ちょっと大人なインフィニット・ストラトス 作:たんたんたんめん@オルコッ党員
翌朝、朝食の時間だ。
一夏はトレイを片手に食堂で席を探す。
適当な席に座っても良いのだが、なぜか生徒がこちらを探るような目つきで見てくるのだ。
何を話しているのか聞こえないが、なにやらヒソヒソと話しているようだ。
「おはよう箒。ここいいか?」
「…………」
とりあえず、気楽に話せそうな幼馴染の姿を見つけて声をかけたのだが、箒からは返事が返ってこなかった。
「おい、聞こえてんのか? つーか怒ってる? なんでまた急に怒ってやがんだ」
「別に怒ってなどいない。席なら他にもあるだろう? そちらに行ったら良いだろう」
「そりゃ他にもあるけどさあ……」
周りを見渡しても、さっとこちらを見て視線を反らされてしまう。
無理やり押しかけたところで歓迎されないだろう。
「じゃあ好きにさせてもらうわ」
「ああ、そうしろ」
言うや否や、箒の横にトレイを置く。
途端、迷惑そうな箒の視線が一夏を襲う。
「……なんで私の横に座るんだ」
「好きにするって言ったじゃん。文句はないだろ?」
「む……」
半ば強引だが、箒相手には多少強引にでも接した方が良いと一夏は知っていた。
本当に嫌なら自分の方から席を移動するだろう、と。
「で、なんで怒ってんだ?」
「だから、怒ってなどいない」
「ああ、そう」
どうにもこうにもいかない箒の態度に何を言っても無駄だと思った一夏は気を取り直してパンを齧りだした。
ふと、不機嫌そうな理由に思い至った一夏が口を開く。
「あ、もしかして女の子の日だった?」
瞬間、一夏が使おうと持ってきたフォークを掴み、目にも留まらぬ速さで一夏の喉元に突きつけた。
「──次は刺す」
「す、すまん」
ゴクリとパンを飲み込む。
今の箒の動きは一切の無駄がなく、一夏にしてみれば突然フォークが喉元に現れた様に感じた。
剣道優勝の腕は知っていたが、彼女の学ぶ篠ノ之流は作法的な武術ではなく実践を意識した剣術。むしろ、こういった場面の方が真価を発揮するのは当然だった。
「……あの、箒さん。フォークを返して欲しくてですね。それは人を刺すものではなくて、食べ物に刺すものなので」
「…………」
無言でフォークを引き、ウインナーに突き刺す箒。
まるで、次にふざけた発言をするとこうなるのはお前だぞと言わんばかりである。
なんとなく、一夏はそのウインナーを食べる気は無くなってしまった。
「織斑さん。おはようございます」
「ん、おはよう」
と、雰囲気の悪さを物ともせずにセシリアが一夏の横に座る。
もはや「ここ、いいですか?」などのやり取りも無く、一夏の隣に座るのは当然と言わんばかりの態度である。
一夏も一夏で、隣に座られることを疑問に思わない。
まだ学園に通い始めて二日という短い期間だが、セシリアと過ごした時間は濃密な物だ。
それにセシリアは一夏に近づくように国から命令を受けているので、多少不自然にでも一夏に近づきたいので、朝はチャンスなのだ。ちなみに、昨日は箒が隣に座っていたが、その隣にもクラスメートが座っていたので断念していた。
とはいえ、それはセシリアの事情で一夏には関係が無いことだ。
本来はハニトラをかけようとしていたと認めた時点で遠ざけるのが正しい対処法なのだが、今の所は一夏はそうしてはいない。
代表候補生という立場が故の事情も理解出来るし、なによりも彼女が無理矢理にでも襲おうという気配も無いのだ。
もっとも、これ以上迫ってくるようなら自分が何かをしなくても千冬がどうにかするだろうと思っていた。
「ご馳走さまでした」
セシリアが座って食事を始めたタイミングで箒が食事を切り上げて席を立つ。
トレイにはまだご飯や魚が残っているのだが、もう食べないのだろうか。
「おい箒、残すなんてらしくないじゃないか。やっぱ具合悪いのか?」
「大きなお世話だ。私の心配などせず、お前はオルコットとよろしくやっていれば良いだろう」
先程よりも更に不機嫌になった箒は、一夏の呼び止める声に反応する事もなくそのままトレイを返却し、食堂を出て行ってしまった。
「なんだ、あいつ」
「篠ノ之さんは先程から
「そうだよ。昨日は平気だったのに、なんでまた突然」
怒らせるような事したかなあ、と頭を捻る一夏に「もしかして」とセシリアが語りかける。
「昨晩、織斑さんに送って頂いたことが噂になってますので、そのせいかもしれませんわね。その前の晩にも部屋から出てくるのを何人かには見られていた様ですから」
「まあ、まだ学校が始まって二日しか経っていないとはいえ毎晩だからな。部屋に呼びつけた上で、初日はあの格好だろ? 勘違いされてもしょうがないと言えばしょうがないかね」
「なる程。外堀ってのはこの様に埋めていくものなのですね」
「お前が言うと冗談に聞こえないからやめろ」
苦笑いしながら、一夏はコーヒーを啜る。
昨日の教訓で、ここのコーヒーは利用していない。部屋で淹れたコーヒーを水筒に入れて持ってきていたのだ。
「んでも、それで箒が不機嫌になるのはなんでだよ。俺に彼女が出来たって別に怒る事はないだろ」
「さあ? わたくしは篠ノ之さんではありませんので。本人に聞いたらいかがでしょう?」
「馬鹿正直に『俺に彼女が出来たと思ったから怒ったのか』って? そんな事言ったら次は俺がこうなるよ」
そう言ってフォークを掲げた。
先端には、ウインナーが刺さっている。
先ず間違いなく、こうなってしまうだろう。
「……つーかお前がその噂を知ってるって事は、お前のところに真相を聞きに来たんだろ? 否定しなかったのか?」
そう一夏が問うと、セシリアがふふっと楽しそうに微笑みを浮かべた。
「ご心配なく、『この方たちは何をおっしゃってるのでしょうか』と思いながら、肯定をすることなく微笑んでましたわ」
「そう思ったんなら声に出せよ。明確に否定しろよ。声に出せよ。肯定をすることなくって否定もしてねえじゃねえかよ。つーか無言で微笑むとか半ば認めてるようなもんじゃねえかお前」
「まあ、言われてみれば確かにそうですわ。わたくし、まったく気付きませんでしたわ」
わざとらしく目を見開き、口のあたりに手を持っていき驚いた様子を見せる。
そんなセシリアの様子に一夏は脱力したのか、がっくりと肩を落とす。
「ぜっっったいワザとだろ。噂を助長させて何の得があんだよ……」
「本国により良い報告が出来て、わたくしの立場がより良くなりますわね」
「うわあ、ついに開き直りやがった。なんて奴だ」
「知られてしまったからには隠す意味はありませんわ」
「こいつどうしようもねえ……」
なんて話している二人の頭に拳骨が降りかかった。
二人して声にならない声で悶絶すると、追い打ちをかける様にどこか呆れを含んだ声が降ってきた。
「──朝からなんて馬鹿な話をしているんだ」
声の正体は千冬だった。
言葉だけではなく、顔にも「この馬鹿どもが」としっかり書いてあった。
「お前らがどういう仲になろうと私は一向に構わん。が、お前らの身分が学生だという事を忘れるな」
それだけ言うと一夏のコーヒーを飲み干し、立ち去った。
嵐のように過ぎ去った千冬に「信じられねえ……」と一夏が呟く。
「コーヒーの感想が無かっただと……?」
「驚くところはそこですか?」
他にもっとあるだろうとセシリアは一夏を見る。
半ばハニトラを認めるような事を千冬は言ったのだ。
似たような事を昨晩聞かされたが、アレはアルコールが入っていての戯言だと思っていたのだが……。
「まあ、織斑先生のお許しは出たと見て良いのですかね?」
「さり気なく怖いこと言わないでくれる?」