ファイアーエムブレム風花雪月 双紋の魔拳   作:気力♪

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第一部 白雲の章
プロローグ ジョニーとリシテア


 また、1人死んだ。

 

 ここに連れてこられた人は数え切れないくらいいたけれど、今ではもう指折り数えられるほどになってしまっている。

 

 この世の地獄のような牢獄で、私リシテア=フォン=コーデリアはただひたすらに自分の番が来ることがない事を祈っていた。

 

「畜生! コーデリアのクソ野郎が! 領民をなんだと思ってんだ!」

 

 叫ぶ男は、比較的軽度の症状で済んでいるようだ。でなければ痛みで叫ぶことなどできるわけはないのだから。

 

 

 今の、自分のように。

 

 

 だが、1人だけ。たった1人だけこの地獄の中で奇妙な少年がいた。歳の頃は、おそらく自分と同じくらい。

 

「また、生き延びる、ことが、できたぜ」

 

 そんな少年は、痛々しいという言葉が最も相応しい。

 

 この地獄の事を真っ先に理解し、皆を守るために最初の被験体となった少年。

 体調が悪いだの様々な言い訳を使って、幼い子たちへの実験を肩代わりするような少年。

 

 名を、ジョニー。家名もない、ただのジョニー。

 

 そんな少年は、黒曜石のようだった髪の色を白く落とし、夜空のような瞳を赤く染めて

 

 それでも尚、笑っていた。

 

「残った皆で、生きましょう!」

 

 そんな、誰も信じられないような夢を口に出しながら。

 

 少年は、笑っていた。

 

 それが、その地獄ではひどく眩しくて。

 それが、その地獄では甘すぎて。

 

 その心は、皆にちょっとずつ伝わっていっていた。

 

「次だ、13番」

「マカロンさん、頑張って!」

「ああ、お前が生き残ったんだ。大人の俺が根性見せなくてどうすんだってなぁ!」

 

 そうして、握手をする2人。少年が始めた、次の人に勇気を与える決まり。実験で生き残った人は、次の人ににぎり繋いで願いを託すのだ。皆で、生きようと。

 

 だが、それはただの甘い夢。

 

 その日、マカロンという青年が牢に戻ってくる事はなかった。

 

 そして、順番は巡ってくる。無情に、無残に

 

 だが、それでも少年は言い放った。手を握り、伝えてくれた。暖かく、響く言葉で。

 

「頑張れリシテア。君が笑顔で帰ってくれる事を、俺は祈ってる」

 

 それが、今日もまた生きる気力を振り絞らせる。

 

 その日の実験では、体が引き裂かれるような強烈な痛みがあったが、それでも命を繋ぐ事はできた。

 

 そうして地獄から帰ってきた時の、ジョニーの泣きそうな笑顔が忘れられない。

 

 苦しいのは、辛いのはジョニーも同じなのに、それでも前を向いて笑顔でいようと頑張っている。

 

 だから、ぎゅっと手を握りしめた。

 

「あなたの、番、なのでしょう? 頑張って、下さい。あなたの、笑顔を、待ってます」

 

 感じた胸の暖かさを、素直に言葉にする。それは昔の私にはひどく難しい事だったけれど、きっと今なら、彼になら言える。

 

 それは、この地獄で私が見つけた、たった一つの光だった。

 


 

 怨嗟の声が、聞こえる。

 

 お前が笑顔で送り出した者たちは、お前のせいで無駄な希望を抱いて死んだのだと。

 お前が、殺したのだと。

 

 だから、いつも帰ってきてくれた時には涙が堪え切れなくて。

 だから、帰ってこれなかった時には死ぬほど胸が痛くて。

 

 けれど、それでも笑顔を絶やさないと心に決めたのだ。

 

 誰の笑顔も、誰の祈りもない死は、寂しいものだとわかっているから。

 

 俺には力はないけれど、だからこそ心だけは折れてはいけない。

 

 それが、ただのジョニーにできる事だから。

 

 それでも、誰かが帰ってきてくれた時には嬉し涙を流しても良いだろう。それくらいは自分を甘やかさないとやっていられない。

 

 だけど、マカロンさんが死んで、ミザリーさんも死んで、今日はケイトが死んだ。

 

 もう、残りは俺とリシテアだけだ。

 

「なぁ、リシテア」

「なんですか? ジョニー」

 

「遺言とか、残しておくか?」

「……皆で生きて帰ろうとは、言わないのね」

「……最悪だな、俺。あー、弱気になってた」

「じゃあ、約束をしましょう」

「約束?」

「本で読みました。昔は、血を混ぜ合わせることできょうだいの契りを交わしたそうです」

「そうか……なら、誓おう。生まれる時は違っても、死ぬときは同じ……ってのもやだな。リシテアには俺より長生きして欲しいし」

「なら、こういうのはどうですか?」

 

「この地獄での日々も、死んでしまった人たちの事も、2人で決して忘れない。みんなを背負って前を向く。だから、一緒に生きましょう」

「ああ、それは良いな」

 

 どちらともなく、実験でできた傷を合わせる。

 

 ほんのちょっとの血が交わって

 

 その日、俺とリシテアはきょうだいになった。

 


 

「グォオオオオオオ!」

 

 こちらに向かって叫ぶ熊。縄張りに入ってきた俺に対して威圧してくる。だが、それに負けるつもりはない。

 

「よう、熊さん。あんたがこの辺りまで出張ってくるようになって、困ってるお百姓さんがいるんだ。まぁ、人の味を覚えたお前が引くとは思えないから山に帰れとは言わねぇよ」

 

「かかってこい! 熊鍋にしてやる!」

 

 熊の高速の突進、そして体重の全てが込められているのではないかとすら感じるほどの重い右手の引っ掻き。

 

 それに対して取るのは回避行動……ではない。

 

 踏み込み、しっかりと腰を回しての回し蹴り。そしてインパクトの瞬間にチャージしていたウィンドを爆発させる。

 

 熊の右手はウィンドの衝撃でズタズタに切り裂かれ、こちらに対して警戒して一歩後ろに引いた。

 

 生存本能からの、逃げの行為だろう。

 

 だが、そうやって逃したらより厄介になって領民たちに襲いかかってくるのは間違いない。なんかそんな感じの話を昔聞いたような気がしたし。

 

 なので、しっかりとトドメを刺しておく。

 

「行くぞ!」

 

 ウィンドの魔力を両足の裏に集中、踏み込む瞬間にそれを爆発させる事で風の力を借りた高速移動を実現する。

 

 この技術を、(フェイ)と名付けているのはまぁ秘密だ。異国どころか異世界の言葉なのだ。それが原因で異端審問にでもかけられたらたまらない。

 

 そんなどうでも良いことを考えながら空に上がり、熊に向かって飛び蹴りを放つ。

 今度は、サンダーの魔力を込める事で威力を倍増させるこの必殺技。というか浪漫技。

 

 転生して魔法ができるようになって練習した、ライダーキックである。雷を纏っているので気分的にはライトニングブラストだ。ブレイドはいいぞ! 

 

 まぁ、浪漫技といえどグロスタールの紋章により高まっている魔力での技だ。実際当たればかなりの威力になる。

 

 具体的にはこう、背骨を砕かれた目の前の熊さんのように。

 

「……内臓破れてたりしないか? コレ」

 

 ちょっと心配になるくらいに気持ちよく砕けてしまったので、かなり心配である。熊の内臓は薬になるから高値で取引されるのだ。

 

「まいっか、血抜きしてはよ持って帰ろ。姉さんを待たせるのもアレだし」

「……誰を待たせるって言うんですか?」

 

 背後から響く聞き慣れた声。ギギギと油の切れたロボットのように振り返ると、そこには闇のオーラを纏っているリシテア姉さんがいた。

 

「いや、ほら。領民が困ってたなら助けるのは貴族の務め! ……的なので納得してくれない?」

「ダメ。私だって戦えるんだから、危ない事するならちゃんと声かけてっていつも言ってるよね、ジョニー」

「いや、だって姉さんには万が一の事があったらマズイだろ。コーデリア家のご令嬢なんだから」

「あんただってコーデリアの息子でしょうが」

「いや、俺はほら……」

「養子だからとかふざけた事言い出したらぶっ飛ばしますよ?」

「……すんません、ちょっと丁度いい相手に必殺技を試したかったんです。出来心なんです」

「……まあ、無事なら良いですけど。でも、それをどうして私に見せなかったんですか?」

「だって失敗したらクソカッコ悪いし」

「子供ですか」

「同じ15の子供だよ」

 

 そんな会話の後に、熊さんの体を放置している事を思い出す。流石に貴重な熊肉を駄目にするのはもったいない。

 

 そうして、嫌がるリシテア姉さんの手伝いの元、熊にブリザーをかけて細菌の繁殖を防ぎつつ血抜きをしっかりと終わらせる。

 

 そうして、熊を俺が。解体道具を姉さんが持って街へと帰る。

 

 道中は盗賊などはなく、巡回をしている自警団の皆に「熊取ったでー!」「さすがジョニー! 肉分けてくれるよな?」「ウチで消費しきれるとでも思ってんのか。当然分けてやるよぉ!」「ヒャッハー!」なんてやりとりをしてからコーデリアの家に帰る。

 

 この家の唯一の使用人をしてくれているポルコは、背負った熊を見て溜息を吐きながら肉を捌く用意をしてくれた。慣れだろう。うん。

 

 とある事情から財政難なコーデリア家を支えるために、山菜に始まり鹿や熊などの狩を行うようになったのは、俺が12の時だっただろうか。その過程で街に害を為しているなんか強い害獣を駆除したり、近所にいた盗賊団の頭と素手でやり合って和解し、自警団として村に溶け込ませたりと色々あったが、それはそれだ。

 

「にしても、ジョニーって顔が広いですよね」

「まぁな。もともとこの街のスラムの連中には顔は知られてたし、雇ってくれた娼館でもそこそこ客とやりとりしたしな。ヘイ! 一発芸見せな! と振られて本当に一発芸を見せてウケを取る下働きは珍しいらしくてな」

「なんていうか、ジョニーって本当にジョニーだったんですね」

「そりゃ、人間生き方はそう簡単には変えられねぇって」

 

 熊の毛皮を剥いで、肉をウィンドで薄切りにしてブリザーで凍らせる。これで自警団の分と畑を荒らされたマカロンさんの妹さんの家にお裾分けする肉は揃った。

 

「リシテア、俺はこれから肉を配ってくるけど、お前はどうする?」

「そうですね……なら、魔道書を読みかけだったので勉強に戻らせていただきます」

「おー、頑張れよ理論派魔導師さん」

「ジョニーは感覚派過ぎます。あれでは絶対どこかで躓きますからね」

「その時は、姉さんに教えて貰うよ」

 

 そんないつもの会話をして、家を出る。

 

 さて、もう孤月の節も中頃。士官学校のあるガルグマク大修道院までの移動を考えるとそろそろ出ないといけないだろう。名残惜しいが、たった一年だ。濃密な強化合宿と考えれば悪くないだろう。

 

 ハンネマンという紋章学者の先生のお陰で俺の分の入学金その他諸々は工面して貰えたし、コーデリア家が貧乏とは言ってもリシテア1人の入学金を払えない程ではない。

 

 ふたり仲良く、一年この領地を留守にするわけだ。

 

 その間、義父さんと義母さんの事をしっかりと守ってくれるように自警団の連中に念を押しておかねば。

 

 


 

 ジョニー=フォン=コーデリア。コーデリア家の異端児といえば同盟での通りは悪くない。

 それは、彼が平民から貴族の養子になったという事だけではない。それは彼の為した偉業を故とする事が大きい。

 

 同盟領を脅かしていたデルスデルカ盗賊団を無力化した事、そして、たった12歳で魔獣を討伐したという信じられない実績。

 

 当時、帝国の内政干渉の傷跡の深いコーデリア家は、騎士団もズタボロで魔獣に太刀打ちできる戦力などなかった。

 

 そんな時に現れたのがこの英雄だった。

 

 彼は身に宿した紋章の力を使い、魔獣を天の雷と見まごうような雷撃で魔獣を打ち倒したのだ。

 

 そんな話が始まりとなり、少年ジョニーは激動の時代の中心へと足を向けることになった。

 

 まるで、運命に導かれるように……

 


 

「そういやジョニー、お前さん魔獣を倒した時使ったのは雷の魔法なんだろ? なんでそいつを磨かないんだ?」

「あー、あの変な害獣? あれ倒したのは自然の雷だよ。鋼の槍にサンダー当てて磁性を強めて、それをあいつの背中に突き刺してからひたすら逃げ回ってただけだし。というか、俺の得意魔法はどっちかというと風だし」

「天の怒りを呼び込んだってのかい⁉︎」

「いや、雷は自然現象だぞ。地面と積乱雲の電荷だかの差が空気の導電率を超えたら起きるっていう感じの」

 


 

 尚、本人には全くその気はなかった模様。

 

 本人は英雄というよりもやはり年相応の悪ガキであり、後世の歴史家たちはだからこそこれから先の時代において重大な役割を負うことになったのだと述べている。

 

 世界を変えるのは英雄ではない、夢を見る者達なのだから。




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