ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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臨海に揺れる心と波

 時は流れ、校外学習もとい臨海学校の日を迎えていた。

 初日は自由時間に当てられている事もあり、ほとんどの生徒はテンションがいつもより高くなっているほどだ。

 

「一夏、なんかテンション低くない?」

「……そんな事はないが?」

 

 移動するバスの左隣の席に座る一夏の様子にシャルロットは首を捻る。

 とはいえ、一夏は元々大騒ぎするようなタイプではないのだが、それにしてもいつもより覇気が無いように感じられた。

 

「大方、この三日間はコーヒーを淹れられないとかそんなところでしょう」

 

 通路を挟んだ隣の席から、セシリアの呆れた様な声。

 その隣、窓側の席に座っているラウラも同じ様に呆れた様な表情を浮かべていた。

 

「まあ、三日間の辛抱だな。……あとは、宿のコーヒーが口に合うことを祈ってるよ」

「ホテルじゃなくて、旅館だからどうだろうね」

 

 言いつつ、シャルロットは口に合ったところで、ブレンドを試せないのが不満なのだから同じことだろうに、と思ったがあえて口にはしなかった。

 と、一夏が話題を変えるように旅のしおりを開いて予定を指さす。

 

「この実習の目的って装備のテストなんだよな?」

「そうだね。僕ら専用機持ちは専用パーツをテストする感じだね」

 

 セシリアは高機動用の装備を。

 ラウラは砲戦特化装備を。

 そして、シャルロットは防御パッケージを。

 鈴も他の三名と同様に本国から専用装備が送られており、それを試す予定だった。

 

「俺、どうなるんだ?」

「あー……」

 

 一夏の最もな疑問に、シャルロットは言葉を失う。

 言われてみれば、一夏の装備は刀一本で、拡張領域(バススロット)にも空きがないため、装備をする事が出来ない。

 だから、何をテストすればいいんだろう、と。

 

(それもテンションが低い理由かあ)

 

 他の専用機持ちは新しい装備のテストがあるが、一夏はそれが出来ない。

 確かに、これでテンションを上げろ、と言うのは難しいだろう。

 

「一夏はさ、他の武装を使うつもりはないの?」

「手持ちで銃とか使おうと思ったんだけど、俺には使えないって結論になった」

 

 銃本体に加え、弾薬類も手持ちになる。

 それに加え、射撃管制システムもない以上、求められるのは一夏自身の射撃センスだ。

 

「別に、銃に拘る必要は無いと思う。一夏の戦い方は近距離よりももっと近い距離が得意だから、手数を活かせる武器にするとか。それに攻撃じゃなくて防御の為の装備とかもある訳だし」

「ならいっそ、盾を使ってみるのも面白いか」

 

 例えば、タッグマーチトーナメントの決勝の序盤。

 シャルルのショットガンを左腕で庇った動作も盾があれば防ぐことが出来た。

 手で持つというよりは、腕に装着するタイプの盾があるだけでも戦い方は変わりそうだ。

 

「そうだね。盾が一つあるだけで立ち回りの選択肢が増えるよ」

「──実習のテストで使うならともかく、恒久的に使いたいって意味なら私は反対だな」

「わたくしも、ですわ」

 

 通路を挟んだ隣の席からラウラとセシリアの声。

 

「盾があると選択肢が広がるというシャルロットの指摘は同意する。だが、今の一夏ではどっちを選択すればいいか判断する力がない。目的を違える可能性がある」

「一夏さんは、もう少しシンプルな思考に限定した方がよろしいかと。一夏さんのスタイルとしてはあくまでも防御や回避は攻撃に繋げるための手段。攻撃を避ける、防ぐというのが最終的な目的ではありませんわ」

 

 ラウラとセシリアの言葉にシャルロットが頷く。

 

「なら、覚えないといけないのは、当たってもいい攻撃かどうかって判断する力だね」

「はい。一夏さんはもう少し、受けてもいい攻撃を瞬時に判断する力が必要ですわね」

「それに、一夏は守りから戦いを構築するタイプではない。攻撃に攻撃を重ねるスタイルだ。前にも言ったが、攻撃されたらどうしようではなく、攻撃させない為の立ち回りをしろ」

 

 バスの中で始まったIS談議に、前後の生徒も興味津々な様子だ。

 それに気付いたラウラは周りの人にも聞こえるように、と少しだけ声のボリュームを上げる。

 

「一夏に限らず、トーナメントで一般の生徒と戦ってみての所見だが、思考が一本道になる生徒が多い印象だった」

 

 一本道、と言われ一夏は自覚があったのか顔をしかめる。

 ラウラの後ろの席の箒や、その他の生徒もメモを取り出したりしていた。

 

「例えば自分が攻撃を仕掛けた場合、自分の攻撃が相手に当てられた後の立ち回りは考えられている印象だったが、それが避けられたり防がれた場合。それから、相手がカウンターの一撃を狙っていた場合だな。自分の狙いが外れた時の動きが鈍くなるケースが多い」

 

 一夏はどうだった? とラウラが振ると一夏は渋面を浮かべた。

 

「……お前、俺を苛めて楽しんでるだろ?」

 

 はあ、とため息を吐くと不貞腐れたように吐き捨てた。

 

「ご名答だよ。攻撃を当てて、それからの事しか考えていなかった」

 

 一番最初のセシリア戦に始まり、不明機との戦い。そしてタッグマッチでの立ち回り。

 読みが通った場合は優位に戦えていたが、読みから外れた時、覆せるほどの地力は一夏にはなく、苦戦を強いられるケースが多い。

 が、思い返せばセシリアを筆頭に代表候補生たちはそういったところから盛り返す場面もあった。

 

「あらゆる状況で最善手を選ぶためには、選択肢は豊富に持たなくてはならない。そして選択肢を増やすための手段はひたすら経験を積むしか無い」

「前途は長いなあ……」

「そういう意味では、一夏の場合は武器が一つしかないのは良いことだぞ? これで射撃武器に手を出してみろ。大変な事になるぞ」

 

 例えば私だが、とラウラは言葉を重ねる。

 

「私は、万能型(オールラウンダー)ではあるが、どちらかといえば近距離寄りのスタイルだ。だからこそ、選択肢は最低でも四つ程で済む。だが、セシリアはそうはいかん」

 

 ラウラに振られたセシリアは指を折りつつ答える。

 

「そうですわね。わたくしの場合、どの武装を選択するかによりますが……十じゃ足りませんわね。デュノアさんは?」

「僕の場合は近距離から遠距離までの全部の距離で戦うし、他の人より武装が多いからもっと増えるよ。ざっと二十は武装を積んでるし」

 

 うげっと一夏が表情を歪める。

 自分の武装が剣一本で良かったと初めて思えた気がした。

 

「盛り上がっている所悪いが、そろそろ到着するぞ。降りる準備をしろ」

 

 千冬の声に、会話を切り上げて準備をする生徒達。

 それを見て、真耶が笑う。

 

「みなさん真面目ですねえ。今日は自由時間だけでISに関する実習はないんですけど」

「浮かれるよりマシだが……あいつら、自由時間だから、とか言ってIS談議をするんじゃないだろうな?」

 

 半ば本気で言ってそうな千冬の言葉を真耶は否定しようとして、千冬の言葉通りの事をやりそうな面子(一夏、ラウラあたり)を思い浮かべ、乾いた笑い声をあげる事しかなかった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 千冬の言葉通り、ほどなくして目的地に到着。

 四台のバスから降りた生徒たちはクラスごとに並び、千冬の号令で挨拶をした。

 

「今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 この旅館の女将──清洲景子は柔らかい笑顔で挨拶を返す。

 と、その視線が一夏のところで止まる。

 

「あら、こちらが噂の?」

「あ、はい。織斑一夏です。三日間お世話になります。──今年は浴場分けで面倒をおかけしたと聞いています、ありがとうございます」

「いえいえ、そんなご丁寧にどうも──織斑先生、しっかりとした弟さんですね」

「それは、どうも……」

 

 他の生徒の前で一夏を褒められたからか、どこか歯切れの悪い様子で返事をする千冬。

 

「では、お部屋の方にどうぞ」

 

 清洲の案内に、クラスごとについていく生徒達。

 一夏も当然、その波に紛れて歩いているところで、誰かに袖を引っ張られる。

 

「ね~おりむー」

「ん? どうした?」

「おりむーの部屋ってどこ~? しおりにも書いてなかったし」

 

 声の人物──本音に対して、一夏は歩みを止めず、顔だけ傾ける。

 気になっているのは本音だけじゃなく、他の生徒も同じなようで、本音との会話に意識が向いているのが一夏にも伝わった。

 

「あー確かに書いてなかったか」

 

 夜間に殺到される混乱を避ける意味でも、書かれていないのだろう。

 とはいえ、この割り振りならそんなリスクを冒す生徒は少なそうだけど、と割り振りを知っている一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「俺の部屋はここだよ」

「え?」

「でもここって……」

 

 一夏が歩みを止めるのに合わせて、他の生徒も足を止める。

 親指を立てて一夏が示すところには、でかでかと教員室と張り紙が貼ってあった。

 

「そ、織斑先生と同室」

「なに、消灯の時間を守った上で、騒ぎ過ぎなければ歓迎するぞ」

 

 笑いながらやってきた千冬に、クラスメートは「え、遠慮しますー」と声を揃えて退散していく。

 そうなるわな、と笑いながら、一夏は千冬と並んで部屋に入る。

 

「おー結構広いのな」

 

 二人部屋だが、本来は数人で使用する部屋なのだろう。

 ここを二人で使うのは他のクラスメートにちょっと申し訳ないほどに。

 

「しおりにも書いてある通り、大浴場は夕食後の二十時からの一時間だけだ。それ以外に入りたい場合は部屋の風呂を使え」

「了解……おー部屋風呂も広いな」

 

 一夏が足を伸ばしても十分な広さだ。

 大浴場の時間が制限されていても、これなら文句は言えなかった。

 

「それと、セシリアを連れ込みたい場合は言え。その間は山田先生の部屋に行くからな」

「それでいいのか、教師」

「冗談、だ」

 

 なんとなく、入学直後のやり取りを思い出し懐かしむ。

 三ヶ月程だが、もっと昔の様な感覚。

 

「久しぶりに目覚めの一杯を飲めると思っていたが、アテが外れたな」

「持ってくるか悩んだんだけど、三日しかないしな」

 

 荷物を置いた一夏が水着を取り出していると、背中越しに千冬から声をかけられる。

 

「近くにコーヒーショップがあったから、よさそうな豆があったら買ってくるからそれで許してくれ」

 

 午後にでも行けばいいか、と頭の中で予定を組む。

 セシリアは勝手に付いてきそうだし、ラウラなんかも誘えば来そうだ。

 

「まあなんにせよ、今日一日はまるっと自由時間だ。しっかりと遊ぶことだな」

「羽目を外すな、と言わないので織斑先生?」

 

 一夏が茶化す様に言うと、千冬は肩をすくめる。

 

「普段から不真面目だったらそう言うがな。一夏、お前この学園に来てから豆を買いに行く以外に外出したか?」

「あー……そういや、セシリアとのデート以外だと出歩いてなかったかもな」

 

 ゴールデンウイークや、その他の休みも豆の調達に出たりしてたが、それ以外の用事では外出していなかった事を思い出す。

 一応、ISを動かせる唯一の男性操縦者として気軽に出歩くのは避けてた、と言うのもあるが。

 

「なら、周りに迷惑をかけない程度なら、多少羽目を外しても目を瞑るさ」

「それなら、千冬姉の言う通りにするかね」

 

 と、一夏が水着の入った袋を担いだところで、襖を叩く音。

 そして、ほんの少しの間を空けてから投げかけられる声。

 

「一夏さん。今、よろしいですか?」

 

 千冬に軽く目配せをすると頷いたので、一夏は襖を開ける。

 声の主──セシリアが襖の前で立っていた。

 

「お迎えに上がりましたわ。ビーチまでご一緒しても?」

「お前、よく千冬姉のいる部屋に迎えにこれたな……」

 

 他の生徒はすごすごと退散していたというのに、大したもんだ、と一夏は呆れ交じりに呟く。

 一夏の言う通り、セシリアに気後れや緊張の気配は全く感じられない。

 

「だって、一夏さんと一緒に行きたいんですもの。織斑先生がいらっしゃるくらいで怯んでいられませんわ」

「……うん。お前はそういう奴だったな」

 

 千冬は腕を組んで二人を見送りながら、どこか呆れたように、しかし微かに楽しげな表情を浮かべていた。

 

「行ってこい。海で騒ぎすぎて溺れるなよ」

「はいはい。じゃ、行ってくる」

 

 襖を閉めると、セシリアがすぐ隣に並んで歩き出す。

 旅館を出てしばらくすると、海風が吹き抜け、潮の香りが強くなる。

 砂浜が見えてくると、自然と胸が高鳴るような感覚があった。

 

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