ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
一夏が入学して二日目。
今日も今日とて、ISを中心とした授業割だったが、セシリアの解説付き教科書のお蔭で、なんとか乗り切る事が出来た。
とはいえ、今日は殆ど上の空で授業に臨んでしまっていたが。
というのも、朝のHRで千冬より正式に伝えられたのだ。今日の放課後、専用機を渡す、と。
一夏とて、思春期真っ只中の男だ。自分にどんなISが用意されるのか、不安もあったが、同時に楽しみにしている気持ちも存在した。
本来は、自由解放し、申請さえあれば使用できるアリーナも、今日は一夏専用の貸し切りとなっている。
広いアリーナと言っても、閉鎖空間であることは変わりない。未熟な彼が接触事故を起こさないようにという配慮から、今は閑散としている。
ピットにいるのも、セシリアと当人の一夏だけだ。
すでに一夏の専用機は運び込まれており、後は一夏の調整を待つだけた。
と、ピットに放送が響いた。管制室にいる千冬の声だ。
『織斑、まずは
「やり方もなにも、勝手にやってくれるんでしょう?」
言いつつ、一夏はISに身を預ける。
小気味よい音が響き、一夏の身体にISが装着された。
「装着完了、と。はじめましてだな。えーと、名前は……『白式』か。見た目は白ってか灰色だけどな。これからよろしく頼むぜ」
とはいえ、
一夏の視界の端では、
それが終了し、と
『装着は問題ないようだな。一夏、ハイパーセンサーの接続は出来ているな? 気分はどうだ?』
ハイパーセンサーが接続されると、人が本来は見えない背後や頭上の光景も視る事が出来る。
極稀に、普段とは見え方が異なる視点や、情報の多さに酔ってしまう操縦者もいる。それを心配しての千冬の言葉だった。
学校にいる時は、織斑呼びなのだが、今は心配が勝っているのだろう、本人も無意識の内に名前呼びになっていた。また、一夏もハイパーセンサーによって、僅かな声の震えも感知出来ていた。
「大丈夫です。今ならオルコットの制服のシワまで見えそうです」
『そうか。オルコットには身だしなみは気をつけろと言っておけ』
「なぜわたくしで判断するのか大変不本意なのですが。というかジロジロ見ないで下さい」
セシリアが、身を守るように自分の体を抱く。
別にそんなエロい目で見てたわけじゃないんだよなあ、と一夏は思った。というか、そんな風に思われてたとしたら結構ショックだ。
『よし。アリーナに出て飛んでみろ。今日は制限はない。自由にやっていいぞ』
「了解」
と言っても、発進の仕方とか良くわからないのだが。
助けてくれ、と一夏がセシリアに目配せすると、一夏の意図を汲んだのかセシリアが頷く。
「織斑先生。わたくしも、織斑さんのサポートで出てもよろしいですか?」
『良いだろう。代表候補生として、お手本を見せてやれ』
どうやら、教師陣もそのつもりだったらしい。
セシリアの提案に間髪入れず千冬が返す。
「では織斑さん。お先に」
一瞬でISを身に纏ったセシリアは、カタパルトに自身のISをセットする。
別に、カタパルトを使用せずとも発進させる事は可能なのだが、これも経験だ。
後は、こちらの方が一夏は好きそうだと思ったりしたのだが──
「カタパルトで発進できるのか! すげえなIS!」
どうやら、セシリアの予想通りのようだ。
やはり彼も男の子と言ったところか。
「カタパルトを使用しての発進を希望します。よろしいですか?」
とはいえ、勝手に発進することは出来ない。
管制室には千冬が居るからやってくれるだろうとセシリアが通信をつなぐ。
『オルコットさん。準備は良いですか?』
「いつでも行けますわ」
どうやら千冬ではなく、真耶が行うのだろう。
普段の立ち振舞を考えると、なんだか心配になってきた。
『了解しました。では発進シークエンスに入ります。APUオンライン。カタパルト接続を確認──』
普段とはまるで違う真耶のハキハキとした声に少なからずセシリアは少し驚く。
一夏は、「すげえ」とテンションが上ってあまり聞いていないようだが。
視線を路線上に戻すと、カタパルトの頭上に示されるランプが赤から緑に変わった。
『──進路クリア。ブルー・ティアーズ、発進どうぞ』
「セシリア・オルコット。ブルー・ティアーズ、出ますわ」
瞬間、カタパルトがセシリアを勢いよく打ち出す。あまりの速さに一夏は言葉を失う。
次は自分の番だ。
高揚感とも緊張感とも似つかぬ感情が一夏を包む。
乾いた唇を軽く舐めると、カタパルトに向かって歩き出す。
もっとも、彼女と違ってその動きはなんとも不格好なものだったが。
『織斑くん。行けますか?』
声だけで、真耶の不安な気持ちが伝わってくる。
せめてそれを悟らせない努力をしてほしかった。
(それとも、ハイパーセンサーが拾ってるのか?)
だとしたら、無駄な高性能な機能に少しだけ恨む。
と、真耶に変わって今度は千冬の声が聞こえた。
『一夏。ISにはシールドエネルギーがある。墜落しても、何しても基本は守ってくれる。心配するな』
それは知っている。知っているのだが、衝撃は殺してくれない事も知っている。
とはいえ、尻込みしてやらないわけにもいかない。ぶっちゃけ、どうしても嫌だったらカタパルトを使わなくても良いのだが、この時の一夏は完全に失念していた。
『カタパルト、接続。進路クリア。白式、発進どうぞ』
真耶のコールが聞こえた。
瞬間、間髪入れず一夏が応えた。もはや、ヤケクソの境地だった。
「織斑一夏。白式、行きます!」
その瞬間、千冬の忠告が最後に聞こえた。
『飛び出したら、PICを使用するのを忘れるなよ。忘れたら、地面に真っ逆様だからな』
カタパルトが機体を勢いよく押し出す。
千冬に言われていたにもかかわらず、急速に近づいてくる地面に一夏は一瞬戸惑う。
「……うっ……!」
千冬に、PICを使えと言われた事を墜落直前で思い出した一夏はなんとか機体の制動をかけようとする。
それでも、そもそもPICのかけ方など知らない一夏は着地に失敗し、アリーナに大きな穴をあけた。
(あー……格好悪ぃ……)
これが、週末ぶっつけ本番じゃなくてよかったと心底思った。
なんとか起き上がって上空を見上げると、セシリアが楽しそうにこちらを見下ろしていた。
「織斑さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるか? 既に心が折れそうなんだが」
「その様子なら大丈夫ですわね。とりあえず、こちらまで上がってきたら如何でしょうか」
「ああ、そうするよ」
確か、飛ぶ時は『前方に角錐を展開させるイメージ』だったなと一夏はイメージする。
しかし、早速つまずいた。角錐を前方に展開させるなんて考えたことも無かったからだ。
(つーか角錐をイメージしたことある奴なんて絶対いないだろ)
そんな一夏を見かねたのか、セシリアから通信が再び届く。
「昨夜も申し上げましたが、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索するほうが建設的でしてよ」
「そうなんだが……。まず空を飛ぶってイメージが沸かないんだが」
偽らざる本音を一夏が言ってやると、セシリアはやれやれと肩をすくめると、一夏に向かって急降下してきた。
一夏が激突すると思った直後、制動をかけ、地表ギリギリで停止する。
自分と比べると──当たり前だが──遥かに上手な急停止に思わず感嘆の息が漏れる。
と、一夏がセシリアの動きに感心していると、その手をセシリアが掴んだ。
「お、おい。どうした」
「アレコレ頭で考えるよりも、空を飛ぶ感覚を培ったほうが良いかと思いまして。既に理屈は頭に入っているのですから、後は身体が覚えれば良いだけの話ですので」
言うやいなや、一夏の返事をまたずに急上昇する。
しばらく上昇すると、セシリアは動きを止めた。
「一夏さん。PICの説明は今更必要ないですわね? どうやってISが浮くかの説明になりますが」
「ああ、パッシブ・イナーシャル・キャンセラー。慣性を中和して、無重力状態を作ったりしてるんだろ? 場合によっては、空気抵抗を減らしたり」
「正解。よく覚えてらっしゃいますわね。昨夜教えた内容の筈ですのに」
「おう。徹夜で勉強したからな。昨日教えてもらった内容は完璧だ」
自慢気に言ってやると、なぜかセシリアにジト目を向けられている事に気づく。
「へえ、徹夜で勉強、ですか……。わたくしは昨夜、『勉強などせずしっかり寝て下さいね』と言ったはずですが」
「あ……。その、不安で寝れなくてつい……。その、あれだ、すまん……」
「まあ、もうそれは良いです。今日はしっかり寝て下さいね。睡眠不足では集中できず、結果効率が悪くなりますから」
「わかった。わかったから。PICの続きをしてくれ」
最後に、もう一度をジト目を送ってから、セシリアは咳払いを一つする。
「要は、無重力空間で自分が浮いている姿をイメージすればよいのです。そうすれば飛ぶことは難しくとも、その場に留まる事は容易いはずですわ」
「いや、宇宙に行ったこともないんだし、無重力なんてイメージ出来ない──」
と、そこまで言いかけて一夏はひらめく。
なにも本物の無重力じゃなくても良いことに。
無重力に似た感じであれば良いのだ。だとしたら、一夏の身近にも似たような物がある。
「──水中だ。プールとか、海とか。何だったら風呂でも良い。あれだって身体は浮いている感じはする」
「ご明察。言ったでしょう? イメージは所詮、イメージだと。動かせるのであれば、どんなイメージをしても問題ありませんわ」
「それなら、やれる。俺にもイメージできる」
目をつぶってイメージする。
海で、力を抜いて浮かぶイメージ。
すると、不思議なもので、あれほど地面に引き寄せられていたISがふわりと浮いた。
「浮いた……!」
目を開き、ガッツポーズする。
なんとか、初歩の初歩もいいところだが、スタートラインに立った気がする。
と、その瞬間だった。
ウインドウが立ち上がり、
促されるがままに、確認ボタンを押すと、変化は劇的だった。
光に包まれると、どこか灰色だった装甲は純白になる。スラスターや、どこか不格好だった各部の装甲が一新された。
何より、先程までのどこかぎこちない感じ。見えない糸に縛られていたように動かしにくかった機体はまるで身体の一部かのように馴染む感覚。
「これが白式。……ふふっ。名前通りの白いISになりましたわね」
「ああ、そうだな。もしかして、俺が灰色とか言った影響かもな」
「ところで織斑さん。武装の確認はされましたか? 敵に手の内を明かすのは気が進まないかもしれませんが、どういった武装があるかによって、今後の指導が変わりますので教えていただけると助かります」
「ん、ああ。別に問題ない。隠して自己練するより、お前に教えてもらった方がいいしな」
一夏が頭で『装備を見せてくれ』と問うと、白式がすぐさまに応えた。
眼前に、装備一覧が現れた。……近接ブレード一本を一覧というのは語弊がある気もするが。
なんだこれだけかと、装備の名前を見た瞬間、息が詰まるような感覚が一夏を襲った。
「これだけ、ですか? 武装名は……雪片弐型。雪片ってたしか──」
織斑先生の使っていた装備では、とセシリアが問おうと一夏の方を向いた瞬間、セシリアの動きが止まった。
「はあ……はあ……はあ……」
そこには、明らかに異常をきたしている一夏の姿があった。
息が上がり、汗も尋常じゃなくかいている。
「織斑さん!? どうしました!? 大丈夫ですか!?」
「だい、じょうぶだ。だいじょうぶ、おれはだいじょうぶだから」
そんな訳がない。
どう見たって大丈夫には見えない。
『オルコット! 一夏を連れてピットに戻れ!』
事態に気付いたのか、千冬からの通信が入る。
よくわからないが、異常事態なのはセシリアにもわかる。
なぜこうなったかも気になるが、今は一夏をピットに連れて帰る事が重要だ。
「織斑さん、お気を確かに。一旦ピットに戻りますわよ」
「だいじょうぶだから。おれはだいじょうぶだからつづきを」
うわ言のように大丈夫と繰り返す一夏。
もはや、目の焦点もあってない。
(ハイパーセンサーに酔った? いや、だとしたらもっと早く異変を訴えるはず)
だが、一夏はここまでなんの異変も示していなかった。
ならば、どこでおかしくなった。
(おかしくなったのは、武装を見てから。雪片という名前に気付いてから……?)
きっかけといえば、これくらいしか浮かばない。
だが、なぜここまで狼狽えるのかはわからない。
とにかく、後で聞くしかない。今は一刻も早く一夏をピットに戻す事に集中すべきだ。
セシリアは思考を打ち切ると、一夏を抱いてピットに機体を進めた。
発信シークエンスってかっこいいですよね。
自分はSEEDの一連の流れが一番好きです。