ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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戦いの後

「いやー思ったよりあっけなかったわね」

「ああ。一夏が、と言うよりセシリアが想像以上だな」

 

 観客席で戦いを見守っていた鈴とラウラが各々感想を漏らす。

 ちなみに、ラウラ・シャルル・鈴・箒の並びで試合を観戦していたりする。

 

「そう? 一夏も格上相手によくやったと思うわよ」

 

 ねえ、箒。と鈴が声をかける。

 

「ふん。私と組んでもあれくらいは出来ただろうがな」

 

 と不機嫌そうに返す。

 どうやら、一夏とセシリアの見事な連携を見て、面白くないらしい。

 可愛いわねえ、と声に出さず鈴が思っていると、ラウラが再び口を開く。

 

「更識の調子が悪すぎたからな。変に一夏に固執せずに当初の作戦通り戦えばよかったものを」

 

 ただでさえ機体性能差があるのだから、と続ける。

 鈴も簪がやりにくそうにしていたのはわかったが、まるで作戦を知っている風に話すラウラの言葉が気になった。

 だが、意外にもシャルルも同意見なのか、小さく頷いている。

 

「多分だけど、一夏と布仏さんに戦わせて、その間に自分はオルコットさんと戦う。隙を見て何かしようとしたんだろうね」

 

 殆どが出たとこ勝負の鈴と違い、ラウラとシャルルの二人は事前に作戦を立てるタイプ。その辺、何か感じるところがあるらしい。

 

「ふーん。あたしにはよく判らないけど、二人が言うならそうなんだろうねえ」

 

 一夏が戦っている姿は鈴はそこまで見たことが無い。

 昔の自分なら躍起になって一夏の訓練相手になったかもしれないが、今はラウラとセシリアが面倒を見ているし、セシリアに気を使って邪魔をしないように自身の練習を優先しているのもある。

 だから、クラス対抗戦で肩を並べて戦ったのが数少ない機会だったのだが、その時も思っている以上に動けていたし、ここまでのタッグマッチの戦いぶりを見てもISに乗り始めて数か月とは思えない腕前だ。

 

「ま、あたし達は作戦どうこうってタイプじゃないしどうでも良いんだけどさ」

 

 相性は悪くない、と思って箒と組んだが、思っていた以上に相性がいいのを鈴は感じていた。

 そして、これまた意外だが、ラウラとシャルルの相性も悪くなさそうなのだ。

 とにかく攻撃に攻撃を重ねるタイプのラウラと、周りに合わせるのが上手いシャルルの組み合わせは、ある意味では一夏とセシリアのコンビの上位互換とも言えた。

 あの二人は一夏にセシリアが合わせることはあれど、その逆はないのだが、ラウラとシャルルは互いに合わせることが出来る。これが大きな違いだ。

 それを鈴は理屈ではなく、感覚として感じ取っていた。

 

「いずれにせよ、作戦とかそういったものを放り出して、恨みだけで、相手を痛めつけようと戦いに挑んだ時点で勝敗は見えていたさ」

 

 今度こそ、ラウラの言っている意味が分からず、鈴はシャルルと顔を見合わせる。

 シャルルも理解できないのか、困惑の色が浮かんでいる。

 ただ、箒はラウラの言葉に思うことがあるのか、表情を歪めているが。

 

「さて、私達も次の準備をするかな」

「そうだね」

 

 言いつつ、二人が席を立つ。

 鈴としては一応、といった風に声をかける。

 

「頑張ってねー」

「ああ。ここまで言ってあっけなく負けたらちょっと、な」

 

 一夏に何も言えなくなってしまう、と笑みを漏らすラウラだが、そこに油断や気負いと言った様子は見えない。

 まさに自然体と言った風で、やはりこの中では一番戦いの場に対する心構えが違うのだろう。

 シャルルなんかも「ありがと」と笑みを浮かべて返してきたが、こちらも自然体そのものだ。

 

(色々あったし、ちょっと心配だったけど大丈夫そうかな)

 

 このペアになった時に、一番の懸念はシャルルの精神状態だったが、今のところは問題はなさそうだ。

 とはいえ、どうなるかわからないから気にはしていよう、と鈴は気を引き締める。

 

「あたし達も頑張らないとね」

「うむ。一夏達と戦うまで、絶対に負けるものか」

「箒は気負い過ぎだわ……」

 

 勝負ごとに感情を入れ込み過ぎるのが箒の良いところでもあり、悪いところでもあるのだが、今は悪い方に出てしまっている。 

 まあ、箒がかかりすぎて劣勢になっても、一般生徒相手に負けるつもりは鈴としてはないと思っているが、問題はその先だ。

 

「まあ、優勝したら一夏になんでも言う事聞いてもらえるもんね。そりゃ、気合も入っちゃうよねえ」

 

 からかうように鈴が言うと、箒が顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

「な、なにを言うか! 私は純粋に一夏との勝負を──」

「──はいはい。わかったから、落ち着きなさいな」

「誰のせいで!」

 

 なおも食って掛かる箒を笑いながら流す鈴。

 この様子なら、先ほどよりはよっぽどいい状態で戦いに臨めるだろう。

 

「負けないわよ、一夏」

 

 一夏を見下ろしながら、鈴が小さく呟いた言葉は、歓声の中でも力強く残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「げっ」

「おりむー流石にその反応は酷いとおもうよー」

「いや、悪い。つい」

 

 戦いの後、食堂に来た一夏たちの前に簪と本音がいたので思わず、といった風に一夏は声を上げる。

 本音に咎められ、素直に謝った一夏はバツの悪そうな顔で簪に向き直った。

 

「あーその、なんだ、更識。ちょっと良いか」

「……」

 

 一夏の言葉を聞いても、簪は言葉を返さない。

 むしろ、顔をしかめて話しかけるなオーラを醸し出す程だ。

 それを見かねてか、セシリアと本音が気を利かせて注文をしに行く。

 勿論、簪もついていこうとしたが、本音にやんわりとだがそれでも彼女には珍しく強い口調で「かんちゃんも怒ってばかりじゃなくて、ちゃんと話をするべきだとおもう」と言われ、一夏と一緒にテーブルに着く。

 

「お前が俺の事を嫌っている理由はなんとなくわかったけどさ、今なら作ってもらえるだろ?」

「別に……いい、それでも私は……一人で作るから……」

 

 なら、俺に対する敵意は忘れて欲しい。とはさすがの一夏も言えなかった。

 

「まあ、お前も偉大な姉をもって大変なのはわかるけどさ…」

「なんで……それを……?」

 

 困惑の表情を浮かべた簪をみて、一夏は初めて敵意以外の視線を向けてくれたな、とぼんやりと思った。

 

「そりゃお前、更識なんて苗字を見たらなんとなくわかるだろ? 田中や佐藤なんかじゃないんだから」

 

 俺もそうだしな、と付け加えながら言う一夏だったが、それでも簪は困惑の表情を浮かべたままだった。

 

「この学校に入ってから、俺もISの事調べだして、まあ色んな人の事を調べてな。そうすりゃ国家代表の事だって調べる」

「それで……お姉ちゃんの名前に行きついたの……」

「まあな。日本人でロシアの代表ってのも驚いたし、現役の学生、それもウチの生徒会長ってのも驚いたけど、一番驚いたのは自分でISを作ったって事だな」

「っ!」

 

 ISを作った、その言葉に強く反応した簪を見て、一夏は自分の考えが大きく外れていない事を察した。

 まあ、それでなぜ自分が恨まれているのかは納得できないのだが。

 

「だとしたら俺が怒られる理由なくね? 倉持技研の人が俺に取られたって言っても、お前は元々一人で作り上げるつもりだったんだろ?」

「それは…そうなんだけど…」

 

 簪とてそれは頭では理解しているのだ。

 それでも、一人では完成が見通せない中で、苛立ちが溢れ、そしてそれを一夏に向けているのが八つ当たりだという事は。

 

「お前、お姉さんが自分でISを作ったからって自分も同じ様にできるんだって、そんな考えで作ってるのか?」

「──っ! それの……何が悪いの!?」

 

 簪の激高も、一夏を肩をすくめるだけだった。

 

「別に悪いとは言ってねえよ。ただ、それでISを作れちゃったらその先はどうするのかなって思っただけで」

「その、先…?」

 

 その先、そう言われても簪の頭の中には「ISを作る」その事しかなかった。

 勢いがそがれた簪を見て、一夏が口を開く。

 

「ISを作れたら次は何を真似するんだ? 生徒会長になるのか? 国家代表になるのか? その次はどうするんだ?」

 

 一夏の言葉に簪は返さない。

 それでも一夏は気にした風もなく言葉を重ねる。

 

「お姉さんのやったことをそのままなぞってく人生を選ぶのは別にいいよ、お前の人生だしな。でも、お前とお姉さんは違う人間なんだから、必ず同じようにはいかないだろ。その時、お前の中には『お姉ちゃんと私は違うんだ』っていうハナからわかりきってた答えしか残らないんだぞ」

 

 簪がうつむく。

 薄々、自分でも気づいていたのかもしれない。

 

「俺から見れば、分かりやすいモンだけどな」

 

 そう、一夏から見れば手っ取り早く証明する方法はあると思っていた。

 

「お姉さんがロシアの国家代表なら話が早えだろ。お前が日本の国家代表になって、倒してお姉さんを超えたって胸を張ればいい」

 

 簡単だろ、とあっけらかんと言い放つ一夏に簪は少しポカンとした表情を浮かべると、頬を緩めた。

 

「織斑くんも……そうやって……お姉さんを超えようと……してるの?」

 

 その声音には、今までの様な敵意はまるで感じられなかった。

 それを聞いた一夏も頬を緩めて、手をひらひらと振りながら口を開く。

 

「俺があの人を超えようと思ったら、優勝するしかねえよな。それも何回もしねえとダメだ」

「それは……大変だね……」

「お前、他人事のように言ってるけど、俺が今の国籍で出ようと思ったら出場権を争うことになるってわかってんのか?」

 

 一夏は厳密には日本の代表候補生ではない。

 この先、一夏の所属がどうなるかわからないが、今のままなら日本に所属することになるのが自然だ。

 

「だからお前もさっさとISを作ってもらえよ。これから先、俺が勝っても『専用機じゃないし~』みたいな言い訳をされても嫌だからな」

「うん……わかってる。けど……夏休みまでは……一人で頑張ってみたい」

 

 まだこだわってんのか、とも一夏は思ったが、今までの様な負のオーラは感じない。

 何より自分に対する敵意が無くなっているのが一番の違いだ。

 それはそうと、今なら聞けるかもしれないと一夏は話題を変えることにした。

 

「話は変わるんだが、俺らとの戦いの事で聞きたい事があってさ、お前らが今までのパターンを変えてきたのはわかったんだけど、勝負手はミサイルの量を増やしただけだったのか?」

 

 本音をセシリアが落とし、簪から見て1対2になった時に今まで以上のミサイルでもって簪は対応しようとした。

 マルチロックオンが出来ず、バラまくだけとはいえ脅威になるが、セシリアの前ではほとんど意味をなさなかった。

 初顔合わせならともかく、ある程度セシリアの実力を測れる中で、数を増やしただけでは有効打になり得ないのは事前に分かりそうなものだったからだ。

 実際、開幕の攻撃でもほとんど労せずに撃ち落されており、数を増やしても意味がない事はわかっただろうと一夏は思った。

 だからこそ、どういった手を考えていたのか気になったのだ。

 

「それ……自分が負かした相手に聞く……?」

 

 簪の疑問はもっともだし、今までの敵意満点の状態だったら一夏は聞いていなかった。

 

「いや、悪いとは思うんだけど、どうにも勝った気がしなくてな」

 

 だが、今の簪の纏う雰囲気なら教えてくれそうだと思ったのだ。

 手を合わせて「教えてくれないか?」と一夏がもう一度問いかけると、小さく息を吐いて簪が口を開く。

 

「織斑くんたちが思っていた様に……ミサイルを増やすだけじゃなくて……オルコットさんが迎撃している間に......本音に織斑くんを仕留めてもらうつもりだった……」

「なるほどな。俺の装備じゃどっちみち迎撃できないうえに、ミサイルの量を増やせばセシリアもライフルじゃ手が足りないから、ビットを使って迎撃する。その間は俺の援護には動けない訳で、その隙に本音が俺を狙うと」

 

 普通なら、代表候補生同士のマッチアップになる。そうなると、必然的に本音と一夏が戦うことになり、セシリアはミサイルの迎撃で動けない。機体の操作に難があっても、一夏の装備的にそもそもが近接戦になるから近づく必要はない。

 だが、この戦術では一夏を落とし切るのは難しい。

 

「けど、本音にそんな一撃で決められるような武器があったか? いや、あったとしても、両手にシールドを持ってる時点で新しく武器を具現化(コール)するのもしんどいだろ」

 

 初心者なのだからなおさらだろう。

 前に、近接武器の呼び出しはセシリアも時間がかかると言っていたのを一夏は思い出す。

 乗りなれているセシリアでさえそれだ。ほとんどISを動かしたことがない本音にとっては容易ではない筈だ。

 そう思っての一夏の疑問だったが、簪は首を小さく横に振って否定する。

 

「本音は……武器は最初から……持っていた……」

「持っていたってお前……いや、まさかシールドに」

「そう……本音が持っていたのは……ただのシールドじゃない……」

 

 なるほど、と一夏がつぶやく。

 確か、灰色の鱗殻(グレー・スケール)だったか。

 第二世代最強の攻撃力を誇るパイルバンカー。そしてそれはシールドに内装されているはずだ。

 

「一、二回戦はブラフ。ミサイルで仕留める動きを俺達に意識させておいて、本音が本命と言う訳だ」

「本音はずっと……シールドで身を守ってるわけだから……そこに武器があるとは思えないから……」

 

 本音が何かを隠している可能性は持っていたが、まさかシールドの中にあるとは思っていなかった。

 そういう意味では、一夏が当初提案していた様に、一夏と本音のマッチアップで戦っていたら、二人が用意していた作戦が成功し、勝敗は逆になっていたかもしれない。

 結果的には、簪を一夏が抑え込めていたおかげで、セシリアは本音を倒すことが出来、二人掛りで戦えたからこそ優位に進めたが、思っていた以上に薄氷の勝利だったのだと一夏は自覚した。

 

「今度は……負けないから……」

 

 簪の瞳には相変わらず、戦いの意思を宿している。

 ただ、それは恨みと言った歪んだ類のものではなかった。

 

「それに……ごめんなさい……」

「まあ、もう気にしてねえよ」

「それと……トーナメント……頑張って……」

「ああ、お前も、IS作り頑張れよ」

 

 言葉を交わして、商品の受取口を眺めると、そこには本音が心配そうにこちらを眺めているのが見えた。

 どうやら、注文した物が出てきたが、こちらに来ていいのか悩んでいるらしい。

 元々険悪だったところに長々と話していたからか、心配するのも当然か、と一夏と簪は苦笑いを交わした。

 

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