ちょっと大人なインフィニット・ストラトス   作:たんたんたんめん@オルコッ党員

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もの凄くお久しぶりです。
仕事が忙しすぎまして、すっかり間が空いてしまいました。
具体的に言えば海外に飛んでいました。


夜語り

「まあ、適当に座れや」

「はあ、どうも」

「そんな緊張すんなよ。別に取って食おうってわけじゃねえし」

 

 なんて笑いながら一夏はセシリアに座るように促す。

 とりあえず、使って無さそうな方のベッドを選んでセシリアが腰を下ろすと、一夏がカップを差し出す。

 差し出されたカップの中には当然と言わんばかりに黒色の液体が入っている。

 

「……これ、織斑先生専用ブレンドでは?」

「そんな顔すんなよ。ミルクは用意してあるからさ」

 

 セシリアの妙に警戒した表情と言葉に一夏は苦笑いを浮かべながら、冷蔵庫から牛乳を取り出す。

 千冬が持って来た豆ではブレンドも制限されるのか、一夏は諦めにも似た表情を浮かべている。

 廊下でも思ったが、大分落ち着いているなとセシリアはぼんやりと感じた。

 

「ミルク多めでいいか?」

 

 セシリアが頷いたのを見て、一夏がミルクを注ぐ。

 宣言していたとおり、ミルクの量は多い。ざっとミルク1に対してコーヒー2くらいの割合か。

 出されたコーヒーを口にすると、千冬の部屋で飲んだ時よりは飲みやすかった。……もはや、コーヒーの風味はあまりわからないほどにミルクが強調されているが。

 

「今日の分のお礼な。まあ、俺のせいで中止になったわけだが」

 

 なんでも無いような感じでサラリと言ったのが、セシリアとしては意外だった。

 まさか、一夏の方からその話題に触れてくるとは思っていなかったのだ。

 もっとも、既に話を聞かれているからが故に開き直っている可能性もあるが。

 

「せっかくお前にも色々教えてもらったのに悪かったな」

「いえ、そんな」

「つーかどうしような。武装」

 

 こうやって気丈に振る舞う一夏を見て、セシリアの胸が苦しくなる。

 一番辛いのは彼だろうに、そんな素振りは見せない。

 

「そうですわね。雪片を使うのは無理なのでしょう?」

「無理というか、嫌だな。俺には使う資格はない」

 

 無理(・・)ではなく、()ときたか。

 そんな事はない、と言ったところで、彼を翻意させるのは不可能なのはセシリアもわかっている。

 となると、やはり千冬の言っていた方法しかないだろう。

 そう思いセシリアが口を開こうとすると、それよりも早く一夏が妙に得意げに語りだした。

 

「調べたけど、ISには後付で武器を載せられるみたいだしな。他に使えそうなものでどうにかやるさ。──ってなになんとも言えない顔してやがる」

「……たった今、織斑先生とその話をして来ましてね。どうやら織斑さんの機体では、そのご要望には沿えないようでして」

「要望……機体だけに期待がかかってるわけだな」

「は?」

「そんな怖い顔しなくてもいいじゃん……」

 

 真面目な話をしているかと思えば、急になんの話をしているのかとセシリアがジト目を向ける。

 気まずげな表情の一夏をよそに、セシリアは気を取り直し口を開く。

 

「白式には拡張領域(バススロット)がもう空いていないそうでして。他の武器を使うなら、使用許諾(アンロック)された武器を手で持ち込むしか無いですわね」

 

 そう言うと、一夏はマジかよ、と頬を引きつらせる。

 無理もない、とセシリアも思うが。

 兎にも角にも、一夏の白式は想定外も良いところなのだ。武器は刀一本だけ。本来は発現するはずのない単一仕様能力(ワンオフアビリティ)が既にあったり、逆に単一仕様能力(ワンオフアビリティ)のせいで拡張領域(バススロット)が埋まっていたり。

 ハッキリ言って、初心者に使わせる機体ではない。もっとも、ベテランでもこの機体に乗るのには抵抗があるだろう。

 おそらく、千冬くらいしか真価を発揮させる事は出来ないんじゃないかとも思う。

 

「となると、適当なブレードを持ってくしか無いか。銃とかもやろうと思えば持ってけるか?」

「持っていこうと思えばやれますけど、弾薬も手持ちになりますのでやめたほうが賢明ですわね」

 

 織斑先生も同じ考えでしたわ、とセシリアは付け加える。

 銃火器の類も持ち込めるは持ち込めるが、マガジン類も手持ちだ。まあ、白式にマガジンをくくりつけても良いのだが、そこまでして銃にこだわるメリットはない。

 これは一夏とセシリアは知らないことだが、火器管制系のシステムが白式にない以上、銃の取り扱いは一夏の射撃センス次第だ。

 けれど、ISバトルは止まっている状態で止まっている的を撃つのではない。

 自身も高速で動きながら、同じく高速で動く的に当てねばならないのだ。

 これまで一般人だった一夏に高機動戦闘中に射撃なぞ出来るはずもない。

 しばし、二人の間には沈黙が落ちた。が、一夏が口を開く。

 

「……って俺はこんな話をするためにお前を呼んだわけじゃねえ」

 

 コーヒーを一口すすると、一夏は居住まいを正してセシリアに向き直る。

 普段の軽快な彼とは違い、どこか口にするのを躊躇うような、悩ましい表情だ。

 

「ちょびっとだけお前の事を調べてみたんだが、なかなか波乱万丈な人生を過ごしているようじゃないか」

 

 姉弟揃って同じことを言うものだ。

 ちょうど今さっき、千冬に同じことを言われたのを思い出し、セシリアは苦笑いを浮かべた。

 と、そんなセシリアの笑みを勘違いしたのか、一夏の表情が歪んだ。

 

「……悪い。いきなりするような話じゃなかったな」

「あ、いえ、気分を害したとかそういうわけではなくてですね。先程、織斑先生も同じことをおっしゃってましたので、姉弟揃って同じことを言うのだと思っただけですわ」

「千冬姉が?」

「はい」

 

 セシリアが頷くのを見て、一夏はさっきはその話をしてたのかと呟き髪の毛をガシガシと掻きむしる。

 

「なんだか知らねえけど、千冬姉はお前の事を気に入っているみたいだな」

「そうでしょうか」

「間違いねえよ。じゃなかったら自分から他人にそういう話はしねえ」

 

 ここで、千冬に『一夏の嫁にどうだ?』と言われた事を伝えたらどういう反応をするだろうか。

 なんて事をセシリアが考えていると一夏が言いにくそうに口を開く。

 

「なあ、俺の勘違いだったらいいんだが、お前俺に対して過剰に関わってきてないか?」

 

 む、とセシリアが小さく唸る。

 一夏は割合、鋭い部類の人間に配分されることはセシリアもこの二日間を見てなんとなく察していた。

 とはいえ、ここまで早く感付かれるのは想定外だったが。

 

「ここまで面倒見てくれてるんだ、俺に惚れてるか、国からの命令かのどっちか以外に考えられねえよ」

「む……」

 

 やはり、そういった結論に行き着くか。

 たしかに、答えはその二つのどちらかにしかならないだろう。

 

「ええ、そのとおりですわ。織斑さんの考えで合っています。まあ、両方ではなく、片方だけですが」

「片方って言うとやっぱ俺に惚れたのか……」

「わざと言ってますわよね、それ」

「言っておくが、俺って結構モテるんだぞ。中学の頃は『付き合って下さい』なんてお誘いがもう頻繁に舞い込んでだな」

「買い物とかにって事では……?」

「…………」

 

 セシリアの言葉が図星だったのか、一夏は黙り込んでしまった。

 一夏のその態度にセシリアはやれやれと首を振る。

 そんなセシリアの対応に思うところがあったのか、一夏が食ってかかる。

 

「だったらお前はどうなんだよ。彼氏の一人でもいた事あるのかよ」

「わたくしですか?」

 

 思わずと言った感じにセシリアの口から素っ頓狂な声が漏れる。

 

「うーん。まあ、言い寄ってくる男性の方はいらっしゃいましたが……」

「いましたが……?」

「別にそういった事に興味ありませんし、やんわりと断ってましたわ」

 

 イギリスでの日々を思い出しながら、セシリアは一夏の質問に答える。

 そもそも、純粋な好意だけを持って近づいてくれた男性はいない。

 誰も彼もセシリア個人というよりは、オルコット家の財産を狙っていたように思う。

 

「……つーかそういう事に興味ないって、お前実は女が好きだったり……?」

「は?」

「その顔マジでやめて。すげー怖いから」

 

 冷や汗を流さんばかりの一夏の様子に、そんなに怖い顔をしていたかしらとセシリアは首をかしげた。

 

「自覚がないっぽいから言っておくけど、ぶっちゃけ千冬姉が怒った時と大差ないと思う……」

「そんなに……?」

 

 そこまで怖くないと思いたいのだが。

 とはいえ、ずっと姉を見続けてきた一夏が言うのなら、そうなのかもしれない。

 

「まーた話が逸れた。お前と話すとなんでこうも脱線を繰り返すんだ」

「わたくしのせいとでも言いたげですわね」

 

 どちらかと言えば、原因は一夏の方な気もするが。

 そんなセシリアの非難がましい視線を一夏はわざとらしく避ける。

 

「ってお前さりげにお国の命令ってバラしてるけどいいのかよ」

「あ……」

「俺が言うのもなんだけど、俺に惚れといた事にしといた方が良かったんじゃ……」

「ああ……」

 

 どこの世界に「私は政府に命令されてあなたに過剰に関わっています」と対象に言う者がいるのだ。

 ついうっかり口を滑らせたが、まさに馬鹿だろう。

 我ながら、気が緩んでいたのかしらとセシリアは頭を振った。

 

「……まあ、遅かれ早かれでしょうし」

 

 そうセシリアが小さく呟くと、一夏が小さくため息を吐いた。

 

「やっぱそうだったんだな。いや、まあ、お前は代表候補生だしそれも当然っちゃ当然か」

「すみません……」

 

 セシリアが大人しく頭を下げると、一夏が苦虫を潰したような表情を浮かべた。

 ハニートラップを仕掛けようとしてましたと告白したのだから、この反応も無理はない。

 セシリアは自分を非難する言葉が出てくるだろうと思ったが、一夏の口から出た言葉はそうではなかった。

 

「急にしおらしくなるんじゃあないっ。どうせだったらもっとふてぶてしくしてろって」

「ふてぶてしくって……」

「こっちは怒りたいのにそうやってしおらしくされてみろ。怒るに怒れないだろうがっ。俺はしょげてる女を怒る趣味はないんだよっ」

「……それって逆に言えばしょげてなければ怒るという事では?」

 

 恐る恐るセシリアは思ったことを口にした。

 

「当たり前だろ! こっちはなあ、お前が意外と話しやすいし、色々面倒見てくれるしでなあ……結構信頼してたんだぞ。そんな相手にこんな事を言われたらそりゃ怒りたくもなるだろうが」

 

 一夏が怒りを持つのは無理もないとセシリアも思う。

 それよりも、信頼していたという言葉を嬉しく思う自分自身に驚いた。

 まさか、男嫌いの自分がこんな気持になるとは。

 セシリアが自虐的な笑みを浮かべると、一夏が訝しげな表情を浮かべた。

 

「何笑ってやがる。まさか俺に怒られなくて良かったとか思ってるのか」

「いえ、そんなつもりでは。……というか今も結構怒っておられるのでは?」

「ほーう。よくもそんな口を叩けたな」

 

 にやっと笑う一夏に、セシリアは一夏は優しい人だとぼんやりと思った。

 明らかに、ハニトラの話を逸らそうとしてる。罪悪感を抱かせないようにと気を使ってくれているのだ。

 

「先程の言葉は訂正した方がよろしいかもしれませんわね」

「あん? なんだよ急に」

「いえ、そちらではなく、モテないと否定したことですわね。……あなたは年齢を問わず女性を惹きつける才能がおありのようですわね」

「……自分で言っといてアレなんだけど、俺はそこまで上等な男じゃないんだが」

「ふふっ。ではそういう事にしておきましょうか」

 

 妙に否定してコーヒーを啜る一夏が微笑ましい。やはり、彼の自己評価はすこぶる低いようだ。

 もっとも、ハニトラをかけようとしていた自分が褒めても、素直に信じるほうがおかしいかもしれないが。

 

「……っともうこんな時間か。呼びつけて悪かったな」

「ああ、いえ。お気になさらず」

 

 時計をみると、話し込んでいたのか結構な時間が経っていた。

 そういえば昨日も夜遅くまでこの部屋にいたなとセシリアはぼんやりと思った。

 下手したら自分の部屋にいる時間よりも長い時間をここで過ごしている気すらもする。そして、その予想はあながち間違ってもないだろう。

 

「どうせだったら泊まってくか?」

 

 ふと、真剣な表情を浮かべながら、一夏がこんな事を言ってきた。

 何故か、一夏のまっすぐな視線に射抜かれセシリアの胸は一瞬ドキッと高鳴った。

 が、すぐさま不敵な笑みを浮かべた一夏がニヤリと笑った。

 

「──なんてな。俺も今日は疲れたからさっさと寝るし。ほら、さっさと帰った帰った」

 

 手でしっしという風にする一夏を見て、セシリアにも少しだけ意地悪をしたいような気持ちになった。

 枕を抱き寄せて、一夏を上目遣いで見る。

 

「今夜は帰りたくない気分ですわ……」

 

 かすれるような声で漏らすと、一夏の眉がピクッと動いた。

 

「お前な、そんな言葉と仕草どこで覚えてきたんだよ。……アレか。そういうのも仕込まれてきたのか?」

「仕込まれてませんっ!」

「急にでかい声出すなよっ。つーか枕投げんじゃねえ」

 

 思わずセシリアが枕を投げつけると、一夏が慌てた様にキャッチする。

 その後も「コーヒーが溢れるところだった」などの文句をひとしきり言うと、頬を指で書きながら声のトーンをお落とし、口を開く。

 

「……そうやって挑発するのはやめてくれ。お前みたいな奴に本気で迫られたら我慢できる気がしねえ」

「……は?」

 

 一夏の言っていることが理解できなかったセシリアが、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

 いや、言っていることはわかるのだが、彼の口からそういう言葉が出てきたのに事実に驚いたのだ。

 

「だ・か・ら。お前みたいな美人にそんな事言われて我慢できるほど俺は人間が出来ちゃいねえの」

「はあ……」

「本当にわかってるのかお前? そういえば昨日もそうだったな。あんな格好で男の部屋に来るんじゃない。マジで焦ったんだからな」

 

 つまり、一夏の言葉を要約すると「あんまり俺を煽ると襲っちまうぞ」と言ったところか。

 途端、そこまで思い至ったセシリアの顔が真っ赤に染まった。

 一夏の方を見ても、あちらも同じ様に紅く染めている。

 

「恥ずかしいのなら言わなければよろしいのに……」

「……それはお互い様だろ」

 

 そう言うと一夏は枕をセシリアに投げ返す。

 

「ほら、そろそろ帰れ。毎日帰りが遅いとルームメイトも心配するぞ」

「心配というよりは、誤解されそうではありますわね」

「たしかに」

 

 互いに苦笑を交わすと、一夏が立ち上がってドアを開けた。

 ふと、昨日の言葉を思い出したセシリアが一夏を見上げる。

 

「今日は送って下さいます?」

「……本当に、これが仕込まれてないんなら恐ろしいもんだ」

「何かを投げつけられるのがご希望なら、指定していただけると助かりますわ」

「そいつは勘弁」

 

 肩をすくめた一夏はそのままセシリアを部屋から追いやると、自分も部屋から出てドアを閉めた。

 昨日は部屋の外までお見送りには来なかったことを考えると、まさか本当に送ってくれるつもりなのだろうか。

 一応確認はしておこうと、セシリアが恐る恐る声に出した。

 

「……もしかして、本当に送って下さるのでしょうか?」

「お前が送れって言ったんだろうが」

 

 ぶっきらぼうに言ってずんずん歩いていく一夏の背中を、セシリアは慌てて追いかけた。

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