ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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決勝戦・終

(エネルギーが尽きかけている私を狙う──私が同じ立場でもそうしただろうな)

 

 迫る一夏を前に、ラウラが苦笑いを浮かべる。

 

『退いてラウラ! 二人は僕が!』

 

 シャルルからの通信に、ラウラは口元を緩める。

 頼りなかった少女が、なんとも頼もしくなったものだ、と。

 

『どれくらい粘れるかわからないが、一夏を食い止める。……私の事を思うならセシリアを早めに倒す事だな』

 

 シャルルに通信を返しながら、自身の敗北は避けられないものだと、分かっている。

 今現在、こうして機体が浮いている事すら奇跡なのだ。

 もはや、どの様な攻撃であっても受けてしまった瞬間、エネルギーが尽きるだろう。

 

(あの状態が何なのかはわからないが、常に使えるようになれば教官の様に世界の頂すら狙える操縦者になるのだろうな)

 

 一夏が迫るのが妙にゆっくりに感じる。

 時間が引き延ばされ、ラウラの周りから音が消えたような感覚。

 

(一夏が、教官の様な素晴らしい操縦者になることは喜ばしい事だ)

 

 一夏を守るというのも教官に対する恩義から来ていた。

 けれど、ラウラが守らなくても十分なほどの力量を一夏は示した。

 

──それなのに、心の底から喜べないのはなぜだろうか。

 

「ふっ!」

「くっ!」

 

 上段から振り下ろされる雪片をプラズマブレードで受け止める。

 が、右手の装甲が軋み、弾けた。

 

(AIC──はエネルギーが足りん、か)

 

 限られた状況下でも、ラウラは今の状況での最善手を選ぶ。それだけの技量を彼女は持っていた。

 

「チッ!」

 

 後退するラウラに距離を詰めようと一夏の出鼻を挫く様に、レールカノンが放たれる。

 それを一夏は身をよじって躱す。

 あと一撃。それを両者ともに当てる事が出来ない。

 

「笑ってる……」

 

 そう呟いたのは観客席の誰だっただろうか。

 死闘とも言える戦いの中で、一夏の顔には笑みが浮かんでいた。

 

「ラウラアアアアアアアアア!」

 

 喉が張り裂けそうな程に声を張り上げ、今日何度目かの突撃を一夏は行う。

 それをラウラは幾度も繰り返してきたことをなぞるように、迎え撃つ。

 ここまでの戦い、その過程すべてに一夏は納得している訳ではない。それでも──

 

(──今日こそお前を倒す!)

 

 その思いだけが、ただひたすらに一夏の背中を押していた。

 

(視えすぎるのも、困ったものだな……)

 

 眼帯を外した左目は、一夏の動きを正確に追い続ける。

 故に満身創痍の状態でも、ラウラは攻撃を凌ぎ続ける事が出来ていた。

 

(教官の太刀筋と、ここまで似るものなのか)

 

 それは羨望だ。

 かつて、どうしようもないほどの落ちこぼれだった自分を救ってくれた千冬に、ラウラは憧れた。

 

──否、それは憧れと言い切るには足りない感情だ。

 

 けれど、その想いは捨てた。自分は、千冬とは違うのだと、そう思っていた筈だ。

 それなのに──

 

(──一夏。お前は、教官の様になれるのか)

 

 それは嫉妬だ。

 こうなりたい。この人の様になりたい。

 その想いは捨てた筈だった。どれほど積み重ねたとて、同じ道は歩けないと悟ってしまったから。

 なのに、一夏はその道を歩こうとしている。

 

(なんと──忌々しい……!)

 

 心の底に、黒い感情が首を擡げるのをラウラは自覚した。

 

『……願うか? 汝、自らの変革を望むか……? より強い力を欲するか……?』

 

 ドクン、とラウラの中で何かが嘯く。

 なんだこれは、と思うよりも早くラウラは無意識の内に頷こうとして──

 

「ラウラ!」

 

 シャルルの声にラウラの意識が引き戻される。

 眼前に迫っていた一夏の剣撃を避けられたのは偶然と言っても良かった。

 

(……何を考えているのだ、私は)

 

 胸の奥に巣食った黒い衝動が、まだ微かに蠢いている。

 それを振り払うように、ラウラは深く息を吸い込んだ。

 

(私は──何を望んでいる)

 

 問いかけた瞬間、視界の端で一夏の姿が揺らめく。

 次の瞬間には、もう目の前に迫っていた。

 

「はあああああっ!」

 

 振り下ろされる雪片。

 その軌道は、千冬のそれと重なって見えた。

 ラウラは残った力を振り絞って機体を捻り、プラズマブレードを軌道に沿わせる。

 火花を散らしながら雪片を受け流し、辛うじて致命傷を避けた。

 だが、避けただけだ。

 反撃する余力は、もうどこにも残っていない。

 

「ラウラ! これ以上は──!」

 

 シャルルの叫びは、戦場には似つかわしくないほど必死で、痛切だった。

 その声にラウラは構う素振りは見せない。

 

(……そうか。私は、こんなにも)

 

 自分でも気づかぬほど深く、千冬と肩を並べて戦いたいと願っていたのだ。

 だからこそ──

 

「まだだ」

 

 ラウラは呟く。

 その声は震えていたが、確かな意志を宿していた。

 

「私は……あの人と共にありたい! 他の何者でもない、ラウラ・ボーデヴィッヒとして!」

 

 一夏の瞳が揺れる。

 その一瞬の隙を、ラウラは逃さなかった。

 機体の外装が軋む。

 

(これが……私の、全てだ)

 

 ラウラは突撃した。

 もはや勝敗など関係ない。

 ただ、自分の想いをぶつけるために。

 

「来い!」

 

 一夏もまた、雪片を構え直し機体を動かす。

 互いの距離が、急速にゼロへと収束していく。

 観客席の誰かが息を呑む音が聞こえた。

 

 そして──

 

 衝突。二つの機影が弾け飛んだ。

 次の瞬間──力を失った様に崩れ落ちたのは、一夏だった。

 雪片が地面に突き刺さり、機体もそれに連なるようにゆっくりと地表に落ちていく。

 対してラウラの機体も限界寸前だったが、まだ辛うじて動けてはいる。

 

「……織斑機! シールドエネルギーゼロ!」

 

 アナウンスが響いた瞬間、観客席は一瞬静まり返り──次いで爆発するような歓声が巻き起こった。

 ラウラは勝利の実感よりも先に、崩れ落ちそうな身体を必死に支えながら、一夏へと機体を動かす。

 

「……おい。シャルルの援護は良いのかよ」

「どのみち、戦えるだけのエネルギーは残っていない。邪魔になるだけさ」

 

 一夏の機体を抱え込むと同時に、ラウラのシールドエネルギーが尽きるのを視界の端で確認した。

 

「……やっぱり、強いな。ラウラは」

 

 一夏はゆっくりと顔を上げ、ラウラを覗き見る。

 悔しさもあるが、やり切れた、その感情の方が一夏は強く抱いていた。

 

「お前も強くなった……」

 

 絞り出すようなラウラの声。

 

「やはり、あの方とお前は姉弟だな。今日の戦いでよく分かったよ」

 

 勝ったはずなのに、なぜか涙が出そうだった。

 

「お前は──教官と同じ道を歩んでいる」

 

 私とは違って、とラウラは声に出さず内心で呟く。

 

「同じ道?」

 

 一夏が目を瞬かせる。

 

「そうだ一夏。お前は、あの人と同じ強さを持っている」

 

 一夏は素直に受け入れてはくれないだろう。

 だが、ラウラもそれは同じ想いだ。

 誰がなんと言おうと、千冬と一夏は同じ強さを持っているのだ、と。

 

「……でも、千冬姉ならお前に負けねえだろ?」

「ふ。当然だ。……鍛えがいがあるな」

 

 冗談めかして伝えると、一夏が「うげ」と声を漏らす。けれど、すぐに顔を引き締める。

 

「望むところだよ」

 

 拳をぶつけ合い、地表にたどり着く。

 上空で未だ行われているシャルルとセシリアの戦いを見ながら、ラウラの胸の奥ではまだ、あの声が微かに蠢いていた。

 

『……汝、さらなる力を望むか……?』

 

 ラウラは目を閉じ、静かに息を吐く。

 

(私は……もう迷わない)

 

 その決意が、黒い声を押し返す。

 だが、その存在が消えたわけではない。

 ラウラの勝利は、同時にナニか(・・・)の目覚めでもあった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 ラウラと一夏の激突が終わり、観客席が揺れるほどの歓声を上げる中。

 その裏で、まだ決着のついていない戦いがあった。

 セシリアとシャルル。

 セシリアのシールドエネルギーは残りわずか。

 対して、シャルルのエネルギーはまだ余裕がある状況だ。

 だが、セシリアの瞳にはまだ戦意が宿っていて、シャルルも余裕だとは思っていない。

 

「行くよっ……!」

 

 シャルルの手が光ると、そこには身の丈ほどのシールドが握りしめられる。

 

「来ますわね! でも!」

 

 セシリアもまた、迎え撃つ構え。

 レーザービットを飛ばすだけのエネルギーは底をついている。

 

「僕はみんなみたいにどうしてもって思いはない……でも!」

 

 シールドエネルギーがまだ余裕な事で、多少無理をしてでも距離を詰めようという事だろう。

 本来は、距離をさらに空けて戦うのが定石。

 だが、セシリアは逃げなかった。

 退けば、どこまでも泥沼になる。その戦いの先にセシリアの勝利はない。

 ならば──

 

「正面から受けて立ちますわ!」

 

 セシリアは愛銃を構え、照準をシャルルへと合わせた。

 ブルー・ティアーズの残存エネルギーはもはや風前の灯火。

 愛銃もあと何発撃てるだろうか、というところだろう。

 

(でも……わたくしは逃げませんわ) 

 

 シャルルの瞳は揺れていなかった。

 あの、いつ見ても不安げだった気弱な少女が、今は戦士の目をしている。

 

(……一晩で、こうも変わるものですか)

 

 セシリアは微笑む。

 昨日のままならば、楽に勝てたという悔しさ。

 それと同時に、この彼女と戦うことが出来る満足感。

 その二つが入り混じった複雑なものだった。

 

「そこ!」

 

 声を張り上げ、引き金を引く。

 同時に、シャルルが弾かれたように駆け出した。

 

「──ッ!」

 

 セシリアから放たれた光条はシャルルの身に正確に飛翔する。

 けれど、シャルルは意に返さず突き進む。

 

「まだですわ!」

 

 レーザービットを飛ばすエネルギーはない。

 飛ばしても、レーザーを放つだけのエネルギーを籠められないからだ。 

 だが、ミサイルビットなら。

 実弾がゆえに、エネルギーはそこまで必要としない。

 

「行きなさい! ブルー・ティアーズ!」

 

 腰の装甲が跳ね上がると、ミサイルビットが意思を持った生き物の様にシャルルに殺到し、その身を食い破らんと炸裂した。

 

「……っ!」

 

 近距離での爆発に、爆風が機体を揺らしシールドエネルギーが一気にゼロに向かって落ちていく。

 視界が揺れ、機体が傾く。

 それでも、セシリアは必死に空を見上げた。

 煙の向こうから現れたのは──

 

「デュノアさん……」

 

 ボロボロになりながらも、まだ浮いているシャルルの機体だった。

 

「僕の……僕たちの勝ちだ!」

 

 震える手を必死に持ち上げ、それでも幾度も見せつけられた瞬きの瞬間にシャルルの手にサブマシンが形成され、引き金を絞った。

 最早、動くことが出来ないセシリアは、待っている結末から目を背けないように、ただただシャルルを見続ける。

 

「オルコット機、シールドエネルギーゼロ! 勝者、ボーデヴィッヒ・デュノアペア!」

 

 響いたアナウンスを聞きながら、セシリアは静かに目を閉じた。

 

(……負けましたのね、わたくし)

 

 胸の奥がじんと熱くなる。

 悔しい。でも、それ以上に──

 

(デュノアさん……本当に、強くなりましたわね)

 

 機体がゆっくりと降下していく。

 シャルルだけじゃない、一夏もラウラも、トーナメントに参加したすべての生徒が強くなった。

 

(わたくしも……もっと強くならなくては)

 

 地上が近づく。

 戦いは終わった。が、胸の奥にともった火はまだ消えていなかった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 地上に降り立ったセシリアは、まだ胸の奥が厚く、呼吸が整わなかった。

 敗北の悔しさ。

 戦い切った充実感。

 その全てが胸の中で渦巻いていた。

 

「大丈夫か?」

 

 セシリアに駆け寄ってきた一夏も、すでに白式が解除されている。

 展開を維持していられないほどに、追い込んでいたのだろう。

 セシリアは少しだけ、視線を逸らす。

 

「……申し訳ありません。負けてしまいましたわ」

「そんなことねえよ。すげえ戦いだった」

 

 一夏は迷いなく言い切った。

 その言葉に、セシリアの胸が少しだけ軽くなる。

 

「あなた、本当にそう思っていて?」

「思うさ。全員が最後まで諦めなかった」

「でも……だからこそ、悔しいですわ」

 

 セシリアは素直に言った。

 その声は震えていたが、誤魔化さなかった。

 

「俺も強くなりたいよ。──お前の横に立てるくらいに」

 

 セシリアは少し驚いたように目を瞬かせ──そして、優しく笑った。

 

「なら、練習あるのみですわ。──厳しくいきますわよ?」

 

 その言葉に、一夏が顔をしかめる。

 

「ラウラにも鍛えがいがあるって言われたんだよな……」

 

 この先がちょっと恐ろしくなる一夏。

 と、セシリアが頬を膨らませているのが目に映る。

 

「他の女性の話をしないでくださる?」

「お前、この空気でもそれを言うのか!?」

 

 しまらねえな、と一夏は大きくため息を吐いた。




ハサウェイの4DX良かったですねえ…
最後にセシリアにミサイルを使わせたのはその影響が100割ほどあります……
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