金策とガラス細工の話です。
「……おい、なんだよジョニー。こんなとこに呼び出して」
「まぁ、ちょっと話があってな。ほれ、釣竿」
「一緒に釣りしようって誘いか?」
「いや、面と向かって話すのも、酒飲みながら話すのもなんか違う気がしてさ」
「……兄貴のことか」
「……ああ」
釣竿を受け取ったシルヴァンは、俺の隣で釣り糸を垂らす。
「俺もアッシュみたく、課題に協力しろって誘いか?」
「んー、微妙」
「いや微妙ってなんだよ」
「正直さ、アッシュの時は直接殺しあうことになるとは思ってなかったんだよ。あくまで騎士団の手伝いだったから、最期にちょっとアッシュが親父さんと話せたらいいなー、くらいの気持ちだったんだ。けど、今回は違う。明確にマイクランを殺せって指示だ。……実の兄弟で殺しあえなんて言えないし、言いたくない。土地感に関してもギルベルトさんが一緒に来てくれるから問題はない、だから、本当にお前に話を通す理由なんてないんだよ」
「じゃあ、どうして俺に声かけたんだ?」
「お前がどうしたいかを、友達として知りたいんだ」
「……友達として、か」
「ああ」
「お前、意外と損する奴なのか?」
「得しようと努力はしてるんだけど、どうにもな」
「もっと楽に生きりゃあ良いのによ、お前さんも」
「楽な道って、だいたい後味悪いだろ。だから、多少辛くても生き方を変えるつもりは今の所はねぇよ」
「そうかい……楽な道は、後味悪い、か……」
「……ああ、それはわかるわ。俺も」
「……そうか」
「兄貴を殺すのを誰かに任せて、そいつを心のどっかで逆恨みしちまうのは、やっぱ嫌だ。良い思い出なんざねぇけど、兄弟なんだよ」
「ジョニー、頼む。俺を連れて行ってくれ」
「りょーかい。任せとけ! ……って引いてる⁉︎餌つけてないのに⁉︎シルヴァン、網持ってきて! 結構でかい!」
「おー、ホントだ。この光の照り返り、もしかしてシルバーフィッシュか?」
「マジか……食ったことねぇな」
「結構美味いんだぜ? しかも鱗が売れると来た」
「ならば尚更にやる気を出してやるまでよ!」
そうして釣り上げたシルバーフィッシュは、太陽に鱗が照らされてとても美しかった。
「うん、なんか行ける気がするわ」
「……どこにだ?」
「運命を超えた、ハッピーエンドって奴にさ!」
そんな会話があって、シルヴァンは今節の課題協力に応じることとなった。
“破裂の槍”、ゴーティエ家に代々伝わるフォドラの北を守り続けてきた英雄の遺産を盗み出して挙兵したシルヴァンの兄、マイクランの討伐という課題に対して。
王国領コナン塔へと向かう道中、最寄りの村に少し補給のために滞在した際、マイクラン達盗賊団の話を聞いた。
傍若無人、力で蓄えを奪っていくその姿は盗賊そのものだったと。
マイクランの凄みは、逆らえば殺されてしまうのだと自分たちに思い知らせるには十分なものだったと。
「……結構、堪えるな」
「まぁ、盗賊団なんてそんなもんですよ。他所から奪うしか自分たちが食う事が出来ないんですから。……けど、略奪跡にちょっと違和感があったんですよね」
「違和感?」
「ウチに賊あがりの連中がいるんで連中の手口はわかるんですけど、どうにも取らなさすぎなんですよ。物資を。特に食料」
「……そうなのか?」
「基本的に賊は、騎士団が飛んでくる可能性を考えて略奪した後は迎え撃つだけの準備をするんです。マイクランの団は100人を超える大所帯な上にコナン塔っていう拠点も持っているんだから、もっとどっしり構えても良いと思うんです。破裂の槍ってわかりやすい武力もありますから特に」
「……兄貴は、どっかに落ち延びる算段をつけてるってことか?」
「そうかと思ったんですけど、それなら俺はコナン塔には陣取りませんよ。この辺りはこの時期嵐がひどいそうなんで、下手したらコナン塔の中から出られなくなります。そうなりゃ最悪餓死ですよ? だったら略奪の後強行軍でどっか破裂の槍の武力を欲しがりそうな所に転がり込むのが良かったんです。北のスレン半島とか」
「……そしたら兄貴は何が目的なんだ?」
「……それがわかんねぇんですよねぇ。八月って時期に事を起こしたのも不自然といえば不自然ですし。だいたい盗賊に落ちるのって農家さんですから、麦を収穫してウハウハ! って時じゃないですか。今年は特にファーガスで飢饉だの病気だのはありませんでしたからちゃんと税の分は払えるでしょうに……」
「……もしかして、西か?」
「西?」
「ああ、今ファーガスを仕切ってる宰相は、まぁアレな奴なんだよ。その影響力が強いのが西側。つまり帝国よりの領土だ。当然帝国と仲は良い。だから、農民たちは帝国には逃げられない。そうして東に流れてきても、ファーガスの北は貧しい土地だから、仕事も畑もない。だから、盗賊に落ちるしかなかった家族が大勢いた」
「……そうか、逃げてきた家族の持ってきた食料が大量にあるから、食料の略奪を最小限にしたって事か。だとしたらマイクランが反旗を翻した理由ってのはもしかして……」
「……いや、それはねぇよ。兄貴は、控えめに言ってクズ野郎だから」
「そうか……じゃあたまたま人が流れて来たのを機と見て挙兵したって感じに見とくか。……けどさ、シルヴァン」
「なんだ?」
「間違ったやり方だとしても、手を差し伸べてくれた誰かに対して人は結構デカイ忠誠を抱くんだ。そうなると当然士気は高まる。やりにくくなったな」
「まぁ、そうだな」
そうして、クロードと先生にそんな事を一応伝えていると、雨が降って来た。
雨宿りついでに、道を誤ってしまった者をぶっ飛ばすとしよう。
「出撃」
先生のその一声とともに、賊の根城であるコナン塔に俺たちは攻撃を開始した。
「賊の気配が強くなって来ました。ここが根城のようですね」
「捕らえられていた女子供を早く安心させたい……けど、背後には気をつけて」
『うむ、暴走小僧の言う通りじゃと、あやつらはこの盗賊団の家族じゃからな。何かあると見ておいて間違いはないじゃろ』
重装備のギルベルトさんを殿に、ラファエルとレオニーを先頭に渦巻き状に作られているこのコナン塔に進軍する。
賊の抵抗は散発的であり、お世辞にも練度は高いとは言えなかったが、士気は高かった。
それが、ムカついてならない。どうして死ぬために前に出るのか、どうして盗賊などに落ちてしまったのか、どうして命を大切にしないのか。
そんなものはわかっている。守りたいものがあるからだ。普通の人は、そうじゃなきゃ戦えない。
「先生、隠し部屋あります。内部の制圧は俺が、姉さんは壁の破壊お願い」
「背後を突かれるのは危険ですからね。対処しておきましょう。ドーラΔ!」
そうして闇魔法により破壊されたその壁の中に侵入し、4人のそれなりの腕利きの剣士に対してサンダーを放って昏倒させる。腕利き相手でも奇襲すれば、この程度はできるのだ。
「制圧完了、次行きます」
命を奪わなかったのは、甘えだ。
今の進軍速度なら、起き上がって背後からの奇襲の前にマイクランを制圧できるからという計算は、ヒューベルトあたりが見れば愚かと断じてしまうだろう。
けれどどうしても、皆殺しにしてそれで終わりにはしたくなかったのだ。たとえもう何人も賊になってしまった人たちを殺しているのだとしても、それでも。
「シルヴァンッ!」
「……よぉ兄貴、酷え面だな」
「お前は、俺からこの槍すら奪うってのか!」
「ああ。せめて苦しまないように終わらせてやる」
そうして、槍を合わせるシルヴァンとマイクラン。槍の腕は互角、しかし武器の差でシルヴァンは押される……筈なのだが、マイクランは槍を一振りするたびに苦しみの表情を浮かべて来た。
「マイクラン様を守れ!」
「俺のデカイ身体は、守る為にあるんだよ!」
「……それなら、オデの身体もだ! 皆! コイツはオデがやる!」
マイクランを守ろうとするアーマーナイトをラファエルが押し留める。そしてマイクランを援護しようと放たれたアーチャーの矢は俺の風魔法で逸らされて、レオニーさん、ヒルダの姉さん、ローレンツ、先生がそれぞれ対処してみせた。
「クソ、クソが! 俺は、勝たなきゃいけないんだよ!」
「賊に落ちてもか!」
「紋章をもって生まれた恵まれたお前に何がわかる! どんなに血反吐を吐いて努力しても、どんなに夜を本と共に過ごしても! 紋章がないってだけで俺はお前のスペア以下になったんだよ! お嬢様が!」
「だから俺が槍を使いこなして! 俺がゴーティエの領主になるんだよ!」
不思議と、マイクランから感情が伝わって来た。シルヴァンのそれによく似ている。
怒りの奥に感じるその光は、使命を見つけた男の光。
なんとなく、このマイクランという男がわかってしまった。紋章を持たない彼の心を感じれた理由はわからないが、それはきっと邪悪な心だけじゃない。
考えてみれば、そうなのだ。シルヴァンはマイクランに様々な虐待を受けたが、どうしてか命を奪われることはなかった。
なのに、今回は挙兵した。槍を使いこなしてどうこうするという目的は、きっと表面だけのもの。
マイクランが一歩踏み出せた理由は、きっと救けを求めた誰かの為。そして、救けを求められた誰かがいたから、今もこうして戦いの場に居る。それはきっと、俺のように
表の顔と裏の顔で心が違いすぎるのは、何だかんだとこの二人が兄弟だからなのだろう。
だが、それを知ったところでもうどうすることもできない。英雄の遺産の力を使いこなせなかったマイクランは、シルヴァンに敗れる。それは、覆らない。
だからせめて、祈ることだけはやめないでいよう。
それが、エゴだとしても。
「……畜生、俺は、俺は!」
「……分不相応な武器を使ったあんたの負けだ」
シルヴァンの戦技、旋風槍が、破裂の槍を交わしてマイクランのアーマーを打ち付ける。
衝撃は完全に入り、マイクランの纏っていたアーマーは砕けて散った。
これで終わり……ッ⁉︎
瞬間、流れてくる邪悪な思念。その出どころはマイクランの持つ破裂の槍。
痛みと苦しみを訴える悲痛な叫びが紋章石から流れ出し、それがマイクランを包み出した。
「シルヴァン! 下がれ!」
「お頭ぁ!」
「なんだかわからねぇが、今は離れてくれ! ヤバそうだ!」
「クッ、マイクラン!」
そうして、かつてマイクランだったものは邪悪な思念を撒き散らす魔獣へと姿を変えた。
『時を止めるぞ、お主よ!』
瞬間、ソテっさんの力により世界の時が止まる。
『お主、暴走小僧! 聞こえておるな! 此奴は今、獣と化した! 奴を倒すには獣の持つ障壁を破らねばならぬ! 障壁は大人数での一斉攻撃かお主の天帝の剣の攻撃のような強力な力以外では破れぬし、破っても獣に力が溜まればまた張り直される! 故に、障壁を破壊したら障壁の核を破壊するのじゃ! その先でようやくあやつに傷をつけられる! ……何、どうして知っておるかじゃと? わしも知りたいわ!』
止まった時が動き出す。
再びマイクランだった魔獣が動き出すが、その時にどうにも敵の次の動きが伝わってくる。思念の向きだろう。
その矛先は、かつて仲間だった賊の一人に向けられていた。
その時、俺の中の何かがキレた。
考える前に動き出す身体。
全開の魔力で放ったそれは、障壁にヒビを入れた。
「先生、無茶します! 姉さん!」
「分かってます、魔よ退け! エンジェル!」
白魔法の一つ、破邪の力をもつエンジェルがヒビの入った障壁に穴を開けた。
そして、賊を放り投げて身軽になった俺は
不思議と、紋章の使い方は理解できた。無意識的にずっと使っていたそれを、意識的に使うようにしただけなのだから当たり前なのだろうが。それでも、今の自分にとっては好都合だ。
「マイクラン、お前は、自分の欲望からの行動でも! 誰かを救けた事で光を見つけたんだろうが! だったら、たかが魔獣になった程度でその光を見失ってんじゃねぇ! お前は、もう救け合える奴になれたんだろうが!」
「だから、その程度で心を諦めてんじゃねぇ!」
瞬間、輝く右手の甲の紋章。円のようだったそれは、小さな翼を持った竜が手で輪を作っているように俺には見えた。
そうして紋章の力のこもった拳は障壁の核に当たり、俺の意識は
「お頭! ありがとうございます!」
「マイクラン! お前って凄えな!」
「マイクラン様、ありがとうございます!」
「まいくらんさまー!」
西から逃げてきた、何も知らない雑魚どもが無邪気に俺を讃える。
重税から逃れてきた者たちは、税として収める筈だった食料を持っていた。だから、兵団に加えた。
それだけの、筈だった。
それなのに、何故こんなにも暖かい。
家督を俺に継がせなかったクソどもへの反逆が始まりだった。頭のどこかではこの戦いに勝てるわけがないと理解もしていた。
それなのに、こんなにも暖かい。
親父への憎しみや、弟への妬みが消える事は無い。それでも、それでも、この暖かさを守る為には。
その代償が魔獣に落ちる事だとは、笑える罰を女神は下したものだ。
せめて、少しでも皆に救いがあってほしい。
それだけを祈って、この黒い波に飲まれて「んじゃねぇよクソ野郎!」
誰かに、心を殴られた。
「誰だ、お前は?」
「ジョニー=フォン=コーデリア。お前の弟の友達で、お前を救けにやってきた者だ」
「……シルヴァンの?」
「ああ、あんたは、裁かれるだけの罪を犯した。それはちゃんと罰せられろ。けど、それは魔獣になって死ぬなんて事じゃ無い。人の世界で、あんたが救おうとした者を一人でも目に焼き付けながら死にやがれ! だから!」
「今を生きる、光を見失うな!」
その言葉は不思議と心に響いて。暖かくて。
思わず手を取ってしまう、不思議な言葉だった。
「ジョニー!」
「マイクラン、救出完了! やってみるもんだな畜生!」
「またノリで動きましたねこのバカ!」
「それとシルヴァン! コレを使えるのはお前だけだ!」
そうして、マイクランと共に取れた破裂の槍をシルヴァンに投げ渡す。
魔獣は、未だ健在だ。マイクランという核を失った事で、逆に膨張を始めているような気さえする。
奴はここで仕留めるべき災厄だ。その正体が負の感情の塊だとしても、だからこそそれを背負って立つシルヴァンの手で倒されるべきものだ。
「ここにいる全員! 賊も生徒も騎士団も関係ない! この魔獣を足止めするぞ! トドメは、英雄の遺産がやってくれる!」
「まったく、人をノせるのが上手い事で! 意味のわからないこの状況を、皆で魔獣を倒すって流れに乗せやがった!」
「クロードくん! それ言わなくても良いやつだよ!」
「そうだな! じゃあ、言われた通りに足を止めるぞ! イグナーツ、俺たちは左後ろ足だ! レオニーとローレンツ左前脚、リシテアとマリアンヌは右後ろ足、右前脚は「オデ達だな!」「おうよ!」「承知しました」……なんで賊のアーマーナイトと意気投合したんだラファエルの奴」
そうして、皆の攻撃が魔獣を傷つけ、その足を破壊する。
魔獣は反撃に瓦礫を放ってきたりしたが、それらは全て俺が空中で破壊する。
そうして、全ての足が潰れたその時、シルヴァンとベレス先生は英雄の遺産へと力を溜め終わった。
『今じゃ! やってしまえ、お主よ!』
「戦技、破天」
「戦技、烈空!」
「ついでに持ってけ、紋章パンチ!」
二つの英雄の遺産と、一つの紋章の拳が重なり合い、その力は倍増されて叩きつけられた。たまに響いてくる不思議な音楽のイメージを強く俺に刻み込みながら。
そうして、かつてマイクランであり、今は破裂の槍の負の感情の塊だった何かはコナン塔の天井ごと吹き飛んで消えていった。
「消滅確認! お疲れ様でした!」
刺々と感じていた負の感情が消えた事を感知した俺は、皆にそう伝える。なんかぐだぐだになったが、とりあえずこの戦闘は終了したと言えるだろう。
なにせ、誰も戦う気なんて起こしていないのだから。
「これがジョニー=フォン=コーデリア。コーデリア領の異端児ですか……先生、難儀な生徒を請け負いましたな」
「だけど、良い生徒だ」
「難儀ってとこ否定しないんですね……いや分かってます、すいません」
その後、首領であるマイクランの投降により、それ以上に血が流れる事なくコナン塔から俺たちは帰っていった。
「なぁ、ジョニー。良いか?」
「どうした? シルヴァン」
「……お前、何した?」
「分からん。正直ノリで動いた」
「マジか……この
「その辺はレア様次第だよなー。未だにあの人読みきれないんだよ。優しいようでどっか変な感覚だから」
「……お前ってもしかして心が読めたりするのか?」
「あー、紋章持ってる人の心の動きがなんとなくわかるって感じ。あんまりアテにならないけどな。……あれ?」
「どうした?」
「なんで今もマイクランの感情がわかるんだ?」
コナン塔では破裂の槍が原因だろうと当たりは付けている。だが、どうして今もマイクランの感情がわかるのだ?
……ハンネマン先生に相談だ、うん(丸投げ)
紋章のイメージ元は遊戯王5D’sのシグナーの痣なんですよねー。円を描いているのが頭と尾ではなく竜の両手になった感じです。