それでは、どうぞ。
騎士団がモニカやソロン、タレスといった闇に蠢く者たちの探索をしている間、指示はなかったが生徒たちは自主的に捜索に協力していた。あるいは、好き勝手に捜索の手を広げていた。
今の自分は、案の定後者である。
「ありがとう、報酬は現金って言いたいけど、これで勘弁してくれ」
「構いませんよジョニーの旦那、こっちに来るついでに昔の知り合いに話を聞いてるだけですから」
そういって、コーデリア領からの買い付けをしている商人(元盗賊)にアクセサリーを渡す。自前の知識と魔法による力技にて作り出した銀のブローチだ。相変わらず政治的な理由で二つの頭を持つ鷲がモチーフだが、”コーデリア領のガラス職人”のブランドがあればそれなりの値にはなるだろう。
ガラス細工は運ぶときに割とよく壊れるので、報酬に払うのには向かないのだ。
「で、ごろつき連中に動きはあったか?」
「……一応、あるにはありました。罠ですけど」
「罠って、話聞くだけで分かるもんなのか?」
「そりゃ、今まで音沙汰のない連中が突然封じられた森あたりに陣を敷いたなんて話が湧いてくるのはどう考えても罠でしょうよ」
「ま、どっちにしても行かなきゃ何も始まらない。ありがとな」
「気を付けてくだせぇよ? 旦那。俺たちはお貴族様じゃなくてあんただから腰を据えたんだ」
「肝に銘じておく。まぁ、それで無理とか無茶とかしないでいられたら苦労はしないんだけどさ」
「旦那ですからねぇ」
そんな会話を最後に町はずれの酒場から出ていく。
早朝から酒場にいるウチの交易商は大丈夫かと考えながら。
■□■
そうして急ぎでガルグマクに帰ってくると、先生とクロさんが真剣な面持ちで会話をしていた。聞き耳を立てる限りだと、クロさんも連中の情報を掴んだようだ。
「先生、クロさん」
「……ジョニー」
「あちゃー、お前が来たか」
「なんですかクロさん」
「クロードが奴らの居場所を掴んだ」
「だけど、このままじゃ俺たちは、というか先生は関われない。それについて説得をしてるとこだ」
「罠だから、ですか?」
「その可能性が高い。少し前なら無策で突っ込んでいたと思う」
『お主も多少は成長したという事じゃな』
「なら、簡単な策を練っていきますか? 禁じられた森への道と森の簡単な地図なら持ってきましたけど」
「マジかお前!?」
「さすがジョニー」
「顔が広いので」
そうして、3人で地図を見て進撃準備に何が必要かを考える。
罠ならば、どう来るのか。
想定できるものに、どんなものがあるのか。
3人で頭を回し、”最小限の装備での速戦で時間を稼ぎ、騎士団による包囲殲滅をする”というものが結論として出た。
現在、セイロス騎士団は方々に散って連中を探している。早馬を飛ばしても、封じられた森にたどり着くころには連中は逃げているだろう。だからこそ、少数精鋭での遊撃を繰り返すという作戦だ。
俺の理由、先生の復讐、クロさんの探求心の皮を被ったナニカ。
歩む道は、今しっかりと重なった。
「ジョニー、クロード、皆を集めて。進撃準備」
「はい!」
「了解」
そうして、紋章感知を使って最速で皆を集める。
集まった金鹿の皆は、ジェラルトさんを、先生を、そして俺と姉さんを思って迷いなく来てくれた。
「人には、本当に恵まれたな」
「それは、ジョニーがジョニーだからですよ」
「……ありがと、姉さん」
そんな会話をしながらガルグマクの門の前に集合する。
しかしそこでは、レア様と先生が対峙していた。
「ベレス、行ってはなりません。敵の狙いは間違いなくあなたなのです!」
「それでも、行く」
「レア様、聞いてくださいよ。実際問題先生の天帝の剣以外に、連中と戦える力はありません。それに、戦闘準備も策もちゃんと練ってある。もう騎士団には話しましたけど、俺たちの狙いは足止めです」
「敵戦力もわかっていないのに?」
「俺の軍略、ジョニーの情報、先生の指揮と力、揃えばやれないことはないですよ」
「……ジョニー、ベレス、あなた方は復讐の思いを甘く見てはいませんか? 仇を前にしたとき、人はたやすく冷静さを失ってしまいます」
「「大丈夫です」」
そんな意図して重ねた言葉ではないのに、不思議と重なったその言葉にどちらともなく笑みを浮かべ、今度は意図的に合わせて言う。大事な、自分たちの理由を。
「「一人じゃないから」」
その言葉に、レア様は自分たちの顔を見て、手を握ってきた。
そこにある複雑な思いのすべては、紋章を使っても理解することはできない。だが、レア様が本当に想ってくれているのは伝わった。
「ちゃんと帰ってきますので、心配しないでください」
「行ってきます」
「……ええ、行ってらっしゃい」
そんな言葉をかけてレア様は先生の進む道を開けた。
そしてそれを、ソテっさんが温かい目で見ているのが何故か感じられた。
「ソテっさん?」
『いやなに、良き為人であったなと思ってな。さぞ良い親に恵まれたのだろうよ』
「いや親関係あるのか? それ」
『さてな』
そんな言葉を、面白そうに笑ってソテっさんは話した。
■□■
封じられた森の中、現状最も近い騎士団はカトリーヌさんの率いる部隊だ。その接近は俺の紋章感知で把握できる。
だが、自分はその接近を先生たちに伝えるような役割にはない。
自分の強みは機動力。それが最も活かせるのは、ヒット&アウェイだ。それも一撃必殺の。
「始めますよ、ジョニー」
「じゃあ、いろいろアドリブでよろしく!」
「本当に適当ですね我が弟ながら!」
そうして姉さんの放ったテュルソスの杖の収束砲撃が封じられた森を闇で打ち貫く。そして姉さんを抱えて俺がすぐに離脱する。
狙撃というよりはもはや爆撃だが、魔法力の流れに干渉できる俺の紋章がサポートにつくことでそれを隠し、発射の寸前までそれを悟らせないでいる。この奇襲がいつまでも通じるとは思えないが、本隊が奇襲をするまでの時間は稼げるだろう。
そして、闇に蠢く者たちの戦術は妙に拙く、実際に時間を稼ぎ距離を詰められてしまった。
「姉さん、警戒を」
「わかってますよ。あの兵士の装備の質から考えて、この程度の奇襲が躱せないはずがない。先生を引きこむ罠でしょうね」
妙に装備の整った謎の兵たちは、数を減らしながら徐々に引いていった。そうして、引いていったその先で一斉に力が跳ね上がるのを感じた。
紋章の力、魔獣の力、憎しみの力、どういえば正解なのか未だわからないこの力であるが、残りの兵士全員の
それが高まり、一斉に爆ぜた。
そこに現れたのは数多の魔獣たち。
いつか見た、紋章石を使った魔獣化だろう。
「姉さん! 皆と合流お願い!」
「無茶はしても死なないでくださいね! ジョニー!」
その言葉にサムズアップで返しながら魔獣の群れの中にに突っ込む。
魔獣の最大の脅威は、障壁だ。多くの騎士たちはそれが理由で魔獣に何もできずに殺されている。
そしてそれは魔獣の障壁に対して有効な魔物切りの戦技やエンジェルの魔法を使えたとしても変わらない。
だが、俺は紋章で障壁を
それがガルグマクに来てから学んだ対魔獣の定石だ。
「戦技、ライトニングソニック!」
そしてその定石のままに、まず巨狼のコアを蹴り砕く、そしてその反動のままに空に飛び、ウィンドを爆発的に放出して次の蹴りを放つ。
その間、自身の体内の電流を加速させることによりどのように蹴れば空の魔獣のコアを砕けるかを計算し、魔法の出力としてセットする。また、それと並行してグロスタールの紋章の力を引き出した気流の魔法で空中に魔獣を拘束する。
普通はこのように決めた魔法の形をセットして使うらしい。その事を最近ハンネマン先生から教えてもらった時は驚いたものだ。というか驚かれた。
なお姉さんは即興魔法と普通の魔法を切り替えて使っていたらしい。完全に無意識に。我が姉ながら凄まじい才覚である。
そうしていると、アクセルモードが切れて通常の時間の流れに戻り、その間にセットした魔法で自身を連続で射出する。
この技のイメージはただ一つ。ロマン的に赤くできなかったのは残念であるが、それはおいおい改良していくとしよう。
「戦技! アクセルクリムゾンスマッシュ!」
その蹴りは空の魔獣全てのコアを蹴り砕いた。
そして、皆の一斉射撃の計略により、落ちた魔獣たちは一気に殲滅させられた。
だが、それではまだ終わらない。落下している俺に対して放たれる大岩たち。さすがに一気に魔力を吐き出しすぎたせいで回避しきることは不可能だろう。
自分だけでは。
「もー! 無茶しすぎだよジョニー君!」
「ありがとうございます! ヒルダの姐さん!」
「調子いいんだか、ら!」
そんな中で自分を下から拾い上げてついでに大岩の一つを打ち返して見せたのは金鹿の頼れる女子No.1(実際にアンケートを取った結果)の姐さんであった。
そうして、そのまま目を合わせて地上にいる魔獣たちに対して急降下、俺が先に降りて位置エネルギーを活かした拳でコアを破壊し、ヒルダの姐さんがその障壁のなくなった魔獣の首を一撃で砕き割る。
そのあたりで、周りにエンジェルの魔法が連射され、砕けた障壁の隙間に正確な射撃が撃ち込まれる。
そして、残った数匹は先生の天帝の剣の力、破天により一気に吹き飛ばされた。
これで、正面の魔獣勢力は全滅だ。
「キャハハハハ! こんなにすぐ殺されるとかこいつ等役に立たなさすぎじゃない? そう思わない? 新風くん?」
「思わねぇよ、ただの相性だ」
「そうだよ、わかってんじゃん。クソみたいな獣の血から生まれたとは思えない聡明さだね! 私好きよそういうの」
そんな戯言に対して放たれたのは天帝の剣による蛇のように伸びる横薙ぎと、真正面から放たれる最速の闇魔法バンシーΘであった。
「人の弟に変なこと言わないでください、殺しますよ?」
「……あームカつく。なんで新風くんの側にいるのがお前たちみたいなのかな? その血の尊さもわからないケモノどもがこの方の側にいるんじゃ、汚れちゃうのも無理ないよね?」
「おいおい、手下の魔獣が全滅したってのに随分余裕だな?」
「当たり前じゃん。だって」
その言葉と共にモニカは消え、一瞬でクロさんの胴に深い傷が刻み込まれていた。
銀の弓が折れていることから見ると、どうにか一瞬防ごうとすることはできたようだ。
それごと力で押し切られたが。
「ラファエル!」「マリアンヌ! フレン!」
俺と先生の指示が同時に飛ぶ。ラファエルは手斧をモニカに投げつつ、格闘戦に持ち込む
その間にマリアンヌたちが応急処置をしてくれたが、クロさんの復帰は難しそうだ。
「うぉおおおおおおおお!」
「んー、はい!」
そして、ラファエルの、金鹿一の力の拳はモニカの指一本で受け流され、膝蹴りを喰らって天に打ち上げられた。
「どう? わかったでしょ? 私、さっきまでの雑魚全部よりも強いの」
だがしかし、金鹿の、ラファエルを知る者は誰一人としてそこから怯えなどを起こすことはなかった。
それはそうだ。あの程度の、迷いや葛藤など何もない軽い拳で崩れるような男ではないのだ。ラファエルという男は。
「うらぁ!」
「ッ!?」
その殺気と声とフラフラの拳に対して反射的に飛びのくモニカ。その速度は尋常ではなかったが、
ならばこそ、モニカの使っている技は一つ。カトリーヌさんの雷獄纏や俺のアクセルモードと同系統のもの!
「皆! モニカは思考を加速させて動いてる! けど、あれは他の感覚も過敏になるんだ! 一撃当てれば終わる! 諦めるな!」
「……ネタがばれたところで、私に追いつけるとでも!」
その言葉の前に放たれていたイグナーツとレオニーの矢を弾き飛ばすようにモニカの体から闇があふれ、その肌は青白く、その髪はオレンジ色に染まった。そしてモニカの体を纏うのは、レオタードのような闇の衣。その姿からは、殺戮のためとしかいい表せない印象が伝わってきた。
「特撮の女怪人かっての、モニカさんよ」
「あ、名乗ってなかったわね。私はクロニエ、よろしくね!」
「そうかよ!」
その言葉と共に自身もアクセルモードを起動させる。
負担は大きいが、使わなければ全力のクロニエを捉えることはできないだろう。
そうして、クロニエと俺は超高速での読みあいをする。
ほんのわずかな初動をお互いに見切ることができ、モニカも何らかの方法でこの時間加速に対応したスピードを出す方法を持っている。
なら、勝負は技量の差を仲間たちの援護でどれほど埋められるかだろう。
そして、モニカが動き出す。それに合わせて俺も動こうとすると、するりと真逆の方向に急加速し俺を抜き去った。その矛先にいるのは回復役のマリアンヌとフレン。咄嗟にサンダーを放つも、わかっていたように回避されてマリアンヌの首が切り落とされる寸前で、時が止まった。
『使うぞ!』
そうして一瞬前に戻り、フェイントに対応して魔法を放ったが、クロニエはその魔法を剣ではじき返してイグナーツの頭へと放った。それを回避しようとしたイグナーツは、しかし対応しきれずにサンダーをもろに受けて気絶した。幸い死んではいないようだ。
抜き打ちの魔法では利用されるだけ、それでもこの速度での戦闘では魔法に頼るしかない。
そう考えていると、ローレンツが魔法の詠唱に入るのがゆっくりとした音で聞こえる。これは上級魔法ライナロックのものだ。魔力の流れからグロスタールの紋章を使って俺ごとクロニエを戦闘不能にするように放たれるものだろう。
「あは? 見捨てられちゃった?」
「信じられてんだよ!」
そうして全力でクロニエの移動を妨害し続けているが、剣で魔法を跳ね返す絶技はライナロックに対しても有効だった。しかし、その反射は完璧ではなく若干ズレ、そのおかげでローレンツは大ダメージを負う程度で済んでいる。
その瞬間、ほんの一瞬だけ時が止まり、ソテっさん経由で指示が下される。それは間違いなく俺の命を捨てる可能性のある作戦だったが、躊躇いはなかった。
そしてアクセルモードを解除して両手を地面に付き、魔力を流し込む。
その行為に何かを感じたクロニエは蹴りにて俺を吹き飛ばそうとするが、その蹴りは圧縮された闇の弾丸がクロニエをかすめることで放たれることなく終わった。
放ったのは、姉さん。そして、その
流石にまずいと感じたのかはわからないが、クロニエは空に逃げようと飛び上がろうとした。しかしクロニエは知覚を加速していたがために理解してしまった。
現在テュルソスの杖を持っているのはマリアンヌとフレンの二人であること、そしてその二人がテュルソスの杖の能力の一部を使って天からリザイアを落とそうとしていることに。
「ばっかじゃない? 当たるわけないじゃん!」
そう言ったクロニエは真後ろに飛び、そしてその瞬間に俺の魔法が発動した。
「生まれろ、沼よ! スワンプμ!」
そして、クロニエの足は生まれた沼にはまり、その速度は死んだ。
「……上等!」
そこに放たれるレオニーと先生による同時攻撃。レオニーの連射と先生の戦技”破天”。
その完全に決まるかに思えたその攻撃は、しかしクロニエの信じられない回避方法にて当たることはなかった。
クロニエは、左手で天帝の剣を掴んで、その勢いで離脱したのだ。
持ちろん左手はただでは済まない。余波によりズタボロになっている。
おそらく思考加速もしたのだから脳内も痛みでぐちゃぐちゃだろう。
だが、クロニエは確かに生き残り、なりふり構わず逃げ出した。
「さすが、新風。おのれ、凶星! 次は必ず!」
しかし、それは全速のクロニエに比べれば牛歩と言ってもいい速度であり、石畳に天帝の剣を突き刺してその戻る力で加速した先生と、バレルを作っての
「「次は、ない」」
その言葉と共にクロニエに近づこうとした瞬間、石畳のあるこの封じられた森の一角が何かの力により封鎖された。
「え? なんで?」
そして、クロニエの腹にはいつの間にか大穴が開いていた。
ナニカに貫かれたような、あるいは何かを抜き取られたような穴だ。
その下手人は、後ろに突如現れたソロンの幻影だろう。
「ねぇ、なんでよ、ソロン」
「お前は、凶星を狩るための餌でしかなかったのだよ」
そういって、幻影のソロンはクロニエの背中から消えていった。
そして、クロニエの体から吹き出てきた闇に、俺と先生は飲まれていく。
「先生! ジョニー!」
姉さんの声が、遠くに聞こえた。
その声に伸ばした手は空を切り、俺の意識は闇に堕ちていった。
とても懐かしい、あの闇に。