ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
「「「ボーデヴィッヒさん! デュノアくん! 優勝おめでとう!」」」
そんな言葉と共に始まった、祝勝会。
表彰式などは最終日に行われるが、一年生の部は今日の決勝をもって終了。
と言う訳で、一組のメンバーを中心に、食堂で打ち上げが行われている。
あのラウラですら、うっすらと笑顔を浮かべている中で一夏だけが面白くなさそうにテーブルに肘をつき、手のひらに顔を載せていた。
「何を不貞腐れているのですか。及ばなかったのはわたくし達の力が足りなかったからですわ」
「いや、そこはわかってるし、勝敗自体に文句はねえよ」
けどな、と一夏が続ける。
「なんで俺が軽食類の準備をしてるんだって話だよ」
前は、親睦会と言う名目だから理解は出来た。
けれど、今回は自分を負かした相手に作るのが一夏としては面白くなかったらしい。
「いーじゃんいーじゃん!」
「それに、デュノアくんのお願いでしょ?」
口々に言ってくるクラスメートに一夏はやれやれ、と肩をすくめる。
優勝したら言う事を聞く、と言うのは鈴や箒との約束だったが、どうやら全生徒に適用されているらしかった。
「ごめんねえ、一夏」
「……セリフと表情が合ってねえぞオイ」
にこやかに言ってくるシャルルに一夏は「やっぱちょっと恨みこもってるだろ」と軽く睨む。
とはいえ、昨日まではぎこちなかったのが、気安く話せるようになったのは嬉しい事だが。
「で、ラウラは一夏に何をお願いするの?」
一夏の作ったサンドイッチをつまみながら鈴が嘯く。
どうか厄介な──毎日の訓練時間を倍にするとか──お願いじゃありませんように、と一夏が半ば真剣に祈る。
「そうだな……。ならば、ちょっと付き合ってもらうか」
少しだけ悩んだ後、何かを思いついたように手を叩く。
付き合う、と言う言葉に周りが俄かに盛り上がったが、一夏は苦笑いと共に口を開く。
「毎日の鍛錬に付き合えとかか?」
「それもあるが、私もコーヒーを淹れてみたくてな」
それもあるのか、というツッコミはさておき、ラウラの言葉に一夏が少しだけ身を乗り出す。
「それはアレか。千冬姉に飲んでもらいたいってことか」
「その通りだ」
とんでもないお願いならどうしよう、と一夏は思ったがこの程度のお願いなら断る理由はない。
ただ、ラウラはコーヒーはそこまで得意じゃなかった筈、と記憶していた。
「千冬姉が好きなブレンドだとめちゃくちゃ苦いんだよなあ……。お前、ちょくちょく挑戦しては挫折してなかったっけ?」
「……見てたのか」
直接、一夏のブレンドを飲んでいた訳ではないが、食事に付いてくるセットのドリンクを何回かブラックコーヒーにして飲んでは、文字通り苦い顔をしていたラウラの姿を思い出す。
それを指摘すると、ラウラは珍しくバツの悪そうな顔をする。
「俺の考えたブレンドでラウラが淹れるのもなんかな……作るときにお前が飲まないのは違うし……」
「……私が飲めないものを教官に出すわけにはいかんだろう?」
ラウラは真面目な顔で言うが、ブラックが苦手なことをバラされたからか、その耳はほんのり赤い。
普段、あまり見せないラウラの様子に周囲の女子たちが「かわいい」と小声で盛り上がるのを、一夏は聞こえないふりをした。
「まあ、挑戦する気があるなら手伝うけどさ。味見はどうすんだよ。ブラック苦手なんだろ?」
「……そこは、慣れる」
「根性論かよ」
思わずツッコミを入れると、ラウラはむっとした表情で胸を張る。
「私は教官の厳しい訓練を乗り越えて今がある。苦味程度、克服してみせる」
「いや、関係ねえだろそれ」
そんな二人のやり取りに、シャルルがくすりと笑う。
「でも、ラウラが淹れたコーヒー、織斑先生は喜んでくれると思うな」
「……そうだといいが」
ラウラは少しだけ視線を落とし、指先で紙コップを弄んだ。
その仕草が普段の自身に満ち溢れているラウラの姿とは対照的で、一夏は思わず目を細める。
「じゃあ、豆はこっちで用意するから、日曜日にでもやるか。……案外、何も知らない人が作るブレンドも、新しい発見があるかもしれないしな」
「恩に着る。一夏」
気にする事はない、と一夏は手をひらひらと振る。
セシリアとは土曜日に出かけるとして、そこで豆も調達すれば良いだろう。
と、一夏とラウラが話している横で、セシリアがふと箒の手元に目を向けた。
そんな騒がしさの中、セシリアがふと箒の手元に目を留めた。
「箒さん、飲み物はまだありますか?」
「ん? ああ、さっき飲み終わったところだが」
突然、話題を振られたことに怪訝そうな箒。
そんな箒の視線に気にした風もなく、セシリアはティーポットにお湯を注ぐ
「でしたら、これをどうぞ」
少しだけ時間をおいて蒸らした液体を紙コップに注ぐ。
中には淡い琥珀色の液体が揺れている。
「これは……紅茶か?」
「正確には和紅茶ですわ。日本の茶葉を使った紅茶で渋みが少なく、香りも柔らかいので、箒さんも気に入ると思いまして」
「へぇ……気が利くじゃん、セシリア」
鈴が感心したように言うと、セシリアは胸を張った。
「当然ですわ。わたくし、クラスメートの嗜好くらい把握しておりますもの」
「……私の好みなんて話した覚えはないが」
むっつりとどこか拗ねた様子の箒に、セシリアはにこやかに言葉を重ねる。
「話していなくても、見ていればわかりますわ。箒さん、食堂ではいつも緑茶かほうじ茶を選んでいますでしょう? なら、和紅茶もお口に合うはずですわ」
箒は少し驚いたように目を瞬かせた。
「……そうか。じゃあ、いただくとしよう」
紙コップを受け取り、一口。
箒の表情がわずかに緩む。
「……飲みやすいな。紅茶ってもっと渋いものだと思っていたが」
恐る恐る、といった様子で紅茶を一口含んだ箒だったが、思いの外飲みやすかったのか、ふっと表情を緩めた。
「でしょう? わたくしのお気に入りの一つですもの」
セシリアは満足げに微笑む。
その横顔は、自分の好きなものを誰かに共有できた喜びに満ちていた。
「……セシリアが日本の紅茶を勧めてくるとはな」
箒が素直に言うと、セシリアは少しだけ肩をすくめた。
「わたくし、紅茶は国にこだわりませんのよ。美味しいものは美味しい、ですわ」
「そうか。……確かに、これは美味い」
箒がもう一口飲むと、セシリアの表情がさらに柔らかくなる。
「箒さん、もし気に入ったのなら、今度茶葉をお分けしますわ」
「いいのか?」
「もちろんですわ」
「……ありがとう。じゃあ、遠慮なくもらう」
セシリアの言葉は自然で、押しつけがましくない。
箒もそれを素直に受け取ったようで、ほんの少しだけ頬を緩めた。
その横で鈴が肘で一夏をつついた。
「ねえ一夏。アレ、絶対アンタの影響でしょ」
「まあ、そうだな。……俺がコーヒー派を増やそうとしているのが気に食わんのかもしれん」
一夏が割と本気で言っているのを聞きながら、箒がくすりと笑った。
「ありがとう、セシリア。気に入ったよ……コーヒーより紅茶派だな、私は」
祝勝会は、そんな温かい空気に包まれながら、さらに賑やかさを増していくのだった。
三連休にハサウェイを観に行き、帰りにコーヒー豆を補充した際に和紅茶を見つけ、飲んだら気にいった男です。