ファイアーエムブレム風花雪月 双紋の魔拳   作:気力♪

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第1話 運命の出会い

 それは、大樹の節の事。

 

 これからの課題出撃の演習として、3クラス合同での遠征訓練に出た時だった。

 

 突如として、演習場に大勢の盗賊団が現れたのだ。

 同行してくれているセイロス騎士団は精強だが、ここには守るべき生徒たちが大勢いる。

 

 包囲されてしまっているこの状況では、成すすべはないだろう。

 

 だから、動けるのは俺たち生徒の中だけだ。

 

「行くんですか、ジョニー」

「……ああ、悪いな姉さん。ちょっと暴れてくる」

「……ジョニーが行く必要があるのですか? ここには多くの人が居ます。誰かに任せてもいいじゃないですか」

「いや、単純にスピードの問題だ。この陣営で一番速いのは俺だ。包囲を抜けて暴れつつ、ついでに逃げるのなら俺が一番なんだよ」

「……なら、私は信じて待ってます。あなたが助け出してくれる事を」

「オーライ! 姉さんは皆を任せたよ!」

 

 そうして、包囲の薄い方面から抜けようと周囲を探っていくとぱったりと出会ってしまった。

 

 次期レスター諸侯同盟盟主、リーガン公の嫡子クロード。

 ファーガス神聖王国次期国王、ディミトリ。

 そして、アドラステア帝国次期皇帝、エーデルガルト。

 

 3人は、目を見開いた後に、同じ事を考えていたのか自然と武器を取る。

 

 何故なら、クロードの矢がもう放たれた後なのだから。

 

「何だ⁉︎」

 

 アイコンタクトで意思疎通を図る。俺が最前線で暴れて敵陣に楔を入れ、ディミトリとエーデルガルトがその力で崩し、クロードがそれを止めようとする指揮官を殺す。

 

「さぁさぁ遠からんものは音に聞け! 我が名はジョニー! ジョニー=フォン=コーデリア! この包囲を破り、お前達の企みを挫く者だ!」

 

 (フェイ)で接近して矢が射られた男を蹴り飛ばし、持っていた鉄の斧を頭と思わしき奴に投げつける。

 当然躱されるが、十二分に目を引いた。

 

「ガキが一丁前に何言ってやがる! 野郎ども、殺せぇ!」

「うぉおおおお!」

「かかって来い! エンチャント・サンダー! からの、バックブロー!」

「コイツ、魔法を使いながら殴りかかってきやがる⁉︎」

「見ろ! 一撃でドラクスの奴がぶっ倒れたぞ!」

「つーかテカテカ眩しいんだよ! 死ね!」

 

 多種多様に、統率の取れていない一団だ。これは、間違いなく敵軍の中でもさして実力の高い連中ではないだろう。

 

 つまりそれは、訓練を積んできた次期権力者達にとってみても容易い敵だと言うことで。

 

 背後から強襲してきた3人の連携攻撃により、敵の包囲網は完全に崩壊した。

 

「突っ込みすぎよ! 死にたいの!」

「生きる自信と約束がありますんで大丈夫! さぁ、逃げましょうか皇女殿下!」

「……エーデルガルトで構わないわ、ジョニー」

「じゃあエガさんで」

「気安過ぎない⁉︎」

「いいじゃないのエガ殿下、これから命を預け合うんだからさ」

「……クロード、俺たちがそれをやると外交問題になりかねん」

「いいから行くわよ。ここから南に抜けるルミール村に腕利きの傭兵団がいるらしいの、私たちなら空手形でも雇えるはず。走るわよ」

 

 そうして、3人の級長とおまけ1人はルミール村に向けて走り出すのだった。

 

「どうする? 俺だけなら早く行けるが」

「あなたの力、それは魔法と体術を合わせたものでしょう? いくら紋章持ちとはいえ、魔法力を使い切った所を盗賊に襲われたら事よ。4人いれば多少の包囲網でも食い破れる。ここは私たちの安全を取りましょう」

「そうだぜ? それにお前だけ先に行かせて死んだ、なんて事になったら後味が悪い」

「そうだな。いくら魔獣殺しとはいえ、進んで単身になる必要はないだろう」

「了解、年少者は年長者の言うことに従いますよー」

「なんだ、不貞腐れてんのか15歳」

「そうですよ、1人でも囮をやろうとしてた17歳児さん」

「……お前ら、どうしてそうも気楽にいられるんだ。同盟の気風なのか?」

「「いや、絶対違う」」

「そこ被さるのね」

 

 そうして、盗賊の馬持ちなどの追撃を時にやり過ごし、時に撃破することでなんとかルミール村へと辿り着く事が出来た。

 

 人を殺す感覚は、正直慣れない。だが、願いを信じて拳を握りしめたのだから、覚悟だけは決まっている。

 

 だから、殺した者たちの事を考えて泣いたり吐いたりするのは状況が落ち着いてからにしよう。感情とは別に、思考はそう言っている。

 

「見えたわ!」

「じゃあ、3人は傭兵団に交渉に行って下さい。俺は今のうちに周囲の民家に盗賊が来たことを知らせて回ります」

「それなら俺も」

「いえ、ディミトリ殿下も行って下さい。傭兵団がどんな気風の連中かわかりません。だから、どこの国にも恩を売れる状況で断らせないのは大切だと思います」

「……わかった。では、任せたぞジョニー。それと、俺もディミトリでいい」

「了解、ディミトリ」

「じゃあ、俺はクロードで良いぜ?」

「いや、クロードはなんとなくかっこよすぎてヤダ。クロさんとクロっちのどっちが良い?」

「どんな理由だよ、というか後者は完全にダメな奴じゃねぇか」

「じゃあクロさんで」

「……2人とも、急ぐわよ」

「じゃあディミトリ、クロさん、エガさんによろしく」

「あいよ」

「任せろ」

 

 そうして、俺は(フェイ)を使って一件一件盗賊の来訪を伝える。そうしていると、この街の人たちが傭兵団を本当に信頼している事がわかる。ジェラルト傭兵団、とても良い人たちなのだろう。

 

 これは、助けを求めるのは誰か1人で良かったかもしれない。

 

「盗賊だ! お前さんの言った通りに来やがった!」

「足止めします! 皆さんは住民の防衛と迎撃の準備を!」

「おい、ガキが無茶すんな!」

 

 静止する優しい声に、サムズアップで返して追ってきた盗賊の部隊を見る。

 

 現在はもう日が落ちている。月の光だけではそう遠くまでは見えない。それも、空の色に溶け込む士官学校の黒い制服なら。

 

 空に跳び、十分に高さを稼いだ所で、腕に仕込んでいた木筒の中に仕込んだコイルにサンダーを流し込む。

 

 そうすることで電磁力が発生し、くず鉄を加工しただけのライフル弾もどきが放たれる。もどきなのはまだ良い感じの形の型が出来ていなかったからだったりする。空気抵抗が良い感じのをまだ作れていないので、とりあえず真っ直ぐ飛ぶくらいのものなのだ。

 

 とあるレールガンを再現したいと色々試した結果できたコイルガンだが、威力と静音性はかなりの物だ。

 

 弓を引きしぼる音すらないのだから、この奇襲は防げまい。

 

 そうして木々を飛び回りながら手持ちの弾を使い切って盗賊団の足を止める。

 

 そうしてルミール村まであと2キロ程度の辺りで、弾が尽きた。

 まぁ、足止めには十分だろう。そうタカをくくっていると、ルミール村から3人の級長達と歴戦の傭兵を思わせるパラディン。そして、どこか不思議な感覚がある女性がいた。

 

 無感動なようで、何故か感情豊かな気がする。こんな感覚は初めてだ。二重人格か何かなのだろうか? 

 

 そうして、いつでも奇襲を狙えるように位置を調整しながら、鮮やかに3人に指揮を出すその女性を観察する。

 

 とりあえず、無表情でばっさばっさと盗賊を切り捨てていく様は少し恐ろしいものがあるが、それ以上に丁寧な指揮だった。

 

 戦場というものを、物凄くよくわかっている。これが、歴戦の傭兵ということなのだろう。

 

 そう、気を抜いたのが間違いだった。

 

「エガさん!」

 

 エガさんの使っていた鉄の斧の柄に盗賊の手斧が当たり、無理をしていた斧の柄が壊れたのだ。

 

 短剣を構えてどうにか防ごうとするも、その動きは完全に固まっている。命を預けた武器が壊れてしまったことに気が動転していたのだろう。

 

 そこに、駆けてくる盗賊の首領。自分は当然最速の(フェイ)でその動きを止めようとするが、エガさんの踏み込んだところが深く、届かなかった。

 

 届いたのは、身を呈して彼女を庇う女性の身体だった。

 

 そうして、当然のように訪れる鮮血の結末。

 

 それが、なぜか起こらなかった。

 

()()()()()()()()()

 

 どうなってる⁉︎と叫ぶ声すら響かない。快活な少女の声と、落ち着いた不思議な魅力のある女性のやりとりが響く。

 

 座して死を待とうとか言っているあたり、この珍妙極まりない状況に適応しているのがちょっと信じられない。面白いなこの人⁉︎

 

 そうして、断片的に聞こえた言葉から彼女達のやろうとしていた事が聞き取れた。

 

 時を、巻き戻すつもりのようだった。

 

 それが、どれだけの奇跡なのかはわからない。だが、何故だか助けたいと思ったのだ。

 

 今日初対面であろうエガさんを身を呈して守ったあの傭兵さんと、快活で愉快な少女の事を。

 

 覚悟が決まる。巻き戻った世界で俺がこの事を覚えていられるように、ひたすらに想いを反芻し続ける。

 

 助けるのだ。助けてみせよう。助けたいのだ。

 

 そうして、時間が巻き戻る。飛んでいた自分の体は元の潜んでいた木に戻り、エガさんの短剣は懐に仕舞われ、盗賊の手斧がエガさんの斧にぶつかった。

 

 その瞬間に、時間が動き出した。

 

 瞬間、自分の全魔力を使って(フェイ)を使い、エガさんに襲いかかろうとする盗賊に対して照準を定める。

 

 傭兵さんが、完全にわかっていたように無理矢理の突撃をかまして盗賊の斧を弾き飛ばし、続いての拳による攻撃を俺の風魔法が防ぐ。

 

 そうして、2人でエガさんの前に立つ。

 

「ジョニーです、あなたは?」

「……ベレス」

「ベレスさん、俺が前に出るのでベレスさんは後ろからお願いします」

『こやつ、時を戻す前と異なる行動をとりおった⁉︎気をつけよお主よ、こやつ何者かわからぬぞ!』

 

 それに、小さく頷かれる。どうにも信用はないものだ。だが、今は。

 

「じゃあ、行きましょうか!」

「うるせぇ! ガキが邪魔してんじゃねぇよ! 俺は、俺はぁ!」

「コスタスの兄貴! ここは逃げ時ですぜ! 包囲の連中がこっちに逃げてきてやがる! こいつらを追うのに人を回しすぎたんだ! セイロス騎士団が来やす!」

「アホか! ここで稼がねえと俺たちは!」

「あっしが殿を務めやす! だから兄貴は!」

「だが!」

「生きてねぇと! どうにもならねぇでやんすよぉ!」

 

 その叫びと共に、盗賊の頭コスタスの腹は決まったようだ。

 

「……ディアンス、すまねぇ!」

「あっしは、構わんでやんすよ!」

 

 走り去るコスタス。そして、殿として構えるディアンス。

 

 死ぬ覚悟を決めた男は、情けない顔の癖に目は一流の戦士のものをしていた。

 

「さぁ、来ませい!」

「ああ、手加減はしない。エンチャント、ウインド」

 

 風の力を全身に纏わせる。

 俺の後ろで、ベレスさんが上段に剣を構えるのを感じた。剣術の戦技、剛撃の構えだろう。

 

 つまり、俺の役目は隙を作ること。命を懸けて、1人でも多くの道連れを作り追撃の足を止める事を目的としているこの男から。

 

 呼吸を止める。今ある酸素を魔力と共に全身に張り巡らせて、ディアンスの懐に潜り込む。

 

「ぉおおおおおおお!」

 

 対するディアンスは、斧の戦技スマッシュの構え。より急所に当てやすくした斧の振り方だ。

 

 その影響で、より一撃が当たりやすくなっている。

 

 だから、避けない。

 

 こちらを狙ってくる斧に、風を纏った俺の蹴りを横から叩きつける。

 そして体勢の崩れた所にウインドで回転の力を作った飛び後ろ回し蹴りでディアンスの頭を揺らす。

 

 そして俺が地面に転がった所で、ベレスさんが躊躇いなく剛撃を振り下ろした。斧はなく、体勢は崩れている。

 そんな中でもディアンスは生きようと、生き延びさせようと最後まで足掻いていた。

 

 それが、ディアンスの放ったファイアーにも満たない魔法のなり損ない。それは、ベレスさんの目を焼こうとして

 

 残心を忘れなかったベレスさんが一歩下がる事で虚空に消えた。

 

「ああ、ランディア……」

 

 そんな言葉を最後に、ディアンスは事切れた。

 


 

 その後、すぐにセイロス騎士団がやってきて逃げた盗賊達の追撃に入った。そして、独断で動いた俺たちは騎士団の現団長であるアロイスさんにこっぴどく叱られた。

 

 その時に、なんとジェラルト傭兵団の団長がかつてセイロス騎士団の最強の団長であった“壊刃”ジェラルトであったことがわかったのだ。マジかこの世界。年齢的に逆算すると19かそこらで団長になったということになるんだが。しかもそれを辞めて傭兵をやってるとかどれだけファンキーな人生だよこの人。

 

『知っておったか? お主よ』

 

 首を横に振るベレス先生。

 

 周りを見回すが、声の主と思わしき少女の姿は見えない。

 先程時間が止まった時にも聞こえたが、どこから声が聞こえているのだろうか。

 

 ……もしかして、幽霊的な? 

 

「え、ちょっとタンマタンママジで待って、ユーレイ? ユーレイとかないわー、ないわー!」

「何突然狂ってんだよジョニー」

「いや、クロさん聞こえなかったの⁉︎ほら、エガさんが死にそうになった時のアレとかさ!」

「……私、あなた達に助けられたのだけど……」

「やっぱ心霊現象⁉︎やめてやめて、マジで怖いんだけど⁉︎」

『お主よ! あやつを黙らせろ! 人の事を幽霊だの何だのと失礼極まりない! ……何、似たようなものではないかと? 妾をどう見ておるのだお主は!』

 

 とりあえず、俺は早急にこの美少女幽霊ボイスの正体を掴まねばならない! 

 

 




ベレス先生はクール系なのに愉快な人をイメージして描いていきたいと思います。座して死を待とうとかこの人地味に面白いので。

さて、ジョニー君はオリジナル紋章の効果の副産物でソティスさんの声が聞こえます。紋章持ちに対しての接し方も実はそれが原因だったりとか。

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