ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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一日の終わり

 その後、大きなトラブルはなく試合は順調に消化されていった。

 ラウラ・シャルルペアは圧倒的な実力でもって準決勝まで勝ち上がり、鈴と箒ペアも準決勝の舞台まで無事にたどり着いた。

 そして、一夏・セシリアのペアも、尻上がりに調子を上げた一夏と、セシリアの連携でもって危なげなく駒を進めた。

 

「どうせなら、この勢いで()りたかったけどな」

「元々、準決勝と決勝は二日目に予定されてるんだからしょうがないでしょ」

 

 どうせなら残ったメンツでご飯でも、とこの六人は食堂に集まっている。

 シャルルは当然のごとく嫌がったが、例によって男性操縦者同士であまりつるまないのも、と言うところで仕方なしに座っていた。

 思えば、このメンツでテーブルを囲むのは初めてか、と一夏はぼんやりと思った。

 中々どうして、各々頼むメニューも個性的だな、と一夏は思う。

 セシリア・シャルルの欧州組はパスタを。

 鈴は酢豚定食を。

 そして、箒は焼き魚定食とそれぞれの母国にちなんだメニューを頼んでいる。

 ちなみに一夏も日本人だが、コーヒーに合うメニューを、と言うことでビーフシチューを注文していた。

 そして、もう一人祖国に関係ないメニューを頼んでいるのが──

 

「相変わらずラウラは箸の使い方が上手いよな」

「そうか? 私から見れば、箒の方がよほど美しいと思うが」

 

 そう、ラウラも箒と同様に焼き魚定食を注文していた。

 そしてこれまた箒と同じように、箸を使って器用に食べているのだ。

 

「いや、私は昔から使っているからな。外国の生まれでここまで使いこなすのは見事なものだ」

「ほんとねぇ。そういえばシャルルなんかも箸使うの上手じゃなかった?」

「え!? いや、僕なんて……。オルコットさんは?」

「わたくしはほとんど使ったことありませんわね。皆さん、よくその二つの細い棒で食事を摘まめるものだと感心しますわ」

 

 何度か挑戦してみたが、上手く使えずに挫折しているほどだ。

 そういえば、一夏も和食を食べているところはほとんど見ないがどうなのだろうか。

 

「一夏さんはあまり箸を使わないですわね」

「ん? まあ、コーヒーに合わせるとなったら基本は洋食の方が合うしな。でも、箸の使い方はそれなりだと思うぞ」

「まあ、一夏は千冬さんに厳しく教えられていたからな」

 

 箒の言葉に、セシリアもなるほどと納得する。

 確かに、そういった躾の部分は厳しそうだ。

 

「そういった意味では、私も同じだぞ」

「そうなの?」

 

 ラウラの言葉に鈴が意外そうに返す。

 

「ドイツで教官をされていた時に、日本食のレストランを案内した事があってな。その縁で教わった事がある」

「そいつは知らなかったな」

「教官は食にはあまり興味はない方だが、やはり祖国の料理は恋しいだろうと思ってな」

 

 その口振りから、日本食レストランに誘ったのはラウラだったのだろう。

 思えば、色々と世話になっていたが、その辺りのお礼を言えていなかったことを思い出す。

 

「千冬姉のために色々してくれてたんだな。ありがとう」

「なに。教官は私にとっての恩人だからな。それくらい当然さ」

 

 ああでも、とラウラが苦笑を漏らす。

 

「毎週の様に、部屋に呼び出すのは勘弁して欲しかったがな」

「ああ……」

 

 それは大変だったな、と一夏が同情する。

 シャルルは首をかしげるが、それ以外の面々は彼女の普段の部屋の惨状を知っているだけに素直に受け入れられた。

 

「まあでも、ああいった一面をみて、あの方も普通の人なんだな、と知れたから良かったかもしれないが」

 

 あの当時の自分に思いをはせれば、ともすれば神格化しかねないほどに彼女を信奉していた自分がいた。

 千冬が一夏と電話している時に、乱入して罵詈雑言を浴びせたのはラウラにとって相当な黒歴史である。

 

 あるいは、そういった姿勢を危惧した千冬が、あえて自分を部屋に呼んで人間らしさを見せてくれたのかもしれない。と、半ば本気で思うくらいにはラウラは千冬と言う存在をいまだに尊敬しているが。

 

「そうなると、その間は一夏は日本で一人で暮らしていたのか?」

 

 千冬がドイツで教官をしていたのは箒も知っていたが、てっきり一夏も付いて行っているとばかり箒は思っていた、

 だが、そうなると鈴と同じ学校に通っていたのに違和感を覚えた。

 あの人が一夏を置いていくとは思えないが、何か事情があったのだろうとは思うが、中学生にして一人暮らしとはさぞ大変だっただろう、と思う。

 生活面もそうだが、何より身内が近くにいない心細さという面で、箒自身も保護プログラムにより身内と引き離されているだけにそう思わずにはいられなかった。

 

「ん? まあな。基本は一人で家の事はしてたけど、鈴の実家で飯を貰ったり、弾の家で食わしてもらってたが」

 

 ほら、ゴールデンウイークで会った奴。と一夏が補足する。

 あとは喫茶店で非常にお世話になった。生活費的な意味でも、趣味的な意味でも。

 と、先ほどまで同情するような表情を浮かべていた箒が不機嫌になっているのに気付く。

 なぜ? と一夏が思うより早く、鈴がカラカラと笑いながら口を開く。

 

「あたしんちも弾のところが定食屋だったように、中華料理屋をやってたのよ。だから客みたいなモンよ」

 

 とは言いつつ、あの時は一夏の事が好きだったので、チャンスがあれば家に上げたりしていたのだが、ややこしくなるから言うのはやめておこう、と思った。もちろん、一夏がいない時はそれをネタにからかうつもりだが。

 

「そういや、親父さんやおふくろさんは元気か? まあ、あの二人の事だから相変わらずなんだろうけど」

「あー……うん。母さんは元気だよ」

「なんだよ母さん()って」

 

 親父さんは無視か、と一夏が笑い飛ばそうとしたところで、鈴の表情が暗い物になっている事に気付く。

 

「離婚しちゃったから、父さんが今何をしてるかは知らないんだよね……」

「マジか……」

「あたしが国に帰ることになったのもそのせいだったし」

 

 転校する直前、思い返せば鈴はひどく不安定な状態だったな、と一夏は思い出す。

 何かを隠すようにふるまっていたが、まさかそんな事情があったとは思わなかったのだ。

 思わず、「あの二人がどうして」と言いそうになるのを飲み込む。

 そんなことは鈴が一番知りたいだろうし、仮に知っていたとしても言うつもりはないだろう。

 

「家族って難しいよね……」

 

 一夏は両親を知らない。

 だから、鈴のその言葉の意味を真に理解することはできない。

 

「すまん。嫌な事を聞いちゃったな……」

 

 ゆえに、この話題を出してしまったことを素直に謝ることしかできなかった。

 知らなかったから、と開き直れる様な人間ではなかった。

 

「ううん。どこかで言わなきゃとは思ってたけど……言えずにいたあたしも悪いんだし」

 

 その言葉に嘘はなく、鈴としても早いうちに言わなければ、とは思っていた。

 だが、明るい話題でもないので、ここまで言い出せずにいた。

 

 と、場の空気がすっかり沈んでしまっていることに気付いた鈴はあえて声を張り上げる。

 

「まあ、あの人の事だから元気にやってると思うわよ。それに二度と会えないって訳でもないんだし」

 

 一夏の両親は蒸発し、セシリアの両親は他界している。

 箒の家族は健在だが、これからも気軽に会える存在ではない。

 シャルルに関しては、母を亡くしているし、父親とも普通の親子の関係ではないのだ。

 そして、ラウラも以前、生まれながらに兵士だったと言っていた。

 詳しくは知らないが、発展途上故国ではなく、先進国で少年兵として育てられているのだ。両親がマトモならそうはならないだろう。

 だからか、自分は恵まれている方だ、と鈴は本気で思っていた。

 けれど、その思いは皆には伝わらず、相変わらず重苦しい空気が流れるままだ。

 

「──ここは通夜か葬式でもしているのか?」

 

 呆れ交じりの声の方に視線をやると、そこにはポッドを手に持った千冬が立っていた。

 

「ちょっと暗い話をしてたので。──何かありました?」

 

代表して一夏が返答するが、彼の目には少し警戒心が浮かんでいた。

 寮長として千冬が食堂に顔を出すのは珍しくないが、こうして声をかけてくる機会は滅多にない。

 故に厄介ごとか、と一夏は思ったわけだが、千冬はふっと頬を緩めてポッドを掲げる。

 

「なに、コーヒーが切れてな。補充に来ただけさ」

 

 今日は徹夜だからな。と千冬が続ける。

 トーナメントは外部の人間を来賓として招いての開催になる。日中は警備の関係を仕事をしているが、それだけが仕事な訳はなく、普段日中にこなしている仕事をこの後に捌くのだろう。

 仕事と言えばそれまでだが、一夏としては無理をしていないか少しだけ心配してしまう。……先ほどまで、家族の話をしていただけに、普段よりも強く思うようになっていた。

 

「織斑先生ブレンドなら部屋に戻ればすぐに用意できますけど、徹夜は良くないですよ?」

「織斑。お前に徹夜を咎る資格があるとでも?」

 

 なあオルコット。と千冬が続けると、セシリアも「まったくですわ」と便乗する。

 どうやら藪をつついてしまったと、苦笑いを浮かべ誤魔化すように、席を立つ。

 一夏がトレイを返して戻ってくると、千冬が先立って歩き出す。

 数歩進んだところで「ああ、そういえば」と歩みを止めて振り返る。

 

「ボーデヴィッヒとデュノアに明日の試合の事で伝えることがある。……ここで話しても良いんだが、如何せん多忙の身でな。歩きながらでも良いか?」

「問題ありません」

「だ、大丈夫です」

 

 慌ててトレイを返そうとするシャルルに対して「こっちでやっとくから」と鈴がトレイを手で押さえる。

 

「ラウラさんも。こちらでやっときますわ」

「すまない。任せた」

 

軽く身支度を整えると、ラウラが一夏の隣に立つ。そして、その一歩後ろにシャルルが追いついたのを確認して、千冬は今度こそ振り返ることなく食堂を後にした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「あの、織斑先生。試合の事で僕らに伝える事とは?」

 

 食堂を出てしばらく、無言で歩く千冬の背中にシャルルが投げかける。

 一向に口を開こうとしない千冬に対して、一夏や、ラウラが何も言わないから、シャルルが声をかけたのだ。

 

「悪いが、試合の事、と言って呼び出したのは方便だ」

 

 悪い、と言いつつ悪びれた様子はなく、千冬は声を落として続ける。

 

「お前の身柄の話だ。織斑とお前の部屋で話すとしよう」

 

(やっぱそれか)

 

 歩き始めて何も言わなかった時点で、なんとなく一夏は察していた。

 あの場で言わなかったのは、シャルルの本当の性別を知らない箒がいたからか。

 

「織斑先生。私も同席してもよろしいのですか?」

 

 ラウラがシャルルの男装を知っている事は一夏の口から千冬に伝えているから千冬も知っている。

 ただ、それだったらセシリアや鈴も同席させるべきで、あえてラウラを呼んだ理由がわからなかった。

 せいぜい、今大会でペアを組んでいる。程度の関係性だ。

 ゆえに、ラウラも同席してよいかを確認したのだろう。

 

「ああ。織斑だけじゃなく、ボーデヴィッヒにも要件はあるから同席しろ」

「了解しました」

 

 凰とオルコットには折を見て事情を説明しておけ、と千冬が続けている内に、一夏とシャルルの部屋に到着した。

 

 部屋に入ると、千冬に言われ、シャルルは普段自分が使っているベッドに腰をおろす。

 一夏は自分のベッドに座り、その横にラウラは椅子を持ち出して座った。

 そして千冬は、立ったまま左側にシャルル。そして右側に一夏とラウラを見据えて腕を組んだまま立つ。

 

「シャルル・デュノア……いや、シャルロット・デュノアとこの場では言うべきか」

 

 シャルルの肩が震え、俯く。

 やはりこの話か、と思うと同時に、彼女の本名を初めて知ったな、と一夏はなんとなく思った。

 

「お前が性別を偽ってこの学園に入学をした事が、今日デュノア社に確認をし、判明した」

 

 この言葉に、「うん?」と一夏が心の中で首を捻る。

 前に話した時は、千冬は最初から知っていたはずだが、と。

 

(いや、今日、確認をして判明した事にするのか)

 

 もとから、シャルルの罪を軽くするために、本人にすら知らせていないのだ。

 ゆえに千冬も今日まで学園側もその事を知らなかったとして話を進めるつもりか、と一夏は理解した。

 

「すでに、入学してしまった以上、退学をさせることも可能ではあるが、あいにくと『性別を偽って入学した場合』の罰則が本校にはなくてな」

 

 千冬の言葉に、一夏とラウラが苦笑いを浮かべる。

 それは詭弁と言うのもだろう。

 シャルルに対して行った検査はあらゆる思惑が重なり杜撰なものだったが、本来は女性が男性と偽って入学するハードルは高い。

 ゆえに、男性と偽って入学した際の罰則など用意するはずもない。

 そもそもが、男性がISを動かすことなど想定すらしておらず、規定もある種女性が入学する前提で書かれているからだ。

 

「事情を知ったフランス本国や、その他の国はお前の退学・身柄の引き渡しを求めるだろうが……学園側はそれを受け入れるつもりはない」

 

 身柄の引き渡し、と言われた時にシャルルからあきらめたような雰囲気を感じるが、「受け入れるつもりはない」と続いたことで、顔を上げた。

 受け入れない、と言うが、ではどうするのだろうか、と一夏が思うより早く、千冬が言葉を重ねる。

 

「織斑、特記事項二十一項を読み上げろ」

「本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする……でしたか」

「うむ。一言一句正確に覚えているようだな」

 

 普段の勉強に感謝しつつ、これをどう使うつもりだろうかと一夏は束の間考える。

 

「ボーデヴィッヒ。学園側がなぜこれを利用し、デュノアの身柄に関する要求を受け入れないかわかるか?」

「はい」

 

 千冬が今度はラウラに問いかけると、彼女は少しだけ思案し、淀みなく言葉を紡ぐ。

 

「フランス、あるいは各国の要求を受け入れ、デュノアを退学処分・あるいは身柄を引き渡すことになった場合、特記事項に例外が生じる事になります。

 前例を作ってしまう以上、あらゆる口実でもって特記事項を有名無実化されてしまう可能性が生まれ、学園としてはそれを認めたくないのでしょう」

 

 千冬にとってこれは満足のいく内容だったのだろう。

 教え子の成長が誇らしいのか、小さく笑みを浮かべて「そうだ」と答える。

 

「この学園がある種独立して存在しているのは、特記事項が機能しているからだ。ゆえに、どんな内容であれ、要求を受け入れる訳にはいかない」

 

 ただし、と続ける。

 

「学園内で、問題行動があった場合は別だ。デュノア社からどんな命令を受けているか、こちらは把握している。問題は、それを実行したか、だ」

 

 織斑、どうだ。と聞かれ一夏は口を開く。

 

「いえ、何もされてませんし、してませんよ。……むしろ、俺は距離を取られていたくらいです」

 

 前半は少しばかり嘘を混ぜたが、後半はま本当の事だ。

 どこかで、嘘は本当の話に混ぜると良い、と言う話があったが、これなら信ぴょう性が高い証言になるだろう。

 それに距離を取られていたのは、普段を知るクラスメート達も証明してくれるだろう。

 

「ふむ。第三世代機のデータを盗むことについては、ペアを組んで機体を並べていたボーデヴィッヒの目から見てどうだ?」

「はい。一夏の白式についてはわかりませんが、少なくとも私のレーゲンに対しては怪しい動きはしていませんでした」

 

 ラウラも嘘は言っていないだろう。

 千冬に対して嘘をつくとは考えられないし、一夏自身もシャルルが怪しい動きをしている風には見えなかった。

 もしかしたら、ラウラはこうなる事を予想して、ペアを組む際に立候補したのだろうか。

 

「お前たちの証言と、また学園側で確認できる範囲では、デュノアがデュノア社に対して何かを送った形跡はない。この後、専用機を預からさせてもらい調べるが、通信の形跡が何も出てこなければ、シロと判断してよいだろう」

 

 確か、鈴が聞き出した限りでは、デュノア社はシャルルに対して「連絡をしてくるな」と命令をしていたと聞いている。良くも悪くも言いなりだった彼女の事だ。愚直に命令を守って通信などしていないだろう。

 つまり、今の時点ではシャルルは何も問題を起こしていない、善良な生徒として守ることが出来るという事だ。

 

「特記事項がある以上、外部からの干渉は受け入れない。どうしたいかはデュノア、お前が決めろ。……一応言っておくが、お前の意思で学園を辞める判断をする場合は止めようがないからな」

「わ、分かりました」

「この学園のルールを守る限りは、お前は誰がなんと言おうとIS学園の生徒だ」

 

 続けて千冬が言葉を重ねる。

 その口調は一見冷たいが、普段を知るものからすれば幾分に優しさを含んでいるのが十分にわかった。

 

「そして私は、この学園の警備を司る責任者だ。お前がこの学園にいたいと思うのなら、私がお前を守ると約束しよう」

「あり……がとうございます」

 

 涙をこぼしながらなんとか、と言った風に言葉を絞り出したシャルルに一つ頷くと、一夏とラウラに向き直る。

 

「さて、一夏にラウラ。──ちょっといいか」

 

 声音に込められた冷たさに、一夏とラウラがまったく同じようにビシッと動きを止める。

 まるで姉弟のようだな、と千冬はなんとなく思ったが、それをおくびにも出さない。

 

「随分とまあ、デュノアに酷く当たっていたようだが?」

「な、なんでそれを……」

 

 どんな対応をしたかを一夏は千冬に伝えておらず、それはラウラも同様だろう。

 なのに、どんな風に当たっていたのか、なぜわかったのだと狼狽える一夏とは対照的に、ラウラはある程度覚悟していたのか、身じろぎすることなく、気を付けの姿勢を取っていた。

 そんな二人を半眼で納めながら、「ふん」と千冬は鼻を鳴らす。

 

「馬鹿者。普段の様子を見れば簡単にわかるさ。──あまり私を舐めるなよ?」

「申し訳ありません」

「ご、ごめん」

 

 ピッと腰を折り頭を下げるラウラ。

 それに遅れるように一夏も頭を下げる。

 そんな二人に対し、千冬はまたもつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

「謝る相手が違うだろう、馬鹿者共が」

 

 言われるがままに、一夏とラウラはシャルルに向き直る。

 

「その、あれだ。色々と悪かったな……」

「わ、私も、悪かったと、お、思っている」

 

 互いにバツが悪そうに、口を開くがなおも面白くなさそうに千冬が口を開く。

 

「──二人とも、それは謝罪の言葉になるのか?」

 

 声音に不穏なものを感じ取った二人は、勢いよく頭を倒す。

 

「ごめん。厳しいことを言って、冷たくし過ぎた」

「私も、きつく当たり過ぎた。申し訳ない」

 

 謝罪の言葉を言った二人にシャルルが言葉を見つけて返すよりも早く、千冬のげんこつが落とされた。

 

「「──っぅ!?」」

 

 頭を抱え、声にならない悲鳴を上げている二人を一瞥した千冬は、シャルルに対して居住まいを正す。

 

「教師としてみたら、お前にも非があったことは否定できず、二人のやった事もやり過ぎの面ははあるが、理解できる所がある。というのは前提としてわかって欲しい」

「あ、はい、それはもちろん……」

 

 そもそも、シャルルも頭では一夏もラウラも自分にやった行いが仕方がない物とはわかっている。

 ただ、感情として受け入れられていなかっただけで。

 

「だが、お前自身も不安定なところに、二人が追い込んできたのは辛かったと思う」

 

 ここで言葉を切ると、千冬も先ほどの二人が下げた頭よりもさらに深く、頭を下げた。

 

「弟達が申し訳ない事をした。──どうか許して欲しい」

「きょ、教官!」

 

 シャルルが面食らっていると、それ以上に取り乱したラウラが千冬に声をかけるが、千冬は何も返さない。

 そして一夏を見てみれば、何かを思い出すかのように顔を歪め、手を強く握りしめていた。

 

「あ、頭を上げてください! 織斑先生が謝るような事じゃありません!」

 

 先ほど溢れた涙も、いつの間にか止まっていた。

 あの、織斑千冬が自分に向けて頭を下げ、許しを乞うているのだ。あわてるな、と言う方が無茶な状況だった。

 

「簡単に許す、と言うのは難しいかもしれません。でも、一番悪いのは僕ですから」

「そう言ってもらえると助かる」

「ですから、もう頭を下げるのは止めてください!」

 

 さすがに、未だに世界最強と謳われる人に何度も頭を下げられるのは心臓が保たない。

 どうにか千冬の頭を上げさせると、シャルルはほっと胸を撫でおろした。

 

「で、性別をバラす、と言うのはどのタイミングになるのでしょうか?」

 

 とりあえず、いつまでも謝られ続けてしまうので、シャルルが問いかける。

 

「明日の試合では、今のままで良い。一年生の試合が終了後、明後日からだな。そこから女子として登校しろ」

「わかりました。制服の準備は?」

「こちらでしておこう。……カスタムしたい場合は、早めに連絡しておけよ?」

 

 先ほどまで、靄がかかっていたような感覚だったが、今はすらすらと言葉が出てくるのをシャルルは自覚した。

 

「それと、女子と判明したからには、織斑と同室で過ごさせるわけにはいかん。急ぎだが、今日の内に引っ越しを済ませておくように」

「わかりました。……ちなみに、同室になるのは」

「今現在、空いているのはボーデヴィッヒの部屋になる。まあ、やりにくい相手かもしれないが、事情を知っている相手だ。上手くやってくれ」

 

 まだ、私物の類は買いそろえていない。

 身の回りの物を持っていくだけで引っ越しは済みそうだ。

 ただ、一般の生徒にみられるわけにはいかないので、深夜になるのが辛いところだった。

 




と言う訳で、シャルのアレコレは強引に解決させました。
とはいえ、夏休み後にフランスルートに入る予定ではあります。(失踪しなければ)

当初のプロットではトーナメント中にシャルが爆発する、というルートをたどる予定でしたが、まとめきれなさそうなので、変更。数年前の俺よ、いったいどうやってまとめきるつもりだったのだ…。

とはいえ、それなりにシャルを追い出さなくていい程度にはまとめれたのではないかなーと。

ついでに、千冬姉が原作以上に大人っぽくなった感じが否めませんが、タイトル詐欺にはならないのでご容赦を…


今後、シャルが、一夏に好意を抱くかは……如何せん、スタートの感情がマイナス過ぎるのでないかな、と思います。……と言うか、ヒロインが増えても僕が捌ききれない自信があるので。

と言うか、原作ラウラと同じくらい千冬姉の信奉者になる可能性が出てきた感
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