ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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すみません。
活動報告で71話からはイギリス編だぜ!と堂々と宣言しておきながら、白式の変化とかその他もろもろ回収してなかった事に気付いたので、今回はそのお話です



変質する力と揺るがぬ想い

「あー疲れた!」

 

 夏の強い日差しが降り注ぐ中、バスから降り立った鈴は猫の様にその身をぐぐぐっと伸ばす。

 もう今日は何もしない。惰眠をむさぼる、と一人心に決めた鈴は一夏を筆頭に専用機持ちが揃ったままなのに気付く。

 

「あれ? 一組のバスはとっくについて解散してたんじゃないの?」

 

 二組のバスはちょっとしたトラブル──帰り途中でサービスエリアによる都合が発生──で、一組のバスから遅れて到着していた。

 故に、鈴は一夏達はとっくに寮に入っているとばかり思っていたし、一夏以外の他の生徒は既に解散しているようだ。

 

「昨日の事情聴取だってよ」

「あーね」

 

 一夏が肩をすくめて言うと、鈴も納得したように頷く。

 深夜だったという事もあり、昨夜の詳しい報告は出来ていない。

 特に今回は、単純に福音を撃墜して終わり、と言う簡単な話ではなく、ラウラの暴走に、一夏の事もある。

 本来は、旅館ですぐに行うべきだっただろうが、確認することが多すぎるがゆえに、学園に戻ってから確認しようという事か。

 

「とりあえず、場所を移すぞ。話す内容が内容だ」

 

 千冬が短く言い放つと、全員が自然と背筋を伸ばした。

 ぞろぞろと校門前から移動を始める一同。

 夏の日差しは相変わらず強く、舗装された道から立ち上る熱気が足元を包む。

 向かった先は、学園内でも限られた者しか入れないブリーフィングルーム。

 冷房の効いた室内に入ると、さっきまでの暑さが嘘のように引いていく。

 

「さて──まずは昨日の件だ」

 

 千冬が腕を組み、全員を見渡す。

 

「作戦当初にも伝えたが、福音戦の詳細は口外禁止だ。今回の件は特に、学園側もアメリカ・イスラエルも神経を尖らせている。不用意な発言は厳禁だ」

 

 それぞれが頷く中、ラウラだけがわずかに視線を伏せていた。

 

「次に──ボーデヴィッヒ」

 

 名を呼ばれたラウラが、ビクリと肩を震わせる。

 

「お前の機体に搭載されていたVTシステムだが、ドイツ軍は関与していないと正式に回答が来た」

「……っ!」

 

 ラウラの瞳が揺れる。

 セシリアとシャルロットが心配そうに彼女を見た。

 

「学園側も、ドイツは関与していないと考えている。つまり、誰かが意図的に紛れ込ませた可能性が高い。よって、お前の暴走は責任を問われるものではない。だが──」

 

 続く言葉を待つ。

 

「狙われた可能性があるということだ」

 

 空気が一瞬で重くなる。

 

「ラウラを、ですか……?」

「なんでそんな……」

 

 箒が眉をひそめる中、一夏はどこか考え込むように視線を落としていた。

 千冬は続ける。

 

「そして──織斑」

「──はい」

 

 名前を呼ばれ、一夏は思考を中断して顔を上げる。

 

「白式の件だ。今回の戦闘データを解析した結果、白式は第二形態移行(セカンド・シフト)をした訳ではないと考えている。どちらかと言うと、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発現に近い」

「でも、白式には既に零落白夜が単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)がありますよね?」

 

 シャルロットが手を挙げて疑問を口にする。

 一夏も、他の面々も同じ様に頷く。

 

「白式は、ただの試作機ではない。お前が扱うことを前提に、特別な調整が施されている。だが──その詳細を知る者は、学園側にもほとんどいない」

「どういうことです、それ……」

 

 一夏が困惑するのも無理はない。

 簪とのやり取りの中で、倉持技研が白式の製作に携わっているのは知っている。

 その上で、学園側が関知していないという事など、あり得るのだろうか。

 

「倉持技研預かりとなっているが、実際は篠ノ之束が携わっている……と、言うよりあいつが仕上げた」

「っ!? なら──」

 

 一夏の脳裏に、福音戦の前に束と交わした会話が蘇った。

 あの時、束に何かをされたと思ったが、もっと前からという事になる。

 

「白式に……雪片があるのも、零落白夜があるのも、束さんの仕業って事なんですか……?」

 

 震える声。

 それは恐れなのか、怒りなのか、あるいは両方か。

 

「わからん……が、その可能性もあるだろうな」

「……なんでそんな事するんだよ……」

 

 一夏が手を握りしめる。

 怒りか、恐れか、震える手をそっと握りしめたのはセシリアだった。

 添えられたセシリアの手は、驚くほど温かかった。

 震える一夏の拳を包み込むように、優しく、しかし確かな力で握り返してくる。

 

「一夏さん……落ち着いてくださいませ。今はそれを考えても詮無い事ですわ」

 

 その声音は、普段の気品ある調子とは違い、どこか必死さが滲んでいた。

 

「……セシリア。ありがとう」

 

 千冬はそんな二人を一瞥し、深く息を吐いた。

 

「感情的になるのは理解できるが、今は事実を整理する方が先だ。一夏、一つだけはっきりさせておく」

 

 千冬の視線が鋭く一夏を射抜く。

 

「束のやり方は気に食わんが、あいつはお前を壊すような真似はしない」

「……本当ですか? 福音戦で落とされた理由の多分を占めてそうなんですけど」

「断言はできんがな」

「そこはして下さいよ……」

 

 それが安心材料なのかどうかは分からない。

 だが、一夏の胸の奥に渦巻いていた恐怖は、少しだけ形を変えた。

 

「……じゃあ、俺は……どうすれば」

 

 その問いに、千冬は短く答える。

 

「強くなれ。それだけだ。白式が何であれ、お前が振り回されないだけの力を持てばいい」

 

 その言葉は、叱咤でも激励でもなく──ただの事実として告げられた。

 

「それに、白式の──零落白夜の変化はお前にとっては望む形ではないのか?」

 

 千冬の言葉の意味が分からず、一夏が首を捻る。

 だが、ラウラは理解したのか大きく頷く。

 

「零落白夜の性質が変わりましたね」

「その通りだ、ボーデヴィッヒ。──私が、そして織斑が今まで使っていた零落白夜は、相手のエネルギーを無効化して、絶対防御を発動させるという攻撃のための力だ」

 

 ここまで言われ一夏も気付く。

 

「──俺の使った零落白夜は、相手ではなく自身に向かってました」

「データを見る限り、エネルギーを無効化するという性質はそこまで変わってない。今までの様に、相手のエネルギーを無効化するのではなく、自身に向けられるあらゆるエネルギーを無効化している節がある」

 

 実際にデータを採らないとわからないが、と千冬が前置きをして続ける。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)中の方向転換の際にかかる負荷を、あの状態では無効化出来ていたのもその一例だろう」

 

 一夏の願いが、零落白夜を人に向けたくないという考えであれば、白式がそこに合わせて進化したのは納得がいくと千冬は思っていた。

 ラウラも、かつて一夏に零落白夜を使わせようとした時に、「誰かを傷付けるために使いたくない」と一夏が言っていたのを思い出す。

 それは、自分を守ってくれた力で、誰かを傷付けたくないという思いから。

 だからこそ、一夏の使う零落白夜の性質が、攻勢ではなく、彼の求める願いに合わせて守りに特化した方向に形を変えるのは、ISが操縦者の為に進化をすると設定されている以上、ある種当然の事でもあった。

 

「あの状態が輝くのは、本来は守りに入った時だ。ここにいるメンバーを相手にすると考えれば──」

 

 千冬が一人ずつゆっくりと視線を滑らせる。

 

「篠ノ之の斬撃、雨月と空裂の放つエネルギー弾はかき消される。そして凰の放つ衝撃砲も同じだ。ボーデヴィッヒのAICも意味をなさなくなるし、オルコットのレーザーも通じないだろうな」

 

 全部が全部当てはまる訳ではないが、第三世代機の性質上、イメージインターフェイスを使用する武装のほとんどが、エネルギーを伴ったモノになる。

 故に、零落白夜をまとった一夏にダメージを与える事は不可能と言う事になる。

 最も、零落白夜の本質──自身のシールドエネルギーを転嫁するという性質は変わっていないため、発動し続けるとエネルギーが枯渇するのは変わってはいないが。

 

「……つまり、あの時も俺は零落白夜に守られていた(・・・・・・)ってことですか」

 

 一夏がぽつりと呟く。

 自嘲でもなく、安堵でもなく──ただ事実を受け止めるような声音だった。

 

「そういうことだな」

 

 千冬が頷く。

 

「零落白夜の性質が変わったということは、白式がお前の願い(・・・・・)に合わせて進化した可能性が高い。ISは操縦者の精神性に強く影響される。これは今さら説明するまでもないだろう」

「……俺の、願い」

 

 一夏は思わず視線を落とす。

 今までの戦いを振り返り、何度も何度も頭に浮かんだのは──

 

 誰も傷付けたくない。

 守りたい。

 失いたくない。

 

 その想いが、白式に影響したのだとしたら。

 

「……そんな都合よく、変わるもんなんですかね」

「都合がいいかどうかは知らんが、事実として変わっている」

 

 千冬は淡々と告げる。

 

「そして──その変化は、戦闘においては極めて厄介だ。お前を倒すには、実体のある……そうだな。実弾か、質量攻撃か、あるいは零落白夜を上回るエネルギーを叩き込むしかない」

「ええとじゃあ……僕の実弾は通る、ってことですか?」

 

 シャルロットが遠慮がちに手を挙げる。

 

「理論上はな」

 

 千冬が頷く。

 

「でも、それって逆に言えば……」

 

 鈴が眉をひそめる。

 

「一夏があの状態で守り(・・)に徹した場合、あたし達、ほとんどの第三世代機は手も足も出ないってことですよね?」

「……まあ、そうなるな」

 

 その言葉に、部屋の空気がざわりと揺れた。

 

「……それなんてクソゲー?」

 

 鈴がポツリと呟いた一言に、一夏が頬をひきつらせる。

 あんまりにも、あんまりな言い草だったからだ。

 

「鈴さんと、ラウラさんはまだ良いですわ。鈴さんは青龍刀、ラウラさんはレールカノンやプラズマブレードがありますから──でもわたくしの場合……詰んでません?」

 

 無効化されないであろうミサイルビットは、レーザーよりも遅い。あの状態の一夏に追い付けないと容易に予想が出来た。

 それに、よしんば追い付いたとしても、ミサイルを叩き斬られ、爆風が届く前に離脱されるのがオチだろう。

 そして、インターセプター(ショートブレード)で迎撃したところで、一夏とマトモに斬り合える自信は全くと言っていいほどない。

 セシリアの言葉に、今度こそ部屋に静寂が訪れた。

 

──詰んでません?

 

 あまりにも率直すぎるその一言を、誰も否定できなかった。

 

「……まあ、セシリアの武装はほとんどがエネルギー兵器だしね。仕方ないよ」

 

 シャルロットが苦笑混じりに肩をすくめる。

 

「わ、わたくしだって分かっておりますわよ!? でも、こう……なんというか……理不尽ではありませんこと!?」

「一夏がある意味理不尽なのは今に始まったことじゃないでしょ。──つーか、一夏関連で理不尽とか、あんただけには言われたくないわー」

 

 鈴が呆れたように言う。

 

「それに、一夏って昔から変な方向にだけスペック高いし、まあそれだけ尖った性能になるのも納得だけど」

「変な方向って……」

「……なんだ? 文句でもあるのか?」

「ないです……ハイ……」

 

 幼馴染二人に言われてしまえば、一夏としては口を噤むしかなかった。

 

「……しかし」

 

 ラウラが静かに言葉を継ぐ。

 

「お前は、誰かを守るためなら迷わず前に出る。その精神性が白式に影響したのだとしたら……零落白夜の変化は、必然だったのだろうな」

 

 その声音には、悔しさと、尊敬と、別の何かが入り混じっていた。

 

「……そうだね」

 

 シャルロットがぽつりと呟く。

 

「守りに徹した一夏を、誰も突破できないって……なんか、すごく一夏らしい(・・・・・)よね」

「え?」

 

 一夏が目を瞬かせる。

 

「だって、一夏って……いつもそうじゃない」

 

 シャルロットは柔らかく微笑む。

 セシリアがどこか誇らしげに続ける。

 

「自分が傷付くのは構わないけれど、誰かが傷付くのは嫌がる。──そんな一夏さんが使う零落白夜が、攻撃ではなく守り(・・)に進化するのは……むしろ自然ですわ」

「……っ」

 

 その言葉に、一夏は返す言葉を失った。

 箒も、鈴も、ラウラも、シャルロットも──

 それぞれが静かに頷いている。

 千冬はそんな彼女らを見渡し、短く言った。

 

「だからこそ、一夏。お前はもっと強くなれ。守りたいものを守り切れるだけの力を、だ」

「……はい!」

 

 一夏の返事は、先ほどよりもずっと強かった。

 千冬は満足げに頷き、話を締めくくる。

 

「──以上だ。詳細な解析は後日共有する。今日は解散して休め。特に織斑、お前はな」

 

 その瞬間、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。

 

「……はぁ。なんか、どっと疲れた」

 

 一夏が苦笑すると、周囲の少女達も同じように肩の力を抜いた。

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