「良いデザイン画だな……うし! やるか!」
「でもジョニーくん、こんな精密なガラスの茶器なんて作れるの?」
「舐めんなよイグナーツ。ガラスの加工は空気でやるんだ。俺、風魔法の精密操作に関しては真面目にフォドラ一だぜ?」
そうして、街のガラス屋(硅砂のやりとりとかもあって結構仲は良い)に試作品用の窯を借りて製作に移る。
材料はちょっとリッチに酸化鉛の分量を多くする。高級茶器が売れるアテがあるというのは良い事だ。
そうして、鉄のストローでガラスを取り、均等な速度で回転させながらウインドで膨らませて形を作る。
そうしてコップの形を作ってから窯の中のガラスをウインドでちょっと取って、形成しながら持ち手の部分を作る。ここまではコーデリア領でよくやった流れ作業。
そこに、窯の中から取り出した熱気をウインドで操って、二つの首を持つ鷲の姿をカップに刻み込む。あくまで目立たせず、しかし美しく見えるように。
この辺りの事を考えてくれたイグナーツにはマジで感謝だ。あいつ騎士にならないで芸術の道で生きていた方が良い気がするのは俺だけだろうか?
「相変わらず見事なもんだな! 坊主!」
「機材がよく手入れされてるからですよ、親方」
「全く、貴族じゃなきゃウチの入り婿にしてやろうってのによぉ」
「ジーナちゃんまだ3歳じゃないですか」
「ハッハッハ! だが、お前を身内にしたいってのは本気だぜ?」
「そりゃどーも! 除冷窯借りますねー」
「おうよ。……だが、お前さんの作ってる妙な銅線の使い道が未だにわかんねぇんだが、いい加減教えちゃくれんかい?」
「あー、そういや予備の銅線もう出来てましたか。タイムリーですね」
「おうよ。銅にあんなに薄くガラスをつける理由がわからなくてな!」
「じゃあ、見せましょう! 俺の仕込み武器の作成方法を!」
「ま、銅線クルクル巻くだけなんですけどねー」
木で作った枠にひたすらにコイルをクルクル巻く。枠の形成はウインドでスパッと出来てしまうのは本当にありがたい。均等に、かつ密に巻くのが威力の出るコイルガンのコツだ。
そうして作ったものを竹筒の中に入れてから弾を入れる穴をウインドのドリルで開け、銅線の末端を竹筒に開けていた穴から外に出す。
それで、銅線の先端を鑢で削りガラスコーティングを無くせば完了だ。
「竹筒? 何のためにそんなもんを」
「ここにサンダーを流すと……ホイ!」
ポケットの中に入れっぱなしだった十字に切れ目を入れた弾丸をコイルの中に通す。すると電磁力により弾丸が射出される。
「……こんなんなら、魔法で良いんじゃないか?」
「いや、安全に配慮した結果ですから。全力でサンダーを流したら相当な威力になるんですよ」
そんなわけで、仕込み武器復活である。腕に竹筒を、手首に銅線をバンドで止めて制服の袖を緩めれば仕込みは完了だ。銅線の固定位置も問題なし。
「うし、あざっした!」
「しっかし良い手際だなぁ。本当に貴族様なのかい?」
「まぁ、色々自作しないとやってけない環境だったので」
コーデリア領の貧乏度合いを舐めてはいけない。真面目に俺が居なかったら帝国からの借金の押し付けで首が回らなかっただろう。だから金策に色々頑張ったのだ。
ちなみに、コーデリア領出身で金鹿の生徒である俺が黒鷲のマークを掘るのもそれが理由だったりする。
コーデリア領の職人(俺)が黒鷲の、つまり帝国を讃える事をモチーフにしたものを作るのは、帝国人に睨まれず、かつ金を稼ぐためのものだったりするのだ。
世知辛いなー畜生!
そんな事を思いながら、同じ要領でティーカップをあと3つ、ポットを1つ作った所で、ちょっと悪巧みを思いついた。
幸い銅線がなくなったお陰で除冷窯のスペースには余裕がある。
どうせなら、頑張るとしようか。
「なーなー、フェルディナントー」
「どうしたのだ? ジョニー」
「お前、ウチの領の職人の作ったガラスの茶器に興味ある?」
「ッ⁉︎コーデリアのガラス細工かそれは⁉︎精巧な腕を誇る謎の職人は帝国では有名なのだよ! そんな彼が茶器を作っただと! 詳しく話してくれ!」
「流通路はわかんないけど、そのコーデリアの職人の作品がこの街のガラス屋に流れてるんだよ。職人のネットワークかね?」
「ガラス屋か! すぐに行こう!」
「まぁ待て。この手の茶器に目がない奴はもう一人居るんだよ。値札はかけられてないから、競売形式になる。そいつも一緒に連れて行った方が直接値段の交渉ができて早いだろ?」
「フッ、良いだろう。真なる貴族は戦ってでも求めるものを勝ち取るものさ!」
そうして、金鹿の誇る貴族マンであるローレンツを連れてガラス屋へと向かう。
道中、2人は物凄く意気投合していた。まぁ貴族マン同士わかり合うのだろう。2人とも本当に“正しい貴族”を目指しているのだから当然といえば当然なのかもしれない。
「ほぅ! これが!」
「……見事なものだね。透明なガラスの中に、双頭の鷲が目立つ事なく、しかし美しく存在している。これが我が同盟の職人の手から作られたというのは、誇らしいな」
「では、お2人で競売を始めてくださいな。コーデリアの職人による黒鷲のクリスタルティーセット。1000Gからスタートで!」
「フッ、負けないぞローレンツ!」
「……いや、僕は遠慮しておこう」
「……え、何て?」
「わからんのかねジョニーくん。この競売を降りると言ったんだ」
「どうしてだローレンツ! 君の審美眼も茶器への情熱も本物の筈だ! それがどうして!」
「そんなものは単純だ。この茶器は帝国の良き貴族である君が持つに相応しいと思ったのだよ! 醜悪な地位だけに拘る者に対してなら譲るつもりはなかったが、君になら相応しいと言えるのだよ。なにせ、それは帝国を象る黒鷲のものだからね」
「ローレンツ! 君という奴は!」
「あぁ、だがひとつだけ条件を付けさせて貰おう。その茶器で、僕に茶を淹れてくれ」
「任せたまえ! では店主よ、私が1000Gで落札しよう!」
「ちょっとタイムタイム! 良い感じの会話してるとこ悪いんだけど、ぶっちゃけ1000だと利益率クソなんだよ今回の奴! ガルグマクに鉛ってあんま入ってこないから原価高くなった上にデザイン料もあるから!」
「……ジョニー君、なんでそんな事を知っているのだね?」
「まさか、コーデリア領の職人というのは!」
「……黙っててな。ガラス細工売り始めたのガチにガキの頃だったから、謎の職人Xにしとかないと付加価値つけられなかったんだよ。コーデリア領の謎の職人! みたいにさ」
「……君も苦労していたのだね、ジョニー君」
「……帝国貴族の身としては、あまり口出せない話だな」
「まぁ、ぶっちゃけた身としてはアレなんだが、利益率の関係で1500は欲しいのさ。窯のレンタル代に、鉛の代金。あとはイグナーツへのデザイン代とか諸々払うと300Gの売り上げにしかならないけどさ」
「ならば、2000出そう! それほどの価値がこの茶器にはある!」
「……で、そうなると何故僕を呼んだのだね?」
「あー……フェルディナントと争わせたらヒートアップして3000くらいに釣り上げてくれるかなーって」
「「下衆か君は」」
「ハモるな金持ち貴族メン! そんなんじゃもう一品の方は渡せないぞ」
「もう一品?」
「いや、だってどっちも茶器好きなんだから、利用するならどっちにも得してほしいなーって思ったんだよ、うん。そんなわけで、コーデリア領の職人Xではなく、ジョニー=フォン=コーデリアの作品。金鹿のクリスタルティーセットです。2000な」
「ッ! これもまた見事な!」
「……フッ、フェルディナント君。いくら君にでもこの茶器は渡せないな」
「安心しろローレンツ。この茶器に相応しい者が居るというのに出しゃばりはしないさ!」
「感謝しよう、フェルディナント君!」
ガシっと手を握り合う二人。
デカく得はできなかったが、これならばイグナーツの画材代の足しにもできるだろう。それに、仕送りと姉さんへの菓子代も考慮しても、電池探しの実験に使う金を残せる。
が、やっぱ二人にはヒートアップして欲しかったなーと思う今日この頃だった。
丁寧に箱詰めした茶器をローレンツとフェルディナントが談笑しながら持って帰るのを見送って、親方と店主に挨拶をしてから街を見て回る。
ガルグマクの麓の街は、やはり豊かだ。
こうしてふらりと歩き回るだけでも、その活気が伝わってくる。
「あ、ジョニー!」
「あらあら、走っちゃダメよアン」
「アネットにメルセデス! 二人で買い物か?」
「うん、今日貸本屋で古くなった本の投げ売りをやるんだって! あの表通りの大きい所の!」
「マジか。俺も行きたい! 良いか?」
「うん、勿論だよ!」
「でも、ジョニーって本を読むイメージあんまないよね」
「失礼だな、これでも技術書は結構読む方だぞ」
「へー、何読んだの?」
「最近だと、信仰に寄らない白魔法実現の可能性だな。神に祈るってプロセスを分解して、どの工程がどの魔法の成功に繋がっているのかって実験だったな」
「……禁書にならないの? それ」
「あいにくと、“わからない”が結論だったんだよその本。横着しないで信仰を磨きなさいって事だとさ。信仰とか意味わからなくてやめて欲しいんだけどなー」
「……ジョニーは、神に祈る事はないの?」
「作法は覚えたけど、祈る前も後も女神に助けられた事はないからな。なら、祈りは時間あるときにするくらいで良いかなーって」
「そんなんじゃ、貴族としてダメじゃない?」
「いや、クロさんも似た感じだからいけるいける。盟主がそうなるんなら、信仰は緩くなるさ」
「……そう、ジョニーもクロードも強いのね」
「まぁ、鍛えてますから」
おどけながら力こぶを作って見せる。アハハと笑うアネットと、いつものおっとり顔に戻るメルセデス。
話題も悪いし、ちょっと話を変えるとしよう。
「そういや二人は、この辺で甘くて美味しいお菓子売ってる所知ってるか? 菓子は作る派だけど、流石に贈り物でケチるのはなーって思ってるのさ」
「え! もしかして恋の予感⁉︎」
「残念、姉さん相手です」
「でも、リシテアとジョニーって血は繋がってないでしょう?」
「……え⁉︎そうなの⁉︎」
「よく気づいたなメルセデス。見た目は似た者姉弟なのに」
「なんとなくね」
身長と性別以外似た所だらけなのだ俺と姉さんは。それが邪悪の実験によるものなのはムカつくことこの上ないが、コーデリアの内情を知る者以外から見抜かれた事はこれまでに一度しかない。
なんでわかったのだろうか、ソテっさんもメルセデスも。隠す事じゃないから良いんだけど。
「すげーなメルセデス。……とは言っても、恋愛の情を抱けるほど遠い距離じゃねぇよ。ちょっとの血と強い心で繋がった姉弟だから、俺たち」
「そんなものなんだ」
「俺にとってはそんなものなんです」
そうしていると、貸本屋に着く。
「さーて、何があるかなー?」
「ワクワクだね!」
「そうねー」
そこでは貴族平民問わずさまざまな人たちが集まって本を漁っていた。あ、グリットさんいる。大盛況の物語ブースだ。
「何狙い? 俺は技術書」
「私は魔導書かなー」
「私はそうね……お菓子のレシピ本があると良いかしら」
「じゃ、混ざってるの見つけたら報告って感じで」
「「おー」」
本を漁っていた結構ガタイの良い人に一礼して、本を探し始める。
お、倭刀についての本がある。倭刀がどっから流れてきたのかかなり気になるのよなー。その先に米がありそうで。
ウインドで細かくした小麦を使った米擬きは、やっぱりちょっと違うのだ。是非とも調べたい。
そうして手を伸ばすと、ガタイの良いオッサンと手が触れ合った。そういうラブコメイベントは異性とやりたかったなー。
「ども、鍛冶屋さんですか?」
「そういうお前は士官学校の生徒か。なんでこんな本に手を伸ばしたよ」
「倭刀を作る人たちの文化が気になりまして。倭刀って凄く良く切れますけど、ちゃんと使わなきゃすぐ壊れるじゃないですか。だから、フォドラに伝わってない倭刀の使い方についてもヒントくらいは乗ってるかなーと」
「ほう……良い目の付け所してるじゃねぇか坊主」
「ジョニーです。なんでちょっと先に中身確認しても良いですか?」
「構わねぇよ。俺も興味本位だ」
「じゃ、失敬して……」
パラパラっと本のページをめくる。どうやら翻訳版ではなくフォドラの人なりに研究した本のようだ。
来歴は、調べられていない。
「どうにも、鍛冶屋のオッサン向きの本みたいですね。倭刀の強化方法とか書かれてますけど、使い方は特に書かれてないですね」
「おいおい、そんなぱらっと見ただけでわかるもんなのか?」
「速読は俺の技の一つですから」
まぁ、大雑把に内容を確認できる程度のものなのだが。具体的には紙の質のせいで一度に2ページめくれたりするせいで。おのれファンタジー。製紙技術もファンタジーしろや。
「……って、なんでこんなとこにあるし“ダグザのお菓子”。メルセデスに持ってくか」
「目当てのもんは見つかったか?」
「いや、一緒に来た奴の欲しそうなもの見つけたから見せに行くんで、また戻ってきますよ」
そうしてメルセデスに見せた“ダグザのお菓子”は、割と好印象だったようで購入を決めたようだった。
対してこちらの収穫はゼロ。魔法水晶の特性を数式化した本とかなんでないのだし。数学や統計の種はできてるんだから、それを発展させる奴はいても良いだろうに。
自力で研究するには、設備も予算もねぇんだよ畜生。
そんな事を考えつつも表には出さず、メルセデスオススメのお菓子屋でお菓子を買って大修道院に戻るのだった。
姉さんは、喜んでくれるだろうか……
うん、割と甘ければなんでもアリな舌だし、大丈夫だろう。
ジョニーは割とマジで多彩マンで多才マンです。技術を身につけたらそれを何だかんだとしっかり身につけたままにしておける技能の記憶力が良いイメージ。
ちなみに、前世では発明を技の一つにしようとした結果頑張って色々知識はついたけども、ガチの最先端科学を見てこれは無理だと諦めた結果微妙に知識が足りない今に至るという感じだったりします。