ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの真似をする性転換少女 作:ピトーたんは猫娘
パリストンがメイン。
UA10万、お気に入り4000・・・・ガクガクブルブル
「あ~怖かった。凄い怖かった!」
暗闇に包まれている月霊髄液の中で、冷汗が雫となって震える色白の肌を流れ落ちていく。そんな状態の身体を両手で抱きしめながら、冷静に荒くなりそうな呼吸を元に戻す。
かなり危ない橋だったが、どうにか交渉は成功した。こちらが幻影旅団の情報を握っているという事を知らしめれば警戒して手を出しにくくなる。それに加えて団員一人の命を握っているし、どんなに犠牲を出したとしても幻影旅団を滅ぼす方法と、それが可能な情報網がある事を伝えれば聡明なクロロは蜘蛛の為に手を出さずにこちらを利用する事を決めるだろう。たとえ私が死んだとしても情報は公開されるようにしておけば、幻影旅団は私を守るしかなくなる。
もちろん、彼等にもメリットが色々とある。まず戸籍や隠れ家などを提供できるし、何より様々な情報を得る事ができる。盗賊である彼等にとってお宝の情報はとても助かるだろう。
もっとも、交渉に失敗したら消すつもりではあった。ハンター協会とゾルディック家を向かわせ、同時に軍隊も動かす。街を2,3個消し飛ばしても確実に殺す。その罪は全て幻影旅団に押し付ければいいだけだしね。
ちなみにチビトリムはしばらくその場で待機させる。こちらからパスを定期的に開いてオーラを供給しさえすれば大丈夫だ。遠隔操作になるからとても使い勝手が悪いし弱い上にオーラの消費量も半端ない。だが、それだけの価値はある。
「全身汗だらけで嫌になる。でも、なんとか話は纏まった。私は一先ず賭けに勝てたしよしとしよう」
すぐに別の賭けがあるが、それはそれだ。とりあえず幻影旅団は緋の目とフェイタンの腕を上手く交換さえできればそれで問題はない。こちらをしばらく襲ってはこないだろうし、その時間を使ってこちらも幻影旅団やベンジャミンお兄様の軍に対抗できるだけの戦力を集める。時間との勝負だが、やるしかない。
「さて、これ以上は待たせるわけにはいかないな」
指を鳴らして私の身体と一部融合していた月霊髄液を回収する。現在、私が居るのはハンター協会にある宿直室の一室だ。そこを無理を言って借りている。ちなみに場所はお風呂であり、裸で浴槽に入って水銀に浸かっていた。むしろ一体化していたという方が正しい。この状態でないとトリムの遠隔操作などできはしない。
さて、浴槽から出て水銀を全て庭園に回収。元の可愛いロリライネスに戻り、シャワーを浴びてから頬叩き、顔を洗ってタオルで拭く。鏡に映る本当に可愛らしい少女は青い表情だったのが、元気そうなものに変わっている。
よしよし、これでなんとかなる。幻影旅団との交渉は終わったから、次はハンター協会だ。相手はパリストンとネテロ会長。相手にとって不足はないどころか、私の方が不足しまくっている。
なんで外交初心者が百戦錬磨の化け物と交渉しなきゃいけないんだ。死ぬぞ! だが、まあ……ライネスがロード達と交渉するのはこんな感じなのだろうし、仕方ない。
「トリム、拭いてくれ。それと着替えを頼むよ」
「かしこまりました」
私は目を瞑りながら全てをトリムに任せる。自分の身体とはいえ、やはりライネスの身体なのだから直視する機会はゆっくりと鑑賞できる時だけだ。基本的にみないようにしてメイドに任せる。興奮したら色々と処理が大変だからな。
「これでよろしいでしょうか?」
「ふむ」
目を開けて全身を確認する。今回の服は普段着であるロリライネス、ロリネスのアニメででてきた服だ。先程までは式典用のゴシックドレスだったが、やはりこちらの方がしっくりとくる。
「よくできた。ありがとう、トリム。これからもよろしく頼むよ」
「イエス、マスター」
「では行こう。
この部屋が監視されているとしても、事前に潰してあるが発言には気をつける。潰し方は月霊髄液による探査とオーラを大量に使っての凝だ。なので見逃しがある可能性も無いとは言えない。故に気をつけて月霊髄液の中で幻影旅団と話をしたわけだ。
借りている部屋から出ると、護衛であるハンターが控えてくれている。二人共女性でハンター協会の幹部、十二支んだ。一応、カキン帝国とこの国からの正式な要請だからね。政治力が乏しい彼等にはどうしようもない。ハンターが様々な特権が認められているのは国々の、大国V5を始めとした連合による後押しがあってこそだ。
我が国もそれなりの寄付金、それこそ数億ではきかないぐらい出しているし、これぐらいは当然の権利だ。もっとも、一国や小国程度では跳ね除けられるぐらいの力をハンター協会は持っているが、それはあくまでも一国や小国だけだ。カキン帝国とV5に数えられるこの国の要求を退ける事はできない。
「待たせたね」
「本当にまった~」
携帯電話を弄りながらこちらに伝えてくるバニーガール風の格好をした女性。強い事は強いが、本当に大丈夫か、ハンター協会。
「こら、失礼でしょう。申し訳ございません、ライネス姫。いえ、そちらでは王子でしたか」
謝ってきたのは蛇のように瞳孔が細くスタイルの良い女。こいつも十二支んの一人だ。女性二人なのは私が女性だから。嫌だったが、未婚の女性ということで男性が側に控えているのは嫌だと力説した。だって仕方ないだろう。男性を許可するとパリストンが絶対にやってくる。そんなのは嫌だ。もちろん、ハンター協会全体が厳戒態勢になってくれている。相手は幻影旅団だと伝えてあるからね。
「ああ、そうだよ。それに気にしていないから構わないよ。今回はこちらが無理を言ったのだからね」
「本当だよ~とっても忙しいのに~」
「おや、そうなのかい? 歩きながらでいいから教えて欲しいね」
「だめ~ハンターじゃない人には教えられない~」
「そうか、それは残念だね。まあ、私も十二歳になったらハンター試験を受けるつもりではある」
「え~? 裏口合格とかないよ~?」
「こら! 王族としてハンターになられるのはまずいのでは……」
「まずいだろうねえ。だから偽名を使うよ。王族とハンターの二重生活なんてすごく刺激的で、最高じゃないか。私は様々な事件をこの目で直接見てみたいんだ。美食を始めとした秘宝を求めて魔獣の住処に突撃し、血沸き肉躍る戦いやマフィアの拠点を叩き潰すとか、特等席で見ていたいんだよ!」
キラキラとした表情で両手を叩きながら語る。これこそライネス・エルメロイ・アーチゾルテの願望だ。実はすでに特等席で見学できる手段はあるんだけどね。命懸けで何かをなそうと全力を尽くす者達の命の輝きというか、なんというか、とても素晴らしいものがあると思わないかね?
特に幻影旅団の連中なんて見学するのは楽しいだろう。今まではどの鳥が近いかなんてわからなかったが、これからは違う。じっくりと観察させてもらい、私に娯楽を提供してもらう。それとドラマや映画には困難が付きものだろう。だから、それを私がしっかりと用意してあげようと思うんだが、戦闘狂の彼等は大変喜んでいただけるだろうこと請け合いだ。
「か、変わった趣味ですね」
「良い趣味だと思うんだけどね。まあ、そんなわけで私はハンターになるつもりだ。よろしく頼むよ、先輩方」
「戦闘能力が必要ですが……」
「はっはっはっ、カキン帝国の王族を舐めないでもらおうか。にわかとはいえ、ちゃんとした念能力者なんだよ」
「にわか、ですか……」
「しっかりと教えてもらってから一年と経っていないからね。でも、私の子はとっても強い子だし、多分大丈夫だと思うよ。もちろん、これからも鍛えるつもりだ。それにあれだよ、魔法少女みたいでとっても楽しいじゃないか!」
両手を広げてくるくると回りながらニコニコと話す。二人はなんとも微笑ましい感じでみている。七歳のロールプレイ、これは地獄だな。後で黒歴史確定だ。だが、ロリネスは可愛いからよしとする。
「その力、どうして目覚めたんですか?」
「ああ、それは簡単だよ。メイドに殺されかけた時に生きたいと願ったらできたんだ。そうしたら、メイドが運んできた水銀がそのメイドを殺して、取り込んでくれた。それが私の念能力になったというわけさ。いやぁ、メイドが居なくなるのも困るから、彼女に世話をしてもらえて助かっているよ」
「そ、そうですか……」
「あははは~」
二人はドン引きしているね。だがまあ、問題はない。事実だ。嘘は言っていない。
「到着しました。ここで会長がお待ちです」
「どうぞ~」
「ありがとう」
中に入るとまるで極寒の地に放り込まれたような感じがする。目の前にはまるで神様のような百の手を持つ観音が顕現しているが、無視してなんでもないかのように笑いながら前に進む。
「ハンター協会のアイザック・ネテロ会長。この度は私の無理を聞いていただきありがとうございます。また、英雄のような貴方様に出会えたことを大変嬉しく存じます」
スカートを摘まんで頭を下げ、宮廷作法に則ってしっかりと挨拶をする。相手は和服に身を包むネテロ会長とスーツ姿の胡散臭い青年。
「見えてないのか、感じていないのか、それとも……」
「どうしましたか? 私、何か間違ってしまいましたか?」
小首を傾げて可愛らしく伝えると、気配は霧散したがこのまま猫を被り続ける。
「まあ、立ち話もなんですから、どうぞこちらにお座りください」
「ありがとうございます」
席に座りながらニコニコとお話しをする。相手も座り、私と対峙する。
「さて、ライネス・ホイコーロ様。形式的な挨拶は止めて実務的な話をしましょうか」
「それと猫被りはする必要はないぞ。そんな話し方でもないだろう」
「これでも一応、目上の人を敬ったんだがね。それとネテロ会長は英雄だと思っているし、尊敬しているのは事実だよ」
「会った事はないんじゃがな」
「まあ、伝え聞いた事だよ。一日一万回の正拳突きだったかな。格闘家としてもとても素晴らしい。賞賛に値するよ。いや、本当に。できれば後でサインが欲しいくらいだ」
手振りしながら伝えていく。私の言葉に護衛の二人は頷いている。
「それは後でくれてやるわい」
「本当かい! それはとても嬉しいよ!」
「会長との歓談はその辺りにして、実務的なお話をしましょう。幻影旅団についてです。襲われる心当たりは?」
「ホワイダニットかい。心当たりはまるでない。とは言い切れないね。これでも私はご存知の通り、カキン帝国の第13王子だ。それ相応に恨みも買っているし、他の王子や王妃から命を狙われることなんてざらだよ」
「確かにそうじゃの」
本当に殺し合いぐらい平気でするからね。でも、彼等の求めているのはそれじゃないだろう。
「そもそも本当に幻影旅団でしたか?」
「特徴から危険人物とされている幻影旅団の団員と一致したから、そう判断したよ」
「なるほどなるほど。確かに彼等のようですね。彼等は何かを言っていましたか?」
ここで伝えてメリットがあるかないかだね。メリットはネテロ会長を護衛にし、トリムマウを鍛えてもらうこと。うん、ここで幻影旅団とぶつけるのはよくない。
それにハンター協会としての目的はおそらく、銀の鳥についてだろう。それ以外は金か。
どちらかもしれないし、どちらじゃないかもしれない。わからない。ただ、嘘を見抜く念能力者がいたら困るから、ここは誤魔化しておこう。
「詳しい話を聞こうとしたら拷問されそうになった。だから反撃したんだ。ただ、鳥がどうとか言っていたね」
「鳥、ですか」
「まあ、幻影旅団とは盗賊なんだろう? それだったら、我がカキン帝国に存在する貴重な鳥でも盗むつもりだったのかもしれないね。詳しくは知らないけれど」
そもそも私はネットで調べるまで銀の鳥が銀翼の凶鳥なんて呼ばれているのも知らなかった。だって、私のネットって基本的に王妃達に検閲されてるんだよ?
だから、エロいワードを入れて検索したり、好みの画像を収集する事もできない。そんなことをしようものなら、弱みになるし色々と不都合な事が起こる。
そんなわけでひたすら本を読んで知識を蓄え、習い事をして教養を身に付け、念を鍛え続けていたわけだね。いやぁ、自由って素晴らしい。ちなみに盗み見はしたりしているがね。アッハッハッハ。まったく面白くもないが。やはり音声は必須だ。
「カキン帝国の国内で銀翼の凶鳥について聞いたことは?」
「こちらに来るまで知らなかったよ。私、ほら王子だろ? 基本的に王宮で勉強漬けさ。知識は本と家庭教師達が教えてくれることだけだ。それも検閲が入っているから、国外の事なんて外交特使として勉強してから詳しく知ったぐらいだよ。
で、だ。君達はそれについて知っているみたいだね。教えてもらおうか。幻影旅団の言う鳥は、君達の言い方からして銀翼の凶鳥だという事は確定なんだろう?
だったら教えてくれ。特に我が国から私の好きな銀色を奪い取ろうなど、それは私の怨敵だ。なんならカキン帝国の外交特使として、正式にハンター協会に情報開示を請求してもいい」
「ふむ」
「会長。ここは開示した方がよろしいかと」
「そうじゃな。嘘はついておらんようじゃし、いいじゃろう。パリストン、頼む」
「かしこまりました。銀翼の凶鳥とは第六災厄と認定された念能力だと思われるものです。人の目では見えないほど小さな物から大きな物まで存在し、寄生した相手が同意すると発動します。効果はその者が深層心理で願っていることが念能力として叶えられます。念能力については知っていますよね?」
「ああ、知っているとも。うろ覚えの部分もあるだろうが、しっかりと習ってきているからね。この子の事だろう?」
試験管を取り出して蓋を開き、中身を落とすと体積が急激に膨れ上がってメイドの姿になる。殺したメイドではなく、私がイメージした通りのトリムマウだ。
「そうじゃな。しかし、銀か」
「銀ですね」
警戒度が跳ね上がったね。臨戦態勢に入ったけれど、無視する。ここで私に手を出したらハンター協会は終わりだ。政治的にも物理的にも潰されるだろう。少なくともカキン帝国はこれを理由に宣戦布告までする可能性がある。また、私の念は私が死んだ程度では止まらない。何故なら保険があるからね。
「綺麗だろう? 二年前だったかな。王宮の庭に銀色の鳥が居たんだ。その姿に惚れこんでしまってね。それ以降、金より銀の物を集めるのが趣味になった。殺されかけた時も常温で液体となる銀色の金属があると聞いて取り寄せさせたんだよ。まさか赤ん坊の時から仕えていてくれたメイドが裏切るとは思わなくて油断した」
思い出しながら目尻に涙を浮かべる。しかし、ネテロ会長もパリストンも平気な顔をしている。やはり効果はなしか。
「そのメイドはどうしたんじゃ?」
「うん? もちろん殺したよ。我がカキン帝国では王族の殺害や殺害しようとするのは当然、極刑だ。だから、私もこのトリムマウに取り込ませた。私は自分の事なんてほとんどメイド任せだからね。そんな時間があれば勉強する方が効率がいい。ともかく、メイドが居ないと困るから、水銀なら形が自由だろう? だからメイドの形にしてみたんだ。これが色々と便利でね」
「一つ聞きたい事があるんじゃが、よいかな?」
話していると、ネテロ会長に遮られた。まあ、いいけどね。
「答えるかはわからないが、何かな?」
「その鳥はカキン帝国の王宮で確認されたのじゃな? 周りに他の人は――」
「私が見た時は──おっと、サービスタイムはここまでだ。私ばかり情報を提供するのは頂けないな」
「……それもそうですね。ですが、銀翼の凶鳥については貴国でも問題になっているはずですが……」
「はっはっはっ、たとえそうだとしても教えないよ。こちらの要求も聞いてもらわないとね。さっきまでのは現在、保護してくれているお礼だ。あまり譲歩しすぎると私が無能の烙印を押されてしまう。そうなれば王位の継承がしづらくなる。困るんだよね。それとも、継承戦になった時にハンター協会は私に全面協力をしてくれるのかな?」 してくれたら凄く嬉しい。まあ、無理だろうけど。
「なるほど、それは無理ですね。会長」 うん、知っていたとも。だから悲しくなんてないさ。本当だよ。
「まあ、確かにこちらだけが聞いても悪いな。そっちの願いを言ってみな」
「ありがとう、ネテロ会長。要求は三つだ。一つ目は護衛だ。それもただの護衛じゃない。ネテロ会長を護衛として数年ほど連れ歩きたい」
「「それは駄目!」」
十二支んの二人が即座に否定してきた。まあ、そうなるのはわかっていたけどね。
「仕事に支障がでますから駄目ですね」
「では一ヶ月だけでどうだろうか? ただし、ここにネテロ会長による訓練を取り入れてもらいたい。ネテロ会長の念能力を使って私のトリムマウと戦ってもらい、念能力者として鍛えて欲しい。幻影旅団と戦っても死なないようにね」
「なるほどのう」
「一ヶ月くらいならいけないかな? 基本的にそちらの用事に合わせていいからね」
「それぐらいなら構いませんね。会長がそちらを頑張ってくれている間に私がやっておきますので」
「そうかそうか。なら良いかの」
「本当かい! それじゃあ、次だ。確か、念には神字というものがあるんだろう? 我が国にはそれについて知っている人はいても、詳しい人が居なかったから教えていただきたい。
もしかしたら、私が習う時間がなかっただけかもしれないけどね。なんせ念というのを知ったのはこないだだし。
それと三つ目のお願いは一日だけ、全力で私を護衛していただきたい。指定する日は後程連絡するし、訪問場所はククルーマウンテン。ゾルディック家だ。なので、ネテロ会長は当然として後数人は欲しいな。まあ、何事もなければ戦いにすらならないが」
「ゾルディック家か。ゼノが相手となると、確かにわし以外の適任はおらんじゃろう」
「そちらの方も了解しました」
流石にゾルディック家に一人で乗り込むつもりはない。ネテロ会長を連れていければ私が相手をするのはイルミ君ぐらいだろう。それでも厳しいが、平和的に話し合いをしようと思うので戦うことはないといいな。
「うん、私のお願いはこれぐらいかな」
「ゾルディック家の相手はともかく、神字とかでしたら構いませんね。よろしいですよね?」
「わしは護衛と実戦形式の修行をつけてやったらいいだけなんじゃろ? ゾルディック家に関しては茶を飲みにいくだけになるじゃろうし、構わんよ」
「ではそれで。こちらの要求は銀翼の凶鳥についての情報と、カキン帝国にある王宮の捜査ですね」
まあ、当然だろうね。こちらの要求は概ね受け入れられているのである程度は受け入れないといけないが……
「王宮の調査については無理だ。私の決められる権限から逸脱している。といっても、私が帰国する時なら護衛として数人のハンターなら連れていけるだろう。だが、くれぐれも問題は起こさないでくれたまえよ。人選次第では拒否するからね」
「調査は勝手にしろということですか」
「内密にね。ただ、見付かった場合は処刑されるかも知れないから気をつけるように。私は庇うつもりはないよ。むしろ、率先して殺しにかかる。そうしないと私の立場がなくなるからね」
ニコニコしながら告げると、後ろの二人は引いているようだけどパリストンと会長は普通だ。私は気にせず両手の指を合わせながら話していく。
「カキン帝国の調査は好きにするといい。入国許可はだしておこう。もちろん、他の王子について調べてくれてもいいよ。むしろ大歓迎だ」
「そりゃそうでしょうね。政敵ですもんね」
「うむ。むしろ失脚させるネタを掴んでくれたら言い値で買い取ってもいいぐらいだ。それと……ああ、そうだ。ハンターが作ったグリード・アイランドっていうゲームがあるよね。アレを二つほど欲しいな。くれたらベンジャミンお兄様に紹介してあげよう」
「それはそれは、第一王子を紹介していただけるなどありがたいですね。どんな感じでですか?」
「ハンターを王宮に入れたいんだろ? だったら十二支んや会長が軍事教練の名目でやってきたらお兄様は大喜びするだろう。何せ我が国の武力が上がるのだから。紹介した私にもメリットがある。もっとも、やりすぎても困るが」
「それは考えさせていただかないと駄目ですね」
「だろうね。その辺りは好きにしてくれ。一ヶ月間はここに居て訓練するから何時でもいいよ。その後は学校に入学したり、外交したりと忙しいだろうがね」
「学校ですか」
全員が信じられないと言った感じだが、れっきとした事実だ。
「私は七歳だよ。これから学校に行って勉学に励むんだ。表向きは」
「表向き、ですか」「もちろんだとも。色々と行きたいところがあるからね。天空闘技場とか、ククルーマウンテンとか」
「ゾルディック家ですか」
「そうだよ。あそことコネを作っておいた方が都合がいいからね。なんなら彼等の血を欲しいとも思っている」
「そうですか、そちらはご自身で頑張ってください。それよりも銀翼の凶鳥についてです。貴女は知りませんか?」
おや、話を戻されてしまったね。まあ、構わないが。
「銀翼の凶鳥かどうかは知らないが、私は知っている。多分、その力を使ってトリムマウを生み出しているんだろうからね。そして、噂だが我がカキン帝国でも不自然に死亡している案件があるとメイド達が話していたのを聞いた覚えがある。
また、それによってライオンが進化したであろう生物が繁殖し、その生物にさらに銀翼の凶鳥が取り憑いて進化した場面を目撃している。襲われたから殺したけれどね。その時にモモゼお姉様が……ん? 待てよ。ねえ、念能力者なら意識不明になっている人を助けたりできるかな?」
「可能性はありますね。ただ、どういう状況かによりますね」
「その進化した奴に襲われた時にね。攻撃を受けて気を失ったまま意識が戻らないんだ」
「洗礼ですか。そのままなら死にますね」
「少し前に習ったが、確かオーラが洩れて死ぬんだろう? それなら大丈夫だ。王宮に居る念能力者に協力してもらいながら、私の力でお姉様の身体を操作してオーラが漏れ出ないようにしてある」
「会長」
「それなら可能性はあるな」
「そうか、よかった。うん、それじゃ、モモゼお姉様を治療できたら私からも他の王子を調べたり、銀翼の凶鳥について調べたりしよう。なにせ師匠のお願いだからね」
ああ、調べるとも。銀翼の凶鳥によってもたらされた被害がどの程度であり、それによっては救済などの匙加減を変えなければいけない。しかし、代価が嫌なら彼等は願わなければいい。自らの力で願いを叶えるために努力するか、楽な方を命懸けで叶えるか。実に素晴らしい二択じゃないか。私と同じく命を賭けたまえ。そしてその輝きを見せてくれ。
「ふふふ、モモゼお姉様が助かる道筋ができて嬉しいよ。私の命が尽きる前に助けてあげたいからね」
「除念しましょうか?」
「除念か。した場合はどうなるんだい?」
「念能力は残りますが、コントロールができなくなるので弱体化します」
「なら、断るよ。どうせ私の願いはまだまだ叶わないだろうし、現状では弱体化すると困る。一ヶ月間の修行を終えて、しばらく様子をみてからかな。そうじゃないと幻影旅団に殺されてしまうかもしれないしね」
「なるほど。しかし、貴女の願いは生き残ることではない?」
「私はカキン帝国の王族、ライネス・ホイコーロだぞ。なら、願うのは一つだろう。私が王になる事だ。逆説的に考えたら、私が王になるまで死なないという可能性もあるかもね。だから解除はしない。本当にやばければ頼むけどね」
「なるほどなるほど。貴女は我々を徹底的に利用するつもりですね」
「おや、嫌なのかい? そちらも私を利用してくれたらいい。とてもいい感じじゃないか」
「ええ、そうですね。同意します」
「いいね、君。私の下に来ないかい? 給料はハンターだからわからないが、面白い事を色々と教えてあげられるよ。王族の裏話とか、ドロドロの宮廷喜劇とかね」
「コイツを勧誘されるのは困るぜ、嬢ちゃんよ」
「おっと失礼。とりあえずパリストン君とネテロ会長には私のホームコードを渡しておく。用事があればかけてきてくれたまえ。出られるかは保証できないが。それでメンチ君はどこにいるのかな。彼女と会うことも私の目的なのだが……」
「専属の護衛と料理人ですね」
「ああ、そうだ。もちろん、条件次第だけどね。彼女が秘境に行きたいというのなら、私もついていこう。とても楽しそうだしねえ」
「「やめろ!」」
王族を連れて魔獣があふれる人外魔境といえる秘境に食材求めて旅をする。うん、意味がわからないよ。
「あははは、とても面白いお人のようですね」
「褒めても何もでないよ。むしろこっちが要求する。ハンターライセンスが欲しいなあ~」
「駄目だ。12歳まで待って試験を受けな」
「残念だよ、本当に。後五年、待とうか。で、彼女は?」
「彼女は今、貴女を歓迎する料理を急遽作っていますよ。本当は明日の予定でしたからね」
「それは失礼したね。うん、本当に楽しみだ」
「絶対に唸らせてやるといっていたわい」
「彼女にとっても自らの腕がどこまで通用するかを試せる機会ですからね」
「指定したかいがあるというものだよ。そうだ、ネテロ会長。私を本気で鍛えてくれたら……良い情報を貴方にあげよう。あげた情報はくれぐれも漏らさないでくれるという前提だけどね」
「ほう。わしに関わることか?」
「ああ、関わっている事だとも。私達カキン帝国と、アイザック・ネテロにね」
「いいぜ、徹底的に鍛えてやる。言っておくが、王族だからって容赦しないからな」
「もちろんだとも。そうじゃないと意味がない。では、早速やろうじゃないか。メンチ君の料理ができるまでね」
立ち上がって会長をみると、彼も納得してくれたようで立ち上がって私の前を歩いていく。それに後ろからちょこちょこと小走りでついていく。
「で、あの子はどうだったの~?」
「いや~凄いですね。ほとんど嘘をついていませんよ」
「じゃあ、あの子は白ですか?」
「グレーですね。嘘はついていないし、真実も告げています。ですが、関係ないとはいっていませんし、否定したのは銀翼の凶鳥について知らなかったということだけです。ですが、政治家として考えると言質を取らさないように立ちまわったともいえます」
「その銀翼の凶鳥について知らなかったというのは否定した事にならないのかな~?」
「なりませんよ。そもそも銀翼の凶鳥という名前は我々が勝手につけた名前だ。制作者が知らなくても何もおかしくありません」
「だが、彼女も契約者だろう?」
「そう擬態しているだけかもしれませんし、契約者とも言っていませんね」
「あ~っ!?」
「どう考えても七歳児じゃないわよね!」
「ですね。すくなくとも七歳ではありません。会長の威圧にも内心はわかりませんが、流していました。念能力について一通り知っているのなら、感じていたはずです。それがオーラの乱れすらありませんでした」
「それはこちらからも確認した。気付いていないだけかと思ったが……」
「隠蔽能力かな~? それでも態度に出さないのは凄いけど~私、すこし~な、なんでもない~」
「くっくく、彼女も会長と同じ領域に辿り着ける逸材ですね。ああ、これは楽しくなってきました。会長の次の遊び相手にしてもいいかもしれませんね」
モモゼの念能力を募集
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糸使い
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布使い
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ぬいぐるみ使い