なんだかんだの準備も終わり、本格的にルミール村への救援に赴こうとした時のことだった。
「しっかし手慣れてんなお前さん。コーデリアのことは話に聞いてたが、そんなに慣れなきゃいけない感じだったのか?」
「まぁ、消去法ですよ。義父さん義母さんは事情があってあんま動けなくて、姉さんも体は弱い。ついでに家臣は皆死んでる。そんな時に疫病いっぱい来たもんですから頭に立てるの俺しかいなかったんですよ」
「ま、そっからの立て直しは本当に見事なもんだと思うがな。……どこからか来た難民の出どころは置いておくと」
「次期盟主様、そのへんはご容赦くださいな。連中表面上は更生してるんで」
「潜在的な敵かよ」
「俺か団長居なくなったら修羅の国でしょうねー」
「まったく、大変だな貴族ってのは」
「その分良い暮らししてますからね」
そうして荷を積み終え、準備が終わったところで先生が駆けつけてきた。
「緊急事態。今すぐ向かう」
「「了解、先生」」
そうして先生は集めた皆、ジェラルトさん率いる騎士団と共に出立の号令を挙げる。
今回はきちんとした救助物資があるが、あいにくと本当に緊急らしいのでそれは騎士団の後詰めの方々に運んでいただく事になった。採血による検査も終わり、俺の笛が効くとの仮説が立ったからだ。
誰が作ったなんて名前の笛かは知らないが、有効に使わせてもらおう。
「出陣」
そうして、手持ちの道具ばかりの本当に最小限の支援物資と共に、俺たちは馬達を走らせた。
そうして急いでやってきたルミール村は、かつてあった平和な村の面影を残していなかった。燃え上がる炎、焼け落ちる家屋、狂い暴れる民。
その中でわずかなまともな人間が隠れ、狂ったフリをしているナニカがそれを追い立てている。
「ジョニー!」
「分かってます! 全力で、全開でぇ!」
込める心は安らぎの祈り。ただ生きることを願ってのその音は、人の心に一つのブレーキを作る事に成功したようだ。
「クロード、イグナーツ、レオニー、リシテア。狙い撃って」
「手前ら! 騒動の中心を潰すぞ! 坊主の音のおかげで先導してるやつ以外はまともに動いてねぇ! 最速で行く!」
ドラゴンに乗ったクロさん。狙撃地点を確保したイグナーツ、馬で走り回るレオニーさん。そして、テュルソスの杖を構えた姉さんがそれぞれ騎士団の手の届かない者達に対して攻撃を放ち、その隙に騎士団の後方部隊の方々が市民を救出する。
ルミール村の状況は最悪だったが、こちら側の初動はその中で最良のものだった。
「東側、弓倒し終わりました!」
「了解、ヒルダ、
「「「了解!」」」
そうして、スピード勝負ならなかなか強い俺は課題協力に来てくれたグリットさんと共に東に行こうとして
天から落ちてきた闇の魔法を回避するために全力で西側へと飛んだ。
「ジョニー君⁉︎」
「ヒルダの姉さん! グリットさんと一緒に人命救助優先で! この魔法使いの狙いは!」
そして、もう一度放たれる闇の魔法。感知エリアが伸びていなければあっさりと死んでいただろう。
これでもう、疑いはない。
「狙いは俺だ! この騒動を収められる俺を殺そうとしてる!」
「なら、ジョニー君を」
「待ってグリットちゃん。私たちは前で人助けする。ジョニー君は今、救助部隊の私たちと近くにいたら危ないの。どっちの意味でも」
「だから、さっさと終わらせて魔法使った奴をやっつける! 分かった?」
「……はい。未熟を晒して申し訳ありませんでした。友を信じずして何が騎士かと!」
「よし! いっくよー!」
相変わらず頼りになる姉さんだ。というかもう姐さんだ。
「クロさん! 離れて援護お願い! ローレンツはカバー頼む!」
「リシテア、位置を西側に移動。それから、イグナーツ、ラファエル、マリアンヌ、フレンは前進。魔導師に圧力をかける。マリアンヌはサイレスの射程を間違えないで。レオニーはヒルダ達の援護に」
そうして、空からの闇の雨を躱しながら、誘い込まれたその舞台へと俺は足を踏み入れる。
そこには、もう友人と言っていいんじゃないかなと思うほどにカチあっている死神騎士が居た。最悪な事に部隊を連れて。
「おいおい戦闘狂、数でリンチは卑怯じゃない?」
「俺も好かん。故に生き延びろ」
「無茶振りだなぁ本当に!」
そうして、騎馬の突撃によりやってくる死神部隊。どいつもこいつも大鎌を使うとか相当な訓練をしやがったのな!
だが、俺は一人じゃない。俺を狙う闇の雨の間から、騎馬鎧の隙間を正確に射抜くイグナーツの狙撃、騎馬の槍の届かない高度から手数を潰す遊撃のクロさん。後衛への突撃を華麗な技で流して足止めするローレンツ。
そして、テュルソスの杖を使う事で魔導砲台と化したリシテア姉さんのダークスパイクΤによる一撃必殺。どれもがこの戦いを一対一にはしない。
その中で俺しか見ていない死神騎士と、紋章で援護を理解できる俺とでは最前線の質が違った。
まぁそれは、死神騎士との力の差を埋めるに足るものではなかったのだけれども。
「フッ!」
「強いな畜生! 知ってたけど!」
騎馬による高速移動対俺の
いまの多少ごちゃごちゃしている状況でなければ、死神騎士は俺を十全のスピードで殺しに来れる。部隊が足枷になっているのだ。個人として強すぎるが故に。
まぁ、この高速タイマンに割って入れるような奴とか死神騎士レベルの化け物か以心伝心の仲の相手くらいなので、リッツァ先生時代もちょいコミュに難のあった死神騎士ではなかなか難しいという事なのだろう。
だが、死神部隊には未だに死人が出ていない。怪我をした馬にはすぐにライブをかけ、クロさんの遊撃は弾き落とし、そして姉さんの魔砲には身体に矢や槍を受けてでも無理やりに回避する。とても生き汚く、強い騎士達だ。
「やっぱ、先生としての腕は確かなんだな」
「奴らが勝手に強くなっているだけだ」
「そうとは思えないけど、な!」
鎌を躱しての空中2段回転蹴り。それを鎧でしっかりと受け流してダメージを避けていく。そして俺の攻撃が終わったらすかさずに鎌が俺の首を狙いにくる。それを空中機動で回避してまた睨み合い。降ってくる闇の雨を回避しながら立ち位置を変えるが、死神騎士の手綱捌きはそんな甘い隙を作らない。
敗色濃厚の詰将棋の駒になった気分だ。まぁ盤面をひっくり返す策はあるのだけれども。
それは、奴がこっちを完全に見切った瞬間にしか活きない諸刃の作戦。そんなのしか思いつかない自分の頭の悪さに霹靂として、すこし長く呼吸をとる。
「……やはり邪魔だな」
「この雨止めたいんですけど、傘持ってません? 魔法が打ち手に反射する感じのものがいいんですけど。
「そんなものがあるならとっくに落としているさ。誤ってな」
「ありゃ、やっぱ乗り気じゃないのね」
「ここは横槍が多すぎる。貴様の命は、この鎌で刈り取らなければ俺の強さの証にはならぬというのにな」
「証が必要か? あんたには」
「要らぬよ。だが、趣味とはそういうものだろう?」
「否定できないな畜生」
そう、すこし話をしていると先生の向かった先で急激な魔力と紋章の力……いや、負の紋章の力の収束が始まった。これは流石に受けられないだろう。
敵の魔導師は完全に穴熊を決め込んでいたので無視していたが、先生、天帝の剣の到着とジェラルトさんの奮闘。そして姐さんとグリットさんの奇襲がうまくいきそうなのだろう。
それは何故か、死の予感を感じさせた。
「すまんが予定変更だ。いまからお前をぶちのめす。とっておきを見せてやるよ」
「やはり手を隠していたか。だが、今それを切った所で奴らを救えるか?」
「それしかないならやるしかない。それだけだよ」
覚悟を決める。この作戦のキーマンは
だが、それ以外にこいつを倒し得る策はないのだ。
「戦技、アクセルモード」
「戦技、旋風槍」
自然と口に出るその言葉。お互いにこれで決めるという覚悟だ。
瞬間、スローになる視界。砲身を作った
「「エンチャント!」」
「ウィンド!」
「デスΓ!」
「らぁ!」
「ハッ!」
そうして重なった拳は魔法の爆発を生み出した。
そして、そこに刺す雷が一筋。
「トロン!」
マリアンヌの、援護である。
彼女は、常にどちらの戦場にもサポートできるような位置にいた。それは、治療のみではなく攻撃にとってもだ。
今まで死神騎士への致命打を撃ち続けていた姉さんではダメだった。これまで戦場に見えていた皆でも警戒は抜けなかった。
いままで治療役として表に出ない立ち回りをしていたからこそ、彼女は死神を倒すための雷の一矢を放てたのだ。
だが、足りない。
「「まだだぁ!」」
トロンを受けた程度では崩れなかった死神騎士の根性。薙ぎ払いによるダメージに対しての根性。
どちらが上かの、根比べだった。
そうしていると、本当に不思議なことに戦いの中にある邪悪な感情の波から解き放たれたような気になってくる。この瞬間は、この拳は、混じり気のない闘志によってのみ作られている。
ある意味これも、相互理解なのだろうなと思った所で先生たちのいた所の闇が弾け飛びかけ
時が、止まった。
『小僧! こやつの力は邪な紋章の力じゃ! 小僧の響きがなければ止められぬ! 逃げ場はない! こやつ、この村ごと全て吹き飛ばすつもりじゃ!』
『今から時を戻す! そなたはそなたのやり方でお主を、ベレスを救って欲しい! 口惜しいが、策はない! じゃが!』
『そなたならやれると信じておる!』
そうして時は巻き戻り、先程のアクセルモードを発動する3手前程度の話し合いの終わり頃に戻ってきた。
「……すまん、ちょっと野暮用ができた」
「一応、行かせるわけには行かぬぞ」
「知ってる。だから」
「ちょっと吹き飛ばされちまうだけだ」
「……クッ愉快な事を言う。そんな事をしてなんの得がある?」
「だって、あいつお前とお前の部下ごとまとめて吹き飛ばすつもりだぜ? 試算だが、この村は草一つ残らなくなる」
「流石にそれは、ムカつくだろ」
「ああ、良い。全力で吹き飛ばしてやる。だが、死んでくれても構わぬぞ」
「そいつはどうも。だけどあいにく、負けられない理由は
「吠えたな! しからば!」
「やってやるさ! 格好をつけた分だけな! アクセルモード!」
真っ直ぐに、
そうして放たれたその鎌の腹に着地して展開したバレルへと全力で魔力を込める。
そうして、死神と俺の力で飛ぶ世界は、永遠のような一瞬だった。
そして、今なら使える。体全てに残っている魔力と紋章の力をを右足に込めての
「戦技! ライトニングソニック!」
そうして一つの矢になった俺は、魔導師の展開していた闇を抉り抜き、その内側の紋章の力を蹴り飛ばし、中の老人を闇の中から蹴り飛ばす。
「坊主⁉︎」
「……信じてた。戦技、破天」
そしてその飛んだ老人を確実に倒すべく、天帝の剣の力が放たれる。
それが、このルミール村での狂騒の決着だった。
「……どうしてこの村を襲った?」
息も絶え絶えだがまだ生きている敵の魔導師に、ジェラルトさんが声をかける。
「新たな知識を得たのだ。試したくはなるだろう? ジョニー=フォン=コーデリア。我らの新風よ」
「……初めて聞きましたよそんな話。
その言葉に驚く皆。こんなの見ればわかるだろうに、不思議な事だ。
「だが、その名は偽り。我が名はソロン。探求者ソロンだ」
「んで、誰でもいいから実験台が欲しかったあんたは、こんな馬鹿な真似をしたと」
「当然であろう。お主のお陰で我らは新たな知見を得る事ができたのだ。その失われた
その狂気的な知識欲は、俺を含めた皆を圧倒していた。そして、どこかから感じる“お前のせいだ”という視線。そんなのは、
なんて事を考えていたら、ソロンのそばの地面が消し飛んだ。
高密度の闇魔法による現象だ。
「人の弟をかってに元凶にしないでくれませんか? この馬鹿はあんたと違って人を想える馬鹿なんだから」
「……美しき、姉弟愛だな」
「当然。私はジョニーの、世界最高の弟の姉ですから」
そうしてテュルソスの杖を構える姉さん。しかし、一瞬の地鳴りと共にその構えは解かれた。
ソロンにかけられていた拘束とともに。
「では、此度はさらばだ凶星と新風よ。十分な成果と共に、帰らせて貰おう」
そして、ソロンは転移系魔法により消え去った。完全に逃げられた、そういうことのようだった。
「あー、クソが。手がかり消えやがった」
「よく頑張った」
「大丈夫ですよ。ソロンを見つけて捕らえればいいんです。明確な目標ができただけ進展ですよ」
「あー、なんだ。よくわからんが気張れ」
この場にいた皆の心配そうな目が、“格好をつけろ”と言っているようだった。なら、落ち込むのはここまでだ!
「さぁ先生! 指示をお願いします! 見落としはないでしょうけど、それでも探さないともしもいる助けられる人を助けられません! 頑張りましょう!」
そうしてのサムズアップ。だが、先生はこう言った。
「ジョニー、休み」
無情な女ベレス先生である。
そうして粗方の後処理が終わり、先生と、先生のそばで休んでる(監視されている)俺と、報告に戻ってきたジェラルトさんの3人でいるときにその二人はやってきた。
死神騎士と、炎帝だ。
「やっほー死神騎士リッツァ先生。さっきは助かりました」
「……言い方を統一しろ」
「旧交を温めるのはそれくらいにしておけ、時間はあまりない」
天帝の剣を構える先生、銀の槍を構えるジェラルトさん。
そして、完全にやる気のない俺と死神騎士。そしてそれをジト目(多分)で見る炎帝。この妙な残念さ、誰かに似てる気がする。そういう目で見てみると、炎帝って女性なのでは? と頭に浮かぶ。無理に体を隠してラインを見せないようにしてると想えるのだ。
そして、見た目取り繕っている残念さから、もしかしてと頭に浮かぶ。いや、よそう。仮にも女性をそんなみょうちくりんな理由でコスプレ大好きっ娘にしてはいけない。きっと親戚か何か……っていねぇよ! あの人の地雷ワードだよその辺!
「それで、お前さんは村を無茶苦茶にしたのを悔いて出頭しに来たってか?」
「……勘違いするな! あのような男が! ……ソロンは確かに我が協力者だが、同じ目的で動いているわけではない。このような行い、事前に知っていれば我が必ず止めた。それは断言できる」
「……それを何に誓えますか? 炎帝さん」
「我が、望む平和の夢に誓って」
「ジェラルトさん、先生、とりあえずこの人は信用できます。この人の今の言葉に邪なものは全くありませんでした。連中の組織、“闇に蠢くものたち”は一枚岩じゃないのは分かってましたからね。そういう事もあるでしょう」
「んなもん信用できるのか?」
「俺は死神騎士の協力でソロンを蹴り飛ばしました。理由はそれで十分かと」
「なら信じよう」
「お前⁉︎」
「感謝する」
「それでは提案だ。ジェラルト殿、ベレス、ジョニー、我と協力して欲しい。“闇に蠢く者達”の邪悪を一掃するために、我は力を欲している」
「その言葉に、嘘はないのはわかる」
「けれどそれは、人の屍の上にしか立たない道だ」
「私は、お前が何も関係のない人を傷つける事を決して許せない。それがお前の夢のためだとしても」
それは、フレンちゃんやモニカ。それにこれまで死神たちに殺されてきた人々のこと。ベレス先生は、それを決して忘れていないのだ。
「私は、生徒たちや二人の友人に恥じない先生でありたいと思ってる。だから、お前とは組めない」
その目は、どこまでもまっすぐに、強いものに思えた。やっぱり格好いいな、先生は。
「やはり、か……」
「あ、俺は後ほど話をしてくれれば考えない事もないですよ」
「ジョニー、捕まりたい?」
「まだ勘弁です。脱獄のやり方は流石に調べてないんで」
「お前ら、緊張感をどこにやった……」
「貴様、敵前だぞ」
「死神ッツァ先生に言われたくないですー」
「混ぜるな」
そんな時、ヒルダの姐さんがこちらにやってくるのが見えた。そうすると二人の足元に魔法陣が浮かんだ。以前と同じ、転移での逃走だろう。
「ではな、貴様の天帝の剣が我が望みとぶつかり合わない事を祈る事にする。帰るぞ死神」
「はっ」
「ああ、最後に一つだけ」
「教会を、信用するな」
そんな言葉を残して、炎帝と死神は転移系の魔法。レスキューで去っていった。
多分今から総出で探せば見つかるのだろうけど、それをする気は誰にもなかった。
「あれー? さっきまで誰かいませんでした?」
「死神騎士とその上司が小粋な営業トークをしてた所って言ったら信じる?」
「流石に無理がない? それ」
「だよなー」
そんなこんなが終わって、大修道院へと帰る。
そうして、紋章の反応を頼りに彼女の元へと向かった。
なんか夜空を見て黄昏ている、残念系皇女サマのところへと。
ジョニーくんは人のことをよく見えてしまうから、気付いてしまったのです。ヒュー君に暗殺されるかどうかチャレンジは次回から!お楽しみに!
あ、多分本編で説明しないので補足しておきますと、ジョニー君のリュウソウの紋章の血がフレンちゃんの特別な血の中にある成分を増殖させた結果が原作とは違う紋章を使った疫病もどきとなってます。ルミール村がマイルド版で、ダスカーの所がハード版。そんなの見かけたらたのしくなっちゃうよね!