ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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刻まれた想いは、誰のため

 昼食の席では、湯気の立つ味噌汁の香りと、バターで焼かれたムニエルの香ばしい匂いが混ざり合い、食欲をそそらせれる。窓から差し込む昼下がりの光がテーブルを柔らかく照らし、海辺の旅館らしい穏やかな空気を作り出していた。

 一夏は迷いなく刺身に箸を伸ばし、切り身を口に運び思わず頬を緩ませる。

 一方でセシリアは、ムニエルを上品に切り分けながら、優雅な仕草で口へ運んでいた。

 

「セシリアも刺身にすればよかったのに。新鮮で美味しいぞ」

「お魚を生で食べるなんて、いまだに信じられませんわ。文化の違いというものですわね」

 

 言葉とは裏腹に、セシリアの視線は一夏の皿へと吸い寄せられている。ほんの一瞬、興味を隠しきれないような目の動きがあったが、本人は気づかれまいとすぐに視線を戻した。

 そんなやり取りの最中、シャルロットとラウラが並んでやってきた。二人の手元には刺身の皿があり、シャルロットはすでに満足げに頬を緩めている。

 

「新鮮なお刺身ならセシリアも食べれそうなのに」

「私はサバイバルの訓練を受けてるからな。生でも食べられるぞ」

「おいラウラ、なんだその消去法的な受け入れ方は」

 

 しばらく四人で静かに食事を進め、箸の音が心地よく響く。ある程度食べ終えたところで、シャルロットがふと一夏に問いかけた。

 

「一夏、午後からはどうするの?」

「近くにコーヒーショップがあるだろ。ちょっと行ってみたいんだ」

「わたくしもご一緒しますわ」

 

 セシリアは当然のように身を乗り出し、金髪がふわりと揺れた。

 続いてラウラも意外なほど素直に頷く。

 

「教官にまたブレンドを披露したいと思っていたところだ。私も付いて行くとしよう」

 

 そんなラウラの様子を見ながら、シャルロットは首を横に振った。

 

「僕はいいかな。午後ももうちょっと泳ぎたいし」

「んじゃ、三人で行くか」

 

 その横で、ラウラがセシリアに小声で「邪魔だったかな?」と尋ねているのを、一夏は聞こえないふりでやり過ごした。

 食事を終え、海風を感じながら店へ向かう途中、一夏はふと思い出したように呟く。

 

「そういえば……箒、見てないな。昼になっても姿を見なかったけど」

 

 ラウラも少し考え込むように視線を上へ向ける。

 

「私も見ていないな」

 

 セシリアは肩をすくめ、どこか呆れたように笑った。

 

「まあ、箒さんのことですし。どこかで真面目に鍛錬でもしているのではなくて?」

 

 こんな日にそれはないだろ、と一夏は苦笑しつつも、心のどこかで引っかかりを覚える。箒の誕生日が迫っていることを思い出し、胸の奥に小さな焦りが生まれた。

 

(そういや、箒の誕生日か。何か良さそうな物でも探すか……)

 

 とはいえ、女子――それも箒が喜びそうな物となると、まるで見当がつかない。

 鈴やセシリア、それにシャルロットあたりに相談するか、と考えながら歩みを進めると、ほどなくして目当ての店が見えてきた。

 店に入ると、焙煎した豆の香りが三人を包み込む。木目調の落ち着いた内装に、静かなジャズが流れ、旅館とはまた違う大人びた空気が漂っていた。

 席に着くと、店員がにこやかに「ご注文は?」と声をかけてくる。一夏は迷わずブラックを注文し、ラウラは「苦くないブラック」をと頼む。店員は苦笑しつつも、マイルドな浅煎りを勧めてくれた。

 セシリアはラテを注文し、一口飲んだ瞬間にぱっと表情を明るくした。

 

「まろやかで香り高いですわね」

 

 ラウラもカップを見つめながら、静かに言葉を続ける。

 

「私でも飲みやすいし悪くないな。こういうブレンドもあるのか」

 

 一夏も満足げに頷く。

 

「豆の状態も悪くない。買って帰るかな」

 

 カップを置いた一夏は、ふと視線を窓の外へ向けた。通りを歩く同級生や観光客、海風に揺れる木々。穏やかな景色の中に、しかし箒の姿はない。

 

(やっぱり、どこかで鍛錬してるのか……それとも)

 

 誕生日のことを思い出し、胸の奥に小さな引っかかりが残る。何か贈りたい気持ちはあるが、何を選べばいいのかまるで見当がつかない。

 そんな一夏の様子に気づいたのか、セシリアが首を傾げる。

 

「一夏さん、何か考え事ですの?」

「ん? ああ……箒のこと、ちょっと気になってさ」

「誕生日、ですものね」

 

 セシリアはすぐに察したようで、ラテを置きながら微笑む。

 

「プレゼントをお探しなら、わたくしもお手伝いしますわ。女性の気持ちは女性が一番わかりますもの」

「いや、セシリアのセンスは……その、ちょっと高級すぎるというか」

「失礼ですわね。わたくしだって相手に合わせて選べますわ」

 

 頬を膨らませるセシリアに、ラウラが静かに口を挟む。

 

「箒には実用的なものが良いのではないか? 鍛錬に使えるものとか」

「いや、剣道の道具を誕生日に贈るのはどうなんだ……?」

 

 議論が白熱しそうな気配を察し、一夏は苦笑しながらカップを持ち上げた。

 その時、店の前を歩く人波の中でふと視界の端に映ったのは、見慣れた黒髪――ではなかったが、どこか箒に似た雰囲気を持つ女性だった。

 一夏は思わずそちらに目を向けるが、人ごみの中に紛れて見えなくなる。

 

(……いや、違うか)

 

 胸のざわつきを押し込めるように、深く息を吐いた。

 コーヒーの香りが、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれる。

 午後の柔らかな陽光が窓から差し込み、テーブルの上に淡い影を落とす。

 そんな会話をしているうちに、話題は自然と夕食へと移っていった。

 

「席は自由だって聞いたけど、二人はどうするんだ?」

 

 一夏の問いかけにセシリアはすぐに答えた。

 

「わたくしは正座が苦手ですのでテーブル席に行きますわ」

「私も、拷問の類だと思えば耐えられるが、そこまでする必要もあるまい」

「そこまでか……」

 

 一夏は苦笑し、肩をすくめた。

 

「じゃ、二人と夕飯は別だな。座れるのにテーブル行くのはなんか違うし」

セシリアは不満げに頬を膨らませる。

「こんな事なら、正座を練習しましたのに……」

「いやいや、無理しなくていいって」

 

 コーヒーを飲み終え、店を出て旅館へ戻る途中、一夏はふとセシリアに尋ねた。

 

「そういえば……本当に部屋に来るのか?」

 

 セシリアは当然と言わんばかりに胸を張る。

 

「もちろんですわ」

 

 それに対し、ラウラはセシリアを見ながら続く。

 

「私は遠慮するとしよう。今も邪魔をしているし、夜もとなると流石に恨まれそうだ」

 

 一夏は頭を抱えたくなる衝動を必死に抑え、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 旅館へ戻る道すがら、潮風が頬を撫でる。

 セシリアは軽やかな足取りで歩きながら、一夏の横顔をちらりと覗き込んだ。

 

「一夏さん、先ほどの話……本当にプレゼントを探すつもりなのですわよね?」

「ああ。せっかくの誕生日だし、何か渡したいんだけど……正直、何がいいのか全然わからなくてな」

 

 素直な言葉に、セシリアは嬉しそうに微笑む。

 

「でしたら、今から探しに行きませんこと? このあたり、お店も多いですし」

 

 ラウラも頷き、真面目な表情で言葉を添える。

 

「箒には実用的なものが良いと思うが……とはいえ、剣道具は流石に重すぎるか」

「お前まだ言ってんのか……箒も誕生日に竹刀渡されたら困るぞ」

 

 そんな会話をしながら歩いていると、海沿いの通りに並ぶ土産物屋が目に入った。

 観光客向けの雑貨やアクセサリー、手作り体験の看板が並び、どこか温かみのある雰囲気を漂わせている。

 

「ここ、良さそうじゃないか?」

 

 一夏が指差したのは、木製の看板が掲げられた小さな店。

 『手作り体験できます』と書かれた文字が目に留まる。

 セシリアは興味深そうに店内を覗き込み、ぱっと表情を明るくした。

 

「まあ、素敵ですわ。貝殻のアクセサリーに、革細工……どれも可愛らしいですわね」

 

 ラウラも棚に並ぶ木彫りの小物を手に取り、真剣に観察している。

 

「ふむ……こういう素朴なもの、箒は嫌いではなさそうだな」

 

 一夏は店内をゆっくり見回しながら、ふと目に留まったものに足を止めた。

――小さな革のキーホルダー。

 好きな形を選び、刻印を入れられるらしい。

 

「……これ、いいかも」

 

 革の質感は素朴で、派手すぎず、でも温かみがある。

 箒の雰囲気に、どこかしっくりくる気がした。

 セシリアが一夏の横に並び、覗き込む。

 

「まあ、可愛らしいですわね。箒さんなら、きっと喜びますわ」

「そうだといいけど……」

 

 ラウラも頷き、短く言葉を添える。

 

「手作りというのが良いんじゃないか?」

 

 一夏は少し照れくさくなりながらも、店員に声をかけた。

 

「すみません、これ……作れますか?」

「はい、どうぞ。刻印も自由にできますよ」

 

 案内された作業台に座ると、セシリアとラウラが左右に並んで見守る形になった。

 

「なんか……緊張するな」

「大丈夫ですわ。……こういうのは見た目よりも誰が作ったかが大事ですわ」

「それに失敗したらやり直せばいい。落ち着け」

「失敗する前提の声掛けは控えてくれないか?」

 

 二人の言葉に苦笑しつつ、一夏は刻印用の金具を手に取った。

 革の上に、慎重に、ゆっくりと文字を打ち込んでいく。

 最後の一文字を打ち終えた瞬間、胸の奥が少しだけ温かくなった。

 

(……喜んでくれるといいんだけどな)

 

 完成したキーホルダーを手にした一夏が満足げに息をつくと、隣でセシリアがそっと視線を落とした。

 その表情はほんの少しだけ曇っていて、普段の華やかな笑顔とは違う。

 

「……手作り、ですのね」

「ん? ああ。こういうのなら箒も喜ぶかなって」

 

 一夏が何気なく答えると、セシリアは一瞬だけ唇を尖らせた。

 その仕草は、まるで子どもが拗ねる直前のようで――しかし、すぐに気品ある微笑みへと戻る。

 

「……素敵ですわ。一夏さんが心を込めて作ったものですもの。箒さん、きっと大切にしますわ」

 

 言葉は優しいが、どこか寂しさが滲んでいた。

 一夏が気づく前に、セシリアはくるりと髪を揺らし、明るい声を取り戻す。

 

「さて、問題はどうやって渡すか、ですわね」

 

 その瞬間、ラウラがすっと前に出た。

 

「渡し方なら、私に案がある。夕暮れの浜辺で二人きりになり、静かに手渡すのが最も効果的だ」

「お前がマトモな案を出してきたのに驚いてるんだが」

 

 この堅物のどこにそんなロマンチックな思考が生まれたのか、と一夏が思案する横で、セシリアは胸に手を当て、まるで舞台女優のように語り出す。

 

「例えば、夕食後に旅館の中庭に誘い出して、灯りの下で『お誕生日おめでとう』と優しく──」

「──それはお前の願望だろう。それに、人目が多いと箒は照れる。」

「照れるからこそ良いのですわ!」

 

 ラウラの言葉にセシリアは心外と言わんばかりに声を張り上げるが、ラウラは気にした様子はなく言葉を重ねる。

 

「そもそも、渡すのは一夏だ。派手な演出は不要だ」

「あなたは乙女心というものを理解していませんわね」

「理解している。だが、箒には合わないと言っている」

「むう……」

 

 一夏は二人の間で視線を泳がせながら、思わず苦笑した。

 

「おい、当人をよそに盛り上がるんじゃない」

 

 しかし二人は止まらない。

 それどころか、ずいっとこちらに顔を寄せる。

 

「一夏さんはどう思いますの? やはり雰囲気は大事ですわよね?」

「いや、箒は静かな方が落ち着くだろう。浜辺が最適だ」

 

 店員が微笑ましそうにこちらを見ているのに気づき、一夏は頭を抱えた。

 

(……なんでプレゼント渡すだけでこんな騒ぎになるんだよ)

 

 とはいえ、二人が真剣に考えてくれているのはありがたい。

 セシリアは少し頬を膨らませながらも、一夏の作ったキーホルダーを見て優しく微笑んだ。

 

「……でも、きっと喜びますわ。だって、一夏さんが作ったものですもの」

 

 その言葉には、先ほどの小さな嫉妬と、引き下がる潔さが混ざっていた。

 ラウラも静かに頷く。

 

「渡し方はともかく……良い贈り物だ。一夏、あとはタイミングだな」

「……そうだな」

 

 海風が店の入口から吹き込み、三人の髪を揺らした。




よくよく考えたら、一夏に自覚がないとはいえ、自分に片想いしている女性への誕生日プレゼントをほぼ両想いの女性と買いに行って選ぶという中々ひどい事やってんな。
まあ原作でも箒の誕プレをシャルと買いに行ってるからセーフ……いやでも……

これは完全に作者のせいです。腹切ります。
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