ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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白き残光と蒼の祈り

 白式が海へ沈んでいく光景は、セシリアの胸に焼き付いて離れなかった。

 あの白い残光が、まるで自分の心臓を引き裂くように見えた。

 

「一夏さん……いやですわ……そんな……」

 

 震える声が漏れる。

 ブルー・ティアーズのセンサーが海中の反応を追うが、白式の反応は弱く、深く沈んでいく。

 彼が──自分を庇って飛び込んできた彼が、光の底へ消えていく。

 どうして。

 どうしてあの状態で、あそこまで無茶を……。

 胸が痛い。

 息が苦しい。

 それでも、泣いている暇などなかった。

 

「鈴さん!シャルロットさん! 急いでください……! お願いですわ……!」

 

 自分でも驚くほど必死な声が通信に乗る。

 援軍として自分たちと入れ替わるようにしてやってきたシャルロットも鈴が、海面へ殺到していた。

 千冬の指示が飛び、同じ様に援軍としてやってきた訓練機も潜航していく。

 時間の感覚が歪む。

 数秒が、永遠のように長かった。

 

──もし、間に合わなかったら。

 

 その考えが頭をよぎるたび、心臓が握りつぶされるように痛んだ。

 胸の奥が冷たくなり、指先が震える。

 

(……わたくしは、また大切なものを失うのですの……?)

 

 そんな恐怖が、喉の奥を締め付けた。

 そして──

 

『織斑一夏、確保! 生命反応あり!』

 

 その報告を聞いた瞬間、セシリアの膝が震えた。

 安堵と同時に、胸の奥に刺さった痛みがじわりと広がる。

 

「ああ……一夏さん……」

 

 涙がこぼれそうになる。

 だが、彼は意識を戻さない。

 救助された一夏はすぐに簡易医療室へ運ばれ、応急処置が施される。

 セシリアはその後ろを追いかけるように走り、ただ彼の名を呼び続けた。

 白式はほぼ全損。

 彼自身も、深い眠りに落ちたまま。

 どうして、あんな無茶を……。

 胸の奥が痛む。

 涙がこぼれそうになるのを、必死に堪えた。

 

──わたくしは、何もできなかった。

 

 その事実が、心を締め付ける。

 彼が命を賭して守ってくれたのに、自分はただ震えていただけ。

 

(……情けないですわね、セシリア・オルコット)

 

 英国淑女としての矜持が、胸の奥で静かに疼く。

 誇り高く、凛として、誰よりも強くあれ──

 幼い頃から叩き込まれたその教えが、今ほど重く響いたことはなかった。

 

(あなたが命を賭けてくれたのに……わたくしは、ただ見ているだけ……)

 

 悔しさが込み上げる。

 情けなさが、胸を刺す。

 

(わたくしは……あなたの隣に立ちたいのですわ、一夏さん)

 

 守られるだけの存在でいたくない。

 彼の背中を追いかけるだけの自分でいたくない。

 

(あなたがわたくしを守ってくださったのなら……今度は、わたくしがあなたを守る番ですわ)

 

 その想いが、胸の奥で熱を帯びる。

 英国淑女としての矜持と、少女としての恋情が、ひとつに溶け合っていく。

 

(どうか……どうか、生きて戻ってきてくださいませ。一夏さん。あなたがいない世界など……わたくしには、考えられませんわ)

 

 その祈りだけが、彼女を支えていた。

 

「……一夏さん……」

 

 小さく漏れた声は震えていた。

 恐怖でも、悲しみでもない。

 もっと深い、胸の奥を締め付けるような感情だった。

 セシリアはそっと彼の手に触れた。

 冷たい。

 けれど、確かに温もりが残っている。

 

「……必ず、福音を」

 

 その言葉は、誰に向けたものでもなかった。

 ただ、自分自身に刻みつけるように呟く。

 医療室を出て、本部にセシリアが足を踏み入れると、空気が一気に重くなるのを感じた。

 箒は拳を握りしめ、ラウラは壁にもたれたまま目を閉じていた。

 シャルロットと鈴はただ俯くだけ。

 そして、千冬が静かに告げた。

 

「専用機持ちは全員、待機だ」

 

 その言葉に、セシリアの胸の奥で何かが音を立てて崩れた。

 

 ──待機?

 

 気づけば、彼女は一歩前に出ていた。

 

「──納得がいきませんわ」

 

 その声は驚くほど静かだった。

 激情とは程遠い。

 むしろ、凪いだ湖面のように冷たく澄んでいた。

 

「そのような屈辱を……わたくしに味わえと?」

 

 箒が息を呑む。

 シャルロットと鈴が顔を上げる。

 ラウラが目を開く。

 だが、セシリアは止まらなかった。

 

「対象も、あれほどの攻撃をしたのですから、大きくエネルギーを消費しているはずですわ。待っているだけでは、相手のエネルギーが回復するだけ。それは──相手を利する行為です」

 

 その言葉は、冷静で、論理的で、そして何より強かった。

 千冬は沈黙した。

 その沈黙が、逆に場の緊張を高める。

 

「……一夏さんは、わたくしたちを守るために戦ったのですわ。ならば今度は──わたくしたちが戦う番です」

 

 その瞬間、千冬の瞳がわずかに揺れた。

 長い沈黙の後、彼女は短く言う。

 

「……全員、再出撃の準備に入れ」

 

 空気が震えた。

 セシリアは静かに頷き、踵を返す。

 その背中には、迷いも恐れもなかった。

 廊下に出た瞬間、セシリアは深く息を吸った。

 胸の奥に渦巻く感情を押し込み、蓋をするように。

 

(……一夏さん。どうか、見ていてくださいませ)

 

 その想いを胸に、彼女は足を速めた。

 砂浜に向かうと、すでに慌ただしい空気に包まれていた。

 教員たちが走り回り、緊急出撃の準備が進められている。

 だが、その喧騒の中で──専用機持ちの少女たちの足取りは、驚くほど静かだった。

 

(……私が……もっとしっかりしていれば……)

 

 箒は唇を固く結び、拳を握りしめていた。

 その拳は白くなるほど強く握られ、震えている。

 海風が吹き抜けるたび、彼女の黒髪が揺れ、その影が頬に落ちる。

 その表情は、怒りとも悲しみともつかない、複雑な色を帯びていた。

 胸の奥で、何度も同じ言葉が反響する。

 福音との戦闘で、彼女は焦り、あきらかにかかり(・・・)すぎていた。

 そんな自分をラウラは殿(しんがり)にする事が出来ず、結果一夏を一人あの場に残す事になった。

 自分を、仲間を守るために。

 

(私が……私の心が弱かったから……)

 

 喉の奥が焼けるように痛む。

 悔しさが、胸の内側を爪で引き裂くように暴れ回る。

 自分がもっと冷静であれば。

 もっと強ければ。

 もっと、彼の隣に立てる存在であれば──

 

(……一夏……すまない……)

 

 心の中で呟いた謝罪は、風に溶けて消えていく。

 だが、胸の痛みは消えない。

 むしろ、深く沈んでいくように重くなる。

 そんな箒の横を、セシリアが静かに歩いていく。

 その背筋はまっすぐで、迷いがない。

 その瞳には、強い光が宿っていた。

 その姿を見た瞬間、箒の胸にまた別の痛みが走る。

 

(……セシリアは……強いな……)

 

 自分とは違う。

 泣き崩れそうなほどの恐怖と悲しみを抱えながら、それでも前を向いている。

 一夏のために。

 仲間のために。

 

(わたしは……何をしている……?)

 

 拳を握る手に、さらに力がこもる。

 爪が掌に食い込み、じんとした痛みが走る。

 だが、その痛みすら、胸の痛みに比べれば些細なものだった。

 

「……箒さん」

 

 セシリアが振り返り、柔らかく微笑んだ。

 その微笑みは、責めるでもなく、慰めるでもなく──ただ、仲間としての信頼が滲んでいた。

 

「行きますわよ。──一夏さんのために」

 

 その言葉に、箒は息を呑んだ。

 胸の奥に、熱いものが込み上げる。

 

(……そうだ……わたしは……)

 

 後悔している暇などない。

 自分を責めているだけでは、何も変わらない。

 一夏は、命を賭して守ってくれた。

 ならば今度は──自分が応える番だ。

 

「……ああ。行くぞ、皆」

 

 箒の声は低く、震えていた。

 だが、その震えは恐怖ではない。

 決意の震えだった。

 

「一夏を……一夏を傷つけた報いを受けさせる」

 

 その瞳には、炎が宿っていた。

 後悔と悔恨を燃料に変えた、強い炎が。

 ラウラは無言のまま、ただ前だけを見据えていた。

 シャルロットと鈴も、迷いを振り払うように歩を進める。

 誰もが理解していた。

 これは、ただの迎撃ではない。

 これは──仲間のための戦いだ。

 

「セシリア」

 

 彼女を呼び止めたのはシャルロットだった。

 その瞳には、不安と、それ以上の決意が宿っている。

 

「……大丈夫?」

 

 セシリアは一瞬だけ目を閉じ、そして静かに微笑んだ。

 

「ええ。わたくしは大丈夫ですわ。──一夏さんが、わたくしたちを守ってくれたのですもの」

 

 その言葉に、シャルロットは小さく息を呑んだ。

 鈴も、箒も、ラウラも、同様だ。

 セシリアは続けた。

 

「だから今度は、わたくしたちが応える番ですわ」

 

 その声音は、静かで、揺るぎなかった。

 

「……行きますわよ、皆さん」

 

 セシリアが振り返ると、四人は迷いなく頷いた。

 

「福音を落とす。必ずだ」

 

 ラウラの声は鋼のように硬い。

 

「一夏を……傷つけた報いを受けさせる」

 

 箒の瞳には炎が宿っていた。

 

「うん……絶対に」

 

 シャルロットは唇を噛みしめながらも、強い光を宿している。

 

「一夏を痛めつけた借りは返すわ」

 

 鈴が拳を握りしめた。

 四人を満足げに見たセシリアは深く息を吸い、自身のISを展開する。

 それに続いて、他の面々が展開したところで、千冬の声が響いた。

 

「今度こそ、全員無事に帰ってこい。──そして、福音を叩き落せ」

 

 その言葉が、全員の背中を押した。

 

「──セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ出撃しますわ!」

 

 青い光が奔り、機体が空へと飛び出す。

 その後を追うように、紅椿、シュヴァルツェア・レーゲン、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、甲龍が続く。

 空は澄み渡っている。

 だが、その先に待つのは──銀色の死神。

 少女たちは、仲間のために。

 そして、愛する人のために。

 再び、戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 茜色に染まる空を五条の光が裂いた。

 突入してきた五つの機体は、まるで戦場そのものを押し広げるような圧を放ちながら、一直線に福音へと迫る。

 その中心──青い機体を纏うセシリアがいた。 

 彼女の瞳は揺らぎ一つなく、ただ敵を射抜くように前を見据えている。

 

「皆さん──行きますわよ!」

 

 その声を合図に、四機が散開した。

 

 最初に動いたのはラウラだった。

 シュヴァルツェア・レーゲンを纏い、まるで夜の裂け目の様に尾を引きながら急降下する。

 

「今度こそ落とす……!」

 

 レールカノンが火を噴いた瞬間、空気が震え、衝撃波が周囲の雲を吹き飛ばす。

 だが福音は、滑らかにその一撃を回避し、即座に方向をラウラへ向け──

 

「──させませんわ!」

 

 横合いから青い閃光が割り込んだ。

 セシリアの精密射撃。

 スターライトMkⅢのレーザーが福音の射線を強引に逸らし、銀色の機体が一瞬だけ硬直する。

 

「ラウラさん──」

「──言われずとも!」

 

 ラウラのプラズマブレードが展開され、紫電を散らしながら福音の装甲をかすめた。

 火花が散り、銀の外殻に細い傷が刻まれる。

 その隙を箒は逃さない。

 箒の紅椿が、展開装甲を光らせながら加速する。

 その勢いのまま刀が振り下ろされ──福音が受け止めた瞬間。

 

「──そこ!」

 

 鈴の甲龍が横から飛び込み、衝撃砲を叩き込む。

 鈍い衝撃音が響き、福音の体勢がわずかに揺らぐ。

 福音が体勢を立て直すより早く、シャルロットが動いた。

 

「みんな、下がって!」

 

 リヴァイヴのスラスターが白光を噴き、空気が震える。

 高速旋回で福音の背後へ回り込み──

 

「──火力を集中させてください!」

 

 四方向からの射撃が降り注ぎ、福音を包囲する。

 逃げ道は、セシリアたちの連携によって完全に潰されていた。

 

「逃がしませんわ!」

 

 スターライトMkⅢに青い光が収束し、鋭い閃光となって放たれる。

 

──直撃。

 

 銀色の外殻が弾け、破片が光の粒となって散った。

 

「──効いてる!」

 

 シャルロットの声に喜色が混じる。

 

「このまま押し切るぞ!」

 

 五つの光が交差し、福音を追い詰めていく。

 その連携は、もはや一つの生き物のように滑らかだった。

 

──一夏のために。

──仲間のために。

──そして、自分たちの誇りのために。

 

 少女たちは銀色の死神へ迫る。

 だが──その瞬間。

 福音の動きが、まるで時間が止まったかのように静止した。

 

「……動きが……?」

 

 鈴が息を呑む。

 次の瞬間、福音の背部ユニットが異様な光を放った。

 先ほどまでとは明らかに違う、濃密で、重く、圧力を伴う光。

 

「全機、散開し──!」

 

 ラウラの叫びより早く、福音の周囲に無数の光点が生まれた。

 

「っ……! 来るわよ!」

 

 鈴が叫んだ瞬間──光弾が、先ほどの数倍の密度で一斉に放たれた。

 

「っ……!」

 

 箒が紅椿を捻り、紙一重で回避する。

 だが、等しく全員に放たれたように見えた福音の攻撃は、連携の始まりを狙って(・・・)いた。

 福音が再びくるり身を回転させると、ラウラへ向けて光弾を放つ。

 

「くっ……!」

 

 シールドが一気に削られ、警告音が鳴り響く。

 

『シールドエネルギー残量──68%』

「ラウラさん!」

 

 セシリアが射撃で援護しようとするが、福音はその動きを読んでいた。

 光弾がセシリアの射線を塞ぐように降り注ぐ。

 

「……っ!」

 

 ブルー・ティアーズが急旋回し、回避。だが、福音の攻撃は止まらない。

 次の瞬間には、シャルロットのリヴァイヴへ向けて、鋭い光が飛ぶ。

 

「シャルロット!」

「大丈夫……っ、だけど……!」

 

 リヴァイヴの翼端がかすめられ、火花が散る。

 福音は、まるでセシリア達の連携を崩すことを優先しているかのように、最も脆い部分を狙い撃ちにしていた。

 

「……まずいわね……このままじゃ……!」

 

 直感で福音の狙いを悟った鈴が歯を食いしばる。

 その時──

 

「皆さん、聞いてくださいまし!」

 

 セシリアの声が、全員の通信に響く。

 その声は震えていない。

 むしろ、どこまでも冷静で、強かった。

 

「ラウラさんは右へ。箒さんは高度を上げてください。シャルロットさんは左から回り込み、鈴さんは下から牽制を!」

 

 迷いのない指示。

 その声に、全員が即座に反応した。

 セシリアの指示通りに、まるで糸で操られたように滑らかに。

 

「──福音を動かします!」

 

 セシリアの放たれる閃光が、福音の動きを誘う(・・)ように放たれる。

 福音が回避するたびに、その先には仲間の攻撃が待ち構えていた。

 

「ラウラさん! 箒さん!」

「任せろ!」

「ああ!」

 

 セシリアの狙撃を避けるべく、機体を横に動かした所をラウラの放ったレールカノンが福音の装甲を捉える。

 体勢を崩した福音が、立て直すよりも早くセシリアの狙撃が命中し、機体が傾ぐ。

 そこへ、箒が上空からが降りかかり、福音の側面を切り裂く。

 

「足止めを!」

「了解!」

 

 不利を悟った福音が飛び立とうとしたところで。シャルロットの放つショットガンの雨が福音の逃げ道を塞ぐ。

 

「鈴さん、下から押し上げてください!」

「任せて!」

 

 右にも、左にも動けなくなった福音は、ならば下へと機体を向けたところで、甲龍の衝撃砲が福音を弾き上げる。

 そして──

 

「──逃がしませんわ!」

 

 セシリアのスターライトMkⅢから光が迸り、青い閃光が福音の頭部へ直撃した。

 バイザーが弾け飛び、内部から白い光が漏れ出す。

 

「……まだ動くの……?」

 

 鈴の声が震える。

 次の瞬間、福音の内部から白い光が噴き出した。

 

「全員、距離を取れ!」

 

 ラウラの叫び。

 重力が歪むような波動が広がり、五機のISが一斉に警告音を鳴らす。

 

『エネルギー反応──急速に増大』

「っ……まずいですわ!」

 

 セシリアの声に合わせ、全ての機体が急上昇する。

 だが福音は追わない。

 代わりに──頭部の裂け目から、白い光が翼の形を成した。

 

「なに……あれ……?」

 

 鈴が息を呑む。

 光の翼は、まるで意思を持つ生物のように羽ばたき、周囲の空気を震わせていた。

 翼が、空気を震わせながらゆっくりと広がった。

 その輝きは、今までのエネルギーの比ではない。

 新しい力が、福音の内部で目覚めたかのような、禍々しい脈動を伴っていた。

 

「……あれは……第二形態移行(セカンド・シフト)だ……!」

「そんな! なんでこのタイミングで!」

 

 ラウラの呟きに、シャルロットが悲鳴のような声を上げる。

 それぞれのISのセンサーが悲鳴のような警告音を連続で鳴らし続けていた。

 

『エネルギー反応──解析不能』

「解析不能って……どういうことよ……!」

 

 鈴の声が震える。

 光の翼が、ゆっくりと羽ばたく。

 そのたびに空間が歪み、空気が押し潰されるような圧が広がる。

 

「全員、距離を──!」

 

 取れ、とラウラが叫ぶよりも早く福音が動いた。

 いや、消えた(・・・)

 視界から、銀色の機体が一瞬で掻き消える。

 

「っ……!? どこへ──」

 

 箒の言葉が終わる前に、衝撃が走った。

 空気が爆ぜ、衝撃波が五機を揺らす。

 福音は、セシリアの真横に現れていた(・・・・・)

 

「っ……速い……!」

 

 セシリアが咄嗟に回避するが、光の翼が軌跡を描きながら追尾してくる。

 まるで生き物のように、青い機体を喰らおうと迫る。

 

「セシリア、避けて!」

 

 シャルロットが射撃を放つ。

 だが福音は、まるで見てから避けた(・・・・・・・)かのように軌道を変え、弾丸をすり抜けた。

 

「……嘘でしょ……!」

 

 シャルロットの声が震える。

 福音の光の翼が、セシリアへ迫る。

 その動きは、もはや機械ではない。

 獲物を狩る獣のような、執拗で、冷たい殺意。

 

「くっ……!」

 

 セシリアが急上昇し、青い残光を引く。

 だが光の翼は、空間を滑るように追いすがる。

 その瞬間──

 

「──させるか!」

 

 ラウラのレーゲンが割り込み、レールカノンを至近距離で叩き込む。

 砲弾が光の翼を弾き、福音がわずかに後退した。

 

「ラウラさん……!」

「体勢を立て直せ! まだ来るぞ!」

 

 福音の光の翼が、再び脈動する。

 その光は、さきほどよりも濃く、重く、禍々しい。

 

「……まだ成長してる……?」

 

 シャルロットの声が震える。

 光の翼が、完全に展開された。

 その瞬間、空が震えた。

 少しずつ暗くなっていた空が、白い光に塗り潰される。

 

「散開──!」

 

 セシリアの叫びと同時に、福音が羽ばたいた。

 空間そのものが押し潰されるような衝撃。

 真っ先に狙われたのは、箒だった。

 

「くっ……ぐぅっ……!」

 

 箒が紅椿を必死に制御し、戦域から吹き飛ばされるのを堪える。

 箒が顔を上げた時には、福音は鈴の甲龍を狙うのが視えた。

 衝撃で装甲を軋ませ、鈴が後退する。

 

「まだ……まだですわ……!」

 

 鈴の次はセシリアだ。

 セシリアは歯を食いしばり、スターライトMkⅢを構える。

 だが──福音はもう目の前にいた。

 

「っ……!」

 

 光の翼が振り下ろされる。

 セシリアが紙一重で回避するが、翼の余波だけで装甲が削れ、青い破片が散った。

 

「セシリア!」

 

 シャルロットが叫ぶ。

 だが福音は、次の標的へと視線を向けていた。

 視線の先にいるのは──ラウラ。

 

「来い……!」

 

 眼帯を外したラウラが構える。

 だが福音の動きは、彼女の反応速度を完全に上回っていた。

 光の翼が、迎撃しようとしたラウラのプラズマブレードを弾き、ラウラを包み込もうと広げる。

 

「ラウラさん──!」

 

 セシリアの叫びが響く。

 その瞬間──紅い閃光が、福音の翼を切り裂いた。

 

「……させるものか!」

 

 箒の紅椿が、展開装甲から紅い光を放ちながら割り込む。

 刀身が灼けるほどの熱を帯び、福音の翼に深い傷を刻んだ。

 

「箒さん……!」

「まだ終わってない!」

 

 この状態になった福音が、初めて後退した。

 光の翼が揺らぎ、白い粒子が散る。

 だが──その奥で、福音の翼がさらに強く輝き始めていた。

 

「……まだ……上があるの……?」

 

 鈴が呟く。

 福音が、自身の身体を抱くように光の翼で包むと、新たな光が溢れ出す。

 それは、先ほどまでとは比べ物にならないほど濃密で、重く、圧倒的な光。

 

「皆さん──来ますわ!」

 

 セシリアが叫ぶ。

 次の瞬間、福音から──白い砲撃(・・)が放たれた。

 

 




二度目のハサウェイ4DXを観に行くので、休み中の更新は期待しないでください…(4DXを見るには隣県に行く必要があるのです…)
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