ファイアーエムブレム風花雪月 双紋の魔拳   作:気力♪

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ヒュー君暗殺回避チキンレーススタートです。


第22話 敵の敵の炎の目覚め

「良い夜ですね、エガさん」

「……ええ、星空が綺麗で、本当に嫌になる」

「気持ちはわかります。俺の知ってる言葉に、とある2人の囚人を表した言葉があるんですよ」

 

「2人の囚人が鉄格子から外を見た。1人は泥を見て、1人は星を見た」

 

「エガさんの気持ちは、俺と同じみたいですね」

「……あなたは、星を見る人だと思うのだけど」

「いえ、届かない星を綺麗に思うことはもうとっくの昔に辞めてるんですよ。連中がコーデリア領に、俺たちにやったあの実験を超えてから」

「……」

 

 顔は見ない。けれど心は伝わってくる。

 

 ずっと不思議に思っていた。エガさんの心は俺と姉さんに対してはある一定の波を生み出し続けていた。その内容は今までわからなかったけれど、今ならわかる。

 

 これは、罪悪感だ。

 

 それを感じる事ができる人なのだから、今まで見てきたエーデルガルトという人は全部嘘というわけではないのだろう。

 

 ならば、この話を持ちかけるに足る人物であると言えるだろう。

 

「話を、聞きに来ました」

「……やはり、気付いていたのね」

「はい。エガさんは……炎帝です」

「これは、花丸をあげるべきなのかしら」

「何が貰えるんです?」

「士官の席なんてどうかしら」

「残念ながら同盟貴族の端くれなんで貰えないですね。残念」

「帝国に来てくれても良いのよ?」

「嫌ですよ。それしたらコーデリアは同盟からぶっ殺されますよ」

「そう、残念」

 

 どこか愉快気に、エガさんは笑った。

 

「それであなたは、本当に私の味方になってくれるのかしら?」

「違います。俺がなるのは敵の敵ですよ。俺には俺の、エガさんにはエガさんの戦う理由があります。けど多分、根っこの根っこは譲り合えないんですよ、俺たちは」

「……あなたの理由は、明白ね」

「はい。俺の目的は姉さんと俺とエガさんの延命です」

「そう、当然……ん? 何か一人増えていないかしら」

「学校に来てから増えました。難易度爆上がりです」

「私、あなたに何かしたの?」

「してませんよ。だから助けたいと思ったんです」

 

「あなたは、俺たちに同情はしても哀れとは思わなかった。俺たちの生き方を尊重していた。その上で、普通に接してくれた。それ、かなり嬉しかったんですよ」

「……」

「だから、俺たちのついでに紋章の副作用を消したいと思ったんですよ。……それに、実験の被害者には死んで欲しくはないんです、もう」

 

 そうして、隣にいるエガさんを見た。

 

 彼女は泣きそうなのを隠して、飲み込んで、不敵な笑みを浮かべた。

 

「なら、あなたをしばらく使ってあげる」

「さしあたっての同盟は、あのソロンをぶちのめすまでですね。多分教団なりに捕まったら口封じに殺されると思うんで」

「……どこから?」

「教団は連中の情報を共有はしません。そんだけ長く殺し合ってる相手ですから。それが“皆には迷惑をかけない! ”か“ただの人間は信用しきれない! ”かはわかりませんけどね」

 

「そして、連中ならばもっと簡単です。体を弄られてるんですからそういった仕込みなんざ幾らでもできる」

 

「つまり、あなたの目的は」

 

「ええ、連中内部での権力争いでエガさんが頭になって欲しい。そうなりゃ、俺は安全に取引ができる」

「それはまた、厄介な話ね」

「けど、エガさんに得がないわけじゃないんですよ?」

「それは?」

「俺の持つ、異世界の技術は連中の技術に酷似しています。奪った技術を使えるようにできる駒は、俺くらいだと思いますよ」

「……大きく出たわね」

「ええ、なんせ一世一代の大博打ですんで」

 

 

「けど、信じられないわ。あなたの話は甘すぎるもの」

「ま、そうですよね。殴り合わない交渉事は向いてないんですよ」

「だから、私は私の秘密を守る為に……あなたを殺すわ」

「ご自由にどうぞ。見ての通り無手できましたんで」

「何をふざけているの、魔拳使い!」

「いつも通りがコレなもんで!」

 

 そうして、エガさんの短剣と俺の拳による静かな戦いが始まる。

 

 その戦いは一瞬で終わった。

 エガさんが突き出した短剣は俺の脇腹を貫き、俺はエガさんを()()()()()

 

 どうせ口では説得できないと分かっていたのだから、真っ直ぐに伝えるだけだ。

 

 心を、全力で。

 

「あなた⁉︎何を⁉︎」

「さぁ、なんでしょうね?」

 

 紋章の力を全開にして、エガさんと俺の心を繋ぐ。

 

 ずっとずっと気を張って頑張っていた彼女に、心からの笑顔になって欲しい。それだって俺の理由の一つなのだから。

 


 

 闇が、そこにあった。

 

 次々に狂って、あるいは死んでいくきょうだいたち。苦しいと言っても、助けてと叫んでも、奴らは苦しみしか与えに来なかった。

 

 ここには、助けに来てくれる英雄はいなかった。支え合える仲間も居なかった。

 

 一人で、暗闇と痛みで怯えるだけの日々だった。

 

 そうして実験で全てを捨てて、生き返った私を占めていたのは復讐の思いだけだった。“闇に蠢くもの達”、紋章を重視する貴族社会、そして、その紋章を讃えるセイロス教。全てを憎んでいるフリをしなければ、私は立てなかった。

 

 それが、空回りしていると心のどこかでは理解していた。それでも止まれなかった。

 

 全てを焼き尽くす炎のように、自分は死ぬのだと思っていた。

 

 それが変わったのは、今年の初め。師と、おかしな少年との出会い。

 

 師は、私を私とわからなくても導こうとしてくれるほど、“せんせい”だった。

 

 少年は、ずっと誰かを助けようとするヒーロー(強き者)の仮面を被っている、意地っ張りの少年だった。だからこそ私はいつのまにか心を許していた。

 

 彼らとの繋がりが私の心を開いた。

 彼らとの繋がりが、新たな繋がりを生んだ。

 

 闇の中でしかなかった私の心に、光が入ってきていた。

 

 けれど、私の目的のために全てを捨てなければならない。そんなことはわかっている。

 

 だから、その光を力としてしか見ないことにした。けれど、一つの光はより輝いて私の元へとやってきた。

 

 この光を受け入れてしまったら、私はもう闇を生きていけない。だから、私はその光を捨てようと「させねぇよ、エガさんのアホ垂れ」

 

「……ジョニー」

「遅くなりました。ここでなら嘘はつけません。話をしましょう。エガさん!」

 

 そうして伝わってくるどこまでも暖かい想い。暖かく、優しいからこその怒り。暖かく、想うからこその響き。

 

 このどこまでも馬鹿みたいにお人好しの夢見る少年が、ジョニー=ファン=コーデリアなのだ。

 

「ねぇジョニー、あなた、何がしたいの?」

「エガさんの心の、味方になりたい。きっとそれは、同じ痛みを背負った俺と姉さんにしかできないことだから。どんなに離れても、殺し合ったとしても、エガさんがエガさんとして在れるようにしたい」

「なら、私もよ。あなた達が幸せで在れるように祈りたい。貴方達の歩いて行く未来に」

 

「「だから、今だけは同じ敵をみましょうか」」

 

 心を通じてわかった事がある。それは、エガさんが決定的に俺とは違うということ。世界を変える為に、戦争を起こすことを厭わない過激さがあること。

 

 そしてその火は、いままでの仮初のものではなく彼女自身の炎として燃え上がり始めたという事。それはとても美しく、気高く、暖かかった。

 

「ジョニー、私が世界を手にした時、もし心変わりをしていたなら貴方を私の弟にしてあげる」

「なぜそこで姉になろうと⁉︎」

「さて、何故かしらね?」

「あ、接続が切れかかってるからもう心がわかんない! 意味深な台詞はやめて下さいお願いします!」

 

 そうして、意識が戻ってきた。

 


 

 意識が戻ると、感覚も戻ってくる。

 あ、脇腹嫌なとこ切れてる超痛い。

 

「だけど大丈夫、俺にはライブがあるから!」

 

 そう言って傷を治す為に力を集中させる。それにより傷は治っていく。しかしそれをみてエガさんは呆れたような目をし始めた。

 

「それ、格闘の達人がつかう戦技の瞑想よ」

「なん……だと⁉︎」

「どうやったらライブと瞑想をごっちゃにできるのよあなたは」

 

「本当に、馬鹿な人ね」

「そりゃどうも。馬鹿は俺には褒め言葉です」

「ならいつも言ったほうが良いかしら?」

「やめて下さいな、それはダメージデカいんで」

 

 そんな話をしたエガさんは、いままでと比べ物にならない程の綺麗な笑顔を浮かべていた。

 

 これが未来の敵になるなら、すごくやり辛そうだ。

 

「じゃあ、とりあえずこの辺で。詳しいことはヒューさんと詰めますよ」

「ええ、お願い。じゃあ寮に戻りましょうか」

「はい。エスコートしますよお姉様」

「あら、良いの?」

「姉さんは文句言うでしょうけど、たまには良いんじゃないです? 同じような実験を受けたきょうだいな訳ですし」

「そうね、ならこれまでより親しみを込めてジョニーと呼ばせて貰うとするわ」

「……俺の事わかってるでしょうに」

「ええ、けど英雄色を好むとも言うじゃない?」

「怖いですね、本当」

 

 そんな会話をしながら女子寮へと戻る。

 

 途中からベタつく視線を感じたが、エガさんはいつもの事のようで気にしておらず。自分も今のエガさんを見たらそりゃ嫉妬の一つでもするわなぁと納得する。

 

 だから、エガさんのそのセリフが飛んできた時には正直逃げたい気持ちでいっぱいだった。

 

「ねぇジョニー、今夜は部屋に来てくれない?」

「行かねぇよ! 男だよ俺は! 鉄の理性でも耐えられない事はあるわ!」

「ふふっ、残念ね」

「つーわけで早く帰ってあったかくして眠ると良いですよ。……悪夢がきたら、俺が飛んでいきますから」

「……あなた、私をこれ以上どうしたいの?」

「どうしたくもねぇですっての!」

 

 そう言ってエガさんは貴族用の二階の部屋へと歩いて行く。

 

 それを見送った俺は、視線の正体である彼へと顔を合わせた。

 

「ヒューさん、風呂でも行く?」

「……ご一緒しましょう」

 

 そんなことになった。

 


 

 流石に湯に浸かるのは傷が開きかねないので今日は体を洗うだけだが、ヒューさんも前に一緒になった時は長風呂するタイプでもなかったし平気だろう。うん。

 

「それで、あなたはエーデルガルト様をどう籠絡したのですか?」

「りゅうそうの紋章とやらで、心の全部を伝えた。そしたらああなった。俺も不思議だよ」

「……あなたのような暖かい者の心をぶつけられたのですか。それは酔っても仕方がありませんね」

「だよなー。勘違いだよなー絶対。ヒューさんも注意してくれると」

「それ以上言うなら殺しますよジョニー」

「怖いわ! なんで俺間男ポジションの詰め寄られ方されてんの⁉︎エガさん婚約者とかいたっけ⁉︎」

「いませんが、エーデルガルト様は大切なお体です。何かあったのなら」

「しねぇっての! ヒューさん俺をどこまで下衆に見てるの⁉︎流石に姉的な人を抱いたりはしねぇですよ」

「……」

「ジト目やめて下さいな。ヒューさんの目力でやられるとガチに呪われる気分になるんですよ」

「気持ち的には、呪っています」

「本当にやめーや」

 

 などとふざけつつ体を洗い終えた。そうしていると俺の脇腹の傷を見かねたヒューさんがライブをかけてくれたため傷は塞がり、ゆっくりと風呂に入る事ができるようになった。ありがとうヒューさん! 

 

 カポーン。という鹿威しの音は聞こえない。ローマな感じの風呂だもの。

 

「お互い、勲章の多い身体ですこと」

「改めて見ると、痛々しいですね」

「なんせたくさん刻まれましたから」

 

 そして、ゆっくりと湯に浸かる。夜も遅いこの時間は、結構なゆったり風呂の穴場なのだが今日は一段とだ。俺とヒューさん以外誰もいない。

 

 何かしたのだろうか? と思って否定できないあたりがヒューさんのヒューさんたる所以だと思うわけである。良い意味でも悪い意味でも。

 

「それで、あなたはどうしてエーデルガルト様を信じたのですか? あなたがこの学園に来たのはエーデルガルト様に近づいて紋章の情報を抜き取る為だと思っていましたが」

「直感と逆算」

「ほぅ」

 

 興味深そうに話を聞くヒューさんに自分の考えを話す。

 

「まず、大前提として俺は一連の実験をテスト、本番、再現性確認の順番だと考えた。コーデリア、帝国、ダスカーの順な。だから、エガさんが紋章実験の親玉だとは考えられない。あっても利用されてるくらいだろうなって思った。この辺での取捨選択は直感な。エガさん、優しい人だから」

「なるほど、素晴らしい頭の回転です」

「頭の回転はそんなでもないよ俺は。知ってる前提が違うだけだ」

「前提?」

「エガさんには話だけど、異世界の知識のこと。魔法のない世界で、だからこそこの世界よりも発展した世界の事を俺は知ってる。……一般人よりちょっと詳しい程度だけど」

「あなたの前世の記憶という与太話ですか」

「……なんで知ってるん? ソレ」

「さて何故でしょう」

「怖いわーヒューさんマジで怖いわー」

 

「でも、そういう人だからエガ姉を信頼して託せる。一人じゃないって気付けたから、いままでよりももうちょいアタックの成功率は上がるかも知れないぜ?」

「私には下がったようにしか思えませんでしたが」

「酔いが覚めた後のことだよ」

「それは、いつになることやら」

「冷や水でも被せてやれば良いんじゃないか? ……って冗談だから冗談、その闇魔法を止めろエガコンめ」

「エガコン……なにやらよくわかりませんが良い響きの言葉ですね。推察するに、エーデルガルト様を崇拝している者でしょうか」

「若干違うけどまぁ良いや。どうせ意味は伝わらないし」

 

 ふと、横を見る。そこには意地の悪い笑みを浮かべたヒューさんがいた。遊んでたのな、俺で。

 

「はぁ、どうすんべ? これから。俺を殺すか?」

「あなたはエーデルガルト様の恩人だ。そして私の恩人でもある。少し妬ましいですがね」

 

「私は、エーデルガルト様を救うのは私でありたいと思っていた。だからあなたが妬ましい。それだけです」

「そっか」

 

 大好きな誰かのヒーローになりたい。その気持ちは痛いほどよくわかる。きっとどこか似た者同士なのだろう、俺とヒューさんは。だから、似たようなやり方で好きな人を救おうとしている。

 

 違いは、俺に紋章と前世の知識があるかどうかくらいだ。

 

 本当に、天の神様は不公平なものだ。本当に望む者に、それを与えないのだから。ソテっさんのぐだぐだ聖母っぷりを見習えっての。

 

「じゃあ、“帝国への技術協力要請”を受けるとするよ。多分本来の目的とは違う使い方だけど、構わないか?」

「ええ、あなたがソロンの敵であるうちは、私たちは敵の敵です」

 

「あ、あくまで怪しまれないようにだからちゃんとお金払ってね!」

「帝国に士官するなら幾らでも出しますのに」

「それするとコーデリアが潰れるから駄目な。あそこが保ってるの俺の虚名と団長の実力が8割だから」

「弱小領の次期党首は大変ですね」

「笑えよ未来の帝国宰相。俺の現実なんてこんなもんだよ」

 

 そうして、クスクスと失笑しながら俺たちは風呂を出た。

 

 なんというか、濃い夜だった。今更にしてそう思う。

 

 しかし、そんな夜はまだ終わらないようだ。エガさんの紋章が負の感情の高ぶりを教えてくれた。

 

 言ってしまった以上、どうにかしなくてはならないだろう。一応約束なのだから。

 

 そう思って、悪魔に苦しんでいるお姉様に届くように笛を吹く。

 

 安らかに眠れるような、夜の一曲を。




というわけで、エガちゃんはお姉様、もしくはエガ姉にランクアップ。そして原作のどこか強いられている覇道ではなく、本当の己の意思による覇道にクラスチェンジしました。迷いがなくなりましたので戦争編での帝国の強さが跳ね上がります。

そんなエガちゃんを見てヒュー君はにっこり。敵の敵であるうちはまだ殺さないで良いかなーとか思うくらいにはご機嫌です。
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