ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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転校生?

 翌日、決勝戦を終え、祝勝会まで行ってしまったからか、すでにトーナメントは終わったかのような気配が一組には漂っている。

 一応、二年生と三年生の部の試合は残されているが、実際に参加する競技は残されていないので、仕方がない面はあった。

 

「あれ? デュノア君はまだ来てないの?」

 

 予鈴が鳴り、各々が自席についたところで、相川が一夏に声をかける。

 

「ああ、なんか用事でもあるんじゃないか? 食堂で飯は食ってたらしいけど」

 

 何でもない様子で一夏は返事を返すが、大会後に偽っていた性別を報告すると言っていたから、それで遅れてくるのだろう、と思っていた。

 てっきり、三年生の部まで終了してから、と思っていたが今日やるらしい。

 

「みなさん、おはようございます」

 

 ほどなくして、真耶が教室に入ってくる。

 結局、シャルルはホームルームが始まる前に教室にやってくることはなかった。

 この後、シャルルが紹介されるだろうが、騒ぎになるだろうなあ、と一夏はどこか他人事の様にぼんやりと思う。

 

「今日は、ですね……皆さんに転校生を紹介します。いや……転校生と言いますか、すでに紹介は済んでいると言いますか……」

 

 真耶のセリフにざわつくクラスメート。

 その様子を見ながら、無理もないと一夏は思う。

 五月にラウラ、そしてこの六月にシャルルときて、このタイミングでさらに転校生が来ると言われたら、自分も同じ様な反応を示すのは想像に難くないからだ。

 

「じゃあ、入って下さい」

「失礼します」

 

 真耶の声に促され、応える声。

 聞き覚えのある声に、クラスメートざわつきが先ほどは違う気配になる。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 ぺこりと、女子用の制服に身を包んだシャルル──もといシャルロットが頭を下げる。

 今まで、男子用の制服しか着ていなかったから中世的、という言葉で済んでいたがこうしてみると女子としか思えない出で立ちだ。

 

「ええと、なので、デュノア君は、デュノアさん……でした」

 

 あはは、とどこか誤魔化す様に笑う真耶。

 おそらく、真耶も本当の性別を知らされていただろうが、この紹介は無理があると思っていたのだろう。

 そしていよいよもって、ざわつきだけで済んでいた喧騒が、明確な声となって現れた。

 

「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけね!」

「って、織斑君、同室だから知らないって事は──」

「──どうなのだ、一夏!」

 

 席を立ちあがって、びしっと一夏に指を突きつける箒。

 一応、ホームルーム中なのだが良いのだろうが、といつの間にか後ろの扉から入っていた千冬に視線で問いかける。が、千冬は小さく頷くだけだ。

 ある程度説明してやれ、そういう意味と受け取った一夏は箒に身体を向ける。

 

「初日の段階で気付いてはいたぞ。俺だけじゃなくて、セシリアとかラウラ……後は鈴なんかも」

 

 あっけらかんと言ってやると、箒は素直に納得した……という事はなく、なおも食って掛かる。

 

「お前、それを知っていながら数週間にわたり女子と同室で過ごしていたというのか!?」

 

 まあ、その怒りは尤もだよなあ、と一夏はわかったように頷く。

 この年頃の男女が同室で何日も過ごすのは不味いだろう、と。

 もっとも、箒はその想いで言っている訳ではないのだが、あいにくと一夏には伝わっていなかった。

 

「一応、織斑先生には相談して、その上で過ごしてたよ。……男女の関係は全くと言っていいほどなかったしな」

 

 それに、と一夏は言葉を続ける。

 

「ぶっちゃけ俺とシャルル、ちょっと仲悪い感じだっただろ」

 

 苦笑交じりに吐き出された一夏の言葉に、箒だけじゃなくクラスメートも「ああ」と妙に納得した様に声を漏らす。

 思い返せば、二人の間に妙な距離感があったが、それは性別の違いからくるものか、と。

 と、教室の後方から、教壇に移動していた千冬が自身に注目を集めるように手を叩く。

 

「篠ノ之、織斑。その辺りにしておけ。──デュノアは事情があって性別を偽っていた。諸君らも、これ以上の詮索はしないでもらいたい」

 

 千冬に言われてしまえば、他の生徒もこれ以上、彼女に追及する事は出来ないだろう。

 シャルロットに目を向ければ、彼女も肩の荷が軽くなったのか、いつもより穏やかな表情だ。

 

「さて、一学年のトーナメントは終了したが、上級生の部は本日も開催される。なんとなくで観戦せず、自身の糧にして欲しい」

 

 千冬の一言で、緩かった空気が引き締まったものに変わる。

 

「それに、来月は校外学習も始まる。気の抜ける時期だが、諸君らにはIS学園の生徒としての自覚を持った行動を期待する」

 

 以上だ、と締めた千冬と真耶が教室を去る。

 詮索はするな、と釘を刺されたからか、二人が去ってもどこか緊張感が場を支配している中で、最初に動いたのはセシリアだった。

 

「改めて、よろしくお願いいたしますわ、シャルロットさん」

 

 あえて名前呼びをセシリアがすると、シャルロットも笑顔を浮かべて返す。

 

「うん。こちらこそ改めてよろしく、セシリア」

 

 二人の様子を見て、クラスメートからも徐々に緊張が抜けてくるのを感じる。

 この流れに乗っかるか、と一夏も口を開く。

 

「ラウラの部屋に引っ越したんだよな? いじめられてないか?」

「大丈夫だよ。一夏と一緒の部屋より気楽かな」

「そりゃ何よりだ」

 

 一夏が肩をすくめて見せると、シャルロットも気安げに笑う。

 

「ただ、毎朝飲んでた目覚めのコーヒーがないのがちょっと残念かな」

「そいつは俺と同室のヤツの特権だからな。諦めろ」

 

 と、いつの間にか近くまで来ていたラウラが口を挟む。

 

「シャルロットはコーヒーが飲めるのか……羨ましいな」

「まあ、苦みの少ない水出しだからな。苦いのが無理ってヤツでも飲みやすいんじゃないか」

「織斑先生用にって作ってるブレンドは流石に……ね」

 

 千冬はすっきりとしたブレンドより、苦みや豆の存在感を強く感じるブレンドが好みだ。それを十代の女子が飲むのは抵抗があるだろう。

 逆に、一夏は酸味があり、すっきりとした水出しコーヒーを好んでいるから、シャルロットも抵抗なく飲めていた。……一夏もせっかくなら同室の人間に飲ませたい、と実は苦みを抑えたブレンドを試してたりしてたが。

 

「ねえ、一夏。ちょっといい?」

「ん? どうした、シャルロット」

 

 呼び方をシャルロット(・・・・・・)にしたが、良いだろうかと一夏は束の間思うが、ほかならぬシャルロットが一夏呼びをしたままだから良いか、と深く気にする事は止めた。

 それに今の彼女は嫌なら嫌と言えるだろう、と。

 

「えっと……その……今日、女子として初めてクラスに来たわけだけど……」

「うん」

「……変じゃなかった?」

 

 一夏はぽかんとした顔をした。

 

「変って……何がだ?」

「その……制服とか……。昨日まで男子だったのに、急に女子になったから……」

 

 言葉を選ぶように、視線を泳がせるシャルロット。

 その様子に、一夏はようやく彼女が不安を抱えていることに気づいた。

 

「変じゃねえよ」

 

 一夏は即答した。

 

「むしろ……なんていうか、しっくりきてる。前より自然だと思うぞ」

「……ほんと?」

「ほんとだって。俺だけじゃなくて、みんなもそう思ってるさ」

 

 彼女も乗り気で男装をしていた訳ではなく、仕方なくやっていたのだ。

 どうしたって不自然さはぬぐい切れていなかった。

 なあ、と一夏が声をかけると示し合わせたかのようにクラスメートが揃って頷きを返す。

 その様子に、シャルロットは胸に手を当て、ほっと息をついた。

 その仕草が、昨日までの|シャルル<・・・・>のままでは見せなかったほど柔らかい。

 

「……ありがとう、一夏」

「お、おう。どういたしまして……なのか?」

 

 なぜか礼を言われて戸惑う一夏。

 そんな彼の反応に、シャルロットは小さく笑った。

 

「ねえ、一夏」

「ん?」

「今日の放課後……少しだけ時間、もらってもいい?」

「別にいいけど。何かあるのか?」

「うん。ちょっと……話したいことがあるんだ」

 

 その言い方は、どこか含みがあった。

 だが、一夏は深く考えずに頷く。

 

「わかった。じゃあ、終わったら屋上で待ってるよ」

「……うん。ありがとう」

 

 シャルロットは嬉しそうに微笑んだ。

 その笑顔を見て、周囲の女子たちが「きゃーっ」と小さく盛り上がる。

 

「ちょ、ちょっと待て! 今の何!?」

「距離近くない!?」

 

(流石に、今までのやり取りであいつに好かれる要素はないよ……な?)

 

 とんでもない目線でセシリアに睨まれているが、一夏はシャルロットに何を言われるのだろう、とただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 放課後のチャイムが鳴り終わる頃には、シャルロットが性別を偽っていた事で起きていた喧騒も少しずつ落ち着き始めていた。

 一夏は約束通り、屋上のベンチに腰を下ろして待っていた。

 風が心地よく、昼間の熱気を少しだけ冷ましてくれる。

 

「……待たせた?」

 

 控えめな声が背後から聞こえ、一夏が振り返ると、シャルロットが立っていた。

 昼間よりもどこか落ち着いた表情で、けれど緊張が隠しきれていない。

 

「いや、今来たところだよ……同じ時間に終わってんだから嘘じゃねえぞ?」

 

 そう言うと、シャルロットはほっとしたように微笑み、一夏の隣に腰を下ろした。

 しばらく、二人の間に静かな時間が流れる。

 

「……ねえ、一夏」

「ん?」

「今日、話したかったことなんだけど……」

 

 シャルロットは膝の上で指を絡め、少しだけ俯いた。

 

「……織斑先生のこと。先生には、本当に感謝してるんだ」

 

 一夏は黙って耳を傾ける。

 

「僕が……性別を偽って学園に来たこと。本当なら、もっと大きな問題になってもおかしくなかったのに……織斑先生は、責めるどころか、僕の事情を理解してくれた。それどころか守る(・・)って言ってくれた」

 

 その言葉を思い出したのか、シャルロットの表情が柔らかくなる。

 

「だから……今日、ちゃんと女子としてクラスに立てたのは、織斑先生のおかげなんだ」

「……そうか」

 

 一夏がそう言うと、シャルロットは小さく笑った。

 

「うん。でもね……感謝してるのは、それだけじゃないの」

 

 シャルロットは一夏の方へ向き直る。

 その瞳は真剣で、逃げ場を与えないほどまっすぐだった。

 

「一夏……今まで、本当にごめん」

「は?」

「僕……バレてからも同室で過ごして、一夏に助けられて……それなのに、ずっと何も言えてなかった」

 

 一夏は少し驚いた顔をしたが、すぐに苦笑いを浮かべた。

 

「おいおい。俺のやってきた事のどこに感謝される要素があるんだよ……むしろ謝らなければいけない事の方が多いぞ」

 

 それは一夏の偽らざる本心だ。

 だが、シャルロットはその言葉に首を振る。

 

「違うよ。僕の事を本当に追い出したかったら、先生に言えば済んだ。織斑先生と話した時に、『僕に迫られた』って言えばそれで終わった。……けど、一夏はそれをしなかったでしょ?」

「何もないのに、何かあったことにするのが面倒だったんだよ、俺は」

 

 ぶっきらぼうに呟く一夏に、シャルロットは思わず笑みを浮かべる。

 ラウラに謝った時も、彼女もこんな風に誤魔化していたな、と。

 

「むしろ、あの環境でよく頑張ってたよお前は」

 

 一夏とラウラに立て続けに責められ、鈴がいたとはいえ周りは敵だらけに思えた筈だ。

 それなのに、シャルロットはある程度違和感を抱かれつつも、それでも過ごし切れていた。

 その言葉に、彼女は目を見開き、そしてゆっくりと笑った。

 

「……ありがとう。一夏にそう言ってもらえると……すごく、救われる」

「大げさだな」

「大げさじゃないよ」

 

 シャルロットは首を横に振り、一夏の方へ少しだけ身体を寄せた。

 

「これからは……ちゃんとシャルロットとして、一夏の、みんなの隣にいたいんだ」

 

 一夏はその意味を深く考えず、ただ頷いた。

 

「まあ、これからもよろしくな。シャルロット」

「……うん。よろしくね、一夏」

 

 夕陽が傾き、二人の影が長く伸びる。

 シャルロットの表情が落ち着いたところで、一夏はニヤッと笑った。

 

「なんかさ……今の話だけ聞くと、告白されてるみたいなんだが」

「──っ!」

 

 シャルロットの肩がびくりと跳ね、一瞬だけ顔が赤くなる。

 だが、すぐに深呼吸して落ち着きを取り戻した。

 

「……もう、一夏はそういうこと言うんだから」

「いや、だって雰囲気がマジな感じだったし」

「真剣なのは当たり前だよ。大事な話だったんだから」

 

 シャルロットは頬を軽く膨らませてから、ゆっくりと首を横に振った。

 

「でも……違うよ。一夏」

「ん?」

「僕……一夏に感謝してるし、信頼もしてる。でも、それは恋とか、そういうのじゃない」

 

 だって、とシャルロットは言葉を重ねる。 

 

「うん。だって……一夏は、僕にとって特別ではあるけど……それは、恋じゃなくて……もっと、別の意味での特別」

 

 言葉を探すように、シャルロットは胸に手を当てる。

 

「一夏は、僕が僕でいられるようにしてくれた。シャルルでも、シャルロットでもなく……ただの()として扱ってくれた」

 

一夏は黙って聞いていた。

 

「だから、一夏に嘘をついてたことを謝りたかったし……感謝の気持ちをちゃんと伝えたかったんだ」

 

シャルロットは柔らかく微笑む。

 

「でも、それと恋は別だよ、一夏。僕は……今はまだ、誰かを好きになる余裕なんてないし」

「そっか」

 

 一夏はベンチの背もたれから大げさに滑り落ちる、恥ずかしさを誤魔化す様に。

 

「……これ、めっちゃ恥ずかしいヤツじゃないか? 自信満々に『俺の事好きなんじゃないか?』とか言っておいて実は違いましたって」

 

 一夏の言葉に、シャルロットは呆れたように笑う。

 

「でも……一夏はモテる方だと思うよ」

 

 過去には鈴。今はセシリアに箒。

 シャルロットが知っている限り三人から好意を寄せられていたのだから、相当だ。

 言われた一夏は、けれど相変わらずふてくされた様に、わざとらしく口をとがらせている。

 

「……大きなお世話だ」

「ふふっ」

 

 風が吹き、シャルロットの髪が揺れる。

 その横顔は、恋ではないと言いながらも、確かに一夏を信頼している表情だった。

 

「これからも……友達として、よろしくね。一夏」

「おう。こっちこそよろしく、シャルロット」

 

 その言葉に、シャルロットは満足そうに微笑んだ。

 




と言う訳で、シャルのヒロインルートは折りました(今のところは)
本作でも「俺が守る」宣言をしていればあるいは、でしたがそれは千冬姉に任せる事にしました
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