闇うごことアガルタの民の皆さんが深掘りされそうでちょっと楽しみです。
ファーガス神聖王国。
400年ほど前に独立した北の王国。その貴き血は腐りきっている。そんな事を思う者は多いだろう。
現在王国を取り仕切っているのは摂政、ディミトリの伯父である『リュファス』。彼は紋章や血統、そういったものを重視し『新しいモノ』を否定する。そんな一般的なフォドラの空気に逆らわない形での統治を行っていた。
だからこそ帝国の暴挙を強く批判し、これまで反帝国の方針を掲げていたのだ。
──帝国が戦端を開いてから1年ほど経つ、今この時までは。
ガルグ=マク攻防戦が終わり、同盟領から王国のドミニク男爵家に戻った私は魔導師として働いていた。
かつての父のようにきちんとした騎士という訳ではない。だけど皆を守る為に戦力として使われるような立場。
伯父さんは私を大切にしてくれているけれど、家族の情だけを理由に子供扱いはしない。だから、きっと皆の為に死ぬ事はできるだろう。
正直、あの戦いに参加した事で私の価値観は変わってしまったと思う。
1秒先で自分達が生きている根拠などないのだから、一瞬先で死ぬ覚悟を持たなければ無駄死ににしかならないのだ。
とはいえこれは異常なようで、同僚に触りを話しただけでドン引きされてしまった。だから伯父さんにも母さんにも言わないようにしている。
そんな風に日々を過ごしていたら、ある文が届いた。殿下が伯父であるリュファス様を殺した罪で処刑されるのだと。
そして、それに異を唱えた父が捕まったと。
「馬鹿者め!」
伯父さんが珍しく声を荒げ、母さんは今にも泣き出しそうな顔で「大丈夫よ、アネット」と声をかけてくれた。
そんな中、ショックは私の中にある筈なのに
「あ、いけそう」
ごくごく自然に、『どうやって戦うのか』を考えていた。
殿下の処刑が行われるのは明日の夕頃、それまでに王都に辿り着ける者は少ないだろう。私のようにたまたま王都近くの別邸に居る者などそうそういない。居て欲しくはあるけども。
殿下に近いシルヴァン、フェリクス、イングリット辺りの人達は睨まれてる。それは手紙のやりとりだけでも伝わってきた。帝国と繋がって王国に反旗を翻す人達の動きが活発になったのだと。
これは、殿下の処刑に合わせられている動きだ。ブレーダッドの血には敵は多いが味方も多い。それは士官学校で殿下を見てきた私は肌感覚で分かってる。
ごくごく自然に殿下の為に戦える人がいる。だから、策で動きを封じている。
「──父さんも、そんな風に見られてたのかな?」
そんな事を考えながら馬を走らせる私の前に戦いの音が届く。
数は少ないようだが一撃が重い、ドゥドゥーみたいなタイプだろうか?
「もう、急いでるのに!」
見えるのは黒い肌、片側はダスカーの出なのだろうか?
武装した彼らが、『賊に見える奴ら』に襲われていた。帝国の動きに乗じた奴らだ。
「何者だ!」
「ドミニク家が魔導師、アネット! 貴方がたは何者か!」
「……友を助けに、王都に向かう者だ!」
「わかりました! 助太刀します!」
不思議と、迷わなかった。言葉に嘘はないと思えたから。
「馬鹿な、ダスカーの屑に加勢だと⁉︎」
「屑というのは、賊のフリをして王国を惑わす貴方のような者達でしょう!」
「勝ち馬に乗ることの何が悪い!」
『……別に悪くはないですよね』との言葉をぐっと堪える。ドミニク男爵領は所詮男爵領なので、流れ次第では親帝国派に鞍替えする事もあるのだから。
ただ、あえて言うならば──
「気分が! 悪いです!」
「何言ってやがる⁉︎」という困惑の声が出る。それはそれとして風魔法で吹き飛ばす。
ダスカーの人達と戦う事を想定していた重装の彼らは、魔法を受けて一人二人と倒れていった。
「さて……どうしよ?」
とはいえ無計画に動いた事には変わらない。道を変える必要があるかもしれないと地図を開くと、この部隊の長である彼が話しかけてきた。
「助太刀感謝する……が、何故俺たちを?」
「王都に向かう道を彼らが塞いでいたので。実は私も王都に向かってるんです」
「我々が彼らを襲っているとは思わなかったのか? いや、そうでなくても王都を襲撃するとは思わなかったのか?」
そんな話を振られて、改めて考える。
「その時は……その時です!」
「考えていなかったのだな」
「アハハ……」
「では、私は急いでいるので先に! ご武運を!」
そんな邂逅があった。
しかし、改めて思うが私の価値観は変わった。
ダスカーの人達が義で動く人達なのは見てとれたので、『彼らが王都を襲撃する事』で混乱が起きる事を前提に考えたのだから。殿下を助ける手段の一つとして。
「流石にそれ言ったら駄目だよね。名乗っちゃったし」
王都に賊を向けた叛逆者にはなりたくない。少なくとも今はまだ。
日暮れ前には王都に辿り着いた。
門番さんににドミニクの家紋を見せると、すんなりと通され、フェルディアの牢へと案内された。
数は少ないが、手練れの空気がする。
彼らの目を盗んでどうこうするのは難しいだろう。
牢屋に入れられた父さんが見えた。
目に見えて憔悴している。
「父さん」
「アネット⁉︎何故ここに」
「父さんが捕まったって聞いたから、急いで来ちゃった」
「すぐに王都から離れろ! ここに居ては危険だ!」
取り付く島もないとはこの事だろう。
私だってそれなりに考えて、必要があってここに居るというのに。
「父さん、コルネリア様を殴ったって本当?」
「……いや、踏みとどまった。あそこで手を出せば無駄死ににしかならない」
「うん、そうだよね。だから父さんは『頭に血が昇ったから牢屋に叩き込まれた』って事になってる」
「……そうだ」
「だから、教えて欲しいんだ。父さんとコルネリア様が話していた所を
「……コルネリアの手勢の他には、リュファス様に仕えた騎士が数名だ」
父さんの話すその名前をしっかりとメモして懐に仕舞う。
「分かった。その人に話してみる。父さんが怒ると怖いのは知ってるけど、だからって牢屋に入れるのは酷いって」
「……アネット、何を?」
「大丈夫、話をするだけだよ」
テキパキと切り上げて面会を終える。
見張りの兵士さんに「ありがとうございました」と礼を言うと、複雑な顔で会釈してきた。
牢から離れ、王城近くの宿に向かう。騎士団の偉い人は表通りの高級宿に泊まっている筈だ。
彼らの前で罪をでっち上げられなかったのは、彼らを完全に掌握できていないという事だろう。
殿下を助ける為の助けになるかも知れないのだ。頑張ろう。
ただ一つ、心配事があるとすれば……
「……門前払いされませんように!」
そんな風に、小さく祈りながら門を開いた。
ふと、音楽が聞こえた。
物悲しく、痛ましい。泣きたくなるようなそれはどこか懐かしい感じがして
────目の前の血溜まりを認識するのが、遅れた。