ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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黒き願い、白き誓い

 福音の頭部から放たれた白い砲撃は、光というよりも圧縮された質量そのものが解き放たれたような奔流だった。

 深夜の空を切り裂くその輝きは、月光すらかき消し、周囲の雲を白く照らし出しながら、空間を押し潰し一直線に伸びる。

 

「回避──!」

 

 ラウラの叫びが夜気を震わせた瞬間、砲撃が空を裂く。

 耳を打つ轟音は、まるで大気そのものが悲鳴を上げているかのように思えた。

 五機のISが散開し、白い奔流が通過した後には、雲が蒸発し、空間が歪んだような残滓がゆらゆらと揺れていた。

 

「な、なんて威力……!」

 

 シャルロットの声が震える。

 リヴァイヴのセンサーが、まるで恐怖を訴えるかのように警告を点滅させ続けていた。

 

『エネルギー密度──規格外。回避を最優先に』

「そんなの見れば分かるわよ!」

 

 鈴が歯を食いしばりながら叫ぶ。

 白い砲撃を放った福音は、次の瞬間にはもう動いていた。

 光の翼を大きく広げ、夜空を滑るように加速する。

 その速度は、視認できる限界を軽々と超えていた。

 

「来る……!」

 

 ラウラが構える。

 だが福音は、彼女の反応より早く──背後に回り込んでいた。

 

「っ──!」

 

 光の翼が振り下ろされる。

 ラウラは咄嗟に身をよじるが──耳をつんざく破砕音。

 シールドが一撃で砕け散り、レーゲンの装甲が抉られる。

 衝撃で夜空に火花が散り、ラウラの視界が一瞬白く染まった。

 

「ラウラさん!!」

 

 セシリアの悲鳴が響く。

 

「まだ……こんなところで私は……!」

 

 ラウラは必死に姿勢を立て直すが、福音は追撃を止めない。

 光の翼が再び振り上げられ──

 

「──させるかぁぁぁっ!!」

 

 紅い閃光が割り込んだ。

 箒の紅椿が、手に持った刀で福音の翼を受け止める。

 金属同士が擦れ合うような、しかし金属では説明できない不気味な音が夜空に響く。

 

「箒さん……!」

「みんなを守るんだ! 私も!」

 

 箒の腕が震える。

 福音の翼は、ただ触れているだけで紅椿の刀身を削り取っていく。

 

「くっ……ぬぅぅぅっ……!」

 

 箒の機体が押し負ける──その瞬間。

 

「──離れなさいっ!!」

 

 青い閃光が横から突き刺さった。

 セシリアのスターライトMkⅢが、福音の翼の付け根を撃ち抜く。

 白い火花が散り、福音がわずかに後退した。

 セシリアの援護で一瞬だけ体勢を立て直したラウラだが、福音はなおも執拗にラウラを狙う。

 その動きは、まるで彼女だけを排除するように設計されているかのようだった。

 

「ラウラ!」

 

 シャルロットの声と共に、福音の翼が閃いた。

 レーゲンの胸部装甲が裂け、ラウラの身体が衝撃で弾き飛ばされる。

 

「ラウラさん!」

 

 セシリアの悲鳴が遠ざかる。

 視界が回転し、空と雲と破片がぐちゃぐちゃに混ざる。

 

(……まだ……戦える……私は……)

 

 意識が沈む。

 その暗闇の底で──あの声が響いた。

 

『──願え。お前が求める“最強”を』

 

(……教官……みたいに……)

 

 ラウラの胸に浮かんだのは、ただひとつの願い。

 

──強くなりたい。あの人のように。

 

 次の瞬間、レーゲンの内部で黒い光が爆ぜた。

 

『VTシステム起動──ヴァルキリー・トレース開始』

 

 ラウラの意識は、そこでぷつりと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 落下していたレーゲンが、黒い光を引きながら急停止する。

 外装が音もなく剥がれ、黒い装甲が花弁のように展開。

 その中心から現れたのは──暮桜を纏った姿。

 

「……ラウラも第二形態移行(セカンド・シフト)を……? いや、でもあれは……」

 

 シャルロットが息を呑む。

 返答はない。

 ラウラは、ただ福音に向け、無言で飛び出した。

 黒い残光が空を裂く。

 福音が反応するより早く、ラウラの刀が翼を断ち割った。

 白い火花が散り、福音が体勢を崩す。

 

「す、すご……っ!」

 

 援護するように鈴の射撃が横から入るが、ラウラはまるで気にしない。

 弾道を無視して突撃し、福音を蹴り飛ばす。

 その動きは、仲間の存在すら視界に入っていないかのようだった。

 

「ラウラ! 連携を──」

 

 箒の叫びも届かない。

 ラウラはただ最短距離で福音を追い詰める。

 福音が逃げ、ラウラが追う。

 その速度は、もはや人間の反応ではなかった。

 

 そして──

 

 黒い閃光が、福音の胸部を貫き、白い機体が爆ぜ、夜空に散った。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 白い機体が爆ぜ、夜空に散る。

 だが、勝利の余韻が訪れることはなかった。

 

──黒い光が、まだ消えていない。

 

 姿を変えたシュヴァルツェ・レーゲンの周囲で揺らめく黒い光は、まるで呼吸するように脈動し、深夜の空気を震わせていた。

 その光は、先ほどまでのラウラの気配とはまるで違う。

 冷たく、鋭く、そして──どこか空虚だった。

 

「ラウラ……?」

 

 シャルロットが恐る恐る呼びかける。

 返答はない。

 次の瞬間、黒い光が弾けた。

 

「──っ!?」

 

 シャルロットの視界から、ラウラの姿が消えた。

 風圧が爆ぜ、夜空に黒い線が走る。

 

「シャルロット! 避けろ!」

 

 箒の叫びが飛ぶ。

 シャルロットは反射的にスラスターを吹かし、横へ飛んだ。

 直後、彼女がいた空間を、黒い斬撃が貫いた。

 空気が裂け、深夜の静寂が悲鳴を上げる。

 

「なっ……ラウラが、僕を……!?」

 

 シャルロットの声が震える。

 ラウラの動きは、もはや人間の反応速度ではなかった。

 黒い残光を引きながら、獲物を探す獣のように空を旋回する。

 

「ラウラ! やめろ、私たちだ!」

 

 箒が叫ぶ。

 けれど、ラウラは仲間の声に反応しない。

 その瞳は、深い闇のように無機質で、ただ最も近い動くものを標的として捉えていた。

 

「来る……っ!」

 

 セシリアがスターライトMkⅢを構えた瞬間、黒い影が目の前に現れた。

 反応する暇すらない。

 絶対防御が発動し、辛うじて斬撃を受け止める。

 だが衝撃は凄まじく、セシリアの機体が大きく弾き飛ばされた。

 

「きゃあっ──!」

「セシリア!」

「落ち着け、ラウラ! 私たちだ、敵じゃない!」

 

 箒が、ラウラの進路に割り込む。

 だがラウラは、まるでそこに障害物があるといった程度の認識で、速度を落とさず突っ込んでくる。

 

「くっ……速い!」

 

 箒の刀が火花を散らし、黒い斬撃を受け止める。

 だが、押し返す力がまるで違う。

 さっきまでのラウラとは別人のような、圧倒的な重さ。

 

「ラウラ! 目を覚ませぇ!」

 

 叫びも虚しく、黒い光が箒を弾き飛ばす。

 夜空に紅い残光が散り、箒の機体が回転しながら後退した。

 

「はぁ……っ、はぁ……っ……ラウラ……どうして……」

 

 息を荒げる箒の前で、ラウラはゆっくりと振り返る。

 黒い光が、深夜の空に不吉な揺らめきを落とす。

 その瞳には、仲間への認識も、迷いも、感情も──何もなかった。

 ただ、最強(・・)を求めるための、無慈悲な演算だけが残っている。

 

「……まずい。このままじゃ、全員やられる……!」

 

 シャルロットが唇を噛む。

 そもそもが、全員で敵わなかった福音に、この状態のラウラはほとんど一人で勝利したのだ。

 人数が減った状態でどうしろと──

 

「来ますわ!」

 

 シャルロットの思考を切り裂くようなセシリアの警告の声と共に、ラウラが、再び動いた。

 黒い閃光が、セシリアたちへと迫る。

 深夜の空は、ラウラの暴走によって荒れ狂う嵐のようだった。

 

「くっ……! このままじゃ……!」

 

 鈴が歯を食いしばる。

 ラウラは完全に制御を失っていた。

 仲間の声も、攻撃も、警告も──何ひとつ届いていない。

 黒い光が再び弾け、ラウラが次の標的へ向けて加速する。

 その瞬間。

 

──空気が震えた。

 

 夜空の向こうから、別の光が一直線に飛び込んでくる。

 白い軌跡。

 それは、誰もが知る()の色だった。

 

「……あれは……!」

 

 箒が目を見開く。

 次の瞬間、黒い斬撃と白い斬撃が激突した。

 衝撃波が夜空に広がり、雲が吹き飛ぶ。

 

「ラウラ、やめろ!!」

 

 叫びと共に、白い機体が姿を現した。

 

「一夏さん!?」

「一夏!?」

 

 仲間たちの声が重なる。

 白い機体──白式が、ラウラの斬撃を真正面から受け止めていた。

 その腕は震え、火花が散る。

 だが、一夏は決して退かない。

 

「ラウラ! 俺だ! 目を覚ませ!!」

 

 ラウラの黒い瞳が、一夏を映す。

 しかしそこに意識(・・)はない。

 ただ、次の攻撃対象として捉えているだけだ。

 黒い光が脈動し、ラウラが一気に距離を詰める。

 

「くっ……速い!」

 

 一夏は辛うじて受け止めるが、衝撃で白式が大きく後退した。

 深夜の空に白い光が散る。

 

「一夏! 今のラウラは──!」

 

 シャルロットが叫ぶ。

 

「分かってる! でも……!」

 

 一夏は息を荒げながら、ラウラを見据える。

 

「ラウラは……俺が止める!」

 

 その言葉に、仲間たちは息を呑む。

 ラウラは無言のまま、黒い光を纏って再び構えた。

 その姿は、最強(・・)だけを求める無慈悲な刃。

 一夏は、逃げなかった。

 

「来いよ、ラウラ……!」

 

 白と黒の光が、深夜の空で交錯する。

 暴走したラウラと、一夏の必死の対峙が始まった。

 ラウラの斬撃を受け止めながら、一夏はその瞳をまっすぐに見据える。

 

「お前は、千冬姉になろうとしたんだな」

 

 静かだが、揺るぎない声だった。

 黒い光に染まったラウラの瞳は、一夏を()としてしか認識していない。

 だが一夏は、そこに確かにラウラ(・・・)を見ていた。

 一夏にとって、同学年で最も強く、最も追いつきたいと思った存在──それがラウラだ。

 だからこそ、今のラウラを前にしても、不思議と敗北の予感はなかった。

 

「お前が、お前で無いのなら、俺は敗けない」

 

 白式の腕が震える。

 黒い斬撃は重く、鋭く、まるで最強(・・)だけを求める刃そのもの。

 だが一夏は、押し返す力を緩めなかった。

 ラウラにとって千冬は、絶対の目標。

 その背中を追い続け、ついに千冬そのもの(・・・・・・)になろうとしてしまった。

 だが──

 

「俺は、お前に、千冬姉になろうとした事はない」

 

 ラウラの斬撃が一瞬だけ止まる。

 黒い光が揺らぎ、深夜の空に微かな乱れが走った。

 ラウラは、憧れの存在になれて満足だろうか。

 千冬そのものとなれて、嬉しいだろうか。

 そんな問いが、一夏の胸をよぎる。

 

「──俺は、憧れのその先に往く」

 

 一夏は雪片をまっすぐにラウラに向けて構え、宣言する。

 その言葉は、夜空に響く刃のように鋭く、真っ直ぐだった。

 呼応するように、雪片の実体剣が展開する。

 

(これは、ラウラを傷付けるために振るうんじゃない)

 

 白い光が奔り、エネルギーの放流が溢れ出す。

 

(守るために使うんだ──!)

 

 空気が震え、雲が裂ける。

 黒と白。

 憧れと、憧れの先。

 次の瞬間、二つの光が激突した。

 黒と白の光が激突した瞬間──

 一夏の白式の内部で、何かが切り替わった(・・・・・・)

 警告音でも、システムの自動起動でもない。

 もっと原始的で、もっと強い意志(・・)のようなものが、白式の奥底で目を覚ます。

 

『──零落白夜、全身展開モードへ移行』

 

 白式の外装が震え、白い光が雪片の刀身から溢れ出す。

 だが今回は違う。

 光は刀身に留まらず、一夏の全身へと流れ込み──

 

「……っ!」

 

 次の瞬間、白式の輪郭が消えた(・・・)

 白い光が爆ぜ、空間が歪む。

 まるで瞬時加速(イグニッション・ブースト)を常時発動しているかのような、爆発的な加速。

 そして通常では絶対に不可能な、加速中の方向転換を行う、異常な挙動。

 

「一夏さん! その機動は!?」

 

 セシリアが息を呑む。

 ラウラの黒い光が空を裂くが──白い光は回り込み、真正面から受け止めた。

 衝撃が夜空を震わせる。

 だが今度は、一夏が押し負けない。

 

「俺はもう、誰も傷つけさせない! 目に見えるその全てを守る!」

 

 カチリ、とタッグマッチトーナメントの時の様に、一夏の頭の中で何かが嵌る音が聞こえた。

 白い光が黒い斬撃を押し返す。

 黒い光の奥で、わずかにラウラ(・・・)が戻りかける。

 だが──VTシステムがそれを許さない。

 

『トレース候補──再定義。対象:織斑一夏』

 

 黒い光が脈動し、ラウラの速度がさらに跳ね上がる。

 黒い閃光が一夏を貫こうと迫る。

 しかし──

 

「──遅い!」

 

 白い光が弾け、一夏の姿が消えた。

 次の瞬間、ラウラの背後に白式が現れる。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)常時発動(・・・・)

 加速中の方向転換。

 それは、通常のISでは絶対に成立しない、させてはならない禁断の動き(・・・・・)

 だが白式は、それを可能にしていた。

 

「ラウラ……! お前は千冬姉にならなくていい!」

 

 白い光が黒い光を切り裂く。

 ラウラの動きが、一瞬だけ止まる。

 

(……いち……か……?)

 

 黒い光の奥で、ラウラの意識が揺らぐ。

 その頬を、一筋の涙が伝った。

 だが身体は止まらない。

 VTシステムが、ラウラの意思を無視して一夏へと斬りかかる。

 

「ラウラ……! 戻ってこい!!」

 

 白と黒の光が、夜空で激突する。

 その中心で、一夏の声だけが、確かにラウラへ届いていた。

 白式の全身を包む零落白夜の光が、脈動するたびに空気が爆ぜる。

 その加速は、もはや瞬時加速(イグニッション・ブースト)や、二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)。あるいは、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)といった、ISにおける通常の加速の概念すら置き去りにしていた。

 

「──ここで決める!」

 

 白い光が弾け、一夏の姿が消える。

 次の瞬間、黒い斬撃が空を裂くが──そこにはもう一夏はいない。

 ラウラの視界が追いつかない。

 黒い光が空を走るたび、白い光がその軌跡を上書き(・・・)するように回り込む。

 

「ラウラの動きを……読んで……!?」

「いや、あれは読みとかそんなんじゃない……! アレが動き始めようとした、その起こりに反応している……ッ!」

「じゃあ一夏は、ラウラが動こうとした瞬間、そのほんの僅かな動きを見てから対応しているの!?」

 

 シャルロットと鈴が息を呑む。

 暴走状態のラウラは、仲間たちが恐怖するほどの速度を持っていた。

 だが今、一夏はその()に立っていた。

 ラウラが一夏から離れ、鈴を捉えようと迫る。

 だが──

 

「遅いっ!!」

 

 白い光が弾け、一夏がラウラの真正面に現れる。

 加速中の方向転換。

 通常では絶対に不可能な挙動を、白式は当然のように(・・・・・・)こなしていた。

 VTシステムが即座に反応し、黒い斬撃を振り下ろす。

 だが──

 白い光が、その斬撃を押し返した。

 

「ありえない……」

 

 箒が震える声を漏らす。

 暴走したラウラの攻撃は、最新鋭の性能を誇る紅椿で受け止めても押し負けた。

 それを、一夏は──受け止めるだけでなく、押し返している。

 

「ラウラ! お前は……誰かの真似なんかじゃない! 千冬姉の影を追うだけの戦いなんて……そんなの、お前らしくない!」

 

 一夏の叫びが夜空に響く。

 白い光がさらに強く脈動し、白式の輪郭が揺らぐ。

 

『零落白夜──出力上昇。全身展開率、上限突破』

 

 白い光が爆ぜ、空間が歪む。

 一夏の加速が、さらに跳ね上がった。

 

「っ──!」

 

 ラウラの身体が反応するより早く、一夏が背後に回り込む。

 黒い光が追いつく前に、白い光がその腕を掴んだ。

 

「俺は──ラウラ・ボーデヴィッヒを超えたいんだ! お前自身の戦い方を……お前の強さを……!」

 

 白い光が黒い光を包み込む。

 その瞬間、ラウラの瞳が揺れた。

 

(……いち……か……?)

 

 黒い光の奥で、ラウラの意識が震える。

 だがVTシステムがそれを押しつぶし、再び黒い斬撃を振り上げる。

 だが一夏は離さない。

 白い光が爆ぜ、黒い斬撃を力ずくで押し返す。

 

「ラウラ! お前は千冬姉にならなくていい! お前は──ラウラ・ボーデヴィッヒだ!!」

 

 その言葉が、黒い光の奥に突き刺さる。

 ラウラの動きが止まった。

 黒い光が揺らぎ、夜空に微かな乱れが走る。

 

(……わたし……は……)

 

 その一瞬の隙を、一夏は逃さなかった。

 白い光が爆発し、黒い光を包み込む。

 夜空が白く染まり、衝撃波が雲を吹き飛ばした。

 

『──最終防衛プロトコル起動。VTシステム、出力限界突破』

 

 黒い光が爆ぜ、ラウラの身体が痙攣する。

 次の瞬間、黒い光が逆流するように一気に膨れ上がった。

 

「っ……ラウラ!?」

 

 一夏の腕を、暴走した力が弾き飛ばす。

 黒い光が夜空を裂き、ラウラの機体が跳ねるように加速する。

 その速度は、先ほどまでの暴走をさらに上回っていた。

 もはや、ラウラ自身の身体が耐えられる限界を完全に超えている。

 

「まずい……! このままじゃラウラの身体が……!」

 

 シャルロットの悲鳴が震える。

 黒い光が空を切り裂き、ラウラが一夏へと突っ込む。

 その軌道は、もはや攻撃(・・)ではない。

 ただ最強を求めるためだけに、身体を犠牲にした自滅的な突撃。

 

「ラウラぁぁぁっ!!」

 

 一夏は白い光を爆発させ、真正面から迎え撃つ。

 白と黒の光が激突し、夜空が砕けるような衝撃が走る。

 だが──押し負けたのは、一夏だった。

 

「ぐっ……!?」

 

 白式が吹き飛ばされ、雲を突き破る。

 視界が回転し、白い光が散る。

 それでも一夏は、スラスターを全開にして体勢を立て直した。

 

「ラウラ……!」

 

 叫びは届かない。

 黒い光は、ラウラの意思を完全に飲み込んでいた。

 ラウラは獣のように唸りを上げて迫る。

 一夏は雪片を構え、白い光を全身に纏う。

 白い光が爆ぜ、一夏がラウラへ突っ込む。

 だが迎え撃つラウラの速度はその上をいった。

 黒い斬撃が空間を裂き、白式の肩部装甲を抉る。

 

「ぐっ……!」

 

 白い火花が散る。

 それでも一夏は退かない。

 白式の全身が軋み、限界を訴える。

 

(……間に合わない……! このままじゃ……!)

 

 黒い光が、一夏の胸部へ一直線に迫る。

 その瞬間──

 

「──一夏さんっ!!」

 

 青い閃光が横からラウラへと突き刺さった。

 シャルロットが、鈴が、箒が、ここにいる誰もが一夏とラウラの戦いを眺めている中、たった一人、蒼き射手だけは、狙い続けていた。

 激しく入り乱れる中で、ラウラだけを狙った精密射撃。

 決定打とはならずも、不意を突かれたラウラの身体が一瞬だけ揺らぐ。

 

「今ですわ!」

 

 たった一瞬の静止。

 だが、一夏には十分だった。

 

「ラウラぁぁぁぁぁっ!!」

 

 白い光が爆発し、一夏がラウラへと突っ込む。

 雪片の刀身が白く輝き、零落白夜の光が全身を包む。

 黒い光が再び動き出すより早く──

 一夏の白い斬撃が、ラウラの胸部ユニットを切り裂いた。

 衝撃が夜空を震わせ、黒い光が弾け飛ぶ。

 

『──VTシステム……強制停止……』

 

 ラウラを包んでいた、黒い光が霧のように消えていく。

 それに呼応するようにして、機体が力を失い、ゆっくりと落下を始めた。

 

「ラウラ!」

 

 一夏は全力で加速し、落下するラウラ腕を掴む。

 白い光が消え、静寂が夜空を包んだ。

 ラウラの、かすかに震える声が聞こえる。

 

「……いち……か……?」

 

 夜空を漂う白い残光が、ゆっくりと消えていく。

 暴走の余韻が嘘のように静まり返り、ただ風の音だけが耳に残った。

 一夏に抱きかかえられたラウラの機体は、力なく垂れ下がっていた。

 

「ラウラさん……!」

 

 最初に駆け寄ったのはセシリアだった。

 ブルー・ティアーズのスラスターが青い尾を引き、彼女は震える声で続ける。

 

「よかった……本当に……!」

 

 その声には、恐怖と安堵が入り混じっていた。

 先ほどまで自分たちを殺しかけた相手──

 それでも、仲間を失うことの方がずっと怖かった。

 

「ラウラ……!」

 

 箒も続く。

 紅椿の刀身はボロボロで、また、機体も同じ様に傷だらけだった。

 

「お前……どれだけ心配させるんだ……!」

 

 怒鳴るような声だったが、震えていた。

 その震えが、どれほど必死に戦っていたかを物語っていた。

 

「……無事で……よかった……」

 

 シャルロットは胸に手を当て、深く息を吐いた。

 彼女の瞳には、涙が滲んでいた。

 

「アンタは本当に……心配させるんじゃないわよ……!」

 

 仲間たちの声が、ラウラの胸に刺さる。

 自分は彼らを斬りかけたのに──。

 

(……どうして……どうしてお前たちは……そんな顔を……)

 

 ラウラの視界が涙で滲んだ。

 

「ラウラ、帰るぞ。みんなで」

 

 一夏の声は、驚くほど優しかった。




絢爛舞踏はどこ?…ここ…?
ついでに言えば雪羅もなかったりしてます…
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