ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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なんかアクセス数とお気に入りがガンガン伸びてくな、と思ったら日刊ランキング18位となっていたようで…
数年前に乗って以来ですが、ありがたいものです


甘い時間

「ところで一夏さん」

「……なんだよ?」

 

 伺う様な一夏の目。

 今度は何を言われるのか、と警戒している目だ。

 

「あなたの涙で、制服が皺になってしまいましたの」

「アイロンで伸ばすくらいはしてやれるけど……」

「それはつまり、あなたの前で服を脱げと。そうおっしゃりたいので?」

 

 しまった。そう一夏の顔に書いている様だった。

 それはそれで、とも思うセシリアだったがそこまでは求めるつもりはない……と、言うより心の準備が出来ていないのが正確なところだ。

 

「違いますわ。前を隠せれば良いので、何か服をお貸しいただければそれで」

「最初からそう言えよ……」

「あら。わたくしは最初からそのつもりでしてよ」

 

 旗色が悪くなったの察してか、気恥ずかしさを誤魔化すためか、一夏は会話を切り上げてクローゼットを漁る。

 背中越しに見えたが、服の量が自身と比べて明らかに少ない。

 まあ、同年代の女子と比べて、セシリアが持っている服の量は多いのだが、それにしても一夏の持っている服は少なく見えた。

 

「パーカーとかを上から着ると嵩張るだろうからな……、俺の制服を上から羽織る感じでも良いか?」

「構いませんわ。……ときに一夏さん」

 

 一夏から替えの制服を受け取りながらセシリアが囁く。

 

「手持ちの服はそれだけですの?」

「ん? ああ、家にはもう何着かあるけど、それでもそんなには持ってないかな」

 

 セシリアに言われ、一夏は改めてクローゼットを眺める。

 確かに、制服とは別に私服の類は何着かしかない。

 学園に通いだしてから、自宅に帰ったのはゴールデンウイークの一回だけで、最低限しか持ってきていないのはあるが、元々服を何着も持っている訳ではない。

 

「自分の格好にそんな頓着がある訳じゃねえし、何着も買うほど余裕のある生活をしてる訳じゃないしな」

 

 嘘を言っている訳ではないだろう。

 だが、セシリアは一夏の言葉全てを素直に頷くことはできなかった。

 

「で、本当のところは?」

「……服を買うくらいなら、コーヒー豆を買う金に回したかったからです。はい」

「正直でよろしいですわ」

 

 そんな事だろうとは思っていたが、一夏にとってはやはりコーヒーの方が優先順位が高いのだ。

 

「わたくしが言えたことではありませんが、ほどほどにした方がよろしくてよ?」

「まあそうなんだが……せっかく買った服もサイズが合わなくなって捨てるのが勿体なくてなあ」

 

 絶賛成長期中の一夏にとって、下手したら一年ほどで買い替えなければならないのは勿体ない精神が働いてどうにも、と言うのが正直なところだった。

 まあ、それを体のいい言い訳にして、コーヒー豆の購入資金に回しているのも事実なのだが。

 

「でしたら、少しゆったり目のサイズの服でも買いに行きましょうか」

「ちょっと待て。なんで買いに行くのが確定事項みたいな聞き方をしてくるんだ?」

「男性の服を買いに行くのは初めてですわ。上手くコーディネート出来るでしょうか」

「勝手に話を進めないでくれるか?」

 

 さも当然の様に話を進めるセシリアに一夏は困惑が隠せなかった。

 だが、一夏の抗議もどこ吹く風とセシリアは楽しそうに笑う。

 

「あら? 一夏さんはわたくしと出かけるのが不満だと?」

「……そういう聞き方はズルいぞ。マジで」

 

 非難がましく睨んでみても、セシリアは「ふふっ」と笑うだけだ。

 これ見よがしに一夏はため息を吐くと、両手を持ち上げる。

 

「わかったよ。今度の休みに出かけようか。……ちょうど、豆の補充もしたかったしな」

 

 言い訳がましくとってつけられた言葉に我ながら苦しいな、と思う。

 なんだかんだ言いつつ、楽しみに思う自分もいるのだ。

 そういえば、とずっと聞きたいと思っていた事を聞こうとセシリアは思った。

 

「豆をこだわるほどコーヒーが好き、と言うのはこの年齢では珍しいですわね。なになったキッカケでもありましたの?」

「まあ、千冬姉がいつもコーヒー飲んでるのを見て、かっこいいなとかそんな感じで飲み始めたんだったかな」

 

 と、そこで恥ずかしそうに頬をかく。

 

「最初はただ苦いだけって感じだったで、無理して飲んでいたよ」

 

 それこそ、入学式の箒の様にだ。

 千冬が飲んでいる姿に憧れて手を出して、苦くて思わず口を離し、それでも飲み続けるのを千冬が楽しそうに見ていたな、と思い出す。

 

「その後、喫茶店──中学の時にバイトもさせてもらったところで、マスターに飲ませてもらったコーヒーが旨くてな」

 

 苦いとだけ思っていたコーヒーが、あの日に飲んだコーヒーはすっきりとしていて、なんの雑味もなくて、感動したのを今でも覚えている。

 

「思えば、あの日飲んだコーヒーを再現したくて、ブレンドを試し始めたのがキッカケだったかもな」

「マスターに教え乞えばよろしかったのでは?」

「それが、教えてくれないんだよ。……どうやってブレンドしたのか忘れたとか言ってな」

 

 その言葉が本当か嘘かは一夏にはわからない。

 けれど、今はどうでも良いと一夏は本気で思っていた。

 

「自分で再現出来ればそれで良いし、出来なくても新しい発見があればそれでも良い」

 

 淹れるたび、違う発見があるから面白いのだ。

 豆の割合、焙煎の時間、抽出する時間。どれか一つを変えるだけで、まるで違う表情を見せてくれる。

 それが面白いのだ。

 

「……何かに熱中する性分は、そういったところからきてるんですね」

 

 もし、ISに触れさえしなければ彼はどういった道を歩んでいただろうか。

 おそらく、その喫茶店で働き、いずれは自分の店を出す様になるのだろう。

 

「まあ、中学出たら高校に行かずに働こうとしてたくらいだしな。……マスターには反対されたし、千冬姉には主に腕力で黙らされたけど……」

「織斑先生らしいですわね」

 

 それも一夏の事を思っての事だ。

 

「まあ、機会があればお前にも紹介してやるさ。というか、ぜひ会って欲しい」

「それは、光栄ですわね」

 

 一夏がこれまで歩んできた人生で、大きな影響を与えた人だ。

 セシリアにとってみれば、是が非でも会いたい人だ。

 

 と、時計の針を見ると正午を回っているのが見えた。

 もっと一夏とたわいのない会話をしたいが、そうも言ってられない。

 先の楽しみをいったんは思考の隅に置く。

 

「では、決勝に勝って、気持ちよく出かけられる様にしましょう」

 

 その表情は、柔らかさもあるが、目は鋭く細められている。

 ピン、と空気も張り詰めるモノに変わった。

 

「当然。負けるつもりはねえよ」

 

 一夏とて、そのつもりで臨んでいる。

 けれど、セシリアには先ほどまでの様子を知るだけに、一抹の不安が残ってはいた。

 本当は、触れない方が良いとは思いつつ、それでもセシリアは聞くことにした。

 

「教えてください。わたくしが落とされてから、一夏さんの動きが明らかに変わりました」

 

 あれは、成長したとかそういった言葉では言い表せない。

 自転車を乗るのに、補助輪を付け、人の補助を得て、最後は一人で乗れる様に、普通は段階を踏んで成長をする。

 けれど、あの時の一夏は、人の補助を得て走らせていたはずが、突然競輪選手になったかのような変貌を遂げた。

 文字通り、別人が操縦していたとしか思えないのだ。

 

「零落白夜を使った事もですが、それを使って衝撃砲を斬りはらった事。いつ、その手を思いついたのですか?」

 

 セシリアも、零落白夜の能力を使えば、衝撃砲を打ち消せることは知識として持っていた。

 だが、一夏が使いたがらない事を尊重し、その事は伝えていない。

 だとすれば、一夏が考えて行ったことになるが、頑なに零落白夜を使いたがらなかった以上、使い方を考える事すらしていなかった筈だ。

 それなのに、あの場面、一夏は迷うことなく零落白夜を発動し、当然の様に衝撃砲を斬り捨てた。

 

「……それが、何も覚えてないんだよ」

「何も、ですか?」

「なぜか、衝撃砲の軌道が見えた。そんで、零落白夜を使えば衝撃砲を斬り捨てられるとわかった」

 

 一夏も、困惑しているのだろう。

 自分で言いながら、なぜ出来ると思ったのか、そしてなぜ出来たのかを説明する事が出来ないからだ。

 

「その後も、鈴が右手の青龍刀を持ち上げて守りを固めるのも、鈴が実際に行動に移す前にわかった(・・・・)

「……感覚派のIS乗りの方で似たような事をおっしゃる人もいますけど、それとは少し違いますわね」

 

 どうにも、不思議な事だ。

 本人に自覚がない事も含めて。

 

「ちなみに、次の試合でも同じ様に動けますか?」

 

 問題はそれだ。

 もし、同じ様に動けるならば、戦いはだいぶ楽になる。

 それどこか、下手したら一夏だけで勝てるかもしれない。

 鈴を圧倒した動きは、あの二人を前にしてもそう思えるだけの動きをしていた。

 

「……わからねえ。悪いが、それは抜きで作戦を考えて欲しい」

 

 顔をしかめながら、言葉を絞りだす一夏。

 自分でもよくわかってない動きを、作戦に含める訳にはいかなかった。

 鈴に向けてしまったように、あの二人にも無意識に零落白夜を使いかねない。

 それに今の自分が、ああいう動きを出来るかも何もわからないのが正直なところだった。

 

「本人も分からないものを作戦に入れ込むわけにはいきませんからね。仕方ありませんわ」

 

 さて、あの二人を相手にどう戦うか、時間が許す限り二人は話を重ねた。

 

 

 余談だが、部屋から出たセシリアが一夏の制服を纏っていたのを目撃した生徒が数名おり、それはそれで騒ぎになったとかならないとか……。




ちょっと短いですが、キリが良いので…

次はいよいよタッグマッチトーナメントの決勝になります
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