ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
「おはよう。一夏、セシリア」
ラウラから声を掛けられ、一夏は気安く手を挙げて応える。
「おはよう。──朝から二人でいるのは珍しいな」
アリーナに向かう道すがら、合流したものの、周りに人はいない。
観客席に向かう道には人が溢れているが、こちらの道とは対照的だった。
考えてみれば、これから戦うのは四組だけなのだから当然と言えば当然の話である。
「まあ、同じ部屋だしね」
ふと、一夏はシャルルから向けられる態度が柔らかくなっているのに気付く。
ラウラとの間にも今まであった緊張感の様な物は感じない。
昨夜、ラウラと二人で頭を下げて謝ったとはいえ、わだかまりが一気になくなるとは思っていなかっただけに意外だった。
「一夏さんから事情は聞きましたわ」
「うん。色々とごめんね」
セシリアには向かう途中で伝えたが、鈴は大会中は箒と一緒にいることが多くまだ伝えられていなかった。
どこかで伝えなければ、と思いながらピットに入る。
後ろの方では、シャルルとセシリアがまだ話しており、シャルルが「ここに残ろうと思う」と伝えているのが聞こえた。
「鈴たちは反対側か」
「ああ。初戦は私達、次はお前達と鈴達という訳だ。──シャルル、そろそろ準備するぞ」
言いつつ、制服を脱ぎ捨てるラウラ。
一瞬ギョッとした一夏だったが、どうやらラウラは制服の下にスーツを着込んでいたようで、杞憂に終わる。
「あ、うん。すぐ行くよラウラ」
へえ、と昨日まで苗字呼びだったはずだが、一晩経って名前呼びになっているのに一夏が気付く。
シャルル自身も、どこか怯えたようなオドオドした雰囲気を醸し出していたのが嘘の様にリラックスしているように見える。
引っ越した後、何か話をしたのだろうか、と一夏はぼんやりと思った。
「手強い相手になりそうだな」
「先の心配とは、随分と余裕ですこと」
専用機持ち同士のペアはラウラ達と一夏達しかおらず、一夏からすれば実力で劣っていても連携では上回れると思っていたが、どうやらそれも怪しくなってきた。
そんな一夏に対し、やれやれと言わんばかりにセシリアが腰に手を当てて並び立つ。
「別に、鈴達を甘く見ている訳じゃない。けど、優勝するつもりなら先の心配をしても問題ないだろ?」
「その通りですわね」
今までは、先の事よりも次の試合の事に集中して欲しかったがために、セシリアはあまり一夏に先の事を考えさせてはいなかった。
これまでと違って、準決勝も、勝ち進んだ場合も相手は格上となる。
簪たちの想いを受けて、戦意だけ見ればラウラ達と相対することが出来るほど充実しているのだろう。
今なら、先の事を考えさせても良いのかもしれない。
「よく見ておきましょう。ラウラさんはともかく、デュノアさんの本当の実力が判る筈でしょうから」
「……えらく、プレッシャーをかけてくるな」
すでに自身のISを展開しているラウラが苦笑交じりに「なあシャルル」と相方を見やる。
「うん。……でも、今までで一番
スーツに着替えたシャルルが、一つ頷くと、その身が光に包まれる。
(ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ……第二世代機とはいえ、専用機としてチューニングされている以上、世代差は決定的な差にはならない、か)
見慣れたラファール・リヴァイヴの緑色のカラーとは異なり、オレンジ色のその機体は、色だけが違う訳ではない。
従来のリヴァイヴに搭載されているブースターや、物理シールドといった基本装備をいくつか外しているため、見た目では簡素な印象を与える。
(俺の白式はともかくとして、セシリアのブルー・ティアーズも燃費は良くねえからな。短期決戦で決めるしかないよな)
準決勝の相手も、第三世代機の中ではトップクラスの燃費の良さを誇る鈴と、射撃武器をほとんど使わない箒のペアも継戦能力の高い組み合わせだ。
もっとも、格上相手に長々と戦ったところでジリ貧なだけだし、一夏自身の気質としても短期決戦は望むところではあった。
と、準備が出来たのか、ラウラがカタパルトに自身のISをセットする。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。レーゲン、出るぞ」
瞬間、勢いよく発射される。
一夏としては、初めて乗った時の地面とキスした苦い記憶がよみがえるが、ラウラがそんなミスをするはずもなく、ふわりと舞い降りる。
続いて発進するシャルルを横目に、一夏はすでにフィールドで準備をしている相手生徒に意識を集中した。
「確か、三組の栗原と土家だっけか?」
「ええ。入学前の試験でも、良い成績を残していた二人ですわね」
(コイツ、何気に試験結果を把握してんのかよ)
もしかして全生徒の結果も知っているかもしれない、といささか戦慄を覚えつつ、二人の陣形を見定める。
打鉄をまとった栗原が前衛で、元々装備されている両肩のシールドユニットに加え、左手に大楯を装備。ただ、本音と違うのは、右手に近接ブレードを保持している事だろう。防御一辺倒ではなく、隙があれば攻撃をするつもりだろうか。
そして、後衛の土家は右手にサブマシンガン、左手にショットガンをすでに
射撃武器でも、近距離で威力を発揮する武器なことから、ある程度距離を詰めつつ戦う腹積もりだろうか。
「簪達のやった戦術に近いか?」
「ええ。ですが違うのは、二人で戦おうとする所ですわね」
「簪達は、あくまでも簪が相手を倒すために本音が耐える形だったけど、この二人は違うって事か」
「あの二人と違い、こちらのお二方は実力も似通ってますしね」
簪と本音は、戦いは別々のフィールドで行われていたが、セシリアが見た限りでは、この二人は纏まって戦っていた様に思う。
後衛の土家が、前衛の栗原のすぐ真後ろに位置し、相手の攻撃は前衛の栗原が受け止める。回り込もうとする相手を、上手く土家が仕留めていた。
(連携で戦う相手を倒すには、圧倒的な個で倒す、あるいは同じく連携で上回ろうとするかになりますが……どちらを選ぶのか、見ものですわね)
今までの戦い方なら、前者になるだろう。
けれど、今のシャルルの様子を見たら後者の戦い方が見られそうだ、とセシリアは思った。
☆☆☆
試合開始と同時に、ラウラがレールカノンを発砲する。
当たり所によっては、一発でダウンさせられそうな一撃は、栗原がシールドで受け止めて防ぐ。
栗原が胸をなでおろす間もなく、シャルルがそれぞれの手にアサルトライフルとバズーカを呼び出し、射撃しながら距離を詰める。
このまま正面から打ち崩そうとはせず、どこかでシャルルが方向を変えるだろう、と土家は何時でも撃てるように油断なく構える。
(左右どっちから……いや、上!)
予想が当たり、栗原を飛び越えたシャルルに土家が照準を合わせる。
(シールドを減らしてるから、この一撃で優位を取る!)
自身の機体と異なり、シャルルのリヴァイブはシールドを減らしている。ゆえに、直撃を狙う可能性は増える。
が、一拍の間を開けて両サイドからラウラの放つワイヤーブレードが襲ってきたことにより、トリガーを引くことは叶わなかった。
(前に──いや、ダメ!)
前に進むことでワイヤーブレードを避けつつ栗原の援護を、と思ったが、それを止めて後退する。
前に詰めようと思った瞬間、シャルルが武器をショットガンと近接ブレードに切り替えたのが見えたからだ。
「あれ? 下がるんだ」
どこか残念そうにシャルルがそう言った時には、手に持ったショットガンがバズーカに変わっていた。
「しま──」
言い切るよりも早く、シャルルがバズーカを連射。
慌ててショットガンとサブマシンガンを連射することで弾幕を張るが、撃ち漏らした一発が命中し、吹き飛ばされる。
「──私が!」
「うん。君も逃すつもりはないよ」
眼下からの栗原の叫び声。
相方が吹き飛ばされたのを目の当たりにしながらも、構うことなく攻撃をすることが出来る判断力は、確かにこの時期の一年生としては目を見張るものがあった。
けれど、シャルルは動じたそぶりもなく切り上げられた近接ブレードを、手に持った近接ブレードで迎え撃つ。
鍔迫り合いの形になるが、こちらが空中にいる位置差によって押し込み、動きを封じる。
「──私を、忘れてもらっては困るな」
栗原の背中を冷たいモノが伝った。
いつの間にか距離を詰めていたラウラが両手にプラズマブレードを展開させ、栗原の体に連撃を加えシールドエネルギーを大きく減らす。
(でも、ここまで密集してたら!)
土家が戻ろうとするのを視界の端にとらえつつ、栗原はラウラの追撃を左手のシールドで受け止める。
これだけ密集していれば、土家の持つショットガンでまとめて狙う事が出来る、と相方に指示を飛ばそうとしたところで──
「──僕達ごと吹っ飛ばすつもりかな」
いつの間にか両手それぞれにアサルトライフルを二丁呼び出し射撃を始めたシャルルが土家を近づけさせない。
「ラウラ、ここからは一対一で良いよね」
「了解。任せろ」
その後、一対一を余儀なくされた栗原・土家ペアは、なすすべもなく倒されることになった。
☆☆☆
「いや、強すぎないか?」
一夏が乾いた声で呟く。
いっそ清々しいまでの完封劇に笑うしかなかった。
「個の強さもさることながら、連携も仕上がってましたわね」
一夏と違い、表情に出すことはなかったが、その内心は一夏と同じだ。
今までは、ラウラが主になって立ち回り、シャルルが援護をしていたが、今の戦いは逆。
与えたダメージこそ、今までの様にラウラの方が多いが、今の戦いで場をコントロールしていたのはシャルルの立ち回りによるものが大きかった。
「武器の切り替えってあんなにコロコロできるモンか?」
「いえ、わたくしには……と言うよりあの速さで、あの武器の量を切り替えられる操縦者がそういるとは思えませんわ」
自身もそうだし、ラウラや鈴だって基本的には使用する装備は
自身も近接ブレードを呼び出す時はあるが、どうしたって時間はかかる。
けれど、シャルルはその時々で最適な武装を呼び出していた。
「お二人の対策も考えねばですが、それは鈴さんたちとの戦いに勝利してから話しましょう」
昨日までの展開であれば、ある程度どういった戦いをするのかセシリアは決めてい
たが、今の戦いを目の当たりにして根本から崩れ去ったのを理解した。
(戦いの順番に感謝ですわね……)
準決勝でラウラとシャルルと当たっていたら、勝てたかと言われると怪しいところだった。
そういった意味では。栗原・土家ペアは不運だったと言わざるを得ない。
昨日までの様にラウラが主軸に動いていたならもう少し善戦していたはずなのだから。
「だな。次を超えないとその先もねえしな」
鈴との対戦は、セシリアにとっては、乱入者によって中断させられたクラス対抗戦のやり直しになるのだ。
普段の訓練では分が悪いが、周りに人がいることもあってビットの効果を十全に活かして戦えたとは思っていないし、鈴もそれは同じだろう。
そして、今までの戦いとは異なり、互いの手の内が判った中での戦いになる。
「基本は、簪たちとやった時と同じ要領で良いのか?」
専用機持ちではなかったとはいえ、代表候補生と一般の生徒と言う組み合わせで言えば、簪と本音のペアに通じるものがある。
ゆえに、同じような展開になる可能性はあった。
だから、一夏の考えは間違っておらず、同意するようにセシリアは頷く。
「ええ。とはいえ、彼女たちもわたくしたちがどの様に戦ったのかは見ていますし、少し変化を付けましょうか」
違いがあるとすれば、どういう戦術を取ったのかを見られている事。
さらに何よりの違いがあるとすれば、鈴の持つ武装だ。
「衝撃砲がある以上、駆け引きはシビアなモノになるでしょうし、互いの相手を決めつけてかかるのはリスクが高いですわね」
「確かに。簪の時はミサイルだけだったけど、鈴はお前を狙ってると見せかけて俺を撃つって事もあるのか」
不可視の弾丸と言うのは、一対一でも厄介だが、その真価は多人数を相手にする時にこそ発揮するとセシリアは思っていた。
例えば、セシリアと相対していても、その実一夏を狙っていたという芸当も可能になる。
本来は、砲身の向きなどで狙いをある程度判別できるが、鈴の衝撃砲は砲身すら不可視の為、撃たれて初めて狙いが判る事になる。
「衝撃砲が通じる距離が把握されている以上、その可能性の方が高いと思いますわね」
「確かに、クラス対抗戦でお前は見切ってたもんな」
自身に通じる距離ではないときは、一夏に使うのが合理的ではある。が、これも決めつけ過ぎない方が良いだろう。
それに、目の前の相手と戦いながら援護が可能なのは相手に限った話ではない。
「わたくしも、ある程度あなたの援護は出来ますし、そういった意味では似たようなペアですわ」
一夏と箒は共に射撃武器を使わない。
厳密には、一夏は使えないが、箒は使わないという事になるが。
そして、セシリアも鈴も複数の相手に対する攻撃手段を持っている。
「基本は、俺が鈴を狙って時間を稼いで、その間にお前が箒を倒す方針で良いんだよな?」
「ええ。ただ、昨日の戦いを見られている以上、思い通りに進まないと考えた方がよろしいでしょう」
その場合は、一夏が箒と当たることになる。
入学当初にした、純粋な剣比べでは散々な結果だったが、ISを使った勝負なら、と力を籠める。
と、二人の会話がひと段落したところで、ラウラとシャルルが戻ってきた。
「お疲れ」
「ああ。シャルルのおかげで思いの他、楽をさせてもらったよ」
ISを解除し、降り立ったラウラが軽く息を吐く。
言葉通り、消耗させられた様子はまるでなかった。
「見事な戦いぶりでしたわね」
「うん。ちゃんと動ける相手だったからむしろやりやすかったかな」
こちらも、消耗した様子はなかった。
それどころか、彼女からは余力を感じるほどだ。
「さて、俺達も準備しますかね」
「そうですわね」
身体を伸ばしながら一夏が言うと、セシリアも追従するようにうなずく。
「一夏さんに応援の言葉はかけられないので?」
悪戯っぽくセシリアがラウラに問いかけると、彼女はどこか不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「私が言葉をかけるでもなく、だろう?」
ただ、と言葉を重ねる。
「お前たちと決勝を戦うのを楽しみにしてるさ」
「は、当然」
言葉をかけられた一夏は振り返ることなく、右手を上げて応えた。