ファイアーエムブレム風花雪月 双紋の魔拳   作:気力♪

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第37話 破邪の聖拳

 まず、コンディションを把握する。

 

 毒、あるいは汚染によるものは意識すれば無視できる。竜奏の紋章での精神感応は無理だろうが。

 

 眼前には帝国兵複数。エガ姉は堂々と布陣しているように見えて、闇に紛れるように工作員先行している。これは無視していい。

 

 今、この瞬間に目覚めようとしているあの紋章石の魔獣。あれば不完全だ。周囲の竜骸を纏って形を作るだろう。

 

 考えるべきは優先順位だ。

 

 位置関係的にレア様の暴走に俺は対処できない。よって先生に全て任せる。

 

 エガ姉は現状対処不可能。彼女の戦争を止めたいのは変わらないが、兵力が違いすぎる。

 

 その上、帝国兵に闇に蠢く者たちが紛れている可能性は否定できない。

 

 つまり、俺のとるべき行動は! 

 

「先手必殺!」

 

 最高速度で紋章石に近づき! 

 骸を纏う前に無力化する! 

 

「どこを見ている!」

 

 エガ姉がショートアクスを投げてくる。ちょうどいいので紋章石に当たるように『サンダー』で道を作る。

 

 斧が当たって跳ねる紋章石。黒い魔力が肉体をカタチ作り始めている。

 

 だが、まだ小さい。

 

「ちょっとだけそっちで引き取ってくれ!」

 

 なので、帝国兵の中の『なんとなく怪しそうな雰囲気がする』奴へとその紋章石を蹴り飛ばす。

 

 アレを相手にするのならば、手段は選べない。

 

「ガァァアアアア!!!!」

 

 黒竜が、不完全な形で生まれ魔獣となる。

 

 即座に距離を取り、魔獣狩りの陣形を取っている帝国兵は流石の精鋭なのだろう。ただの魔獣なら5分と保たない筈だ。

 

「好きに勝手に!」

 

 エガ姉が銀の斧を振り下ろす。躱したが、こちらの陣から距離は離された。

 

「エガ姉! アレはそっちの用意した魔獣か⁉︎」

「そうよ! 戦争のために用意した屑石!」

「なんてもんを屑石に込めてんだよアイツらは⁉︎」

 

 エガ姉の連撃を無理やり躱し続ける。ただし、突っ込み過ぎたせいで敵陣側にしか躱す場所はなく、包囲網の中に自分から突っ込んでいる形だった。

 

 だが、その陣形は崩れかけている。それは先程蹴っ飛ばした魔獣が原因だ。

 

 そりゃそうだ。なにせあの魔獣は解放王ネメシス由来の何かなのだから。

 

 連中の暗躍に担がれた結果だとしても、『解放王ネメシスが果てしなく強かった』という事実だけは変わらない。そしてそいつに全員殺されたのは間違いないのだ。もう来ない未来の事だが。

 

 まぁ、利用できる所までは利用しよう。こいつも、帝国兵も。

 

 エガ姉の横一線。それをウィンドで受け止めて、力を推進力として利用させてもらう。

 

 言い換えると吹っ飛ばされているだけだが、行き先は狙い通り魔獣の所。

 

「オラァ!」

 

 体勢を整えて魔獣に蹴りをかます。魔獣特有の障壁は存在しないが故にコアに狙いを定める理由はない。

 

 運動エネルギーを全て打撃力に変換したのだった。

 

「風よ!」

 

 そして、離脱のために魔法を使用する。再生力に巻き込まれて肉体を取り込まれないように離脱を最優先に。

 

 くるんと魔獣から離れて、着地。敵陣ど真ん中に。

 

 帝国兵の視線は『何かおかしい奴を見る目』だ。よくわかる。俺も正直何が何だかあんまり考えていないのだから! 

 

 兵士は、魔獣から目を逸らさない者、俺を注視する者と少しずつ個性が出ている。

 そうして俺を見る目が増えれば、『邪悪な感情』を向けてくる奴も分かった。

 

 わかったからと、俺がなにができる訳ではないのだが! 

 

 飛んできた矢を掴み、飛んできた魔法に投げて相殺し、まだまだ元気な魔獣へと近づく。

 

 魔獣には恨みなどが当然にある。さっき蹴っ飛ばした俺がまた近づいているのなら、こっちを潰したいと当然に思うだろう。

 

 その攻撃射線上にさっきの怪しい奴を入れる。

 もしコイツがこの紋章石を用意したのなら、制御のための方法を持っている筈だ。

 

「シッ!」

 

 気付かれずに近づいてきた剣士の一撃を喰らってしまう。左腕に深く切り傷が付けられた。塀の中にしれっと達人が混ざっているあたりが帝国兵だ。

 

 サンダーで牽制して魔獣の方を向く。

 

 闇を噴き散らしながら力を溜め、今にも大技をぶっ放してきそうな様子だった。

 

 その意志はまだまだ形になっていない。しかし、その邪悪さの片鱗はもう見えている。

 

 俺を狙いつつ、指揮官にも余波が当たるように火力を高めているようだ。

 

「殺せれば誰でも良いんだな、お前は」

 

 思わず愚痴をこぼしてしまう。その言葉に魔獣は、明確に『ニヤリ』と笑った。

 

 闇のブレスが放たれる。ウィンドを暴発させる勢いで放ち、自分を射線から吹き飛ばす。

 

 そのブレスは指揮官を守ろうと動いたアーマーナイト達の鎧を焼き、ついでに邪念を持っていた奴も灰にしてしまった。

 

「我が軍の魔獣兵器が……」

「狼狽えるな! 敵方の大司教も魔獣と化しておる! この聖墓の性質であろうよ!」

「それよりあのガキだ! 奴を自由にするな!」

 

 帝国兵の会話が聞こえてくる。向こうもレア様が竜になったようだ。

 

 今はまだ、黒竜(予定)に餌は与えていない。奴が育てばあっというまに全滅する。

 

「紋章石の回収を完了しました!」

 

 そんな帝国兵の声がする。皆の方を振り向けば先生が()()()()を指差した。

 

「逃ス、モノカァアアアア!!!!」

 

 白竜のなりかけのようなレア様が突っ込んでくる。

 

 黒竜は、流れを読んでそちらの方に進んでいく。

 

 狙いはどちらも紋章石。

 

 そういう事なのだな、と理解する。

 

 この聖墓がレア様と魔獣の凶悪化の原因ならば! 

 

「貰った!」

「無軌道に暴れ回って!」

 

 紋章石を掠め取り、逃走を開始する。目的地は、ここに来た時の昇降機! 

 

 ドラゴン2体と一緒の檻でも、逃げ切ってみせる! 

 

「上へ参ります!」

 

 

 昇降機は起動し、俺とレア様とネメシスもどきは地上へと向かうのだった。

 


 

 紋章石を抱えている為、激しい動きは難しい。

 かなり広い台座とはいえ、ドラゴン2体と一緒では狭すぎる。

 そして、レア様は理性を失い、ネメシスは根付いた邪悪さで暴れるのをやめていない。

 

 今もまた、レア様の爪とネメシスの尾が激突した。

 

 巻き起こる嵐で体がズタズタになりそうなのを、常に戦技『瞑想』で回復し続けることで耐え抜く。

 

 そして、昇降機が止まった。

 

「何だってんだよ! コイツは!」

「ジョニー、説明しろ」

 

 そこに切り込むのはカトリーヌさん。雷霆片手に魔獣を切り刻む。

 シャミアさんは的確にレア様の手足に矢を当てて、勢いを削いでいた。

 

「地下でレア様がこうなりました! 地下だとどうにもならないんで、とりあえず地上に!」

「魔獣の方は殺せたろう」

「アイツ再生するんですよ」

「本当だね、こいつは切りがいがある!」

 

 と、カトリーヌさんがネメシスもどきをバラバラのバラバラに切り刻んでいるがまだ死んでいない。

 

 あの人ちょっと強すぎる気がするのだが。

 

「で、レアさんはどうする? 笛で治らなかったのか?」

「……ちょっと調子が悪かったんで」

「なら寝かせるか。爪だの羽だのが生えていても人の形だ。頭を揺らせば良い」

 

 シャミアさんはそう言いながらレア様を封殺していく。訓練用の矢で傷を少なく、衝撃を通して怯ませるやり方で。

 

「行け」

「了解!」

 

 そうしてシャミアさんの作った隙を突き、レア様に拳を叩き込んだ。

 

 竜奏の力は使わなかった。というか使えなかった。

 紋章の不調は続いているらしい。地下が原因ではないようだ。

 

 とはいえ、意識を失う前のレア様の目には光が戻っていたように思える。多分大丈夫だろう。

 

 その時、ゾワリと背筋が震えた。

 

 紋章石が崩れているような状態の黒竜がレア様に狙いを定めていた。

 

 カトリーヌさんに刻まれた肉片の一つがこちらに飛んできて、その身を小さな竜へと変えたのだ。

 

 反射的に蹴り飛ばそうとする。俺の右足はそのまま奴の肉体になっていた。

 

 

 不思議に思った俺は、右足を見る。

 

 食いちぎられた残りしか、そこにはなかった。

 

「…………ッ⁉︎」

 

 歯を食いしばって痛みを耐える。

 

 蹴りのおかげでアイツの軌道は逸れ、レア様を喰えなかった。

 

 だが、人の形を取り始めた。

 

 腕から天帝の剣のようなものを生やしたヒト型の獣。

 

 なんだってそんなに自由に体の形を変えやがるんだコイツは! 

 

「退きなさい、ジョニー」

 

 背後から声がする。

 

 レア様の声だ。

 その声には果てしない殺意が篭っている。目の前のアレを絶対に許さないと。

 

 ガコンと昇降機が起動する音がした。帝国兵か皆のどっちかが戻ってくるだろう。

 

 ネメシスが腕を振るう。腕から生えた刃が蛇腹剣のように伸びレア様を襲う。

 

 レア様はその剣を掴み、引っ張る事でネメシスの体勢を崩した。

 

 そして、その顔面に聖なる力の篭った拳が炸裂する。

 

 その一撃を受けたネメシスは再生することなく、灰になり始めた。

 

 命というモノを冒涜した、怪物の最期だったように思えた。

 

 

 

 その時の俺は、その拳から目を逸らしてはならないと思った。

 

 命なきモノを殺し切る、その魔拳から。

 


 

 昇降機の音がした。

 

 話し声からするに金鹿の皆のようだった。

 

「ジョニー!」

 

 姉さんの泣きそうな声が聞こえた。あぁ……そういえば右足がなくなっていたんだったか。そんな事を考えながら、俺は意識を手放した。

 

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