だがな。あの時の私は知らなかったんだ」

 

 そう、何も知らなかったのだ。

 代表候補生になる者は、どれほどの時間を、そして人生を賭けているか知らなかった。

 だが、知ってしまった今はあの時と同じ気持ちになれという方が無理がある。いや、同じ気持ちを持ってしまうのは彼女たちに失礼だ。

 

「……まあ、そうなんだろうけどさ。そんなん言われたら俺、誰にも勝てねえぞ」

 

 けれど、一夏は箒の言葉を素直には頷くことは出来なかった。

 確かに、自身はその土俵には立ててはいない。

 ISにかけた時間は言わずもがな。

 そして、幼少期から磨いていた剣も置いてしまった。

 けれど、箒は違うのだ。彼女は自分が剣の道から離れてしまってからも、それまでと同じ様に剣の道を歩んでいたのを一夏は知っている。

 新聞で伝えられる、剣道の大会の結果で時折見た、篠ノ之箒という名前。

 彼女はずっと、剣の腕を磨いていたのだ。

 

「みんながISにかけてきた時間と熱量。それと同じだけのモノをお前は別のモノにかけてきたんだろ?」

 

 ──だったら、そこを誇れよ。

 

 そう破顔した一夏の顔を、箒は直視出来なかった。

 

(違う。私は、私は──)

 

 ぐっと握りしめた拳。

 箒にとって己を戒めるような、あるいは律するようなそれも、一夏には届かない。

 彼女が握った拳を一夏は、箒が戦う活力を得たのだと思ってしまった。

 

「月並みな言葉だけどさ。俺と()るまで負けんなよ?」

「……ああ、そうだな」

 

 だが、心の何処かでは一夏と戦いたいという気持ちもあるのは事実だった。

 それは、小学生の頃に毎日の様に手合わせをしていた、懐かしい日々を思い出すからだ。

 互いに、近接主体の装備しか持ち合わせていない。だからこそ、あの時の様な剣の打ち合いが出来るのだ。

 

「んじゃま、俺は準備するかね」

「ああ。また、本戦でな」

 

 さっと立ち上がった一夏に箒がそう言葉を投げかけると、一夏はひらひらと手を振って応えた。

 

(私も、やれるだけの事はしておこう)

 

 暗い気持ちはまだ心に残っている。

 だが、今だけは一夏との戦いを願って、勝ち進もうと箒は誓った。

 

「さて、俺は部屋に戻るが……箒はどうする?」

「私はここで鈴と待ち合わせをしているからな」

「そっか。じゃあまた後でな」

 

 そう声をかけ食堂を出た一夏が廊下を暫く歩くと、目の前から千冬が歩いて来るのが一夏の目に写った。

 千冬も一夏の姿に気付いたのか、少しだけ歩調が早くなる。

 

「探したぞ織斑。部屋に居ないと思ったが、食堂にいたのか」

「あ、はい。仕事もなくて暇だったんで。何か仕事ですか?」

 

 来賓の誘導意外にも仕事はある。

 男の自分を探していたという事は力仕事だろうかと一夏は頭を働かせる。

 

「いや、そういう訳じゃない。少し話せないかと思ってな」

「わかりました。特に指定がなければ俺の部屋でも良いですか? コーヒーの一杯くらいなら出しますよ」

「ほう。教師を部屋に連れ込むとはいい度胸だ」

「……これ、ツッコんだほうがいい感じのヤツですか?」

 

 生徒が教師を部屋に連れ込むという字面は、それだけを見るとアウト案件にも思えるが、実際のところ姉弟なのだからその心配はない。

 もっとも、これで手を出す様なものなら生徒と教師の関係だけでなく、姉弟である事を含めてアウト2つのダブルプレーだ。

 

「まあ、実際のところ、廊下や食堂で話せる様な内容じゃないからな。私の部屋でとも思ったが、お前の部屋にするか」

 

 千冬の『廊下や食堂で話せる内容じゃない』と聞いて、一夏は心のなかでため息を吐いた。

 それはつまり、他人の耳が存在する場所では話せない内容ということなのだから。

 すでにシャルルの件でお腹いっぱいの一夏からすれば、他の面倒事は勘弁して欲しいところだった。

 

「というか抜け出して大丈夫なのか?」

「大体の事は山田先生がやってくれるさ」

 

 部屋に入った一夏は、他の生徒の目も無い為、いつも通りの口調で話すことにした。

 千冬もそれを咎める事はなかった。

 

「……甘いな」

「そりゃ、千冬姉基準で考えればな」

 

 今日のコーヒーは千冬好みでは無かった様だ。

 だがそれは一夏もわかっているので、肩をすくめるだけだった。

 

「で、話って何?」

「ああ、そうだな。なに、そう身構えなくても良い」

 

 コーヒーの入ったコップを手に、千冬は椅子にどかりと座り込む。

 その表情からも深刻そうな様子は伺い知れなかった。

 

「タッグマッチトーナメントに向けてどうだ? 勝てそうか?」

「まあ、一般生徒には負けないとは思うよ。鈴とかラウラに当たるのは準決勝と決勝からだし」

 

 一夏の言葉に、千冬は「そうか」とだけ呟いて、コーヒーを啜る。

 それから、ややあってもう一度口を開いた。

 

「とはいえ、怪我だけが心配だな。無理をするなよ?」

「大丈夫だって。ISには絶対防御があるって千冬姉なら知ってるだろ?」

「すでに二回怪我をしている時点で説得力はないぞ」

「……まあ、今回は大丈夫だろ」

 

 視線を泳がせながら答える一夏。

 大丈夫といったものの、確かに怪我を二回しているのは事実だったからだ。

 そんな一夏の様子に、千冬は大きくため息を吐いた。

 

「何にせよ、頑張れよ。もちろん、怪我をしない範囲でな」

「おう。……でもさ、一教師が特定の誰かを応援して良いのか?」

「だから、こうして二人きりになってるんだろう?」

 

 それで千冬は『廊下や食堂で話せる内容じゃない』と言っていたのかと一夏はようやく納得がいった。

 確かに、いくら家族とはいえ他人の目がある中で一夏を応援する言葉を口にする訳にはいかなかっただろう。

 

「千冬姉にとっては運動会参観みたいなモンだな」

「ああ。だが、思い返せば小中の頃にそういう父兄イベントに参加した事は無かったな」

「十代の女子が小学生の授業参観きたら浮きそうだけどな」

 

 一夏は千冬が授業参観に来る光景を頭に思い浮かべ、思わず吹き出してしまった。

 浮いているとか言うレベルではない。

 そして千冬も一夏と同じ様にその光景を想像したのか、こちらは苦笑いを浮かべていた。

 

「そういえば一夏、お前──」

 

 と、千冬が何かを言いかけたタイミングでドアがノックされる音が響いた。

 その後に穏やかな声が響く。

 

「一夏さん。少しよろしいでしょうか?」

 

 どうやらセシリアがやってきたようだ。

 ちらりと千冬に目配せしたが、千冬も問題ないと言わんばかりに頷いて見せたので一夏はドアを開ける事にした。

 

「あら、織斑先生もいらっしゃいましたの」

「ああ。すまんな二人きりにさせてやれなくて」

「いえ。二人きりにはいつでもなれますので」

「それもそうだが、お前にはデュノアの事で余計な心配をかけてるからな。悪いが、辛抱してくれ」

 

 などとにこやかに会話をする千冬とセシリアの様子に一夏は頭が痛くなる気がしてきた。

 

「……俺はどこから突っ込めば良いんだ?」

 

 そう言ったところで、セシリアは楽しそうに微笑みを浮かべ、千冬はニヤリと頬を吊り上げて見せるだけだ。

 というか、さり気なく一夏の使っているベッドに腰を下ろす始末だ。わざわざ一夏のベッドを選んで座る辺り、タチが悪いと言える。

 セシリアは時折こういった言動をとるが、そこに千冬まで乗ってきてしまうと一夏にはどうしようもなかった。

 もし、セシリアと結婚したら、千冬と手を組んで自分の事をからかうだろうなと想像したが、すぐに頭を振ってその考えを打ち消す。

 

「で、セシリアは何の用事で来たんだ?」

 

 気を取り直す様に一夏がいうと、セシリアもさっと雰囲気を変えた。

 微笑みを浮かべたままというのは先程と同じだが、どこか真面目な印象を受ける。

 

「打ち合わせというか、確認ですわね」

「確認? 今日の試合のか?」

「ええ。後は一夏さんの体調であったりですわね。どこか違和感を覚えたりしてますか?」

「いや、その辺りは問題ない。絶好調……って訳じゃねえがいつも通りって感じ」

「昨日は寝れましたか? というか徹夜してませんわよね?」

 

 それは質問というより、念の為の確認と言った感じだった。

 

「ちゃんと日付が変わる前には寝たよ。……嘘じゃないぞ? 本当だからな?」

「……わかりました。取り敢えずは信じておきますわ」

 

 信じておくと言っておきながら、セシリアの瞳には疑惑の色が隠しきれていない。

 一夏としては心外だと声を大にして言いたかったが、前科が多すぎるだけに何も言えなかった。

 

「では、試合の段取りを。とは言っても、わたくし達のやれることは限られてますが」

「ああ。俺が前衛(まえ)でお前が後衛(うしろ)。射撃武器を持ってない俺が後ろに行っても仕方ねえし、セシリアに前に来られてもな」

 

 何れにせよ、一夏の武器はただの一振りの刀だけだ。

 やろうと思えば手持ちで銃火器を持ち込む事もできるが、そこまでして射撃武器に固執する必要は無い。

 こちらには射撃の腕前だけなら学年トップの技術を持つセシリアがいる。ならば一夏が射撃武器を持ったところで何の手助けにもならない。

 

「それがわかっていれば結構ですわ。とにかく、一夏さんは運動量で勝負して下さい。代表候補生以外で一夏さんを上回る技量の方はいませんし。下手したら開幕瞬時加速(イグニッション・ブースト)で決着──なんて事も有りえますわ」

「だが、瞬時加速(イグニッション・ブースト)中に方向転換はするなよ」

「突然入ってきたな千冬姉。大丈夫だって、言っちゃアレだけどさ、たかが学校行事でそんな無茶はしないって」

 

 今度は千冬に注意された一夏は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 そんな事はしないと言いつつも、こちらも前科があるだけに、信じてくれるか微妙なところだ。

 

「ならいい。──さて、邪魔したな一夏」

 

 そう言って千冬は、残ったコーヒーを流し込みさっと立ち上がる。

 そのままドアを開けようとドアノブに手をかけたところで、思い出したかのように振り返る。

 どこか躊躇う様子を見せた後、ややあって口を開いた。

 

「あー……なんだ。セシリアも、一夏の事を頼む」

「あ、はい。わかりましたわ」

 

 セシリアもまさかそんな事を言われるとは予想していなかったのか、目を丸くしていた。

 それは一夏も同様で、こちらは目に見えて狼狽えている。

 そんな二人を驚かせた千冬だが、その当の本人はセシリアの返事に満足気に頷くとそのままドアを開けて出ていってしまった。

 

「……いや、まじでビビった。千冬姉があんな事言うなんて」

「……というか、わたくしの事を名前で呼びましたわね」

 

 そういえばそうだったなと一夏が思い返していると、続けてセシリアが口を開いた。

 

「それに、一夏さんの事を頼むと言われましたし、これは本格的に姉の公認を頂けたという事でよろしいのでは?」

 

 そう言って笑うセシリアに、一夏は何も言い返す事が出来なかった。

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