ファイアーエムブレム風花雪月 双紋の魔拳   作:気力♪

46 / 48
4話 咆哮

 目の前の死体を見つけた混乱は大きかった。平和な筈の王都でここまでのコトが起きる訳はないと油断していたから。けれどそれはもう終わり。思考を戦場でのものに切り替える。

 

「……よし、頑張ろう」

 

 理由は分からないが、この宿の騎士たちは死んでいる。自殺のように見えるが、宿のフロントの椅子で首にナイフを突き刺すというのは脅されていなければやることではないと思う。私は嫌だ。

 

 もちろん。最優先は身の安全の確保だとは分かっている。コレをやった奴は許せないけれど、今王都で揉め事を起こすのは不味い。殿下を助けに行くことが出来なくなってしまうし、父さんと一緒に処刑されてしまうかも知れない。だから、ここに踏み込んではならない

 

 

 

 などと考えは巡るも心は決まっており、宿の中へと足を踏み入れていた。

 

 これを見過ごすようなら、私は私ではいられない。

 

「行くよ、私!」

 

 まず、カウンターを覗く。店主の姿は見えない。呼び鈴を鳴らしてみるが、誰かが居ることは無いと思う。

 

「誰か! 誰か居ませんか!」

 

 まずは、見えている一人の容態を確認する。

 手にあるのはナイフ。血はまだ赤く、さほど時間が経った訳ではなさそうだ。

 

 荷物は脇に置かれている。斧を使う戦士だったようだ。体格や筋肉のつき方からしてとても力が強そうで、味方なら頼りになりそうな人に思えた。

 

 そんな戦士の表情はどこか安堵しているように思える。麻薬の類をやっていたのだろうか? 

 

 けれど王都ではこんなに効果のある薬は手に入らない筈だ。魔導学校にいた時に押しつけられたものは不味い上に気分は良くならず、依存性すら微妙なモノだったらしい。

 

 話したのはなかなかに悪い噂のある先輩だっが、嘘を言う人ではなかった。信用できるはず。

 

「……やっぱり、違うよね」

 

 懐から溢れるように見えているモノはパイプみたいなもの。吸引機とか言われてたそれは、目の前の騎士さんが持つモノにしては品がない。

 

 殺してから自殺に偽装して、懐にコレを入れた……の、だろうか? 

 

「けどそれも、違う気がする」

 

 ひとまず、目の前で死んでいる騎士の検分は切り上げる。

 

 声を出して場所を知らせ、明らかな隙を晒した。

 だから、敵が襲ってくるかと思ったけれど……当てが外れてしまった。

 

 あるいは誘っていると気づかれたのかも。

 

「……お借りします」

 

 騎士の持っていた鋼の斧と鉄の盾を拝借する。室内での取り回しはやや悪いが、無手よりはマシな筈。そんな事を考えながらロビーを抜けて、食堂へと踏み込んだ。

 

 

 むせかえるような匂い。嗅ぎ慣れてしまったその血の匂いの中に、嗅ぎ慣れないモノが混ざる。

 

 3人の騎士が死んでいる。これまた自殺に見える形で。

 

 食堂の一角には、綺麗なティーセットなどに混ざって小汚い麻袋があった。中には見慣れないが知っている薬草が。麻薬だ。

 

 そして、これもまたしっくり来ない。この草は麻薬として扱うのならば燻して煙を吸うモノだ。なのに火鉢がない。

 

 

「……客室の方も見たほうが良いかな?」

 

 おそらく、どこも似た感じだろう。

 加えて言うなら下手人は既に居らず、覚悟を決めて踏み込んだ私は完全に無駄足になった

 。

 

 素直に警邏の人たちに話せば良かったと後悔をするも遅く。日はもうすぐ完全に沈んでしまう。

 

 そんな時だった。私の耳に音楽が聞こえたのは。

 

 足が音の方へ向く。食堂の奥にある厨房からだ。

 

 誘われているのだろうか? 不気味だが音楽は心地よく、鼻歌が出てしまいそうだ。

 

 ────耳触りの良い音楽なので、ほとぼりが冷めた頃に口ずさんでいる気がする。不謹慎不謹慎。

 

 盾の握りを確かめ、斧を構えつつ踏み込む。

 

 

 

 誰も、居ない。

 

 音楽が響いているのは、落ちているラッパみたいなものから。吹いている人は居ないのに、今も音が鳴り響いている。

 

 そういえばガルグ=マクで聞いたことがある。本物の『技』は人の心を支配できると。料理でも、音楽でも、踊りでも。

 白鷺祭でドロテアさんから聞いた与太話でしかないけれども、彼女の踊りやジョニーくんの笛を聞いていると誇張とは思えなくて

 

 

 この音楽の鳴る『人無しラッパ』がこの惨劇の凶器であると、腑に落ちた。

 

 

「これ、多分ココを動かして……うん、止まった」

 

『前に見たような記憶のある』カラクリを動かして音楽を止める。魔力でオルゴールを回しているようなモノなのだろう。音楽が鳴る理屈は分からないけれど、死んでしまいたくなる程の没入感があったのだ。

 

『ホンモノ』には、及ばないけれど。

 

 そんな時に玄関から悲鳴が響く。誰かがやってきたらしい。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

 人無しラッパを持ったまま悲鳴の方へと向かう。もしかしたら敵かも知れないが、あの悲鳴は放っておけない。

 

「あの! ひ……人が⁉︎」

「はい、分かってます。生き残ってる人は見つかりませんでした。ただ、コレをやった人も居なかったので、今は大丈夫です」

 

「大丈夫です。大丈夫ですから!」

 

 へたり込んだ男の人に目線を合わせて、柔らかく声を重ねる。

 

 彼は、『……あ、ありがとう』と言って落ち着いたようだった。

 

「すみません、一緒に騎士団までいらしてくれませんか? 正直私一人では信じてもらえる気がしなくて」

「構わない。……君は?」

「私はアネット。ドミニク家の魔導師です」

 

 そうして騎士団の詰め所へと進む。

 しかしながらそのはもぬけの殻で、騎士たちは皆出払っていた。

 

「……どういうこと?」

「私にも、分かりません」

 

 

 王都フェルディアは、大通りこそ煌びやかだが道を逸れれば真っ黒け。ガルグ=マクの街とは比べ物にならないドロドロしている街だった。

 

 けれど、街として成り立つ程には皆頑張っていたのだ。警邏に出ている騎士の人たちは力が及ばない場所があるからこそ、そこに行ってしまわないように沢山の注意をしていた。

 

 怪しい薬とかの危ないモノが手に入りやすいからこそ、それがどういうモノなのか皆が知っていた。そういうモノで無自覚に道を踏み外す前に止めてくれる人は多かった。

 

 王国は豊かではないけど、民の心も強い国だった。

 

 

 

 そんな王都の空気が消えているのを今更ながら感じてしまった。

 

「そこで何をしている……!」

 

 苛立ちを隠さない声がした。酒を片手にやってきた騎士服の男は、ドス黒い声で私たちに話しかける。

 

「あの、実は大通りのあの宿が……」

「知ってるに決まってんだろ! んなこたぁ!」

 

「俺はそこから逃げてきたんだから……」と微かな声が届いた。

 

 私が第一発見者ではなかったらしい。そういえば、私の進んだ道以外にも扉が開いていたりしていた気がする。

 

「あの……埋葬の、手配は?」

「死体を埋めようとする奴もいねぇよ。売った方が高えんだから」

「死体が()()()んですか?」

「そうだ。裏の連中が魔導研究所に流してる。王都の連中の公然の秘密って奴だよ」

 

「売るために殺してる奴も居るくらいだしな……」とこぼれたその声は、辛そうだった。

 

「そう言う訳だ。アンタら面倒に巻き込まれて災難だったが、帰ってくれ」

 

 そうやって話を切り上げられた。

 

 ……本当にどうしよう。

 今から殿下の救出を助けてくれ、なんて言って動いてくれないだろう。

 

 詰所へと進む騎士さんに「待ってくださいよ!」と縋りつこうとする男の人。

 

「落ち着きましょう。ね?」

 

 そうやって肩を掴んで止めようとすると手のひらに嫌な熱が届く。

 

()()だ。

 

 その瞬間、空気が変わった。縋りつこうとした動きから切り替え、私に放たれる魔法はサンダー。

 魔力を高めて受け止めるが、相殺しきれない。盾を構えた左腕に痛みと痺れが響くが、軽傷だ。

 

 

「なに、するんですか!」

 

 戦技『雷斧』にて反撃する。反撃される事を想定していなかったのか防具はなく、身のこなしで直撃は躱されたけれど掠ったし雷は届いた。

 

 痛み分け、もしくは少し有利だろう。

 

「流石は、あのギュスダヴの娘か」

「……何故、こんな事を?」

 

「あの時代錯誤どもはあそこで死ぬ筈だったのに! それを確認するだけだった筈なのに! どうして生き残りが居る! どうしてそこに向かう! 正義だ忠誠だ真実だなどと耳触りの良い言葉に酔ってるだけのゴミ屑が! 俺たちの暮らしを踏み荒らすな!」

 

 堰が切れたように噴き出てくる怨嗟の声。

 この人は、普通にフェルディアに暮らしているヒトだったんだろうな、と思った。普通に暮らしている人でさえ、こんなになるまでに追い詰められている。

 

「頼むから、死んでくれ!」

 

 懐からナイフを取り出したその人は、泣きそうだった。

 

「がぁ⁉︎」

 

 ────だけど、それは手心を加える理由にはならない。

 

 本気の『雷斧』を叩き込む。斧はナイフに防がれたが雷は直撃し、男を行動不能にした。

 

「──良かった、生きてる」

 

 なんとも悲しい話で、殺すつもりの一撃でなければこういう人(死兵)は止められない。下手に手加減すれば相打ちに持っていかれてしまうのだから。

 

「……アンタ、この男がヤツの手先だって分かってたのか?」

 

 騎士さんが聞いてくる。

 

「そうじゃなかったら良いな、と思ってました」

 

 あの悲鳴の演技には、嘘臭さの中に後悔と悲しみがあったと私には思えた。

 


 

 

 なぁなぁで騎士団の詰所へと入れられる。

 男の人、『ジョージ』さんは観念して自分の知るところを話し、騎士の『アルベルト』さんはちょっとだけ落ち着いていた。

 

「──テメェは、誰が黒幕かは知らねぇと?」

「……ああ。俺にやれって言ったのは裏町に幅を利かせてる奴らだが、そいつらの頭は分からねぇんだ」

「……で、アンタの家族は?」

「捕まっている……と、信じたい」

 

 信じられないのは、自分が捨て駒であるから。子供と妻は健康であるため、『売れる』のだ。

 

「……売られた方は魔導研究所に?」

「分からない」

「手は、出せねぇな。今は殿下の処刑だどうたらで警備が厚い。かといって真っ当に上に上げれば揉み消される上に間に合わねぇ」

 

 ギリリ、と歯軋りの音が聞こえた。

 

 

 なんとかしたい。そう思っていると荷物からぽろりと何かが落ちた。

 

「……それは?」

「あの宿にあった、人無しラッパです。ここをこうすれば……」

 

 と手元の絡繰をカチっと動かすと音楽が響いた。相変わらず心に響く。死を願わせるソレだと大変なので直ぐに切ろうとするも、曲が違う。

 

 込められている思いが、『違う』

 

「……なんだ、コレ?」

「暖かい、音?」

 

 

「ジョニーくん?」

 

 それは、ガルグ=マクで幾たびも聞いた、愉快な男の子の音楽だった。

 


 

「皆、覚悟は出来ているな」

 

 黒い肌の男は言う。彼はダスカーの民の将軍だった。

 

 彼の元に集ったのは10名程。決して多くはない。

 

 彼らは全てダスカーの地で反乱を起こした者だ。王国に対する憎しみは深く、王都を焼く事に躊躇いはない。

 

「聞こえている筈だ、あの音色が。我らの恩人は囚われている! ダスカーの民は! 恨みも恩も忘れない!」

 

 そして、ドゥドゥーとジョニー、そしてディミトリに命を救われた者たちだった。

 

 

 ドゥドゥーは言った。『身を隠せ』と。

 

 ダスカー人への排斥が強くなるといった彼の足は王都に向かった。ダスカーの民を()()()()()()()()()()()をするのだろう。

 

 処刑される、ディミトリを助ける為に。

 

 

 そして、『竜としての耳』が聞き取った。自然が奏でる音の中にある彼の音色を。

 

 王都にいる。囚われている。そんな確信が皆の中にあった。

 

 

 ダスカーの民は、恨みも受けた恩も忘れない。それは彼らが彼らの戦いを始める理由には十分だった。

 

 

「我らは『ダスカー竜装兵団』! 王都のゴミを食い破れ!」

 

 

 日が落ちきったその時。王都フェルディアに竜が来た。

 

 人身の竜。2本の足で立つ2メートルほどの彼らは、友のために地獄への道を駆け始めた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。