ファイアーエムブレム風花雪月 双紋の魔拳   作:気力♪

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批判は覚悟の上です。どうぞ。


第29話 涙のわけ

「団長、団長を見なかったか⁉︎」

「緊急事態ですか⁉︎」

「そうだ! ジョニー殿は金鹿だったな! 皆に戦闘準備を伝えてくれ!」

 

 アロイスさんとの突然の遭遇、それと少し前に感じた悪意の波。

 

 どうやら、今節の敵は動き出したようだ。

 

 今節、星辰の節での金鹿の課題は旧礼拝堂付近に侵入した痕跡の調査だった。そこにジェラルトさんも万が一の為に同行することになっていた為に、今までは間接的な調査だけに止まっていた。

 

 だが、何かあった時の為にすぐに動けるようにはしていた。

 

「了解です! 金鹿連中に戦闘準備させてきます! 騎士団の方は?」

「問題はない!」

 

 そうしてすぐに皆を集め、先生と共にやってきたジェラルトさんと共に旧礼拝堂へと向かう。

 

 

 間違いなく戦いになることを確信しながら。

 

 


 

 

「嫌だぁ! 助けてくれぇ!」

「了解! だからちょっと頭下げて!」

 

 魔獣に襲われていた生徒を助ける為に、弾丸のように飛び、コアを抜いて障壁を砕く。

 

 そしてその背後から飛んでくるイグナーツとレオニーの矢。それは違わずに魔獣の急所に突き刺さりその命を奪った。

 

 そして、後には人が残った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 わかっていたが、笛を使っての沈静は不可能だった。おそらく、俺達が手をこまねいている間にそういう調教を施したのだろう。

 

 えげつない。そうとしか思えない。

 

 この事をやってのけた怒りはもう俺の中にある。だから、もう躊躇いはしない。今の自分の最速でこの魔獣達を片付ける。

 

 今の自分では、助けられないと理解してしまっているから、殺すしかないと分かっているから。

 

 優先順位を間違えない。襲われている皆を助ける。その為に、殺す。

 

「レオニー! この人頼むぞ!」

「誰に物を言ってるのさ! 後あんたは無茶して死なないようにね!」

「分かってる! ありがとう!」

「素直です、ね!」

 

 近づいてくるもう一匹の魔獣に矢を放ちレオニーのペガサスによる救出を援護するイグナーツ。流石にここで二人で攻める理由はないので、魔獣を機動力でいなしながら弓兵隊の方々が一斉射撃を構えている地点まで引き込む。

 

 こういう時、共感の応用で挑発ができるのは便利だ。考える力が衰えているから、よく引っかかってくれる。

 

「今です!」

 

 イグナーツの声と共に放たれる矢の雨の圏内から離れて、戦技の構えを取る。なんだか最近こればっかりな気がする必殺技! 

 

「ライトニングソニック!」

 

 その蹴りは、一斉射撃により砕かれた障壁の場所に確実に当たり、減衰されることのないサンダーの力と共に魔獣を貫き、その命を奪った。

 

 

 

 その時の、『やっぱり、たすけてはくれないじゃないか』という声が、頭の中に響く。

 

 

 

 けれど、それは後だ。今、俺の前には要救助者がいて、今の俺には助けられる体がある。

 

 だから、後で悩むけど今は悩まない。格好をつけろ俺! 

 

 

 そうして二匹の魔獣を抜けた俺とイグナーツは西にある弓砲台までたどり着いた。

 

 今、西側には要救助者が集められている。本格的な救助の前の応急処置と、下手に逃すと逆に危ないという俺とジェラルトさんの判断からだ。

 

 だから、ここからの援護があると良い。

 

「頼むぜ、金鹿のスナイパー」

「ダメ元で受けたら資格取れちゃっただけなんだけどなぁ……」

 

 なんて事を言う実技試験の命中率100%の男。歴代でもそれをやったのはシャミアさんくらいだとかの偉業である。

 

 

 

 残りの魔獣は4体。遺産を持つ先生と姉さん、そして元からクソ強いジェラルトさんがそれぞれ一匹抑えているが、一匹はフリーで動いている。姉さんの援護にはラファエルとローレンツ。先生の援護にはクロさんとヒルダの姐さんが。フレンちゃんとマリアンヌはそれぞれに遠隔回復魔法を当てられるように位置取りをしている。

 

 ジェラルトさんが一人で一匹受け持っているのが何故か不安だが、あの人ならなんとかなるだろう。純粋に強いのだし。

 

 というか、魔獣相手に唯一押してるのがジェラルトさんだし。すげーや。

 

「おいジョニー! ボサッとしてんな!」

「大丈夫! 仕込みはしてるから!」

「仕込み?」

 

 そんな声に応えたのか、単に目についたのか、最後の魔獣が俺と戻ってきたレオニーの元にやってくる。

 

 その、俺が仕込んだ場所に足を踏み入れて。

 

「引っかかってくれてありがとう。フォーメントβ応用、スワンプμ!」

 

 そうして、作られた泥の沼に足を取られてすっ転ぶ魔獣。それは大した時間ではなかったが、騎士団の二度目一斉射撃を喰らうだけの隙を魔獣に与えた。

 これで、障壁はまた少し壊れた。

 

 そして、そこに放たれる俺のコイルガン、レオニーの鋼の弓矢。そしてイグナーツの弓砲台による砲撃。

 

 それは違わずにコアに命中し、完全に破壊した。

 

「このまま撃ちまくれ!」

「奴が沼に落ちている隙に!」

「ちゃちゃっと終わらせるよ!」

 

 その声に応える騎士団の皆さん。

 

 そして、俺たちが撃ちまくっている頃、丁度他の皆も終わりそうになっていた。

 

「戦技、破天」

「テュルソス、収束! エンジェル!」

「終わりだ!」

 

 そうして、全ての魔獣は討ち倒された。

 

 迷い込んだという生徒は全員無事。完璧な勝利だった。

 

「ありがとうございます!」

 

 そうして、巧妙に隠れていた彼女、闇に蠢くもの達の一人であるモニカの存在を、俺は見逃していた事に気が付いた。

 

 その刃は、背後からジェラルトさんの体を貫いた。

 

 明らかに心臓を一突き、即死の剣の軌道だった。

 

 瞬間、世界の時が止まる。

 それは、ソテっさんの天刻の拍動。時を戻す力だ。

 

『聞こえておるな、小僧! 時間稼げ! 少しで構わぬ! それでこやつは必ず間に合わせる!』

 

 声にもならないその空間で、任されたという思いを放っていく。

 

 そして、時が戻る。それはソテっさんの全力だった。この長さで戻した時には再使用には時間がかかる。

 

 だから、本来あり得ない命を救うチャンスはこの一回きり。

 

「いつも通りだ、覚悟を決めろ、格好をつけろジョニー!」

 

 そうして、魔獣へのトドメの一撃を放つ前に矢の雨の中を飛翔する、一度軌道を見たので、気をつけていればそうそう当たることはない。

 

「イグナーツ! いろいろ任せる!」

「いろいろって何⁉︎」

 

 そうして、至近距離から火炎瓶を打ち出してファイアーで火をつける。そしてその爆発に乗って更に加速。

 

 ジェラルトさんが魔獣にトドメを刺した瞬間に、俺の射程距離に彼女は、モニカは届いた。

 

「あー、手が滑った!」

 

 そうして、収束させたウィンドの矢を意図的にモニカに向かって放つ。

 

 しかしモニカは、隠し持っていた剣でその風の矢を破壊した。

 

 

 稼いだぞ、時間! 

 

「何するんですかぁ? あなた」

「言わなかったか? 手が滑ったんだよ。黒幕」

「言いがかりも良いところですね。……殺すわよ」

「おいおい坊主、なんでこの嬢ちゃんが黒幕だって?」

「トマシュさんと同じです。変装してる奴ですよコイツ」

「……アハッ! バレちゃってたかぁ!」

 

 瞬間、神速で振るわれる剣が俺を襲う。それをギリギリで発動できたアクセルモードで認識して回避するも、二の太刀に体はついてこなかった。速すぎる。これが連中の力! 

 

「ま、今ので分かった。お前、敵だな」

 

 しかし、その剣はジェラルトさんの銀の槍により弾かれた。

 

 特別な強化はされていない普通の槍で、あの魔剣を弾き飛ばしたのだ。

 

「……本当に、ムカつくよおっさん。あんたがいなければあたしの計画は全部通ったのに!」

「おいおい、やったのはジョニーだろ? コイツはいいのか?」

「馬鹿ね、新風を害する必要なんてないのよ私たちには。存在するだけで世界を良い方に導くのが新風なんだから」

 

 そんな、誹謗中傷も甚だしい言葉を受けて、どこか心の中でしっくりくるものがあった。

 

 現代人がこのフォドラに来た時、その知識を活かして世界を動かすだろう。当然それには、教会と敵対する未来がある。

 

 アビスの書庫で、そういう進みすぎた技術の伝承の意図的な喪失があるとアルファルドさんに聞かされた俺には、それがよくわかる。

 

 教会は、文明の進みをコントロールしようとしてる。時に強硬手段すら使って。

 だから、俺はコーデリアで実験を受けなかったらきっと教会の敵になっていただろう。それが、“闇に蠢くもの達”の新風。

 

 

 

「まぁ、クソどうでも良いな」

「確かに」

『こやつはこやつじゃからの』

 

 その声と共に、伸びて来る蛇腹剣。それは確実にモニカの身体を貫こうとして。

 

 

 圧倒的な一人により、その剣は受け止められた。

 

「タ、タレス様⁉︎」

「新風を見に来てみれば、な」

 

 その威圧感は、レア様のものを解放したとしても尚上回るだろうと理解できる程に凄まじかった。

 まるで、龍と相対しているかの様な気分だ。

 

「貴様の役目を忘れるな、今は引け」

「……わかりました、タレス様」

「ソロン」

「かしこまりました」

 

 そうして、共にいたトマシュさんことソロンがモニカを連れて転移する。

 

 そして、タレスは力を解き放ち。

 

 俺の近くに居ることで相殺できた皆以外を一撃で吹き飛ばした。

 

 ソロンのやろうとしていたあの術式を、ノータイムでやってのけたのだ。

 

「貴様!」

 

 怒りを露わにするジェラルトさん。今の一撃で、致命傷を負った者は多くいた。もしかしたら姉さんもそうかもしれない。そう思うと心が震えそうになり。

 

 

「今からお前をぶちのめす。お前がなんであるかなんて知ったことか。お前の強さなんて知ったことかよ」

「フッ、これが新風か。誠に面白い。震えているぞ? 貴様」

「そりゃ、怖いしな。けど……」

 

「ここでやらなきゃ、格好がつかねぇんだよ」

「言ったな!」

 

 その言葉とともに放たれる闇魔法。恐らく文献にのみ存在を示唆されている最強のそれ、ハデスΩ。

 

 それを小手先で放つ強さに震え、しかし拳を強くにぎしめてその闇に紋章の力を叩きつけた。

 

 龍の力を打ち払う。りゅうそうの紋章の力を。

 

 しかし、その相殺だけで俺の右腕はズタズタになり、これ以上の使用は不可能だろう。

 

「流石に、やる」

「冗談も大概にしろ! ……起きろ、グロスタール!」

 

 そうして残った左腕で最強の魔法を放つ。左腕全体をバレルにして放つアローのような魔法。

 

「アグネアの矢か。なかなかやる」

 

 その一撃は、当然のように受け止められて弾かれた。

 

 カケラのダメージも存在しない。

 

 それが、今の俺とタレスの距離だった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺はぶちのめすと言ったが。

 

 俺がぶちのめすだなんて言ってはいないのだから! 

 

「ラァ!」

 

 俺とタレスの攻防の間に、ジェラルトさんはもう距離を詰めていた。

 

 中距離には、いつでも破天を放てるように構えながら最も強い者の戦いを邪魔しないように構えている先生がいた。

 

 そして、両腕は逝ったがまだ両足が残っている俺がいる。

 

 まだ、戦える。

 

 この時は、そう思っていた。

 


 

 そして、ジェラルトさんは放たれる闇魔法を避け、放たれる力を槍で逸らし、次々にタレスにダメージを与えていた。

 

 その強さは、異次元。これまで見てきたジェラルトさんが手を抜いていたわけではないのだろうが、今のジェラルトさんは格が違った。

 

 どんなに敵が強くても、どんなに絶望的な状況でも、勝ち続けていた男がそこにいた。

 

 アレが、壊刃(かいじん)ジェラルト。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その強さを、俺たちはまじまじと見せつけられていた。

 

 

 しかし、それでもタレスは違う。格がではなく、次元が。

 

 どれほどのダメージを受けても、どれほどの致命傷になり得る一撃を喰らっても、その命の輝きは消えなかった。

 

 そして、その強さのプレッシャーに全くの陰りはなかった。

 

「ここまで私に抗うとは。新風の近くに居るだけならば良き追い風になっただろうに残念だ」

 

 そうしてソロンは、ずっと腰にあった剣を抜いた。

 

 ただそれだけで、全てが終わった。

 

 ジェラルトさんは一撃で死にかけ、先生の放った破天は吹き飛ばされ、俺は何もできずに死にかけた。

 

「「まだだ!」」

 

 そして、ソテっさんの気力を振り絞って使われた天刻の拍動の力が世界を覆い、タレスが剣を抜く瞬間まで時が戻った。

 

 そこから、俺と先生は自らすらも捨てる覚悟で前に出る。

 

 言葉はいらない。アレを抜かれたら俺たちは死ぬしかない。

 

 だから、隙を作るのだ。それしか勝機はないのだから。

 

 そして俺は、ズタボロの両腕を構えてアローらしき魔法、アグネアの矢に二つの紋章の力を込めて放つ。その一撃は当たればたとえタレスといえど命はないだろうが、当然にそれを回避する。

 

 そしてその先には、先生の放った全力の破天が置かれている。

 

 賭けだった。回避せずに防がれていたら意味はなかったし、回避した先がそうでなかったら何の意味もなかった。

 

 しかし、その一撃は確かにタレスを捉えた。

 

 ダメージと引き換えに天帝の剣を掴み奪われるという結末だったが。

 

「使い手がこれでは女神も浮かばれんな」

「さて、どうだろうな!」

 

 そして、ジェラルトさんが戦いに赴く。その槍に込められた戦技は、絶殺の技。

 

 伝え聞いた話では、その一撃を放てば必ず武器が壊れるといわれるほどの一撃。

 

 戦技、壊刃。それがタレスへと直撃した。

 

「……ッ⁉︎」

 

 そうして、初めて動揺するタレス。その事にあの不死身の理屈が理解できた。

 

 奴は、障壁を自らに纏っているのだ。魔獣と同様に。

 

 だからこそ、それを超えるダメージならば致命傷を負う。それだけの事だった。

 

「ヒトがここまで練り上げるとは、凄まじいな。だが、私の勝ちだ」

 

 そうしてタレスは腰の剣を抜こうとして、その手を、()()()()()()()()()()()()()()()によって弾かれた。

 

 そして、ジェラルトさんは天帝の剣を奪い、その体に一撃を入れた。

 

「まだ、だ!」

 

 だが、タレスはまだ生きていた。剣を抜こうとしていた手からの抜き打ちのドーラΔを放ち、ジェラルトさんの半身を吹き飛ばしていた。

 

 それは、贔屓目に見て相打ちだった。

 

 それもそうだ。ジェラルトさんはどんなに強くても人間でしかない。だから、一撃を貰えば死ぬのだ。

 

 それが、龍と人の差だった。

 

「先生!」

『……これが、最後じゃ』

 

 そして、ソテっさんの最後の力で時を数瞬巻き戻して。

 

 武器も魔法もない自分たちにはもう何もできず、なにも変えられない事に気がついて、ただその一撃を黙って見ているしかなかった。

 


 

「ここでこのまま戦うのは危険か。ならば良いだろう。凶星よ、新風よ。貴様らは、生き延びた。誇るが良い」

 

 その言葉とともに、タレスは転移魔法で消えていく。

 

 残ったのは、激しすぎる戦いの跡と、最後に何か言葉を残そうとしているジェラルトさんだけだった。

 

 その姿に、初めての涙を流す先生。

 そこに、苦笑をするジェラルトさん。

 

 ならきっと、俺がここにいる意味はそうなのだろう。

 

 言葉は伝わらないかもしれない。それでも、その心だけは繋げよう。きっと、それができるはずだから。

 

 

 そうして、先生とジェラルトさんの心を、残った力でたった一瞬だけ繋いで、俺は倒れた。

 

「ありがとう、ジョニー」

 

 そんな涙ながらの言葉を、耳にしながら。

 


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