「しゃあ! 鷲獅子戦だぁ!」
「元気だねージョニーくん。なにか良い事でもあったの?」
「優勝したクラスには景品出るの知ってますよね。俺、それの内容聞いたんですよ。なんだかよくわからないが魔獣の障壁を紙のように貫く槍だとか!」
「へー。でもジョニーくん槍使えなくない? 槍に限らないけど」
「加工して弾丸にできたらなーって思ってます」
「……なんか罰当たりな気がするなー」
「いやいや、技術を神聖だーとかでそのまま思考停止してしまうのは作った人に失礼じゃないですか?」
「うーん、そんな事考えたことなかったかも」
「ま、優勝したらの話なんですけどね」
「こればっかりは私達はねー」
俺とヒルダの姉さんに共通する点、それは戦術指揮が不得手だということだ。
この鷲獅子戦は、布陣エリアはあらかじめ(じゃんけんで)決められている。金鹿は北から、青獅子は東から、黒鷲は西からの布陣だ。
戦略に関しては前世の知識で基本はできているのでそう苦手ではない、というか得意な方なのだが、戦術に関してはマジで前世の記憶が足を引っ張っている。
銃も無線も支援砲撃も制空権もない戦場は、俺にとって未だに慣れないものなのに、そこに魔法の存在まで加わってくるファンタジーなのだから。いや、防衛大での成績は並みだったからなのだろうけれど。
同期で首席で、当然のように出世して一等陸尉になってたあんちくしょうなら戦術もすぐに順応してきたのかも知れないが、それはないものねだりだ。所詮俺はドロップアウトして消防官になったマン(元)なのだから。
「ジョニー、ヒルダ、方針が決まりました。サボっていないで話に戻ってきて下さい」
「「はーい」」
そうして話された戦術は、ベレス先生の実践経験とクロードの強かさが混ざった、“面白い”と思えるものだった。
これなら、中央の高台を焼き払うことはしなくて良さそうだ。
作戦通りに、開始の合図とともに一気に魔力を解放する。北側には守りに適した森も砦もないが、川がある。今回の金鹿の作戦は、そこに含まれている水分が肝なのだ。
「起きろ紋章! 魔法発動! 霧隠れジツ!」
「なんでその名前だけは譲らないんだよお前!」
クロさんの声を無視してしっかりと術を起こす。マリアンヌさんとフレンちゃんと姉さんの魔力を束ねて術式にするのは少し手間だったが、お陰で一人頭の魔力の消費は最小限で術式は構築できた。それにより北側から風に乗って現れる巨大な霧。それはグロンダーズの北を覆い隠した。やったぜ。
「やってくれるな、ジョニー!」
「けど、それは守りの策でしかない!」
「「先に高台を制した組が、勝つ!」」
そうして南側で衝突する青獅子と黒鷲。その初手の衝突は、魔導師を多く有する事で瞬間火力に勝る黒鷲が制した。それからの制圧は見事と言う他なく、しかし高台を取れなかった青獅子の見切りの良さと撤退の速さは神速だった。それにより両軍大きな被害が出ることはなく高台から逃げ出せた。
それから始まるのが、まさかのベルナデッタ無双。ペガサスに乗っているグリットさんを的確に弓砲台で牽制しつつ青獅子クラスの騎士団員達を的確に削っていった。なんだあの正確さ。あいつ多分ネオ引きこもりだわ。
だが、青獅子もただでは終わらない。堅守を誇るアーマーナイトの騎士団を率いているドゥドゥーが弓砲台の南から、馬に乗ることで速度を手にしているシルヴァンが東からそれぞれ騎士団を率いてベルナデッタを襲う。
それを止めようと動くカスパルとペトラの率いる隊。どちらもニ隊に比較すれば軽装だが、順応性に関してはこちらが勝る。エーデルガルトの優れた指揮の腕を遺憾なく発揮できる部隊編成だった。
そうして、高台の南と東で同時に発生する大規模衝突。
しかしどちらのクラスも金鹿への警戒は解いておらず、黒鷲はフェルディナント率いる騎馬隊が、青獅子はアッシュ率いる弓兵隊がその動きを封じていた。
……ここまでクロさんと先生の予想通りとか、ちょっとどころではなく恐ろしいが、まぁ得なので気にしない。
馬とペガサスに乗ったマリアンヌとフレンちゃんと別れ、俺たちは俺たちの仕事をする。
「さぁ、ショータイムだ!」
その掛け声と共に二手に分かれて飛び立つ俺たち。
馬に乗っているレオニーとローレンツとマリアンヌ。ペガサスに乗ってるフレンちゃん。そして、ドラゴンに乗っているヒルダの姉さんとクロさんが平原地帯である西から。俺と姉さん、ラファエルにイグナーツ、そして先生が森林地帯である東から一気に進軍をする。
どちらも黒鷲の保有する弓砲台の射程外であり、戦端を開いてしまった高台での戦いの後背を突く形であり。
青獅子と黒鷲を、まとめて挟み撃ちにする戦略であった。
自分から戦術を練り上げる事には戦力外を通告したヒルダとジョニーを置いておいて、天幕の中で地図を囲んで軍議をする自分たち。情報が漏れる可能性を考慮して、作戦の草案を知っているのはクロードと自分だけだ。他の皆はまだ作戦については知らせていない。
ジョニーが術を与え、それをクロードが運用するというのは金鹿のスタイルになっている。特に何かをした訳ではないのにこうも出来上がっているのは教師としては楽なのかも知れないが、それはそれで少し心配なのだ。鷲獅子戦が終わって互いの手の内を隠さなくて良くなったら、ハンネマンやマヌエラと相談してみよう。
などと思考を脱線させていると、『戯け、集中せぬかおぬしよ』とソティスに怒られた。頭の中にいる彼女にも、もう慣れたものだ。
「まず、俺たちは戦略的に圧倒的な不利の状況で開始することになる北側スタートだ。例年の記録を見てみたが、鷲獅子戦において北側に布陣した組が勝った例ってのはほとんどない。その敗因は、中央の弓砲台だ。グロンダーズ平原のほぼ全域をカバーできるあの高台を取るために無茶をしたからだ。少しでも戦術的有利を取ろうとしたんだろうな」
「だから、俺たちはあえて高台を取らせる。弓砲台の強さはあっても、これは三つ巴の戦いだ。だから、俺たちが取りに行かないなら黒鷲と青獅子は正面から衝突することになる」
「だが、それでは弓砲台を取ったどちらかに我々は倒されてしまうのではないかね?」
「いや、そうはならない。というか、弓砲台の射程内で戦うことはしない。俺たちは軍を二つに分けて、戦場を大きく回って背後から両軍の背後から挟み撃ちにする」
「ッ⁉︎そんなことが可能なのか⁉︎」
「俺たち金鹿は、機動力に関しては他のクラスを凌駕してる。やれるさ」
その言葉に頷く皆。馬の扱いに長けたレオニー、ローレンツ、マリアンヌの3人、ペガサスの扱いを会得しているフレン。そして、ドラゴンを扱えるクロードとヒルダ。
一気に距離を詰められる職種がこれだけ揃っている。だからこその戦略だ。
そして、それを可能にする魔法を金鹿の問題児は習得している。というかいつのまにかしていた。自分の課した課題はしっかりとこなした上でだ。あの要領の良さはなんなのだろうか? 向上心があるのは結構だが、それで無理して体調を崩されては困る。ので気にかけているのだが、未だにジョニーの限界がわからない。やはり彼は新人教師である自分には少し過ぎた生徒なのだろう。人として、友人としてはソティス共々とても良い付き合いになるだろうけれども。
走りながら対岸の皆を見る。彼らは速度重視の強行軍。だが、先生の割と無茶な指揮に慣れている皆はそこに隙を作ったりはしていなかった。
「フェルディナント! 止めて! ドロテア、ヒューベルト! 援護に!」
「任された! このフェルディナント=フォン=エーギルの力を見せてやろう!」
「ならばその力、ローレンツ=ヘルマン=グロスタールが打ち崩す!」
「任せた! 俺たちは本陣狙いだ!」
そうしてローレンツを残して突っ込む皆。
これは、博打じみた奇襲だ。戦力を半々にしているのだからどっしり構えて迎撃されたら止められてしまう。そうなれば終わりだ。
が、そんなことにはならないしできないとクロさんは言ったし、それについては俺も理解できる。何故なら、黒鷲はもう青獅子と戦端を開いてしまっているのだから。
この状況で金鹿に戦力を向けたら、正面の青獅子に食い破られる。
「「そこ!」」
だが、それはこちらに常に目を向けていた青獅子の斥候、アッシュを抜けたらの話。イグナーツのロングボウで打ち合っているが、アッシュは木々をうまく使って射線を通さないでいる。やはり強かだ。
「イグナーツ、ここ任せた!」
「分かってます! 止まったら僕たちに勝ち目はありません!」
「そう簡単には行かせない!」
放たれる矢、それを躱して射返すイグナーツ。
森林での弓対決は、多分見事なものになるのだろうなーとは思うが、見ていられる余裕はもうない。
走り抜ける。青獅子の背後を突く為に。
だが、ここで終わらないのが青獅子。
ここで、この戦場において最強クラスの単体戦力を持つ男が、立ち塞がってきた。
おそらく、戦いへの嗅覚から。
「皆、ここは俺に!」
「一人でやるとは、舐められたものだな」
「作戦上の問題だよ! 本当なら弓使い達の援護が欲しいわ畜生!」
そうして、フェリクスと俺は戦闘を開始する。どうにもフェリクスは狼煙を上げていたようで、本陣のディミトリはこの襲撃には気付くだろう。この一匹狼(笑)め、チームプレイがしっかりできてやがる!
そうして脇を抜けていく先生たち。
その間フェリクスと俺は間合いを計りながら睨み合っていた。
魔法には近く、剣には遠く、拳にはより遠いこの間合い。下手に詰めればフェリクスの剣に倒れるだろう。しかし、だからといって引くというのはなにかいけないという直感じみたものがある。
故に、取るべきは奇襲。こちらの戦力の関係で、本体から俺が抜けるのはかなりまずい。ラファエルと先生がいるとはいえ、姉さん一人で皆の援護をやり遂げる事は不可能だからだ。
「じゃ、行くぜ」
「フン、来いジョニー!」
構えの腕を少しずらしてコイルガンをフェリクスに向けて放つ。
だが、フェリクスはそれを読んでいたようで俺がサンダーを込める瞬間に半歩体を逸らして射線から体を逃した。そしてすかさずの接近。剣の間合いまで近寄られたがそれは読めている。
だから、準備していた
が、フェリクスはそれをジャンプして回避する。
そして、空中と地上で魔法の距離になったその時、同じタイミングで俺とフェリクスに魔力が溢れ出た。
フェリクスの野郎、これが隠し玉か!
「「サンダー!」」
フェリクスの剣を持っていない左手から放たれた電撃と、俺の右手から放たれたサンダーが相殺し、そのままフェリクスは重力の力を乗せた大上段を叩きつけてくる。
それを、地面を転がる事でどうにか回避するが、まだ魔力の反応がある。俺が拳と魔法を合わせたように、フェリクスも剣と魔法を合わせたスタイルを作り上げたのだろう。
あいつ魔法苦手だった癖に、よく頑張ったなマジに!
「「サンダー!」」
準備されていたサンダーと、抜き打ち気味に放ったサンダー。グロスタールの紋章の力が乗りきらなかったので、紋章持ちの高い魔力により威力は同じくらい。今回も相殺されてしまった。
これは、無理にでも距離を詰めないと不味いだろう。
フェリクス一人に、この作戦が潰されてしまう。だから、その前に俺がコイツを倒さなくてはならない。
……一対一では先日手、なら不利になってでも乱戦にする。
それができる位置に、今俺はいる。
「……しゃーなし、プランBだ!」
「ほう、何をする気だ?」
「お前となんかまともに戦ってられるか! 俺は高台に登るぞ!」
「……コイツを自由にはできんか!」
そうして始まる魔法を撃ち合いながらの鬼ごっこ。フェリクスはサンダーを会得したとはいえそのコントロールを十全にできている訳ではないようだ。離れてしっかり見ていればサンダーの出る魔力のラインが感じられる。
だが、フェリクスは俺の魔法を時に躱し、時に斬りはらいながら進んでくる。やっぱ強いわコイツ。
「チッ、シルヴァン! 背後からジョニーだ!」
「マジかよ! こっちは目の前のことに手一杯だってのに!」
「ジョニー、奇襲、感謝です! 一時共闘、願います!」
「話が早いなペトラ! つーわけで、くたばれ色男!」
「野郎に言われても嬉しくねぇんだよ!」
高台に登っているが故に馬首を返すことのできないシルヴァン達騎馬隊を魔法の乱射により弱らせる。そこをすかさず倒してくるペトラ。……わかっていたが、速い。
「ですが、私がいる事をお忘れなく!」
だが、俺の背後から襲ってくるのはペガサスを駆るグリットさん。これだけ魔法を放っていれば俺の事は気付くだろう。
そして、馬を捨て俺の方に槍を向けたシルヴァンと、追いついてきたフェリクスの3人に囲まれる。
この3人の連携に隙はないだろうが、それでもフェリクス一人を相手にするよりかはマシだ。
「ッ⁉︎」
「やっと当たったですぅ!」
弓砲台に陣取っている黒鷲は、青獅子の敵なのだから。
矢の当たったペガサスからなんとか飛び降りるグリットさん。重症にはならなかったようで一安心。だが、相変わらずしんどい事には変わらない。
そうして二本の槍と一本の剣に晒される俺は、全神経を使って紋章に意識を集中させる。
この場にいる3人は、紋章持ち。下手に目で追うよりも、紋章による感知の方が動きの起こりが読みやすい。
そして、俺の対処に追われていれば、黒鷲の連中が残りの騎士団を食い破ってくれる。その後はかなりしんどい逃避行になるだろうが、逃げに徹すればどうにでもなるだろう。
「しゃあ! かかって来いや! ちなみに俺は一度刺されただけで死ぬぞ!」
「この状況でまだそれか、全く貴様は!」
「……フェリクス、ノリで動くなよ? 訓練通りだ」
「シルヴァンはそんなに真面目に授業を受けてないでしょうに」
「そこは言わないでくれよ」
黒鷲が攻めてくる事への焦りは見えない。極めて自然体だ。
だから、かえってこちらも落ち着いてくる。
初めに放たれるのは、グリットさんの刺突。軽やかに、しかし鋭い。
それを最小限の動きで回避し、続けて放たれる二の突きを払いおとす。
そこに割り込むように入ってくるシルヴァン。戦技、旋風槍を的確に放ってきたが、それを
だが、そこからだ。フェリクスは淡々と、しかし鋭い牙を持って俺の動きを捉えている。そう感じる。
「終わりだ、ジョニー!」
「まだ終わらない!」
「戦技、剛撃!」
「戦技、サイクロンソバット!」
跳んだ俺に対して自らも跳ぶことで合わせてきたフェリクスに、風魔法の力で作り出した回転の蹴りで剣の腹を叩く。
だが、剛撃に込められた力は強く、俺は吹き飛ばされてしまった。
丁度いいことに青獅子陣営の本陣の方に。
「これを躱すか!」
「躱すさ! じゃないと痛いのはわかったんだからさ!」
「「サンダー!」」
合わせたサンダー。今回はしっかりとグロスタールの紋章の力を込められた為に、威力はフェリクスのサンダーを上回り、若干の手傷を与えることができた。
そして、これだけ時間を稼げれば、状況は変わる。
「後ろ、取りました!」
「ベルだって、やるときはやるんですぅ!」
シルヴァンの率いていた騎士団を壊滅させた黒鷲の二人、ペトラとベルナデッタが奇襲をかけたのだ。
一斉射撃の計略により足を止められる3人、そこに神速の動きでペトラが突っ込んでくる。
これなら、俺が抜けても大丈夫だろう。
空中で体勢を整えて、着地と同時に敵本陣に斬り込む。
そこにはベレス先生とラファエル、そして姉さんの率いる軍が既に本陣を守るディミトリとメルセデスの率いる軍と衝突していた。
つまり、まさかの高台方面からやってくる自分は、完全にフリーだということ。
「その首貰った!」
「ッ⁉︎ジョニーか!」
「やらせないわー。リザイア」
「その程度なら突っ切るまで!」
メルセデスの光の力を、二つの紋章の出力のみで払い除けてディミトリに肉薄する。
そして、ディミトリの投げてきたスレンドスピアをウインドで受け流し、その風の力のままに拳を振るう。
しかしディミトリはしっかりとその拳を受け止め、蹴りで反撃をしてくる。やっぱ荒っぽいなコイツ。
だから、そのまま拳にこもった風の力を爆発させる。自分も傷つくが、そんな事はどうでもいい。
吹き飛ばした先が、とっても良い位置なのだ。
「闇よ爆ぜよ! ダークスパイクΤ!」
「姉弟のコンビネーション攻撃、かッ」
「ディミトリ!」
「回復はさせない」
「……わかったわ、降参よ」
先生によりメルセデスに突き付けられる訓練用の剣。これにて、青獅子本陣は壊滅した。前線にいるドゥドゥーとフェリクス達3人はまだ戦闘中だが、これでほとんど青獅子は無力化できたと言って良いだろう。
あとは、黒鷲だ。
今の勢いのまま攻め込みたいところだが、少し黒鷲の被害が少ない。弓砲台を取っている状況は依然変わらないのだ。それの攻略にディミトリは手こずったのだろう。
さて、では今日の為に練習してきた奇策を使わせて貰おう。倒れているディミトリに煽りの意味を込めてちょっと手を振る。
ダメージの抜けきらない体で、なんかジト目で見られたがそれはそれ。気にしない方向で。
「ジョニー、本当にできるのですか?」
「大丈夫大丈夫。シルヴァンのお墨付きだから」
喉の調子を整えて、戦場に大きく響かせる。
「迎撃は完了した! 全軍黒鷲に集中しろ!」
ディミトリの、声真似で。
『こやつ、やりおったぞ! 妾とてこの目で見ていなくてはあの金髪の声だと聞き違うてしまいそうじゃ!』
「凄えなジョニーくん! びっくりだぞ!」
「ラファエル、声小さめになー。バレたら危ないから」
そうして森の中で軍を再編して、高台の南、ドゥドゥーがカスパルを打倒したあたりで先生が進軍の合図を出す。
高台ではベルナデッタ達とフェリクス達が戦いを続けている為に弓砲台の危険性は今は小さい。そして、黒鷲の北側はクロさん達がきっちりと制圧してくれている。
北側ではフェルディナントとローレンツの率いる騎士団が戦いを続けているが、それが大勢に関与する事はないだろう。
「覚悟」
「あなたがね、我が主には指一本触れさせませんとも」
そうして争い始めるヒューさんとドゥドゥーの軍。それに合わせて上空に青い煙を上げる。
「
俺の号令に合わせて、全軍が突撃を始める。
姉さんの率いる魔導部隊が、集団魔法の計略でドゥドゥーの軍をなぎ払い、先生が突っ込んで傭兵団の皆さんの一斉突撃によりヒューさんの軍を無力化する。
そして、姉さんの魔法がドゥドゥーを、ラファエルの斧がヒューさんに襲いかかり、その二人をしっかりと戦闘不能にした。
「ヒューベルト! ……やってくれるわねクロード!」
「おいおい、それは俺よりもウチのジョニーに言えよ。やるとは聞いてたが、あそこまで似せてくるとは思わなかったんだから。……危うく兵を引きかけたぜ」
「でも、まだ終わりじゃない! リンハルト、後詰めをお願い。私が、
「……あいつが目立つことは否定しねぇよ。けどさ」
「俺にも一応、級長のプライドってのがあるんだよエーデルガルト」
「クロード?」
「つまり何が言いたいかってのは……頭上注意って事で」
瞬間、エーデルガルトの肩に当たる矢。狼煙が上がった瞬間に空高く放たれたその矢は、完全に意識の外からエーデルガルトを襲ったのだ。
「エーデルガルトさん、今治癒する……ッ⁉︎」
「サイレスです。私の魔法は魔法を封じる」
「そんでもって、私が行く! 倒させて貰うよ、エーデルガルト!」
「頑張ってねレオニーちゃん! 私は援護するから!」
「お前も前に出ろヒルダ! 流石に今は遊ばれたら終わるぞ!」
「わかってるって!」
正確な騎射と、ドラゴンからの斧撃が黒鷲の学級を襲う。
それは、肩にダメージを負っていたエーデルガルトには十分な威力の攻撃であった。
「十全の力を出したお前相手なら二人がかりでも無理だったろうよ。けど、お前は油断した。流石に、
「……そのようね。けれど、最後まで足掻かせてもらう! 綺麗な敗北よりも、前に進もうとする敗北の方が価値があると信じているから! たとえ泥臭くても!」
「なら、相手をする」
訓練用の剣を構えた先生が、エガさんの前にやってくる。
先生は、何かを教えるための教師の顔をしていた。
「はぁあああああ!」
「ッ!」
決着は一合。残りの力全てを込めて振るわれたその斧は、しかし肩の傷が原因で十全の力を発揮できずに先生の剣により弾き飛ばされた。
だが、それでも諦めずに格闘に移行しようとするエガさんは、しかしその全てを読み切っている先生に捌ききられて首に剣を突きつけられた。
「泥臭くても最後まで戦うことが、大事なことはある。けれど」
「負けを認めて命を拾うことだって、同じくらい大切だ」
「……」
「私はそうしたから、ここまで強くなれた」
その真っ直ぐな目を見て、エガさんは力が抜けたようだ。
「……完敗よ、
「そうか」
「それまで! 今回のグロンダーズ鷲獅子戦の勝者は、
湧き上がる歓声。高らかに突き上げられた拳。
「っしゃあ!」
「うぉおおおお! 勝ったどぉ!」
「嬉しがったり悔しがったりするより、皆の治療が先かなー。マリアンヌさん、フレンさん、手伝ってくれる?」
「はい! お任せ下さい!」
「じゃあ、俺は青獅子連中の治療に回りますねー。昨日覚えた俺の回復魔法が火を吹くぜ!」
「あんたのあの魔法危なっかしいんですからでしゃばらないで。怪我が悪化したらどうするんですか」
「ひどくね、姉さん」
そんなわけで学級の皆や騎士団の皆さんを治療して回る。
幸いメルセデスが魔力に余力を残していたことと、白魔法に特化した騎士団を率いていた事でどうにか治療の手は足りた。
というか、高台中央が悲惨すぎる。指揮官はベルナデッタとペトラだけだったのに、よくこれほどの人数を相手にできたものだ。
しかもペトラの話によると、指揮を取っていたのはベルナデッタだとか。……篭城の鬼だ。間違いない。
そうして治療をして、事がおさまる頃にはクロさんが皆で祝勝会を開く事にすると決めていた。
「そういうのは企画段階とか噛ませてくださいよ! クロさん!」
「そりゃ悪かった。なんせお前なら鷲獅子戦ほっぽり出して余興に全力をかけそうだったからな」
「……流石にそこまではしませんよ?」
「疑問形なのかよ」
とりあえずは祝勝会だ。せっかくなので灰の灰汁を使ったアレを作るとしよう。なんかふわっと思い出すよなー、こういうネタ知識って。