ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
「かんちゃんみてみて~パフェ持ってきたよ~」
相変わらず、サイズの合っていないだぼだぼの制服を着ながら、けれどもそれを感じさせずに器用にトレイを持った本音がこちらに近づいてくる。
えへへ、とふらふら歩いてくるのを簪はどこか心配そうに見ており、それは横を歩くセシリアも同様だ。
こちらは落とした時のフォローもあるからか、少し緊張の色も見えているが。
「良いから……気を付けて持ってきて……」
あと、みんなの前でかんちゃん呼びは止めて、と抗議の声も忘れずに付け加える。
もっとも、本音が素直にそれを受け止めるとは思ってはいないし、本音としても聞き入れるつもりはないのだが。
「……すごい量だが、まさか一人で食べるつもりか?」
「んーん! みんなで食べようと思って~」
無事にたどり着いたパフェをテーブルに乗せると、視線の高さほどの威容を誇る
これを一人で食べるのは大変だろう。……その後のカロリー消費的な意味でも。
だが、本音はここにいるメンバーで分け合うつもりのようだ。
あまり、甘いものが得意ではない一夏は、自分が戦力にならないと思いつつ、せっかくの機会だと口を開く。
「コーヒーでも持ってくるか?」
疑問形で聞きながらも、持ってくる気満々なのだろう、半ば腰を浮かしながら一夏が問いかける。
「……ごめん……今は良いかな……」
「苦いのきらい~」
「むう……」
二人にべもなく断られると、一夏は少しだけ不満げな声を漏らす。
まあ、コーヒー、それもブラックを好んで飲む人はこの年頃の少女では少数派のはずで、この反応も仕方がないとも思うのだが。
「あら、わたくしはいただきたいと思っておりましたのに」
拗ねたように、小さく頬を膨らませたセシリアに一夏は苦笑を漏らす。
「お前は昼飯の時にも飲んでたろ。コーヒーの飲み過ぎは良くないんだぞ」
「あなただけには言われたくありませんわね」
一夏の淹れるコーヒーは好きだが、セシリアは元々紅茶派だ。
それに対して一夏は文字通り、朝から今に至るまで飲んでいるはず。
「俺は良いんだよ。……それに、コーヒーを飲み過ぎると美容にも良くないし、止めといた方が無難だぞ?」
「そうなの……?」
「ああ、コーヒーは利尿作用が強いからな。飲み過ぎると乾燥が進むんだよ」
「なら、夕食後のお楽しみにしておきますわね」
厳密には、コーヒーが原因ではなく、カフェインによる利尿作用が影響するので、ノンカフェインのコーヒーなら問題はない。
ノンカフェインのコーヒーもあるので、一夏も過去に試してみたが好みではなく、あまり手を出さないでいた。
あるいは、豆の量を減らして抽出する手もあったが、ブレンドが趣味のこの男がするはずもなかった。
と言う訳で、結局、本音はオレンジジュース。簪は抹茶オレ。そしてセシリアは紅茶を用意しパフェをつつく。
一夏はパフェを食べるつもりはなく、持参していたコーヒーをグラスに注ぎ、飲み始めていた。
「一夏さん、そのグラスのままでよろしいので、一口いただけます?」
「ん? まあいいけど……いいのか?」
「ええ、構いませんわ」
言外に、間接キスになるけど、と聞くもセシリアは気にした様子はない。
……いや、よく見ると頬が少し染まっている。自分から言っておきながら、気恥ずかしいのだろうか。
「ほらよ。こっち側は口を付けてないから、気にするようなら違うところから飲めばいい」
「あら、お気遣い感謝しますわ」
また、変な事をするのでは、と一夏は警戒したが、セシリアは一夏が口をつけてない場所に口を付ける。
どうやら、本当にコーヒーを飲みたかっただけなのかもしれない。
「ありがとうございます。……あ、一夏さんがどうしても間接キスをしたいのであればどうぞ」
わざわざ、自分が口を付けた側をこちらに向けて渡すあたり、良い性格をしてやがる、と一夏は内心で呟く。
一瞬、そのまま飲んでやろうかとも思ったが、二人の前ということで止めておくことにした。
「はいはい、お気遣いどうも」
先ほどの意趣返しの様に言葉を返し、グラスの向きを変えて口をつけると、セシリアが「むう」と少しだけ口をとがらせる。
と、そのやり取りが気になったのか、簪が口を挟む。
「二人って……付き合ってるん……だよね……? なんで気にするの……?」
「ムグッ!?」
一夏からすれば思ってもみない簪の一言に、思わずむせかえる。
前に、セシリアからの奇襲を受けて、コーヒーが鼻から逆流した悲劇の二の舞になるところを今度は何とか堪えた。
「ちょっと待て、その噂は四組にまで広がってやがるのか!?」
一組内ならまだしも、まさかクラスを跨って広がっているとは予想外だった。
立ち上がって抗議する一夏とは対照的に、セシリアは悪戯を成功させた子供の様な笑みを浮かべる。
「悪評ではないのですから良いことですわ」
「俺とお前はまだ付き合ってないよな! なにシレっと受け入れてやがるんだよ!」
「わたくしは最初からこのスタンスでしてよ」
「ああそうだったな畜生!」
手の甲を口元にもってきて「何をいまさら」と笑うセシリアに一夏は頭が痛くなるのを自覚し、椅子に崩れ落ちた。
噂をかき消そうとしているのは自分だけか、と。
「
「時間の問題……」
本音と簪の指摘に、一夏は机に顔を伏せた。
明らかな失言であり、それでまたセシリアが調子に乗るのが容易に予想できたからだ。
「まったく、素直に認めればよろしいのに」
「……うるさいな。おとなしく待ってろよ」
バツが悪そうに顔を上げると、そのまま誤魔化すように、一夏はパフェに手を伸ば──
「──あらぁ? これも間接キスになりますわね」
──そうとしたところで手を引っ込める。
どうにも、調子を乱されて仕方がない。
半ば強引に話題を変えるために、わざとらしく咳ばらいをする。
「俺らの次の試合は何時ころだっけ?」
明らかに不自然な話題の転換で、セシリアとしては先ほどのやり取りをほじくり返したいところだったが、トーナメントの方も大事な話ではあるのでそのまま乗ることにした。
「よほど試合が押さない限りはですが、一時間ほど後ですわね」
「そうか。じゃあもうちょいしたら準備しますかね」
対戦相手は一般の生徒。
負けるつもりはなくとも、ここまで勝ち上がってきた時点で油断するつもりは一夏にはなかった。
「本音……?」
一夏が次の試合、と話題を変えた時、本音の肩が震えたのを簪は気付いていた。
隣に視線をやると、俯き涙をこぼす親友の姿が目に映る。
「かんちゃんごめんね……わた…わたしがもっと……」
ここまで気丈にふるまってきた。
それでも、一夏が「次」と言う言葉にした瞬間に、本音の目から堪えていたものが溢れだす。
もう少しだけ、自分が粘っていれば勝てたかもしれない。
そんな思いが本音の中にずっと燻っていたのだ。
「ううん……本音のせいじゃないから……」
それを、簪は本音を抱きしめることで否定する。
戦いの場に、余計な感情を持ち込んだのは自分なのだ。
だから、この敗戦は自分がもたらしたものだと、簪はよくわかっていた。
(何を言えば……)
泣きじゃくる本音、そしてそれを慰める簪を見つめながら、一夏も何か言わねば、と思う。
だが、自分たちが負かした相手に何と声をかければいいのか、そうした経験がほとんどない一夏にはかける言葉が見つからないでいた。
「わたくしたちが、彼女にかけられる言葉はありませんわ」
「セシリア……」
「お二人に限らず、誰かを引きずり落して登っていくほかありません」
だから、と続ける。
「思いを背負うつもりはありません。が、わたくしたちにできるのは、そうした人達の為にも、ただただ
「……ああ」
絞り出すように一夏が声を漏らす。
小学生のころにも、剣道の大会に出場し、相手を倒すことはあった。
だが、ここは文字通り人生を懸けた人間の集まりだ。重みが違うのはわかっている。
「織斑くん……オルコットさん……」
本音を抱きしめたままの体勢で簪が声をかける。
声音に込められた想いを感じ取り、一夏が居住まいを正す。
「私たちが強かったと……証明できるのは二人だけだから……」
頑張って、と続けた簪の想いを一夏も強く頷くことで返す。
先ほども頑張って。と声をかけられたが、そこに込められる想いの強さは雲泥の差だった。
「負けられませんわね」
「ああ」
ハナから、負けるつもりはない。
それは相応の立場があるセシリアの為、と言うところからくるモノだ。
だが、こうして託されたように、自分たちが負かした相手の想いも背負う。
これで無様な試合など、できるはずもない。
託された想いがこぼれない様に、一夏は強くこぶしを握り締めた。
投稿を再開してから、気付けばかんちゃんとやり取りする方が多かったので、久しぶりに一夏とセシリアの掛け合いを多めに…と思いましたが、キリよく書いたら短めになりましたがご容赦いただければと