ルミール村への出立を間近に控えたある日のこと。
流れの商人がダークメタルを持ち込んできた事により今回の話し合いは始まった。
まず、ダークメタルを必要とするもの。遺産使い達がこぞって集まってきたらしい。
「ダークメタルです!」
「お、やっときたか。いくらだい?」
「お、珍しいのの入ってるじゃねぇの」
「フン、この僕に相応しい素材がやってきたようだね!」
「「「「あん⁉︎」」」」
当然戦いが始まりかねないくらいに険悪になる以外は。
だが、そんな睨み合いは唐突に終わる。
「これ下さい」
「はいよ先生」
「「「「はい⁉︎」」」」
我が道を行くスーパーティーチャーベレス先生の気まぐれによって。
そして、その気まぐれは一度では済まなかった。情報が追いつかなかった事、殴り合いの隙に買われていたこと、そもそも予約されていたことなどが原因で、ダークメタルはベレス先生によって買い占められたのである。
それから、この時集まったカトリーヌさん、ローレンツ、グリットさん、シルヴァンの4人は腹を括ったそうだ。このままじゃ英雄の遺産のメンテナンスが不可能になる! と。まぁダークメタルなんて安定供給できないんだから気にすることはないと思うのだけれども。
それで集まった4人は頭を回し、同じく遺産(っぽいもの)を使い、ベレス先生のノリに理解があり、そして普通の時には普通に優秀な俺に話を持ちかけてきたのである。
ベレス先生のダークメタル独占を禁止する為に協力してくれと。
「いや、それでどうして訓練所で茶を飲む事になるのさ」
「そりゃまぁ、遺産について調べてるからですよ」
「……まぁ、その事自体には文句はねぇよ。交換条件だからな。けど、俺は良いんだが他の連中の遺産にお前触って良いのか? 紋章石が青くなるぞ」
「それも含めて調べるんですって。てな訳で一番! この中で一番血を吸ってるであろうカトリーヌさんの雷霆です!」
ノって拍手をしてくれるベレス先生とソテっさん。それを見て渋々と雷霆を渡すカトリーヌさんだった。
「あー、やっぱこの感じなんだ」
「あんた、雷霆を壊す気じゃないだろうね」
「……微妙です。今がある意味壊れてるとも言えなくないですし」
「へぇ?」
紋章の共感で感じたのは、破裂の槍の時と同じようなひたすらの負の感情のごちゃ混ぜ。いまの暴走していない状態でこれを解き放てというのは無理だろう。あれは紋章の負の力が表に出ていたから解き放つことができたのだなーと今更ながらに理解した。
では、本命を試してみよう。
「お返ししますカトリーヌさん。ついでにちょっと雷霆を使ってくれませんか。俺はそのそばで一曲吹くんで」
「……あんたの遺産の研究ってわけかい。わかった、やってみな」
そうして剣を振るうカトリーヌさんは、その現象に本気で驚いていた。
「ジョニー、あんたコレは!」
「ちょっとは抑えられましたか。バックファイア」
「ああ! 雷霆がこんなに大人しくなったのは初めてさ! ……けどまぁ、アタシには要らないね。じゃじゃ馬じゃない雷霆なんざ気持ちが悪くて仕方ない」
「ま、そうですね。雷霆もカトリーヌさんに振られてる時は満更でもない感じでしたし」
「そうなのかい? コイツにも案外可愛いところはあるもんだね!」
そう言って雷霆を肩に担いで笑うカトリーヌさん。なんというか、剛毅な人だ。
「じゃあ次! グリットさん、どうぞ!」
「はい。……とはいってもわたしが遺産を受け取ったのってつい先日の事なんですけどね」
「良いんですよ、ある意味まっさらに遺産に触れるですから」
そうしてグリットさんの婚約騒動が終わった際に彼女に管理が任された英雄の遺産の槍、ルーンに触る。
やはり遺産の負の感情の塊が伝わってくる。それに、雷霆よりもかなり重い感じだ。これは多分、発散してるかどうかだろうか? あるいは性格の違い?
ちょっと深く潜ってみようとするが、紋章石の防衛行動のせいで手を焼かれたのでここで中止しておく。
「ジョニー君⁉︎」
「いやー、怒らせちゃいました。嫌われちゃいましたかね?」
「傷薬は必要か?」
「俺、自慢じゃないですけど自分に回復魔法かけるのだけは得意なんです」
「他人にかけるとあまり成功しないとちゃんと言っても良いんだよ、ジョニーくん」
「それなんですよねー。というわけでグリットさんどうぞ! あ、カトリーヌさん訓練用の剣で軽く相手して下さいな。カトリーヌさんなら英雄の遺産が相手でも打ち合えるでしょうし」
「ほうほう。それで、アタシの時にそれをしなかった理由は?」
「カトリーヌさんの雷霆を止められる人とか先生の天帝の剣だけですよ? んなもん大惨事しかないじゃないですか」
「そりゃそうだ! ま、いつかやり合いたいもんだけどね」
そうしてグリットさんとカトリーヌさんが向かい合う。俺の笛が曲を奏でると共にグリットさんが攻めかかった。
それを、あっさりと回避して崩すカトリーヌさん。やっぱ強いわ。
「さぁ、踊るなら全力で来な!」
「分かっています、カトリーヌさん! はぁ!」
ん? ルーンの感覚が変わった。ルーンとグリットさんが馴染んだのか?
「お、良くなったじゃないか」
「涼しい顔で、言われても!」
グリットさんの放つ数多の槍撃を、躱して逸らして時に踏み込んで反撃する。完全にカトリーヌさんのペースだった。
そして、グリットさんとルーンがさらに馴染んだ所で曲を止める。流石にこれ以上はグリットさんがもたないからだ。
カトリーヌさんは出力だけの武器に負けるような腕はしていない。グリットさんの今の腕では、引き出した力に振り回されて手痛いカウンターを貰って終わりだからだ。
「傷一つ、負わせられないとはッ!」
「年季の差だよ。気にすんな」
「しっかし強いですねカトリーヌさん」
「頼りになる」
『絶対に敵に回したくはないの』
「じゃあ、あとは流れで。破裂の槍はもう十分見てるし、テュルソスの杖は姉さんの使う所見てるからね」
「そいつは良かった。流石にカトリーヌさんとやり合うのは我慢だよ。……反射的に槍の力を暴発させかねない」
「僕も、慣れない魔法で彼女とはやり合いたくはないね」
てな訳で本題です。
「まず、先生はダークメタルを独占するつもりは全くなかったそうです」
「いや、あれだけ先回りしておいてなに言ってんのさ」
「たまたま買っただけ」
「あそこまでのたまたまは無いと思うのですが」
「……門番の彼と仲が良い」
「んで、彼が最近生徒の遺産云々の話が多いからダークメタルが必要なんじゃないかって先生達に気を回してくれたんだよ。なんで、買ってたのはベレス先生、ハンネマン先生、マヌエラ先生の連名でなのさ」
「あー、そういう事かい。けどそれじゃあアタシ割食ってないか?」
「すまない、考えが及ばなかった」
「ま、生徒を優先するのは先生って事で納得するさ。ただ、アタシの雷霆のメンテナンスの時に集めたダークメタルを使わせてくれよ。金はアタシも払うからさ」
「構わない」
「おっし、交渉成立だ! じゃあ、約束を果たして貰うぜ先生」
「構わない。行ってくれジョニー」
その言葉に、固まる俺。なにも聞いていないのですけれど。というかカトリーヌさん超やる気なんですけれど!
「この訓練所の占有でちょっと無茶したからね。これくらいの役得はあっても良いだろ?」
「……謀ったな、先生ッ!」
「頑張れ」
『命のかからぬ戦いじゃ。せいぜい学んでくるが良いて。貴様はただでさえ突っ込む奴なのじゃからな』
ソテっさんのその思いに嘘はない。半笑いである事を除けばムカつく所もない! そして、多分これ逃げ場所ないのでやるしかない!
「……畜生! やってやる! 来いよカトリーヌさん、雷霆なんか置いてかかって来い!」
「いや、流石に雷霆は使わねぇよ」
「安心しましたガチに。それじゃあ、行きます!」
まずは踏み込み。
なので、攻撃は魔法から入る。ここまでは魔拳士を名乗りたい身として作った定石だ。だが、そこから先の攻め手が見えない。軽さを利用してアウトレンジでの引き撃ち程度、カトリーヌさんなら普通に対応してくるだろう。
なので、やるのはやはり接近戦。手持ちの道具はなし。小細工に使えるモノも周りにはない。せいぜいが柱くらいだろうが、追い詰めるか追い詰められるかしなければあれに基本的に意味はない。そして今回は追い詰められる手順が本当に浮かばない。
つまり、カトリーヌさんをどうにかするには小細工ではなく一撃が必要なのだろう。
そして、それにはちょっと心当たりがある。
テュルソスの杖の魔法発動プロセスにあったあの工程。射出までに作られるある種の魔法の
「どうした、来ないのかい?」
「いえ、これから行きます。一撃必殺、受けてくださいな!」
両足に感覚で作った魔法の砲身を作り上げ、残りの気合を頭に込める。さぁ。まともじゃない正面突破と洒落込もうか!
「戦技、アクセルモード」
「へぇ、新技かい。生兵法で怪我するんじゃないよ!」
砲身により集中したウインドのベクトル。それにより発生する強靭な力の全てを推進力に変える。そして、その力のコントロールと同時に
思い立った発想は当然のライダーイメージだが、もともとなんとなくやっていたことを意識して行うこと。そしてそれを十全に扱えるスピードを得ること。その二つを両立することは今までしなかったし、する必要もなかった。けれど今、この力を試したとしても平気で吹っ飛ばしてくれそうな巨大な壁が目の前にある。
ならば、やってみるのが少年というモノだろう。
右で踏み込み一つ。当然反応して剣を振られたが、左での跳躍により空中に退避。さらに空中で風を解き放ち飛び蹴りに移行するも、それに反応してさらに鋭い剣が返ってくる。
だから、さらに解き放つ。
カトリーヌさんの膝が、俺の頭を揺らした。
「あ、やべ」という声が何となく響いて、鋭くなった感覚により増幅した痛みもあって、俺の意識は落ちた。
「よ、起きたかい」
「カトリーヌさん? ここは?」
「医務室さ。ああ、あいにく他の連中はもう帰ったよ。圧倒されてたぜ? お前の無茶に」
「ああ、やっぱカトリーヌさん
「なにせ
「あー、それでもスピードで誤魔化せると思ったんですけどねー」
「いや実際危なかったさ。ただ、直線的過ぎたんで見切るのは簡単だったのは赤点だな。アレは拳のレンジに入るまでの一回だけに抑えた方が良いよ。無駄にバンバン飛んでも目が慣れるだけさ」
「アドバイスありがたいっす。ありがとうございます」
「なに、構わないよ。意外と楽しめたからね。ただ、次は1発勝負じゃなくてもっと長くやろうや」
「……はい」
「うし、じゃあ今日はココで寝てろ。んで明日も休んで明後日出立だ。今回はジェラルトさんが行くからアタシは部外者だが、あれだけ動けるなら大体は大丈夫だろ。頑張りな」
「ありがとうございます。カトリーヌ先輩」
「お前まだ騎士団入ってないだろが」
そんな言葉とともに頭を叩かれてカトリーヌさんは去っていった。窓を見るとかなり月は高くある。かなり寝込んでいたようだ。
激しさと優しさ、二つが争うことなく両立している強い剣士。それが雷霆のカトリーヌなのだなと体をもって理解した日のことであった。
アクセルフォーム(脳内だけ)解禁です。
笛を吹いて現れて、それでも戦いをやめない奴を神速で倒して去っていく。ジョニーくんの初期案はそんな感じの流れ者でした。
今ではもうイベントメイカーとしての面が強くてそんなのはないですが、これからの激戦を武器なしで戦い抜くために必要な力だなーと思ったのでネタ話ついでに初期案の使っていた技を練習させてみました。