ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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準決勝第二試合 終

(──わたくしとしたことが!)

 

 狙われた。

 その事にセシリアが理解するのと同時に、ライフルを構える。

 自身の放つビットの射出と回収のタイミング。そこに生まれるほんの一瞬の隙を鈴につかれたと理解するや否や、自身の手に持った愛銃を鈴に向けていた。

 

「わたくしに背を向けましたわね!」

 

 BT兵器への適性が高いがゆえに、ブルー・ティアーズを受領した経緯があるが、元来、セシリアは狙撃手としての才覚の方が抜きん出ていた。

 狙いをつけていない様に乱雑に放たれた一撃は、けれども鈴へとまっすぐに走る。

 高々、直径二百メートルしかないアリーナでは、セシリアの放つレーザーはコンマ四秒で到達する。

 ゆえに、セシリアの狙撃を避けるのは凡庸なIS操縦者では不可能ではあるが──

 

「甘いっての!」

 

 ──あいにくと、鈴は凡庸な操縦者ではない。

 その場でくるりと身を翻すと、青龍刀の剣腹でもってレーザーを防ぐ。

 

(相変わらず、なんというセンス……!)

 

 一夏や、他の生徒が扱う様な近接ブレードとは違い、鈴の扱う青龍刀は幅が広い。

 だからこそ、シールドの様に受け止めることはできる。が、広いといっても通常のブレードに比べればの話だ。

 受け止められる面積は少なく、ピンポイントで受け止める必要がある。

 

(相変わらず狙いが正確で助かるわ!)

 

 とはいえ、鈴が受け止められたのは、セシリアの腕が良かったから、と言った側面もあった。

 より大きなダメージを与えるため、セシリアは装甲に覆われていない箇所を狙って撃った。そして、鈴もセシリアならばそこを狙うだろう、というある種の確信をもって狙われるであろう場所に青龍刀を置いたというのが正しい。

 

「でぇええええええやあああああああああッ!」

 

 セシリアのレーザーを防ぎ切った鈴は、二振りの青龍刀の柄を繋ぎ、投擲。

 ブーメランのように回転しながら、迫りくる刃を見定めながら、セシリアは冷静に思考する。

 

(このまま避ける──否、それでは挟撃の危険が……なら)

 

 ブーメランのように円を描きながら迫る青龍刀を避けた場合、戻ってくる軌道に誘導される可能性を考慮する。自身ならそうするし、鈴も衝撃砲によってそれが可能だと読む。

 ならば、とライフルで撃ち落とす手を考えるが、正面からの射撃では難しい。

 

(──ビットで撃ち落とせば!)

 

 ライフルの射撃によって、物言わぬ猟犬と化していたビットを再び動かす。

 青龍刀の軌道を読み、上空から撃ち落とすために指示をしようしたところで──

 

「──足が止まったわね!」

 

 ビットを動かしたところで、鈴の周りに空間の揺らぎをハイパーセンサーが拾う。

 

「くッ!」

 

 鈴の衝撃砲を回避するため、PICをカットし、自由落下で回避を行う。

 本来は上昇すべきところだが、ビットを動かしていた事で自由に動けない事と、鈴の射線が上空に向けられていたこともあり、地表に向けて避ける事になった。

 

(──鈴さんの背中側にも揺らぎ? ……まさか!)

 

「一夏さ──」

 

 こちらに意識を集中していると見せかけて、本命はこれか、とセシリアもここにきて気付く。

 ビットのローテーションの隙をついて一夏を狙う。

 一夏を守るために、予定外の動きを強いられた上で、鈴の追撃を防ぐために動き、セシリアが一夏の援護が出来なくなったタイミングで、狙う。

 事前に用意していた作戦か、あるいはその場で考えた直観か。いずれにせよ、不可視の弾丸を放つことが出来る自身の特性を十分に活かした動きだ。

 

「ぐッ!? なんだ!?」

「……そこ!」

 

 思いがけない方角から撃たれた一夏に、バランスを崩す。

 そして、その隙を逃す箒ではなく、追撃の一撃も食らう事になる。

 次いで振られた箒の横凪ぎの一撃は何とか距離を取ることで防ぐが、自身のエネルギーが半分程度まで減らされた事を確認する。

 

(──セシリアを先に落とす!)

 

 鈴は一夏の追撃はせず、セシリアとの距離を詰める。

 今の一夏なら、箒と挟み込むことで簡単に倒せそうだったが、それよりも今の位置の優位を活かす方が良い、と鈴の直感が叫ぶ。

 セシリアが落下した影響で、鈴は頭を押さえることができ、優位に立つことが出来るからだ。

 

(箒が一夏を抑えている間にあたしが!)

 

 ほぼほぼ互角の力量を持つ二人がゆえに、序盤は膠着状態に陥っていた。

 あるいは、互いの思惑により膠着状態を是としていた。

 だが、互角の力量を持つがゆえに、どちらかが優位な状況になった時、戦況は一変する事になる。

 

(……これは、一夏さんに託すしかありませんわね)

 

 愛機のエネルギー残量。

 そして、予想される敵機の残量。

 さらには、自身の持ち札を考慮し、このままでは待っているのは敗北だ、とセシリアの理性が結論づけた。

 ある種の覚悟を決め、レーザービット四基とミサイルビットを動かす。

 

『一夏さん!』

『大丈夫か!? 箒を仕留めてすぐ──』

『時間がありませんので結論だけ! 箒さんを倒し、鈴さんに深手は与えますわ!』

『何言って──』

 

 一夏の返答はみなまで聞かず、問答無用に通信を切った。

 代表候補生である自分が、乗り始めて数か月の男に勝負を託すことに、思わず笑みがこぼれる。

 時間がなかったがゆえに、雑な伝え方をしてしまった。が、一夏なら察してくれるだろう、とセシリアは信じていた。

 衝撃砲に耐えながら、ミサイルビットを上空に旋回させ、レーザービットによる射撃を行う。が、鈴には当たらずセシリアの周りに着弾し、土煙が舞い上がる。

 

「姿が見えなくたって!」

 

 目視で見えずとも、ISにはハイパーセンサーがある。

 自身のISが伝えてくれた場所を頼りに、鈴は最大威力で衝撃砲を放った。

 

(託しますわよ、一夏さん──)

 

 その衝撃砲が命中し、セシリアのシールドエネルギーがゼロになったアナウンスを聞き、鈴が一夏に向き直ったところで──自身のISから警告が入る。

 

『──注意! 後方よりミサイル接近!』

 

 なぜ、と思いながらも身体は反応し、衝撃砲による迎撃を行ったが、まるで意思を持ったかのようにミサイルは回避し、自身の身にミサイルが突き刺さる。

 なぜ、と思うのと同時に、鈴は直感でセシリアがどの様な手を打ったのかを理解した。

 おそらく、セシリアは自身のシールドエネルギーが尽きる前に、ミサイルの軌道を指示したのだろう。

 だが、それは鈴がどの様な手段で対応するのかを読み切ってなければまるで意味のないモノになったはずだ。

 だが、現実問題、セシリアは鈴の動きを読み切った。

 そして、この攻撃はそれだけでは済まなかった。

 

(──まだもう一基ある!)

 

 動揺しながらも、もう一基のミサイルを探すと、箒の無防備な背中に向かって飛ぶのが視えた。

 

「箒──」

 

 ここからの迎撃では間に合わない。

 ゆえに鈴が出来るのは箒への警告だが、防御は間に合わない。

 そして、鈴が箒への言葉を言い切れなかったのは、もう一つの理由があった。

 

(──セシリアを負けさせる訳にはいかねえ!)

 

 ここで負けては、セシリアの経歴に傷がつく。

 

(ここまでお膳立てしてくれたんだ! 俺がなんとかするしかねえ!)

 

 自身の背中側でミサイルが命中するのをハイパーセンサーで拾いながら、一夏は鈴に機体を向けていた。

 箒がこの一撃で倒れるかは一夏には確証はなかったが、セシリアが箒は倒し、鈴には深手を与えると言った言葉を信じた。

 それは、この一撃で箒は倒せるが、鈴は倒せないという事の裏返しだからだ。

 

「うぉおおおおおおおおおッ!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、鈴に向け機体を翔けさせる。

 セシリアの捨て身の一撃に動揺している鈴は防げないと踏んでの動きだった。

 だが、鈴はすでに動揺から立ち直っており、先ほどセシリアにそうしたように、衝撃砲を最大火力で撃てるように、両腕を下げ、肩を押し出すような格好でこちらを見据えているのが一夏の目に映る。

 

(避けられねえ!)

 

 無理やりにでも、機体を動かせば可能だろうか、と束の間考えたが、自身の機体のエネルギーも鈴と箒による攻撃で減らしている。

 無茶な機動でこれ以上、機体にダメージを加える訳にはいかなかった。

 だが、どうすればと歯を食いしばったところで──

 

「──あとは任せましたわよ」

 

 セシリアの一言が聞こえた瞬間、カチリと、何かが嵌る音が一夏の脳裏で響いた。

 

(……これは……?)

 

 自身に向かって放たれた衝撃砲が、不可視のはずの弾丸の軌跡がハッキリと見える。

 何もかもがクリアに感じられた。

 ハイパーセンサーを介してではなく、その全てが自身の目によって知覚できる。

 

──なんなんだ……?

 

 そう思いながらも身体は動いていた。

 鈴の放った衝撃砲が、一夏の身に届く寸前で、白く輝く雪片が切り裂いたのだ。

 

「──ッ!?」

 

 当たる。そう確信していた一撃がかき消された。

 

(何が起きたの!?)

 

 驚愕に目を見開く鈴。

 だが、次の瞬間には、一夏が自身の目の前まで迫っていた。

 先ほどの叫びが嘘の様に口を真一文字に引き絞っているその姿に、鈴は言いようのない恐怖を感じた。

 簡単に接近したように見えるが、最大威力の衝撃砲を一夏に切り捨てられた後も、鈴は衝撃砲による妨害は行っていたのだ。

 それなのに、一夏は何事も無かったかのように突破してきた。

 

「ありえない」

 

 青ざめた顔で鈴が呟く。

 一夏は、衝撃砲。その不可視の弾丸を切り裂いたのだ。

 

──理論上は可能ではある。

 

 衝撃砲はいわばエネルギーの塊。ならば、エネルギーを消失させる零落白夜を持ってすれば、打ち消せない道理はない。

 だが、しかしだ。

 

「なんでそんな簡単に出来るのよ!?」

 

 やけくそ気味に叫ぶ鈴に、一夏は答えない。

 鋭い──否、冷たさを感じさせる視線を鈴に向けるだけだ。

 距離を詰め、下段から振り上げた刀が、一夏を迎撃しようと動かそうとした右手の青龍刀を跳ね上げる。

 そして、今度は上段から下段への振り下ろし。

 

「くッ!」

 

 パワーアシストの乗った一撃に、鈴は左手の青龍刀で防ぐが、勢いを止められず、その場でたたらを踏む。

 

(しま──)

 

 一夏が右手を後ろに引き絞るのが見え、後ろに下がるように自身のISに指示を飛ばすが、それよりも早く、一夏が踏み込む。

 雪片を纏う白い輝きが、鈴の視界を埋め尽くそうとしたところで──

 

「──一夏さん!」

 

 セシリアの声に、一夏がハッとしたように目を瞬く。

 先ほどまでとは違い、その目に冷たさは感じられない。

 次の瞬間、零落白夜の光を失った雪片がその身に当たり、絶対防御が発動するのを鈴はどこか他人事の様に感じた。

 

『──試合終了! 勝者、織斑・オルコットペア!』

 

 勝者を告げるアナウンス。そして雷鳴の様に降り注ぐ歓声の中で、じっと手のひらを見つめる一夏を、鈴は呆然と見る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紙一重の勝負だった」

 

 ピットで戦況を見つめていたラウラが言葉を紡ぐ。

 あえて勝敗のポイントを挙げるとすれば最後の最後、一夏に託す事ができたセシリアと、自分がやるしかなかった鈴との差。

 だがそれも、一夏が鈴を倒せたからこそだ。

 

「うん。でも、箒も惜しかったな」

 

 専用機を持ち、一夏と同じだけISを動かした実績があれば、鈴と箒ペアが勝っていたとシャルルは思う。

 セシリアの隙を突いて、一夏に衝撃砲を当てた後、箒は一撃を加える事に成功したが、結局止めを刺すまではいかなかった。

 たらればの話になるが、箒が一夏と同じくらいの実力を持っていれば、仕留め切れただろう。

 

(けど、箒にとっては残酷だろうな)

 

 篠ノ之束の妹だからと言って、おいそれと専用機が用意されるほどこの世界は甘くない。

 これからも、箒は鍛錬を重ねて腕を上げるだろうが、自分や一夏達専用機持ちとの差はさらに広がってしまうからだ。

 と、そんなある種の感傷に浸っているシャルルの横で、だが、とラウラは何か気になるように呟く。

 最後の最後、一夏の動きが変わったのだ。

 以前一夏に伝えた、「先手を取るための動き」これがいつの間にか完成していたのだ。

 

(気のせいでなければ、一夏は鈴が迎撃するよりも早く青龍刀を跳ね上げていた……)

 

 今までの一夏であれば、鈴の防御の方が先に完成し、それに対して打ち込んでいた。

 けれど、今は鈴が動かした勢いを利用して、防御を崩していた。

 

(戦いの中で成長した……? いや、あれは成長なんて生易しいものではない)

 

 予兆はまるでなかった。これまでの戦いで片鱗を見せていた訳でもなかった。

 それなのに、動きは完成されていたのだ。

 本来は、一歩ずつ歩んで辿り着くところを一足飛びに飛び越えていくような感覚。

 

(それに、あれほど使うのを抵抗していた零落白夜を使った事がどうにも解せん)

 

 衝撃砲を打ち消す時に使ったのは、まだ理解ができる。

 一夏が零落白夜を使うのを嫌がるのは、誰かを傷つけたくないからと、他ならなぬ一夏が自分自身で前に言っていたからだ。

 にもかかわらず、一夏は零落白夜を使って鈴に止めを刺そうとしたこと。

 その事に、ラウラは言いようのない違和感を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田先生。先ほどの試合データを」

「あ、は、はい」

 

 珍しいな、と真耶は思う。

 当然、今まで行われてきた試合は全て録画してあり、そしてそれを見返すことは可能ではある。むしろ、成績評価のためにそれは当然の行為ではある。

 だが、千冬が試合が終わった直後に、映像を見返すのは初めての事だった。

 

「序盤は良い。──オルコットが落とされた所から流してくれ」

「はい?」

 

 いったいどういう事だろうか。

 疑問に思いつつも、手元はよどみなく動き、千冬の指定した時間まで早送りする。

 

「にしても、織斑くん凄かったですね。まるで、現役の時の織斑先生を見ているようでした。さすがご姉弟ですね!」

「ふん」

 

 鼻を鳴らす千冬に、真耶は照れ隠しか、と微笑ましく思う。

 

「衝撃砲を零落白夜で斬った時なんてもうまさに! って感じですね」

 

(──私でもそうしたからな)

 

 真耶の言葉に、心の中で返す。

 比喩で言っている真耶とは対象的に、あの場で戦っていたとしたら文字通り一夏と同じ動きをしていた、と千冬は映像を見返しながら思う。

 

(何がキッカケかはわからないが、やはり一夏にもできるのか)

 

 思いながらモニターを見る千冬の視線は、どこか冷たい物を含んでいた。

 




シールドエネルギーが尽きても、ビットが動いているというのは独自設定です。
ビットに限らず、すでに放たれたミサイルが消えるという事はないと思いますので。

とはいえ、シールドエネルギーが尽きた後に操作するのは流石に…と言うところで、事前に設定しておいた軌道で二人を撃ったという事で納得いただければと。
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