ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
ざっと4年と半年ぶりですか……
急遽仕様の変わった学年別トーナメントは、これまでの試合でも盛り上がりを見せていたが、この試合はこれまでで一番の注目を集めていた。
イギリス代表候補生であるセシリアと、日本の代表候補生である簪。
トーナメントで行われる最初の代表候補生同士による対戦だからだ。
「よう、散々突っかかってくれたな更識」
「……だから?」
ただ、セシリアvs簪を期待する観衆の思惑とは裏腹に、一夏と簪はお互いに敵意の籠った目をぶつけ合っていた。
「おりむーなんか怖いよ~」
「まあ、先ほど色々ありましたから仕方ありませんけど」
そんな二人とは対照的に、本音とセシリアは自然体のままだ。
にこやかにしつつも、セシリアは本音と簪の装備を観察していた。
本音の装備はこれまでの試合と同様に、打鉄の両手にシールドを持たせたスタイルで変わりはない。左手には体のサイズほどのシールド、右手にはそれよりは小ぶりなシールドを持っていることから、基本は左手のシールドで防ぎ、細かい防御は右手のシールドを使うつもりか。
簪の方も、薙刀を装備し、すでに本音のやや後ろに位置している。
試合開始と同時に、本音が前進し簪が後退する算段だろうか。
(これまでの試合は横並でしたわね…)
試合前の立ち位置が少し違うだけ、とも言えるが何か理由があるのだろうかとセシリアが少し気になったところで、一夏からも通信が入った。
『立ち位置、今までと違うよな?』
どうやら、一夏も気になったようだ。
それに何より、簪とは言い合っている中でも気が付き、通信を寄こしてきた。
直前の打ち合わせでは集中しなおしていたが、こうして簪と対面して言い合いを始めるあたり、冷静になれるかセシリアとしては不安だったが、どうやらその心配はなさそうだ。
『ええ、今までと違ってわたくしの存在を危ぶんでの選択かもしれませんわね』
『だろうな。今までの様に横並びだとお前の狙撃を防げないからな』
『その上、分断を狙うにしてもこの形の方がお二人にとって都合が良いでしょうし』
にしても、簪と言い合いながら通信をこちらに飛ばしてくるとは器用なものだとセシリアは思った。
『とりあえず、お前の射撃を本音が防いでいる間に俺があいつに斬りかかるな』
『わかりましたわ。後は作戦通りお願いしますわ』
了解、と一夏が言うと同時に、試合開始前のアナウンスが響く。
コールが鳴り始めた時点で、一夏は雪片弐型を右手にだらりと携える。
セシリアも追従するようにスターライトMKⅡを構えた。
「──いくぞ」
ブーという試合開始のブザーと共に、一夏が動き出し、セシリアも本音に狙いを定めるが、それよりも早く先手を取ったのは簪・本音ペアだった。
それまでのパターンから動きを変え、簪はミサイルポッドを具現化。狙いもそこそこにばら撒いたのだ。
「甘いですわ」
しかし、セシリアの前では意味をなさなかった。
こちらも狙いなど付けていないかの様に無造作にライフルを連射。しかし、放たれた全ての光条はミサイルを撃ち抜く。
広がった爆炎を切り裂いて、一夏は簪に向かおうと機体を向ける。
「おりむーの相手は私だよ~」
そんな一夏の前に立ちはだかったのは、戦いにおいても間延びをした口調を崩さない本音。
ある意味でそれは緊張や気負いは無く、自然体でこの戦いに臨んでいる事を示していた。
それを見た一夏は雪片弐型を右手に構え、突きの姿勢を取った。
その突進を本音は当初の作戦通り受け止めようと両手に構えたシールドを向け、衝撃に備える。
「──?」
しかし、予想したしていたよりもはるかに軽い衝撃に、本音が不審な表情を浮かべたところで背後から低い声。
「悪いが、お前の相手は俺じゃないんでな」
「なん──」
なんで、と言うよりも早く自身の駆る機体からアラート、その次の瞬間シールドをすり抜けたレーザーが本音を襲った。
「布仏さんの相手はわたくしが務めさせて頂きますわ」
更に遅れて届くセシリアの声。
『織斑くんの相手は……私がするから……本音は自分の身を守って……』
そして、
本音はその声を頼りにシールドをより自身の身体に密着させ、身を縮こまらせる。
「──絶対にまけない」
自分が勝つ必要はない。当初は、本音が一夏を抑えている間に、簪がセシリアと戦う案だったが、一夏たちは代表候補生同士の戦いにならないようにした。
ならば、自分は簪が一夏を倒すまで耐えていればいい。
防御装備を持つ本音と、持たない一夏。普通に考えれば本音が倒されるより、一夏が倒される方が早いからだ。
つぶやいた言葉をかき消すように、間隙を縫ってセシリアの狙撃が襲ってくるのを歯を食いしばって本音は耐え始めた。
(……思ったより……強い?)
試合開始直後、突進してきた一夏の前に本音が立ちはだかったとき、簪はそのまま二人がぶつかり合うと予想していた。
そうなれば、機体の操作に劣る本音でも捕捉することはできるだろう、と。
しかし一夏は突きの構えのまま衝突の寸前、本音の構えたシールドに沿って
結果、本音は一夏の足止めをすることができず、そしてその一夏はほとんど勢いを緩めることなくこちらに向かってくることになった。
「ァアッ!」
「──っ!」
一夏が大上段に振りかぶった雪片弐型の叩き付けを薙刀の柄で受け止める。
勢いを乗せた一撃を受け、機体がやや後退するも何とか防ぐ。
(オルコットさんと……戦うつもりだったけど……)
上段からの叩き付けを防がれた一夏はそのままの流れで下段からの斬り上げと攻撃を重ねてくるが、それを柄で捌きつつ簪は今のマッチアップを考える。
(オルコットさんも強い……けど、本音が守りに徹すればすぐにはやられない……。その間に織斑くんを倒せばいいだけ……)
セシリアを倒すのに自信がない、とは言わない。
簪と本音が当初考えていた作戦では、簪とセシリア、本音と一夏が戦う予定ではあった。
だが、このマッチアップなら、それはそれで良いと思う自分が確かに簪の中に存在しており、思わず口元が緩んだ。
なぜなら──
「──直接俺を叩ける訳だから、嬉しくもなるよな」
「っ!?」
思考を読まれた動揺から生まれた間隙を縫って一夏が突きを放ち、雪片弐型が身に迫る。
簪はそれを機体を後ろに倒すことによって避けたが、一夏は避けられた突きをそのまま振り下ろすことで追撃につなげる。
「くぅ……!」
簪はそれを薙刀の柄で受けようとしたが、上手くいかずその身で受けることになる。
それでも、装甲で受けきることは成功し、シールドエネルギーの減少は僅かに留めた。
一夏は簪が体勢を整えるよりも早く、距離を保ったまま追撃を行う。
(パターンを変えてきた…という事は別の手があるって事だろ!)
今までの戦いでは、ミサイルは最後の仕上げとして使っていたのを今回は開幕から使ってきた。
最大火力を終盤に持ってきたがる簪と言えど、一般の生徒を相手にしていた時と、代表候補生であるセシリアや、専用機持ちの一夏に対する戦い方を変えてくるのは可能性としては考慮していた。
ただし、一夏達がミサイルを切り札として使っていたと考えていただけで、さらに上の火力を出せる武装を施していて、今までの様に終盤まで伏せて置き使ってくる可能性もあった。
(それが近距離用の武器なのか、遠距離用の武器か知らねえけど、距離は取らせねえ)
元々は、セシリアが本音を倒すまでの時間稼ぎであって、一夏が簪に勝つ必要はない。
とはいえ、薙刀と刀。
リーチの差がある以上、一夏としては受け身に回るより、こうして先手を取り続けなければならない。
(やり……にくい……)
簪としては、薙刀の特性を活かして距離を取りたいところだったが、一夏に密着されることによって、戦い難さを感じていた。
得物の長さも相まって、距離を詰められすぎると十分に薙刀を振るうスペースが無いのだ。
「ッラアァ!」
「──ッ!」
一夏の再び上段からの切り下ろしを薙刀の柄で受け止めるが、押し込まれる。
鍔迫り合いの状態から、ジワリ、と押し込まれるのを耐えながら、ハイパーセンサーで本音の様子を探る。
本音もシールドに閉じこもって守りを固めているが、今までの対戦相手は正面からの攻撃しかしてこなかったのが、セシリアはビットによって文字通りどこからでも攻撃をしてくるのだ。
どうしたってシールドでカバーできない部分は生まれる。そして、その隙をセシリアが見逃すはずもなく、本音のシールドエネルギーは削られていた。
あとどれくらい耐えられるのか本音に通信を飛ばして確認したいところだが、ISに乗り慣れている簪たちとは違い、彼女に返答を返す余裕はないだろう。
(私が織斑くんを……倒さないと……)
いずれにせよ、本音がセシリアを倒すのはほぼ不可能で、簪が一夏を倒すしか勝ち筋はないのだ。
けれど、現実問題、簪の持つ武装では、一夏に決定打は与えられない。
距離を取りたいが、一夏から距離を取ることが中々できないのだ。
舐めていた訳ではない。一対一であればここまで接近を許さず完封できる自負は簪にはある。
だが、こと近接戦闘に持ち込みさえすれば、一夏がここまでの実力を持ち合わせているとは思っていなかったのだ。
「──ッ!」
だからこそ、戦いのステージをリセットするため、簪は自身の背後にミサイルビットを
無論、この距離で一夏を狙えば簪自身も爆発に巻き込まれるが、簪としても本気で撃つつもりはなく、ミサイルを警戒して一夏が引いてくれるのを期待したのだ。
(──ハッタリ!)
だが、一夏はそれを見破る。
四月にセシリアと代表決定戦をした時、セシリアも近距離でミサイルを放っていたが、目に宿す覚悟が違うのが一夏にはよくわかった。
簪の敵意と戦意は本物。だが、何をしてでも、と言うあの時のセシリアの覚悟には遠く及ばない。
「甘い!」
そのまま引くことはなく、一夏の一撃は簪を捉えてシールドエネルギーを減らす。
自身の間合いで戦えばこんなものか、と一夏が少しだけ油断が生まれた瞬間。
(ミサイルのハッチが開いてやがる!)
自分もろとも撃つ予兆はなかったはず。
どうして、と一夏が思った瞬間、ミサイルが放たれる。
「セシリア!」
そして狙いを瞬時に理解する。
ミサイルは一夏を狙った訳ではなく、セシリアに向かって放たれた。
元々は一夏を狙っていたが、引かないのを察知してすぐさま狙いを変えたのだ。
「これで……私の距離……」
「しまっ──」
しまった、と言い切る前にすでに簪に距離を取られてしまった。
一夏は、ミサイルを撃たれた瞬間、気にせずに追撃をすればよかったのだ。
なぜなら、一夏にはミサイルを迎撃する手段はなく、ミサイルの行方を気にしたところで意味がない。
だが、撃たれると思っていなかったミサイルが撃たれた瞬間、一夏に動揺が生まれた。
(クソッ! せっかくのチャンスを!)
思っていた以上に、戦況が有利だったおかげで、一夏に慢心が生まれた。
専用機を持たないとはいえ、相手は代表候補生なのだ。
甘い考えを抱いた自身に憤りを抱いていたが、頭を振って切り替える。
と、そんな一夏に頼もしい声が届いた。
「ギリギリでしたが、間に合いましたわ」
放たれたミサイルを手に持ったライフルで迎撃したセシリアが横に降り立つ。
一夏がハイパーセンサーで探ると、沈黙した本音の機体が映った。
「悪い、仕留めそこなった」
「全くですわ。あそこまで追い詰めたなら仕留め切っていただけるものかと」
「だから悪かったって……つーかお前、戦況見てたのか」
いつものように軽口を叩くが、一夏の内心は冷や汗ものだった。
対してセシリアは本音と戦いながら、一夏と簪の様子も見ており、いざとなればビットで介入する気だった。
が、ここまでは及第点以上の点数をつけてもいいと思っていた。
(あいつも、セシリアも目の前の戦いと同時に、他所にも気を回してたのか)
代表候補生との差を見せつけられ、思った以上に周りが見えていなかった自身に不甲斐なく思うが、今は置いておく。
何はともあれ、当初の作戦通り、ほとんど損害を受けずに簪と一対二の状況を作り出せたのだ。
(私が……私のせいで……)
そして、簪も本音が沈黙したことを確認。
自身の恨みを優先し、作戦を崩したせいで大切な親友を振り回してしまった。
けれど、まだ負けてはいない。本音のためにも、負けるつもりは毛頭なかった。
(これで……決める……)
心中で力強く宣言すると、頭上にミサイルポッドを呼び出す。
その数は、六機八門に及び、今までの試合でここまで発現させたのは簪としても初めてだった。
それを見たセシリアがビットをパージしながら一夏に通信を飛ばす。
『最後の勝負ですわよ!』
『わかってる! ミサイルを撃ってはい終わり、なんてことはねえ』
『ええ。おそらく、ミサイルを撃つと同時に彼女も来ますわ』
一夏にミサイルを迎撃する手段などはないし、それ以前に一夏はセシリアがミサイルを撃ち漏らす心配は一切していなかった。
だからこそ、簪を迎え撃つのが自分の役割だと、一夏は当然の様に理解していた。
『二人で、勝ちますわよ!』
『ああ!』
二人が通信を終えた直後、ミサイルが発射される。
本来は、ミサイルの爆風で視界を奪った間に、本音に一夏を仕留めてもらう予定だったが、本音がいない以上、その役割も簪が行う必要があった。
時間差で発射されているミサイルがセシリアのビットから放たれるレーザーによって迎撃されている中、ハイパーセンサーを頼りに一夏の位置を探り、加速する。
「……ッ!」
「くッ」
爆風を抜けて一夏に斬りかかるも、一夏もある程度予想していたのか、雪片弐型で受け止められる。
薙刀による一撃を受け止められた簪はその後、さらに斬撃を重ねるが一夏に捌かれていく。
時折、一夏の刀を避けてダメージを与えられるが、いずれも装甲で受け止められ決定打にはならない。
(ミサイルの……残量は……)
ミサイルはまだ発射されており、セシリアを釘付けにすることは出来ているが、撃ち尽くした時点で簪はさらに劣勢に立たされる。
それよりも早く一夏を倒し切らないとならない。
そうした焦りに駆られるように薙刀を振りかぶったところで──
「──ッ……!」
背中からの衝撃に顔を歪めた。
なぜ、と思うと同時にハイパーセンサーからの情報で、セシリアの操るビットから狙撃を受けたことを理解した。
(まさか……ミサイルの迎撃をしながら……攻撃を……?)
セシリアはミサイルの迎撃を三基のビットで行い、残った一基で簪への狙撃を行ったのだ。
時間差で撃っているとは言え、それなりの本数のミサイルを放っているのに、迎撃の手を減らす。それは撃ち漏らすリスクも当然生まれるが、セシリアはミサイルの迎撃と簪への攻撃を見事成功させたのだ。
「一夏さん!」
(しま──)
セシリアの声に簪が反応するよりも早く、一夏の機体が加速する。
文字通り、あっという間に眼前に迫った一夏を薙刀で迎撃するが、簡単に押し込まれる。
機体性能の差に加え、
「ここは──俺の距離だ!」
距離が詰められたことによって、簪の持つ薙刀の間合いから、一夏の持つ刀の間合いとなる。
試合序盤の様に、一夏の連撃を簪が薙刀の柄でもって防ぐ。
けれど、序盤とは違うのは──
「わたくしがおりましてよ!」
そう、セシリアの存在だ。
一夏の横振りの一撃を防ぐため、薙刀を立てようと持つ腕を狙撃され、バランスを崩す。
そして、その隙を見逃す一夏ではない。
バランスを崩した簪の身に雪片弐型の刀身が叩き込まれ、シールドエネルギーを大きく減らす。
(……それでも……!)
一夏の一撃を受けた勢いを利用して距離を取ると、突きの体勢を取り一夏に向けて加速。
それをみた一夏も同様に突きの体勢で機体を進める。
(これなら……!)
リーチの差で簪の薙刀の方が先に一夏の身に届く。
そう思った簪だが、一対一なら、そうなっただろう。
だが、これは二対一の戦いであり、文字通りどこからでも攻撃を加えることが出来るセシリアが一夏の相方だったのが、簪の不運だった。
「ッラアアアアアア!」
一夏に身に薙刀の刃がぶつかる直前で、ビットから放たれたレーザーが命中し軌道が逸れる。
顔のほんの数センチ横を通り抜ける刃に一夏は怯むことなく、雪片弐型を突き出す。
それを防ぐ手立ては簪にはすでになく、その刃を敗北と共に受け入れるほかなかった。
と言う訳で、これから不定期更新になりますが再開したいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。