ファイアーエムブレム風花雪月 双紋の魔拳   作:気力♪

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プロローグ2 入学前の生徒たち

「引っ越し終わり! イェーイ!」

「……なんでそんな元気なんですか」

 

 孤月の節の終わり頃、前年度の生徒たちが寮を去り、代わりに今年度の新入生たちが入寮した。

 

 まぁ、当然といえば当然なのか、平民の寮部屋にはいくつかのいたずらがしてあったりする。机の裏に貼り付けられた春画とか。

 

 見つけて爆笑したところをリシテア姉さんに見つかり、あえなく闇に飲まれたのは悲しいことだが、些細なことだ。

 

 なにせ前世は現代日本人。この時代の春画ではなかなか抜けないのだ。エロスも萌えも足りないのだから。

 

「さて、せっかくだし礼拝堂見てみようぜ。あんたけデカイんだから、面白いものの一つ二つはあるだろうよ」

「そうですね、それなら礼拝堂だけじゃなくこの大修道院を散策しましょう。これから一年過ごすこのガルグマク大修道院を見て回るのは損にはならないでしょうし」

 

 そんなわけで、大修道院を見て回ることになった。

 

 とりあえず目立つ所から見て回る理論により、礼拝堂に入る。

 立っている警備の人たちはかなりの練度だ。さすが音に聞こえるセイロス騎士団だろう。だが、こちらが生徒だとわかると気さくに話しかけてくれたりしたので、人格的には信頼できそうだ。

 

 尚、道中に何故か妙に綺麗な白いフクロウの羽を拾ったりしたので顔を売るついでにちょっとしたマジックを見せたりしてみた。

 

 結果は好評。単純にフクロウの羽を手の甲と袖で隠すというパームという技術だったが、凄腕と思われる弓使いのシャミアさん以外には見破られはしなかった。やはり弓兵は目がいいのだろう。

 

 とか思っていたが、後々聞くところによると、カードでのイカサマでこういう手口をしてくる輩がいるから目が鍛えられていたのだそうだ。まだまだ未熟だなー。

 

 そうして色々巡りつつ、やってきたのは大修道院。その巨大さには圧倒されたが、中の装飾も煌びやかだ。かといって成金のような趣味の悪さはなく、綺麗に調和している。

 

 そして何より目を引くのが、巨大な女神像だ。あれは作るのに相当な労力がかかったろうに。よくもまぁやったものだ。

 

 そして、そこに祈りを捧げているのが2人。温和そうな子と活発そうな子の二人組だ。どちらも私服だから、おそらくは今年の入学者だろう。

 

「……一応私たちも祈っておきましょうか、形式的に」

「そういうこと口に出すなって。異端審問とか怖いぜー? いや、そんな事例はよっぽどじゃないとないんだけどさ」

 

 そうして、2人の横に並んで軽くお祈りをする。こんなファンタジーな世界なら、神様だっているのかもしれない。なんか加護とかくれないかなーなんて下心を持ちつつも祈りの作法に則って祈りを捧げる。

 

 そうして、終わったところで隣にいた2人組に挨拶をする。こちらは軽くしか祈っていなかったので、ちょうど同じくらいのタイミングで祈りは終わったようだ。

 

「初めまして、俺はジョニー。こっちは姉のリシテア。同盟から来ました。お二人は今年の入学生ですか?」

「はい、私はアネット、こっちはメーチェ……じゃなくてメルセデス。私たちは王国から来ました」

「お、ということは入学したらライバルですね」

「そうねー。でも、仲良くできたら嬉しいわー」

「そうですね、共に競い合って高めていけたら良いと思ってます。よろしく、メルセデス、アネット」

「うん、よろしくね! ジョニー君、リシテアちゃん!」

 

 社交性の高そうなアネットと、ちょっとおっとりしているマイペースなメルセデスは、どうやら王国時代からの友人らしい。王国の魔導学院出身ということで姉さんとアネットは早速魔導談義で盛り上がっていた。

 

「というわけで、出会いの記念に手品を一つ。こちらにあるは美しきフクロウの羽。これに、魔力を加えるとー……ハイ!」

「嘘、無くなった⁉︎」

「……見たことない魔法、かしら?」

「で、これに炎の魔法で暖かくするとー…… ハイ!」

「「おー!」」

 

 手元には手の甲に隠していた羽を手の甲から取り出して、再び羽を手にする。左手の炎でのちょっとしたミスディレクションだ。

 

 決してシャミアさんに見破られたからちょっと手を加えるようにした訳ではない。ちょっとした気分転換だ。

 

「というわけで、この羽をあなたに! ……と言いたいんですが、ちょっと手持ちのモノがこれしかないので許して下さいな。今日話す人全員にやってどれだけ見破られるかのチャレンジをしてるので」

「へー、今のところどれくらいなんですか?」

「なんと、今のところ1人にしか見破られてなかったり!」

「というかさっき見破られて手を変えた所ですね。ウチの弟、結構見栄っ張りなんですよ」

「姉さんや、そこは言わない約束でしょうに」

「仲良いんですね!」

「ねー」

「いやー、それほどでも……ありますね」

「認めちゃうんだー」

 

「お、両手に華だと一本余ってるな。色男」

「ほぅ、よくわかってますね美丈夫さん」

 

 やってきたのは赤い髪が映える色男。フラフラとしてそうで、その実芯はしっかりとしてそうな雰囲気がする。

 

 まぁ雰囲気だけなので後半は思い違いかもしれないが。

 

「俺はジョニー、こっちが姉のリシテア。俺たちは同盟から来たんだ」

「私はアネット! こっちはメルセデス、私たちは王国から来たの」

「お、同郷みたいだな。俺はシルヴァン。シルヴァン=ジョゼ=ゴーティエだ。王国で貴族なんかをやってるよ」

「おー、ガチの貴族様だわな」

「ジョニー、私たちも貴族です。忘れないでください」

「え⁉︎そうなの⁉︎」

「はい、同盟領のコーデリア家の姉弟です。弟の方がやらかしているので同盟ではそこそこ有名なんですよ」

「コーデリア……ジョニー=フォン=コーデリアか! 魔獣殺しの! 王国でも与太話として伝わってきてるぜ。んで、本当にやったのか?」

「12のガキがんな大層なことできるかっての。やったのは普通の雷だって」

「ほんとあの時は肝を冷やしましたよ。大雨なのにジョニーは家にいないし、魔獣の襲撃で騎士団はてんやわんやですし。と思ったら大きな雷が落ちてきたりで。とか思ってたら平気で帰ってくるし」

「いやー、あの日はやばかったよ。なんかビビっと来た感覚頼りに歩いたらなんかヤベーのがいるしなー。あの日に積乱雲がなかったら死んでたよマジで」

「……積乱雲?」

「あー、要は大雨とか嵐とかの時の雲な。あれって雷の力が詰まってんだよ。だから、それが魔獣に当たるように誘導すればって理屈よ」

「……そんな事、魔導学院じゃ習わなかった……すごい、すごいよジョニー君!」

「いや、これについては褒められたもんじゃないから。ふつうに実験すれば確かめられるからな? 凧と銅線と瓶と適当な金属とかで」

「ジョニーって本当にどっからそういう知識を手に入れてるんですかね、そんなに本は読まないのに」

「ほら、実験大好きっ子だから俺」

「ま、むさ苦しい男の話はこの辺で。お嬢さん方、俺も一緒にこの修道院を見て回ってもよろしいでしょうか?」

「俺からも頼むよ、正直野郎1人だと息苦しかったんだ」

「うん、私は良いよ! メーチェは?」

「私も構わないわー」

「決まりだな! じゃあ次はどこに行こうか」

「シルヴァンはどこ回った?」

「ここが最初だな。フェリクス……俺と一緒に来た奴は訓練所に行くって言ってたよ」

「訓練所かー……ちょっと惹かれるものがあるな」

「ジョニー、初日から問題を起こさないでくださいね?」

「いやなんで問題を起こす前提なんだよリシテア姉さん」

「だってジョニーですし」

「なら、書庫に行ってみたいかな! ガルグマクの書庫は凄いって士官学校出た先生が言ってたから」

「それは楽しみですね。行きましょうジョニー」

「へーい」

 

 そうして他愛のない話をしながら二階の書庫へと足を向ける。

 

 すると道中、愉快な話し声が聞こえてきた。綺麗な声をしている、そんな印象だ。

 

「あー、書庫の場所聞いてみないとなー」

「そうだなー」

 

 無言で示し合せる俺とシルヴァン。実際に口説くかどうかはともかくとして、美女がいるなら見てみたいと思うのは男のサガなのだ。

 

「なんだか、ジョニーに悪い友人ができてしまったような気がします」

「良いんじゃない? シルヴァンは悪い人じゃないだろうし」

「んー、ちょっと軽いけどねー」

 

 そうして、開け放たれているドアから中を覗いてみると、そこには絶世の美女が2人いた。どちらも、佇まいが美しい。

 俺を最初に拾ってくれた娼館の姉御達に通じるものがある。なにか魅せる仕事や訓練をしていたのだろうか? 

 

「あら、怪我でもしたの?」

「いえ、美しい声が聞こえたのでここには天女がいるのかと」

「……シルヴァン、おまえいつ飲んだ?」

「いや、口説き文句だからな? シラフだっての」

「いきなりダメっぷりが出てますね、シルヴァン」

「あら、私服ってことは新入生? 私もなの。私はドロテア、帝国から来たわ」

「そして私はマヌエラ。今年も先生をやる事になってるわ。ここの医務室の主もしてるから、怪我をした時は頼ってね?」

「お、出歯亀根性も良い方に転がるようですね。医務室には沢山お世話になると思うので、よろしくお願いします、マヌエラ先生」

「それで、あなた達は?」

「すいません、俺はジョニー。こっちは姉のリシテア。俺たちは同盟から来ました。こっちの2人がアネットとメルセデス。このナンパ野郎がシルヴァン。この3人は王国から来たそうです」

「よろしくお願いします! マヌエラ先生!」

「ええ、よろしくね皆。ドロテア、せっかくだからこの子達と一緒に行ったら?」

「でもマヌエラ先輩とようやくまた会えたのに……」

「これからいつでも会えるわよ。だから、今のうちに同級生と仲良くなっていなさい。そっちの方が学園生活楽しいわよ?」

「……そうですね。じゃあ、よろしくね皆!」

「ああ、美人が増えるのは大歓迎だ」

「俺もだ。よろしく、ドロテアさん……ってリシテア姉さん、脇腹つつくのやめて。くすぐったいから」

「……ジョニーはちょっと女の人に色目を使いすぎです」

「あら、仲のいい姉弟なのね」

「まぁ、自慢の姉ですから」

 

 そうして、ドロテアを加えての大所帯で書庫へと向かう。

 ドロテアさんの事を考えると、帝国の生徒を見つけたいものだ。

 

「ここが、書庫か……スゲー蔵書量」

「王都の学校でもここまでじゃなかったよ! 凄いねガルグマク大修道院!」

 

 そう話していると、若干棘のある目で睨まれる。そうして俺とアネットは、図書館ではお静かにという暗黙の了解を破っていた事に気付き司書さんに頭を下げた後、クスリと笑ってしまった。

 

「じゃあ、見て回るか。静かにな」

「そうだね」

「しっかしこの量だと、目当ての本を探すだけで一日が終わりそうだな」

 

 そうしていると、歴史書、宗教書、各国の貴族についての本などのスペースの先にポカリとスペースが空いているのがわかった。

 

「これは、魔導学か紋章学あたりの本か? まだ入学前だってのに随分と勉強熱心な奴がいるんだな」

「ジョニー、あの人じゃないですか?」

「ん? ……あー、あれは新入生かね?」

 

 なんだか眠そうな空気を出しながら、それでもしっかりと手を動かしている奴がいた。写本作業だろうか?」

 

「んー、真面目な奴みたいだし話しかけるのはやめとくか?」

「いえ、読んでいる本以外を持ち出すのはマナー違反です。なので読みたいですね、セネリア=オーヴァンの魔導論。というか読みます、力尽くでも」

「あ、本当だ。積まれてる本の中にある! 私も読みたい!」

「すまんアネット、リシテア。俺は魔導にはそんなに詳しくはないんだが、そんなに有名な本なのか?」

「ええ、現代魔導学の基礎を作り出した偉大な先人の傑作です。それまで紋章持ちにしか使えないとされていた魔法を皆に使えるように体系化したんですよ」

「最近じゃそれをさらにわかりやすく噛み砕いた本しか出回ってないから、内容が抜けてたりするの。だから、とっても貴重なの!」

「へー」

 

「そこ、聞こえてるよー。この紋章と魔法が結構手強いから、積んでるの勝手に持ってっていいから」

「あ、そうなんですか。なら借りさせてもらいますね」

「狡いリシテア! 私も読む!」

「でも、まだ入学してないから貸し出しはできないってさ。読むならここでね。……はぁ、部屋の方が集中できるんだけどなぁ……」

「そうですか……では、今日の所はやめておきます。流し読みした程度で理解できるものではないでしょうし。入学してから本腰を入れて読みたいと思います」

「うーん、それもそっか……じゃあ、じゃんけんしよう! 勝った方が先ね」

「ええ、恨みっこなしです」

 

 そうしてじゃんけんを始めるアネットとリシテア。

 特にイカサマとかをしないアネットと、俺が手段を選ばなさすぎて目が鍛えられているリシテア姉さん、勝敗は明白だった。

 

 雷の魔法は苦手だというのに、よくやるものだと毎回思う。

 

「勉強の邪魔して悪かったな。俺はジョニー。同盟から来た。お前は?」

「僕はリンハルト、帝国から来たよ。どうせ入学したら自己紹介とかするわけだし、皆の事はその時に覚えるよ」

 

 なんともマイペースな男だ。

 だが、不思議と嫌いにはなれない。おそらく面倒臭がりなだけで、悪い奴ではないのだろう。そうでなければ本を貸しても良いなんて事は言わないだろうし。

 

 そうして一通り見て回ったのでちょっと休憩入れようという話になり、お茶会をしようという事になった。

 

 なんでも、修道院の入り口近くにある市場で茶葉や茶菓子が売られているらしい。

 

「それなら、ちょっとフェリクスの奴連れてくるわ。茶会の場所って食堂の南のガーデンスペースだよな?」

「ええ、とても居心地が良いらしいの。マヌエラ先輩から聞いただけだけど」

「じゃあ、役割分担な。俺と姉さんとドロテアで買い出し、シルヴァンは訓練所で友人と他にも人がいたら連れてきてくれ。アネットとメルセデスは茶器とか食器の用意を頼む……あーでもそういうのは拘る奴とかいるかね?」

「さぁ? でも、今日士官学校に着いた連中ってそんな事は気にしないと思うぜ? 今日の乗り合い馬車が一番安かったから来たんだろうし」

「あー、王国でもそうなのか」

「帝国でもそうよ。入学式に合わせて人の流れが増えるから、その時期の馬車は高くなるの」

「やっぱそうなのか」

 

 そんな訳で分担開始。

 

 アネットとメルセデスから欲しい茶菓子は聞いたので、それと姉さん好みの甘いのを量買っておけばいいだろう。人が増える事はないかもしれないが、その時は俺とシルヴァンの野郎組で食べれば良いのだし。

 

 そうして、ガルグマク大修道院の門の前に着いたところで、なんだか悩んでいるような人を見つけた。馬車の荷下ろし中のようだが……

 

「すまん、ちょっと行ってくる」

「あ、ジョニー!」

 

「すいません、なにがあったんですか?」

「あ、ああ。帝国のヴァーリ伯から荷物の配達を依頼されたんだが……この袋の触り心地が妙でな。よく見るとちょっと動いてたりするんだよ」

「……同盟貴族、ジョニー=フォン=コーデリアとして、この中身を改めさせて貰います。もしも人であるなら、人攫いに加担させられてしまった可能性もありますから」

「そりゃねぇぜ! 貴族さん!」

「あなたには責任は……ないとは言いませんが、なるべく罪が軽くなるように尽力します。まぁ、これが人じゃなくて動物か何かの類なら俺がヴァーリ伯に怒られるだけで終わりますから、安心してください」

「そ、そうか。頼むよ」

「ええ。では、失礼して……」

 

 そうして、麻の袋を開けてみると。

 

 寝巻き姿の少女が、口と両手足を縛られた状態で現れた。

 

「大丈夫か!」

 

 咄嗟に口枷を外す。すると、きょろきょろと周囲を見回した後に叫び出した。

 

「ど、どこですかここはぁあああ! ベルの聖域はぁあああ⁉︎」

「落ち着け! ここに君を害する者はいない! まず、ゆっくり深呼吸してくれ」

「落ち着けませんよぉ! 部屋に、部屋に帰してくださいぃいいいい!」

 

 そうしてひとしきり叫んだのち、彼女は顔が青白くなり、やがて嘔吐を始めた。パニックが終わって冷静になった事で逆に不安になってしまったのだろう。

 

「大丈夫、大丈夫な。ゆっくり吐きだし切ったら、まずは水でも飲んで落ち着こう。

 

 背中をさすりつつ先ほどの人が持ってきてくれたコップにブリザーとファイアーで水を作る。それをゆっくり飲ませて、少しだけ落ち着かせた。

 さて、この吐瀉物をどうしたものか。ファイアーで焼き払っていいのだろうか? 

 

 ちなみに、この騒ぎを聞きつけてセイロス騎士団がやってくるのに、20分ほどかかった。

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