ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
タッグマッチトーナメントが始まった。
お互いに初戦という事もあって、両陣営ともに緊張に顔がこわばり、動きは固くなっている。
そんな彼女らの様子を一夏とセシリアはモニター越しに観戦していた。
「緊張してんなあ」
「当然でしょう。彼女たちにとっては初の試合なのですから」
彼らが自室で見ているのは、会場で見るというのを控えたからだ。
というのも、別段禁止されている訳ではないが、外部の人間も来ている以上、会場周辺でうろつかない方が良いという判断だった。
ただ、それは一夏の事情であり、セシリアは会場に行ってもよかったのだが、本人たっての希望でこの部屋で見ることにしたのだ。
「勝った方が俺らの相手か」
「はい。スカウティングを、とも思いましたが……」
「これじゃあ参考にならねえな」
如何せん、動きが悪すぎるのだ。
片方のペアは少し前に二組との合同授業で動きを見たが、その時の方が動けていた様に一夏の目には映っていた。
つまり、本来の実力を発揮しているとは言えない。
(やりにくいな)
一夏は率直にそう思った。
この戦いで勝ったペアは初戦の固さが取れ、さらには専用機持ちペアに挑む形になるので負けて元々、当たって砕けろと言わんばかりに気負いも何もなく戦いに臨む事だろう。
それに比べて、一夏・セシリアペアはどうだろうか。
セシリアは問題ない。
問題は一夏の方だ。
「勝って当然って見られるのは勘弁してほしいぜ」
「専用機持ちはある程度の操縦実績を持ってますので技量も相応の物を携えてますが……一夏さんはそうではありませんしね」
「ハッキリ言うんじゃねえよ」
「でも、事実でしょう?」
セシリアがそういうと、一夏も「まあな」とポツリと呟いた。
「とはいえ、一夏さんもわたくし達に及ばないにしてもISを扱っている時間は一般の生徒とは比べるまでもありません。普通に戦えば、遅れをとる事はありませんわ」
「普通に戦えれば、な」
箒は一夏と話した時、緊張している様子は感じなかったが、実際は一夏は緊張していた。
いや、負けたらどうしよう。そういった考えではなく、負ける訳にはいかないと考えているから緊張しているというよりは気負っていると表現した方が正しいか。
無理もないという気持ちと同時に、それを不思議に思う気持ちもセシリアは抱いた。
クラス代表決定戦の時はそういった感情を持っていた様には見えなかったからだ。
「わたくしと対戦した時は堂々としたものでしたが」
言外に、代表候補生である自分に対しては自然体で戦えたのに、一般生徒には気負うのかと伝える。
「あの時とは事情が違うさ」
だが、一夏はにべもなく否定する。
「事情、ですか」
「個人の感情は別にして、負けても良かった戦いと、絶対に負けられない戦いを一緒の気持ちで挑むわけにはいかねえよ」
あの時彼は、千冬の名の為に戦っていた事は相対したセシリアもわかっている。
負けても良かったとは言わない。彼の負けず嫌いな性格は理解しているから。
けれど、絶対に負ける訳にはいかない戦いでもなかった。
負けたとしても、あれほどの戦いぶりをみせれば『千冬の弟の癖に不甲斐ない』などと言う者は現れなかっただろう。
だが、この大会は結果がすべてなのだ。
彼が気負っている原因は『自分』が負ける事ではなく、『セシリア』を負けさせる訳にはいかないという事から来ているのだとセシリアは理解した。
だが──
「──わたくしを勝たせよう。そのような事は思っていただかなくて結構ですわ」
自然と言葉が溢れた。
一夏の抱いていた気持ちは十分に伝わった。気負っていた理由もわかった。
(わたくしの事を考えて、背負おうとしてくれた事は本来は喜ぶべき事なんでしょうね)
だが、それを素直に受け入れることは出来なかった。
「わたくしはあなたに勝たせてもらうほど、弱くはありませんわ」
それは、IS乗りとしての
好きな男に守ってもらえる。とても甘美な響きだ。
甘えても良いじゃないかとも思う。
だが、それに素直に受け入れる訳にはいかないのだ。
「そう、だよな……」
絞りだした一夏の言葉は、どこか呆れた色を含んでいた。
それは、セシリアの物言いに対して向けられた訳ではない。
セシリアを勝たせようと考えた己に対してだ。
「そもそもがお前の方が強いしな」
「ええ」
当然だと言わんばかりにセシリアが頷く。
事実、代表候補生が相手でなければ二人同時に相手取っても余裕に捌ける実力をセシリアは持っている。
もっとも、それは一夏も同じなのだが、ここでは敢えて言わなくても良いだろう。
「そもそも、お前は大人しく守られてるような奴でもないしな」
「あら、それは失礼なおっしゃり様ではなくて?」
「お前が言い出したんだろうが……」
どうやら、一夏の固さはほぐれたようだ。
それに、いざとなればセシリアだけで勝てるのも事実。
それでも、一夏が万全といかないでも、動けなくなる事はなさそうだなとセシリアは笑みを浮かべながら思った。
☆☆☆
さて、一夏たちにとっての初戦。
そして勝ち上がった二人にとっては二回戦が始まろうとしていた。
「まあ、よろしく頼むわ」
「お手柔らかにお願いしますわね」
ニヤリと頬を釣り上げた一夏と、穏やかな笑みを浮かべながらセシリアが言った。
「お手柔らかにって……」
「それって私らのセリフだし……」
相対するは二組の生徒によるペアだ。
確か、木田と佐々木だったかと共に打鉄をまとう二人の名前を一夏は思い出す。
『まもなく試合開始です』
場内にアナウンスが響きわたると同時に、操縦者の眼前にカウントダウンを告げるウインドウが立ち上がった。
カウントダウンは十秒前。数字が減るごとに場内の熱気が上がっていく。
ブ、と三秒前を告げるコールが鳴る。一夏は雪片を、セシリアはスターライトMkⅡを構える。対する二人は両手に近接ブレードを呼び出した。
ブ、ともう一度コール。ざわめく場内の音は既に一夏の耳には入ってこない。
ブーッ。そして、三度目の試合開始を告げるブザー。その瞬間、一夏が動いた。
それに一泊遅れ、木田と佐々木も一夏に向って機体を動かす。
(二人で俺狙いか!)
一夏とセシリアの想定していたパターンは三つ。
単純に一夏とセシリアそれぞれにぶつかるパターン。
二人同時に引き、射撃戦に持ち込むパターン。
そして、今二人がやっている一夏に対して二人がかりで挑むパターンだ。
(1対1じゃオルコットさんは絶対に無理だし、織斑くんにも勝てない!)
(かといって二人揃って下がっちゃうのも悪手よね!)
二人で下がっては一夏に間合いに入れさせない為にどちらかは足止めの射撃を行わなければならない。
そうなると結局、セシリアと1対1で戦わなければならない事を意味する。
だからこそ、二人は一夏に接近戦を挑むことにした。
「なるほどな。俺と組み合えばセシリアも誤射を恐れて射撃が出来ないと踏んだ訳だな」
二人の時間差の連撃を弾きながら一夏が二人に語り掛けた。
「卑怯だと思う?」
「いや。考え方は悪くないと思うぞ──ただ、それはセシリアを舐めすぎだな」
「……それって私たちが二人がかりで戦ってもオルコットさんに勝てないってこと?」
確かに、彼女たちが二人で挑んでもセシリアに勝てないのは一夏の正直な感想だ。
だが、一夏が言ったのはそういう意味ではない。
「この程度の乱戦で、誤射をしてしまうと思っているのが舐めてるって事だ」
その言葉の瞬間、一夏の顔の数十センチのところを二本の蒼い閃光が駆け抜けた。
「なっ…!」
驚愕の声はどちらの声か。
ただ、セシリアに撃たれたのだと理解出来たのだと気付いた時には、一夏との距離が開けていた。
急いで距離を詰めねば、と作戦を思い出すが、身体は動かない。
そもそもが、まともにISを動かせてないのだから、直ぐに動かないというのも当然だ。
だが、それ以上に二人は動かすという意思を失いつつあった。
──距離を詰めたところで意味はありませんわ
そう、一夏の真上に移動したセシリアが無言の圧を放っているのだ。
そもそもが、乱戦では誤射を恐れて撃てないという想定で作戦を立てていた。
その前提条件が崩れてしまえば、もはや手はないのだ。
「ああ、それから」
おもむろにセシリアが口を開く。
手にした愛銃を消し、両腕を広げる。その様子は、さながら審判を告げる神の様にも見えた。
何の真似だ、と木田と佐々木──否、会場中の視線が集まる。
「二人がかりなら一夏さんを倒せると見立ててるのでしょうけど──」
そこでハッと二人は視線を一夏に戻す。
が、先ほどまでたっていた場所に、一夏に姿はない。
「──それは一夏さんを舐めすぎですわ」
その言葉と同時に、眼前に一夏が出現した。
「「ッ!?」」
混乱した二人は一夏が突然目の前に現れたと感じたかもしれない。
が、瞬間移動なんてマネはいくらISを纏っていたとしても不可能だ。
だが、
爆発的な加速を得るとは言え、結局は単純な直線移動だ。
ISのハイパーセンサーを持ってすれば捉えられない事もないし、加速中の一夏に攻撃を与える事だって可能だし、例によって加速中の被弾はダメージが大きく、体勢を崩す事にもなる。
「さり気にハードルを上げられてる様な気もするけど……まあ、そういう事だ」
だが、彼女たちは視線を、そして意識もセシリアに向けてしまった。
ハイパーセンサーからは本来、人の目には映らない後方からの映像も伝えられる。
とはいえ、いまだISに乗り慣れていない二人にとって、自分の目から伝わる情報と、ハイパーセンサーを介して伝えられる情報では、どうしたって差は生まれる。
「ふっ!」
一夏は二人の間を駆け抜け、すれ違いざまに斬撃を叩き込んだ。
正確には、雪片を横に置いていただけだったが、それでも木田の機体には少なくないダメージが加算される。
加速を終えた一夏はそのまま二人の後ろに回り込む。
一夏とセシリアに挟まれる形になった木田と佐々木だが、もはやどうすれば良いかわかっていなかった。
作戦通り一夏に二人で当たるのか。──背後からのセシリアの狙撃に怯えながら戦えるものか。
作戦を変え、セシリアに二人で挑むか。──背後から一夏に切り捨てられる未来が容易に浮かんだ。
ならば、それぞれが一夏とセシリアに挑むか。──それが出来たら最初からそうしている。
「じゃあ、続きと行こうか」
「お、お手柔らかに……」
狩人を思わせる一夏の笑みに、二人はそう返すのがやっとだった。
決着はあっけないもので、混乱した二人が体勢を整える前に一夏が切り込み、セシリアが上空から狙撃を行い、木田と佐々木の打鉄のシールドエネルギーを削り取っただけの戦いだ。
「流石だな、セシリア」
「一夏さんこそ」
嫌味かよ、一夏はそう言い返した。
実際、一夏は真っすぐ突っ込んで斬り付けて、折り返して斬っただけだからだ。
ただ、それはセシリアにとっても同じである。
セシリアも一夏を援護するために狙撃をしただけで、殆ど動いていない。
機体の象徴たるブルーティアーズも使っていないのだ。
「勝ったな、一夏」
ビットに戻った一夏とセシリアを出迎えたのはラウラだ。
わたくしは無視ですかと呟いたセシリアを横目に、一夏はISを解除する。
「セシリアのお陰さ」
ラウラから投げてもらった冷えたタオルを顔に当てながら言う。
ISを纏っていれば汗などはかかないが、それでも昂った気持ちを冷ますには丁度良かった。
「
「それは──」
言いかけて一夏は言葉を切った。
順当に勝ち進めば決勝の相手になるラウラにそれを言う意味はないと思い出したからだ。
「ラウラさんから見て、どう思われましたか?」
「どちらでも良いさ。セシリアならタイミングを読める目を鍛える為に訓練を追加するだけさ」
「俺が決めてたんなら?」
「一夏の成長に喜び訓練を追加するな」
「訓練が追加されるだけじゃねえか」
苦笑いを浮かべた一夏が吐き捨てる様に言った。
まあ、ラウラなりの冗談だろう……多分。
「……邪魔なんだけど」
投げられた声音には、明らかに敵意の込められていた。
「ああ、悪い」
とはいえ、ピットは広く、そこまで占拠している訳ではないのだが、一夏は謝っておくことにした。
この手の手合いにそういう事を言っても逆効果だからだ。
「……用がないなら出て行って」
「おいおい。俺らって初対面だよな? 俺って何かしたか?」
「……別に」
「なら、なんでそんなに邪険に扱われるか気になるんだがな」
「……私には、あなたに怒りをぶつける権利がある……。けど、疲れるから……やらない」
「いや、マジで意味が分からないんだが」
「もういいから、出て行って……」
どうにも嫌われたもんだと思いながら、一夏は素直にピットを出る事にした。
その後ろから、不思議そうな顔をしてセシリアとラウラがついてきた。
「なんか俺、嫌われ率高いなって思う時がある」
しばらく歩いた後、一夏がため息と共に吐き出した。
「デュノアの件は自覚があるだろう。あの娘はどうなんだ?」
「どうもこうもない。初対面だよ、多分な。ピットに居たって事は次の試合に出るんだよな」
そう言いながら、トーナメント表を見やる。
とはいえ、出場者は四名いる為特定は出来ないかと一夏は思った。
が、セシリアとラウラはそうではなかったらしい。
横から指を伸ばしてラウラが口を開く。
「こいつだな」
「ええ、四組の更識さんですわね。彼女もクラス代表ですし、面識がありますわ」
それに追従する様にセシリアが頷く。
四組のクラス代表と言えば、と一夏が何やら思い出す。
「四組だったよな、クラス代表が代表候補生なのって」
「ええ」
「それこそ、日本の代表候補だな」
「ふーん……」
とはいえ、なぜ嫌われているのだろうか。
パッと見では、誰かに敵意を向けるのを向いているタイプではなさそうなだけに気になるところだった。
「俺らの後に戦うって事は、次の対戦相手になるのか」
「まあ、順当にいけばそうですわね」
「使うISはやっぱ専用機か?」
「いえ、それが」
そうセシリアが言い淀んだところで一夏は思い出す。
かつて、クラス対抗戦の時に一組以外には専用機持ちがいないとクラスメイトが言っていた事を。
となると、彼女は代表候補生ながら専用機を持っていない事になる。
もっとも、代表候補生が全員が全員専用機を持てる訳ではないので、珍しい事でもないのだが。
どちらかと言えば、今の一年の専用機持ちの人数が異常なのだ。
「なんでも彼女の専用機は製造が遅れているらしいな」
「ええ、ロールアウト前に別の機体が入ったみたいで」
「……ちょっと待て、もしかしなくてもそれは」
「ああ。お前の白式を作った会社が、更識の専用機を作っていた会社だ」
「噂では、制作を送らされた事に不満を覚えて、自分が作ると言って引き揚げたようですが」
なんとなく、話が見えてきて一夏は苦虫をかみしめた様に顔をしかめた。
思った以上にしょうもない理由だったからだ。
「じゃあアレか。あいつは白式が先に作られたのが気に入られなくて俺にキレた訳か」
「ええ、まあ」
「ふざけんな」
あくまでも、これは想像だ。
だが、そこまで外れてはいないだろうと一夏は思った。
でなければ彼女との接点は無いからだ。
「まあ、元々の仕事を差し置いて他の案件が来たら気に入らないって気持ちは理解は出来る」
先約優先。
これは基本的な事だ。
だからこそ、製作元が自身の機体よりも後に依頼された機体を優先したとなれば面白くないと思うのは当然。
「だけど、その怒りをぶつけるのは俺じゃねえだろ。俺は一言も専用機をよこせとは言ってねえ」
それに、だとしても既に白式は出来上がって一夏の手にあるのだ。
「倉持技研だってもう手は空いてんだろ。だったら作ってもらえば良いじゃねえか。自分が作るって引きとった時点で倉持技研とはもう関係ねえ。今、専用機が無いのは俺のせいでも倉持技研のせいでもねえ。アイツ自身が作れなかったからだ」
──気に食わねえ。
そう、最後に吐き捨てて一夏は歩き出す。
「……さ、どうするんだ相棒?」
「相棒……いい響きですわね」
「ふざけれてる場合か?」
「ふざけたくもなりますわ」
はあ、とセシリアが大きなため息を吐く。
一夏の気持ちはわからないでもない。どちらかと言えば、一夏の言葉に賛成だ
問題なのは、明らかに冷静さを失ったまま、次の試合に臨もうとしている点に尽きる。
「私としては、お前らが決勝に上がってくるのを願っているからな。コケてくれるなよ?」
「でしたら、一夏さんを落ち着かせて頂きたいのですが」
ほとんど本心からセシリアが言うと、ラウラはどこか誇らしげに口を開いた。
「あいにく、私は煽り専門でな。油を注ぐことしか出来んがそれでもいいか?」
「……結構ですわ」
こうなったら、一夏と戦う前に更識には負けてもらえないかなとセシリアはぼんやりと思った。
かんちゃん前倒し登場!
会長の出番はまだまだ先の予定です。
あと、この作品はISには珍しくがっつりトーナメントを描いてきますのでよろしくお願いします