ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
「さあいよいよタッグマッチトーナメント一年の部、決勝戦です!」
煽るようなアナウンスと、沸き立つ観客。
いよいよ、タッグマッチトーナメントの決勝が始まらんとしていた。
「共に代表候補生、そして専用機持ち同士というボーデヴィッヒ選手とデュノア選手のペア! ここまでは下馬評通りの戦いを見せてくれています!」
横に並ぶ二つの影。誰もが優勝候補として疑わなかったラウラ・シャルルのペアだ。
近距離戦から、中遠距離戦まで一人で対応出来る技量を持ち、なおかつ連携を取る事も出来る。
トーナメント戦では、盤石と言っても良い勝ち方をして決勝に進んできた。
「対しますは、こちらも専用機持ち同士のペアです! 準決勝では、凰選手と篠ノ之選手のペアの前に苦戦しましたが、決勝の舞台まで上り詰めました!」
こちらは一夏が前、セシリアは後ろに控える形の立ち位置だ。
観戦する側としては、ラウラ・シャルルペアに挑む構図を描くことになるだろう。
「この一戦、参加するISは全て専用機です! この形は二年、三年の部を含めて今大会唯一になります!」
そう。
専用気持ち同士のペアですら珍しいのに、この試合はどちらのペアとも専用機なのだ。
そして、試合の、珍しさはそれだけではない。
「そしてなんと言っても注目は織斑選手とデュノア選手! 男性操縦者同士の試合は史上初です!」
そのアナウンスが鳴り響くと同時に、一際歓声が大きくなった。
まあ、男性同士と煽ってはいるが、実際のところ本当に男なのは一夏だけなのだが。
『セシリア。少し良いか』
『あら、戦いの前にどうしましたの?』
アナウンスが鳴り響く中、突然ラウラから届いた個人間秘匿通信
ラウラが何を気にしているかはセシリアはなんとなくはわかるが、あえて気付かないフリをした。
『一夏の様子が知りたい。準決勝の動きが出来るのかどうかを』
ラウラの切実な様子に、彼女も準決勝の戦いぶりが気になっていたのだろう。
そして、その思いはセシリアも同じだ。
『序盤は私を避けて、シャルルを狙うな?』
「──ええ、まあ」
少しの逡巡の後、セシリアは素直に答えた。
作戦を読んだ上で、あえてそれを伝えてきたラウラの真意を測る。
『お前も、一夏が本当に大丈夫なのか、また妙な動きをしないのか気にしているだろう?』
だから、とラウラが続ける。
『しばらく、砲撃戦に付き合え。その間に一夏の様子を探る』
全くこの人は、と声に出さず内心で呟く。
どこまでも一夏の事を考えているのだ、と。
ある種、八百長の様なこの提案もそれは一夏の身を案じての事だ。
とはいえ、このまま素直に戦わせるのもセシリアとしては素直に頷けるものではなかっただけに、この提案は願ったりではある。
『一夏さんが援護を求めるか、二人のやり合いがひと段落するまでですわ。それ以上は見ている皆様に違和感を与えかねませんから』
『わかっている』
準決勝の動きが出来るなら、一夏が援護を求めることもない。
あるいは、最初の激突でシャルルを落とすこともできるだろう。
いずれにせよ、最初の様子がすべて。そして、今のところ準決勝の様な雰囲気は纏っていない。
「カウントダウンは十秒を切りました! いよいよ決勝戦の開始です!」
すう、と一夏が息を吸う。
ブ、と3秒前を告げるコールが鳴る。一夏は雪片を、セシリアはスターライトMkⅢを構える。対する二人は無手のまま自然体を保つ。
ブ、ともう一度コール。それまではざわめいていた客席も今は静まり返り、間もなく始まるであろう戦いに目を、耳を傾ける。──否、全身で感じようと全神経を集中させる。
ブーッ。そして、三度目の試合開始を告げるブザー。その瞬間、一夏が動いた。
「──ッラァ!」
初手から
狙いはシャルル。AICで止められる可能性があるラウラではない。
これから呼び出しても、間に合わないと判断しての突撃だ。
「──っ!?」
だが、一夏の思惑は外れる。
1秒にも満たない時間で、シャルルは武器を具現化させる。
両手に持ったのはショットガン。近距離の破壊力は、相当な物だ。
(こいつ三味線弾いてやがったな!?)
しかし、点ではなく面で撃たれては避けようがない。
庇うように左腕を顔の前にかざし、出来るだけ装甲で受けようとするが、ほんの気休めにしかならない。
結果、左腕の装甲をほぼ飛ばされた一夏だが、それでも距離を詰めることには成功した。
「この距離なら──!」
シャルルの手には、未だショットガンが握られている。
近距離で猛威を振るうショットガンも、近接格闘の距離では意味をなさない。
だが、しかし──
「──うん。僕の距離でもある」
「っ!?」
シャルルはにこやかな笑みを携えたまま、一瞬でショットガンを消し、近接ブレードを展開する。
一夏の目が、驚愕の色で染められた。
それだけ、シャルルの技術の高さに驚いたのだ。
武器を
だが、今はショットガンを消して、近接ブレードを呼び出すという動作が必要だったのだ。それなのに、シャルルは動作が増えてもなんら淀みを感じさせない。
(やっぱりコレまでの試合はわざと遅くしていたな!?)
結果、上段から斬り捨てられると思った一夏の斬撃はシャルルのブレードに受け止められる事になる。
ぐっと力を込めると、少しだけ手応えを感じるが、押し込める程ではない。
「──ふっ!」
ならばと、一夏はその場でコマの様に回転し、回し蹴りを叩き込む。
それを受けたシャルルが少し、後退する事になる。
いや、勢いを利用して空中に逃げようとしている風に一夏の目に写った。
(ここだ!)
体勢を崩したシャルル。そして、加速をするための距離がシャルルが後退した事により生まれた。
回転を終え、シャルルを正眼に捉えた瞬間、白式が弾かれるように飛び出す。
が、しかし──
「──これも防ぐのかよ!?」
一夏の刺突を、シャルルは装着したシールドで受け流したのだ。
言葉にすれば簡単そうに聞こえるが、タイミングを間違えば一夏の攻撃は確実に届いていた。
自分ならば防げていたかと束の間、一夏が思考する。だが、その時間が致命的な隙だ。
「立て直しが遅いよ」
「チィ!」
背後からシャルルの声。
今、彼女が手に持っているのは近接ブレードだ。
なら、打ち合えると一夏が雪片を構え振り返った一夏の表情が、今日何度目かの驚愕で歪んだ。
「──またかよ!」
シャルルの両手にショットガンが再び二丁現れていた。
放たれる瞬間、ほぼ同時にPICをカットして自由落下して回避する。
上昇するよりは、自然落下した方が速いと判断したが、それも悪手だった。
(くそったれ!)
射撃武器を持つ相手に上を抑えられるのは、非常に不味い。
それを当然理解しているシャルルは既に両手の武器をサブマシンガンに持ち替えている。ひたすら撃ち続けることで、一夏の頭を上げないつもりだ。
(やりにくいったらありゃしねえ!)
これまで、一夏が戦った相手は切り札こそ隠していたが、武装を見せて戦っている。
だからこそ、ある程度は想像して戦うことが出来た。
だが、シャルルはそうではない。
次から次へと新しい武器を出し、あらゆる局面で対応してくるのだ。
そして、その全ての切替が速い。
「セシリアッ!」
一夏の援護を求める声。
ラウラと形ばかりの砲撃戦をしながら、互いに一夏の様子を見ていたが、準決勝の様な動きはしていない。と二人は判断した。
今までの一夏であればそうするであろう、と言う想像の範囲内の動き。
(頃合いでしょうね)
ラウラとの砲撃戦いを切り上げ、銃口をシャルルに向ける。
「──そうはさせん」
ラウラがシャルルとセシリアの間に割り込むように機体を滑らせる。
だが、セシリアはそれに構うことなく、射撃を敢行した。
AICは強力だが、エネルギー兵器には効かない事は事前の調べでわかっていたからだ。
結果、セシリアの放ったレーザーはラウラに命中する事になるが、装甲で受けられる。
(自身へのダメージよりも、デュノアさんが一夏さんに与えるダメージの方が多いと判断しての対応ですわね)
装甲で覆われていない頭部や、胴体を狙えば絶対防御が発動し、大きなダメージとなる。
だが、装甲のある個所で受け止められた場合、セシリアの放つレーザーは決定的な一撃とはならない。
対して、一夏の様子はと言えば、今も上空からの射撃を何とか避けてはいるが、開幕に負ったダメージもある上に、左腕の装甲は既に消え去っている。
となると、単純なダメージレースになった場合、一夏・セシリアは分が悪く、ラウラとしては自身のダメージが入るのを前提に立ちまわるのも当然ではあった。
けれど──
「お生憎様! 正面の防御を固めたところで意味はありませんわ!」
四基のレーザービットを飛ばす。
ラウラの上下左右に展開されたビットから放たれたレーザーは、確実にラウラの防御を崩すことが出来る。
「シャルル!」
「わかってる!」
いつの間にかラウラの近くに近づいていたシャルルが物理シールドでビットから放たれたレーザーを受け止める。
ラウラへの一撃は叶わなかったが、けれど一夏の援護と言う面では成功した。
「ラァ!」
「──む」
地表から、地を這うように飛んでいた一夏が、二人の真下から駆け上る。
本来は死角になる場所からの一撃も、熟練のIS乗りにはほとんど意味をなさない。
「流石に甘くはねえな」
「ふん。当たり前だ」
プラズマブレードによって一夏の一撃は防がれたが、そこに落胆の色はない。
むしろ、素直に斬らせてもらう方が不思議なくらいだ。
「今日こそ超えさせてもらうぜ」
「面白い。やってみろ──と言いたいが、お前の相手は私ではないぞ」
何を言っている、と言葉にするよりも早く、自身の愛機よりアラート。
その声に従い飛び退ると、先ほどまでいた位置にショットガンの銃弾が雨の様に降り注ぐ。
「またお前かよ!」
「悪かったねえ! ちょっとだけ痛い目見てもらうよ!」
「お前、それ今日までの恨み入ってるだろ!」
「さあて……ね!」
シャルルの両手に展開されたサブマシンガンによる射撃を回避しながら一夏は毒づく。
どうやら、彼女の本来の性格は少しだけ腹黒い部分があるかもしれない。
(セシリアは……ラウラに抑えられている。一対一じゃ分が悪いからどこかで絡まねえとキツイ!)
射撃を避けつつ、ラウラに向かおうにもシャルルの射撃が一夏の動きを拒む。
先ほどまでは、一夏を仕留める動きだったが、今はラウラに向かわせない事を重視している様に見えた。
その理由はと考えて直ぐに思い至る。
(俺との力量差は最初のやり合いで把握して、ラウラの援護に迎えるだけの余力を残してるって事かよ)
シャルルは、多少無理をすれば一夏を落とし切れると実力差を読み切った。
だから今は無理に踏み込んでこない。
その理由は単純で、セシリアとラウラの勝負の様子をうかがっているのだ。
(機体の相性でセシリアはラウラに分がある……だからか)
一夏にとって、天敵と言えるAICもセシリアにはそこまでの脅威にならない。
自身を止められたとしても、ビットを動かして対応が出来る。
逆にビットが止められても他のビット、あるいはセシリア自身が動くことで打破できる。
(シンプルに、ラウラを俺にぶつけなかった理由はなんだ? 何を考えてやがる?)
と、一夏の思考を切るように、セシリアがビットを再度飛ばす。
瞬間、ラウラとシャルルがほぼ同時に機体を動かした。
無防備に背を向けられた一夏は、カッと頭に血が上るを自覚する。
「──ナめんなァ!」
あと少し、と言うところで一夏の動きが文字通り止まった。
「舐めてなどいないさ」
同時に互いに向けて機体を動かしたラウラとシャルルは、ぶつかる寸前でお互いの立ち位置を変える。
それによって、ビットの射撃はシャルルがシールドで防ぎ、眼前に迫った一夏は、ラウラがAICによって動きを止めた。
「
──やられた。
一夏は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
今までさんざんやりあってきたお陰で、一夏はAICに対する苦手意識が強いものとなっている。
だが、数多くの模擬戦を重ねて、AICへの対処法も確立してきた。
それは、多角的に動くことであったりととにかく動き回ることで狙われにくくするというのが基本的な立ち回りになっていた。
だが、今は無防備にも見えたシャルルの背中を見て、視野が狭くなり、
そして、直線的な動きになったところで、ラウラとシャルルが立ち位置を変える。
(コレが狙いかよ!)
歯噛みしたところで、一夏はAICの網からは逃れられない。
ではセシリアは、と視線をやるもシャルルとの撃ち合いのなか、こちらへの援護は行えそうにはない。
「悪く思うな」
どこまでも冷静なラウラの言葉と共に放たれた右肩レールカノンによって吹き飛ばされ、シールドエネルギーが大きく減らされる
試合開始からそれほど経っていないはずだが、すでに三割ほどになっていた。
セシリアはほとんど減らしていないが、ラウラとシャルルもまだ七割程度は残っているだろう。
予想通りの一対一の強さと、予想以上の連携が取れている事。
今までにない敗北への予感を、一夏はひしひしと感じていた。
だがその一方で、一夏の脳裏には、試合前にセシリアと話していた事が思い出されていた。
(受けの戦いが得意だけど……かといって攻めれねえって訳でもねえ!)
箒は、ISを使う場合は、攻めの戦いはまだ出来ない。
だが、ラウラとシャルルは違うのだ。
二人共、守りが得意というだけで、攻めが不得意という訳ではないのだ。
「一対一の戦いでは、わたくし達に勝機はありませんわ。しかし、連携という面では、勝機があります」
「そんなに上手くいくか?」
一夏が疑うのも当然だ。
なぜなら二人は準決勝までは個の力で勝ってきたがはなく、連携で戦い、勝利を収めているのだから。
「根拠はあります。──あの二人は、おそらく指示の出し手を決めていません」
一夏とセシリアのペアは、基本はセシリアが動きの指示を出す。
おそらく、鈴と箒ペアは鈴が出していただろう。
だが、ラウラとシャルルはソレがハッキリしない。
「お互いが同じ戦い方ができ、技量があるが故に、指示を必要としていないのです」
戦ってみて、なるほどと一夏は納得した。
指示を受けて戦うからこそわかる。
あの二人は、指示を聞いて動いている感じではない。
互いに最善を選択し続ける戦いを追い求めた結果、相方がどう動くのかを理解できている。
けど、そこに隙が生まれる。とセシリアは言った。
一夏とすればその言葉を信じない理由がない。
「今度は僕が相手だよ」
吹き飛ばされた態勢を整え、再び舞い上がると今度はシャルルが一夏の相手をすべく、こちらに銃口を向ける。
シャルルとラウラが頻繁に行う戦術がスイッチだ。
二人共に、近距離と中距離を戦えるが故に可能な戦術。
前衛しか出来ない一夏と、後衛しか出来ないセシリアには出来ない戦術だ。
完璧なタイミングでハマれば、戦う相手を瞬時に変えられ、対戦相手からすればたまったものではない。
『ここですわ!』
『わかってる!』
ラウラとシャルルが入れ替わる瞬間、一夏は
ラウラとシャルルが指示を必要としない理由は、最適解を二人が選ぶことが出来るからだ。
なら、それを崩すには、判断する要素を増やせば良い。
故にセシリアは、ここまで見せなかったレーザーによる射撃ではなく、ミサイルビットを選んだ。
レーザー兵器を放った時の対応は、シャルルが防ぐというのが二人の暗黙の了解だ。なぜならラウラはレーザー兵器を防ぐことは出来ず、回避するかあるいは装甲で受け止めるしかない。だが、回避してしまえばソレが隙となり、一夏の接近を許す。
そうならないように、セシリアの射撃はシャルルが物理シールドで防ぎ、防御に回ったシャルルを一夏が狙わないように、ラウラが一夏の対応をする。
なら、ミサイルならどうか。
いつも通りシャルルが防ぐ事も出来る。が、ラウラもAICを使い防ぐ事も出来る。
(僕が守って、一夏はラウラが攻める。この形は崩せない)
(レーザーとは違い、誘導兵器を確実に受け止められる保証はない。なら、ここは私が止める)
二人が選んだ選択は、間違ってはいない。
だが、結果として二人揃ってミサイルの守備に回ってしまった。
「──やっっっっっっっと狂ってくれたなァアアッ!」
「チィ!」
ここに来て、意図せず後手に回ってしまった。
(一夏は私が受け止めて──いや、シャルルでやれるか?)
「ラウラは一夏を! 僕がミサイルを!」
両手それぞれにショットガンをコールしたシャルルが叫ぶ。
ショットガンの連射によって、ミサイルを誘爆させるつもりだろう。
直撃する間際に、AICで止めることもできるが、今は信じる他ない。
「来い! 一夏!」
「言われなくても!」
すでに眼前に迫る一夏に、AICの網ではとらえられない。
先ほど一夏に通じたのは、一夏が通るであろう空間に事前に張り巡らせていたから。
その距離が無ければ、先ほどの対応はできなかった。
けれど、ラウラはAICによって、それだけでドイツでの地位を確立したのではない。
両手に展開させたプラズマブレードで、一夏を迎え撃つ。
「──フッ!」
勢いに乗った一夏の刀を左手の手刀で弾き、瞬く間に左手の手刀が煌めく。
それを、一夏がブレードではなく、ラウラの腕を弾き防ぐ。
「動きが止まったな?」
背後で、シャルルがミサイルを撃墜し、爆煙が広がるをハイパーセンサーが拾った。
一連の攻撃を防ぎ切ったラウラが獰猛な笑みを浮かべる。
すっと差し出される右手によって発動されたAICによって一夏の動きが止まる。
「──ああ、お前もな?」
「なにを──」
なにを言っている、そうラウラが言い切る前に、笑みが消えうせた。
動きを止めている一夏を飛び越えるようにして、青いビットが二基こちらを窺っていた。
(一夏の背後に潜ませていたのか!?)
AICによって一夏は動きを封じられているが、同時にラウラも動くことが出来ない。
「チィ!」
ブルーティアーズから青い閃光がほとばしる前に、AICを解除し回避する。
それによって自由になった一夏に狙われるが、雪片をプラズマ手刀によって受け止めた。
返す刀で、空いている左手のプラズマ手刀を一夏に叩きつけようとした瞬間、ラウラの表情がまたしても歪む。
「──ショートブレード!? どこから!?」
一夏は、他に武器を積んでいない。否、積めない。
ならば、一夏はどこから持ち出したのだ。
「相方の武器を使っちゃ駄目──なんて事はないよなァ!」
一夏の背後にビットを忍ばせた時、セシリアは自身の
セシリアから託されたショートブレードでラウラの手刀を跳ね上げる。
がら空きになった胴体に、今度は雪片の横凪ぎの一撃を叩きつけた。
(私との戦いに慣れている──だが、零落白夜を使われなければ負けはない!)
一夏がこの学園で最も戦った相手は、セシリアでありその次がラウラだ。
特に、近接戦闘の訓練はラウラに手ほどきを受ける事が多く、その癖も一夏は理解していた。
だからこそ、打ち合えている事実があり、今の一撃も零落白夜を使えていれば絶対防御が発動し、ラウラを退けられていたかもしれない。
「相変わらず甘いな! 私を、気遣いながら倒せる相手だと思うな!」
「ああ、そうかい!」
衝撃で後退したラウラを追撃するかのように、ビットから追い打ちが来るが、ラウラはあえて受け止め一夏との距離を再度詰める。
シールドエネルギーが減少するが、構うつもりはなかった。
(一夏のエネルギーも底が見えてる! ここで決める!)
前かがみになったラウラに、一夏は雪片を大上段に振りかぶる。
そして、その刀身が白い光に包まれた。
「──零落白夜!? ここで使うのか!?」
その叫びは、使えるのか、と言う思いも込められていた。
使えるならば、なぜ先ほどは使わなかった。
なぜ、なぜ。と疑問が頭の中をよぎる。
そしてそれは、明確な隙となった。
「違う。フェイクだ」
「──ッ! あの時の意趣返しという訳か!」
初めて戦った時、ラウラはAICを囮に一夏の動きを迷わせた。
そして、今、一夏は後の時のラウラの様に立ち回り、結果ラウラは一夏の大上段に構えた雪片を防ぐべく、両腕を頭の上に交差させ、受け止める形をとってしまう。
結果、一夏は雪片を振るわず、ショートブレードをラウラの身に突き立てる。
「く!」
絶対防御が発動し、シールドエネルギーが大幅に減る。
視界の隅で読み取ると、三割程度とくしくも一夏と同じエネルギーまで減ってしまった。
「ここで決める!」
そして、一夏の宣言も先ほどラウラが思った言葉と同じ。
「決めて見せろ! お前に出来るのならばな!」
先ほどとは違い、自身の機体を後退させながらラウラは一夏を見定める。
ワイヤーブレードによる牽制も、右手と左手に持ったそれぞれの得物で弾きながら一夏はなおも前進を止めない。
(そうだ! それでこそあの人の弟だ!)
ワイヤーブレードによる牽制では、もはや一夏の足止めにもならない。
再びラウラはプラズマブレードを展開し、同じ様に一夏に機体を向けた。
「あの時、零落白夜を使っておけば私はもう負けていた。使いどころを見誤ったな」
「うるせえ! あれは誰かを守る力だ! お前を倒すためじゃねえ!」
互いに互いの得物をぶつけ合う。
今この瞬間、一夏はラウラと正面切って斬り合えていた。
けれど──
「──その甘さを抱えて、私を超えられると思うな!」
「ッ!」
二刀流の戦いなど、一夏は深く学んではいない。
ある種、奇襲の様な形を重ねた結果、ラウラに通じた部分も多分にあった。
利き手ではない、左手に持ったショートブレードの反応が遅れる事に気付いたラウラが、わずかな隙を突いて一夏の身に刃を突き立てる。
(あと一割……もうこれ以上は食らえねえ!)
囮の為に発動した零落白夜による消費も相まって、いよいよ敗北の瞬間が迫っていた。
(そういえば、セシリアの援護が──)
先ほどのやり合いから、セシリアからの援護を受けられていない。
再び眼前に迫るラウラと斬り結びながら、ハイパーセンサーで探るとシャルルがセシリアに迫るのが視えた。
『この距離なら──』
『──
左手を引き絞ったシャルルのシールドから、リボルバーと杭が融合した装備が露出している。
本音が装備していたソレは、シャルルも同じ様に隠し持っていたのか。
(あれがセシリアに直撃すれば──)
──セシリアは俺が守る。
カチリと、何かが嵌る音が一夏の頭に響いた。
(雰囲気が変わった……まさか!)
向かい合ってみて、初めて理解した。
一夏の瞳から、先ほどまで感じていた戦意を感じない。
先ほどまでを、燃えさかる炎だとすると、今はどこまでも凪いだ水面の様な静けさ。
(ここで仕留めなければ──)
鈴ですら、なすすべもなく敗れたのだ。
けれど、あの時とは違うのはシールドエネルギーの残量。今の白式はほんのかすり傷であっても、戦闘不能になるほどまで追い込まれている。
そこまで考えながら、ラウラは踏み込んでプラズマブレードを振り下ろす。
が、一夏はすっと身を引き、ラウラの一撃を躱す。──だけにとどまらず、流れる動作で踏み込み、ショートブレードを振りぬく。
ブレードがラウラの脇を薙ぎ、火花を散らす。
それを見ることなく、一夏は身をひるがえしスラスターを吹かす。
一夏はラウラを引き離し、まっすぐセシリアを目指した。
「行かせるか!」
一夏の背後から、ラウラがレールカノンの砲撃を行う。
銃身の僅かな傾きから、自身に直撃する砲弾のみを回避し、シャルルに向けてただただ進む。
「──一夏さん!?」
「どうして!?」
セシリアもシャルルも互いに、一夏がこの場に来るのは想定していなかったのだろう。
二人の言葉に一夏は何も返さず、無言のままシャルルに斬りかかる。
動揺しながらも、シャルルは素早く飛びのこうとする。が、一夏の反応の方が早かった。
開幕直後にしたように、その身を回転させると、一夏の足がシャルルを蹴り飛ばす。
「シャルル!」
その時、ようやく追いついたラウラがプラズマブレードを振るうが、それよりも早く一夏が雪片をラウラの身に突き立てる。
続けざまに、ショートブレードが振るわれ、ラウラの身体が大きく傾く。そして、その機体にも紫電が走り、IS強制解除の兆候を見せ始めた。
(なんなのだこれは!)
自身の敗北が迫る中、ラウラは目を覆っていた眼帯をむしり取る。
もはや、これまでの鍛錬を、そして戦いの過程をまるっと無視するかのような一夏の動き。
別人が操縦していると言われた方がまだ納得が出来るほどだ。
「一夏さん?」
白式に自身の機体を寄せながら、セシリアが問いかける。
「一夏さん!」
一度目の問いかけでは反応しなかった一夏の肩を軽くゆすりのぞき込む。
眠りから目覚めたように目を瞬かせ、周囲をきょろきょろと一夏が見渡す。
「……今のは」
「大丈夫ですか?」
鈴に対しては零落白夜を使い取り乱していたが、今はエネルギーの残量もあって使わなかったのだろう。
ゆえに、取り乱した様子はない。が、困惑しているのはそのままだ。
「今は戦いに集中しましょう。話なら後で嫌と言うほど聞かせていただきますから」
「……ああ。わかってる」
追撃が無いのが不思議だったが、ラウラとシャルルの様子を見れば納得もいく。
すでにラウラはエネルギーがいつ尽きてもおかしくない状態だ。
シャルルはまだ余裕はありそうだが、そこまで多くはないだろう。
「俺のエネルギーは一割もない。お前は?」
「武装に回す分を考慮すればわたくしも似たようなものですわ」
なら、と雪片をラウラに向ける。
「コレが最後の勝負だな」
言い切ると、一夏はセシリアの返事を待たずに機体を奔らせた。
ちょっと長くなりまくったので前後編に別けます…
そして僕はハサウェイの4DXを見に行くので三連休中の更新はどうなるか…って感じなのでご容赦を