ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの真似をする性転換少女   作:ピトーたんは猫娘

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第18話

 

 

 

 

 さて、我が邸宅を私の支配下に置いて二ヶ月少々。地下施設の改造も完了し、各国への外交特使などと会談して折衝を何度も行ってきた。

 手に入れたお土産もあり、カキン帝国に有利な契約を結ぶことも無事にできた。相手は国外に盗みだされた重要文化財などが戻り、カキン帝国と共同で技術開発などを行うだけだ。資金も両方から均等に出すことになるが、こちらが劣っている分野なら、存分に学ばせてもらえるというわけだね。

 もっとも、外交が忙しくて私の本来の目的は果たせていない。理由としては子供である私を侮って、有利な条件を引き出そうと馬鹿共がやってきているからだ。それ相応の見返りを頂いてお帰り願ったが。

 国以外にもマフィアや売り込みにやってくる大手の企業を相手にするなど本当に忙しい。大手は特にパーティーに呼ばれるので、国内企業の重役達と共にでないといけない。コネクションを作り、カキン帝国内部の事業を進めるには他国の技術で作られた部品を使う場合もあるからね。

 それらもようやく落ち着いてきて、ある程度は遊ぶ余裕がでてきた。そんなわけで久しぶりにお仕事の終わりにメンチ君とお買い物をしにヨークシン最大のデパートへと来たわけだ。ちなみに今日の服装は和装だ。ジャポンの人がパーティーの主催者だからね。もっとも、上は萌え袖有りの緑色の和服で下は赤いスカートだ。

 

「これなんかも似合うかもしれないわね」

「ほほう……なら、着てみようかな」

 

 本日買うのは外出用の普段着だ。ドレスぐらいしかないから、一般人に紛れ込むにはそれなりの服が必要というわけだ。それにライネスは女の子なのだから、着飾るのは当然だ。霊基再臨でも服装を変えていたしね。

 

「ん~やっぱりどれを着ても似合うわね」

「メンチ君も似合っているよ。あ、そろそろ小腹が空いてきたから、クレープでも食べようじゃないか」

「そうね」

 

 護衛を連れて移動し、最上階のフードコートでクレープを購入して食べる。口いっぱいに広がるクリームの甘さと果物の酸味が合わさり、とても旨い。席に座りながら、メンチ君と談笑していると設置されているテレビからニュースが聞こえてくる。

 

『また、ヨークシンシティで連続殺人が起こりました。被害者は20代の女性。これで女性は37人目になりました。警察は一万三千人の警察官を投入していますが、未だに犯人は捕まっておりません。また、目撃者の情報も曖昧であり、犯人の断定もできておりません……』

 

 目撃者が居てなお情報があるというのに犯人が絞り込めていないのは異常じゃないか? ヨークシンほどの都会ならば、監視カメラはそこら中にある。だというのに犯人の写真やモンタージュすらないというのはね。

 

『この事件は不可解な事が多すぎます。それにプロハンターにも被害がでているようで、死体で発見されたそうです』

『プロのハンターですら殺されるということは我々一般人では……』

『はい。ですので、現状では犯人が出没する夜には出歩かないようにするしか対策がありません。特に女性は危険です。女性以外の被害者は警察官や助けに入ろうとした人達であることが判明しています』

『なるほど。そ、それでは家から出ないようにします』

『それがいいでしょう。もしくは職場に泊まり込むといいかと思います』

 

 これは、これは……とっても面白そうだね。うん、興味が湧いてきた。少し調べてみるか。

「メンチ君。この犯人の情報は何かあるかな?」

「ブラックリストハンターが数人殺されているわ。中にはシングルもいる」

「おや、よく知っているね」

「私はアンタの護衛なのよ? 危険人物の情報は即座にハンター協会から教えられるわ」

「それもそうか。では、その情報を私にも教えてくれ。そうでないと危険だろう? 怖くて夜も眠れないよ」

 

 両手を広げてから、目元に持っていって震えるふりをする。すると、メンチ君は冷めた表情でこちらを見詰めてくる。

 

「却下よ。アンタ、絶対に自分から首を突っ込むでしょう」

「そんなことはないさ。ただ、襲われたら返り討ちにはするつもりだがね」

「やっぱり」

「まあ、私も情報を探してみるか」

 

 携帯を操作しながらオーラを込めていく。意味はないが、銀の鳥達に接続して情報を探す。探す場所はヨークシン。そこに存在している小さな鳥達から情報を集める。

 

「まったく……」

「最低限の情報がないと、本当に詰むからね。シングルのプロハンターを殺したのなら、相手は念能力者だろう。能力の予測を立てないと弱点をつけないじゃないか」

 

 相手の情報さえあればなくても弱点を作り出す事が可能なのだけどね。司馬懿殿なら。

 

「わかったわ。今判明している情報は、被害が始まったのはマフィアが運営する店からってこと。そこの従業員と客は全滅していたわ」

「ほほう。どんな具合にだい?」

「バラバラにされていたのもあったけれど、そのほとんどが溶けていたわ」

 

「溶けていた? 斬り殺したのではなく?」

「そうよ。切断された死体も溶けていたわ」

「成分分析は?」

「硫酸だったそうよ」

「なるほど」

 

 相手は切断系の武器を使い、硫酸を使う。これぐらいなら一般人でも可能だが、それではプロハンターは殺せない。ましてやシングルなんて夢のまた夢だ。

 

「それと商品にされていた子供達が一人も見付かっていない」

「おいおい、子供達を商品にしていたのかい?」

「それも最低最悪の扱いよ。年齢だって一番下はライネスとそう変わらないわ。その子達に客を取らせて、客は子供を拷問したり、仲の良い子供を解体させたり、食べさせたり……胸糞悪い映像が残っていたわ」

「監視カメラは?」

「あったけれど途中から何も映っていないそうよ」

「途中まででいい。どうなっているのかな?」

「一度しか言わないからね。そいつらは逃げだそうとした子供達の手足を奪い、最後は実験台として使ったみたい。何か、子供達と捕らえていた銀の凶鳥が結び付けられていたから、操作系か何かで操ろうとしたのでしょうね」

「待て待て! それなら原因はわかっているじゃないか。何故ここまで被害が広がっている。その前にハンター協会なら手を打てただろう」

「無理よ。私達が知ったのは少し前。マフィアが隠蔽していたのよ。ガサ入れして強制的に開示させたってわけよ」

「ちっ」

 

 思わず舌打ちがでた。だが、まあこのタイミングならメンチ君は私と変わらない子供達を実験にしたことについてだと思うだろう。それだって思うところはある。例えば私が助けてやりたかったとかね。そんな不幸な子供達を助けて幸せにしてあげると、私にも色々とメリットがある。

 彼女達は感謝するだろうし、私の私兵として教育してもいいのだからね。それに借金生活脱出の近道になる。何故って? 念能力者にしてから身体能力を上げて天空闘技場に叩き込んでおけばいいからだ。

 まあ、こういった理由もあるが、一番の理由は……何、人の可愛い可愛い鳥達を勝手に許可なく捕まえているのだ。いや、捕まえることは百歩譲って許してもいい。だが、干渉して操作し、不正に使おうなどと許せない。願いの代価は自分で支払うべきだ。私はちゃんと彼等の願いを叶えてあげている鳥達を維持している。全オーラの八割に加えて絶が使用不可だぞ。これ、結構、オーラの量を分配するのは大変なのだ。回復が遅いからね。

 

「つまり、その子供が契約者となったわけだ」

「そうよ。そして、ナニカになった」

「なるほどね。ハンター協会はどう動くんだい?」

「一応、上層部には報告しているそうだけど、本格的な介入は止められているそうよ」

「またなんで……」

「国の上層部と繋がっているマフィアからの横槍ね」

「やれやれ、愚かだね。この相手の危険性を考えるのならば、私はネテロ会長や十二支んを投入するが……」

 

 呆れた表情でメンチ君を見詰めるとあちらは驚いているようだ。そんな表情を見ながら、鳥の視界を使って色々な場所を確認していく。頭が痛くなるが、我慢する。

 

「そこまでとは思わないけれど、なんで?」

「そうだね。ヒントはあげよう。消えた複数の子供達。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それらを合わせた結果、どうなるかね?」

「……まさか。ジョイント型の死者の念?」

「最悪の可能性はそれだ。普通ならこんな事はまず起きない。だが、願いを叶える銀の凶鳥が介入し、子供達の誰かが一緒に、それこそ死んだ子達とも一緒に居たいと望めばどうだい? 完成するのは死者の念とジョイント型というハイブリッドな化け物だよ」

 

 私と同じ理論だ。一人で足りないのなら、他所から持ってくる。私は一人を基準としてあくまでもハードやメモリを増設しているが、彼女達の場合は並列コンピュータだ。一つ一つは小さくても、繋げて増幅する事で能力を格段に上昇させる。そして、死者の念という通常の念が1ギガバイトとすれば1テラバイトのようなものを並列したら……あはは、笑っちゃうな! 

 

「ああ、それと悲しいお知らせだ」

「なによ……」

「ヨークシン周辺でストリートチルドレンや親に虐待されていた子供、家出した子供が消えているそうだね。ハンター専用サイトで調べてみたので確実な情報だ」

「待ちなさい。なんでライネスが入れるのよ」

「決まっているじゃないか。メンチ君のIDを使っているからだよ」

「……あんたねえ……」

「君のハンターライセンスは確認して暗記してあるし、パスワードも我が家で入力しただろう。そうなればトリムに全部筒抜けだぞ」

「……あの子の腹の中みたいなものだったわね……で、今も巨大化していっていると」

「そうだね。その可能性がある」

 

 しかし、武器、複数の子供、殺された子供、消えたストリートチルドレンや家出少女など。そして硫酸と銀の鳥。これらから導き出される答えは一つ。しかし、そんなことはあり得るのだろうか? 

 可能性としては私と同じような転生者もしくは転移者。そして、銀の鳥が作り上げた……そういえばフラグを立てていたか。確か、私はジャックを作りたいとも願い、必要な素体が集まれば実行に移そうとも考えていた。護衛にも暗殺にもアサシンは便利だからね。しかし、銀の鳥が私の願いを聞き届けて作るか? 私の知識を使うならジャックかハサンの可能性があったが……静謐ちゃんとかもかわいいしね。そういえば初代様欲しかったなあ。

 

「ねぇねぇ、ちょっといい?」

「なにかしら?」

 

 金色の髪の毛をしたボブカットの見慣れた可愛い幼女(断言)とピンク色の少女を見つめている私と同じぐらいの銀髪をした可愛い幼女が話しかけていた。

 

「あなたはわたしたちのおかあさん?」

「え、違うけど──」

「メンチ君っ!」

「っ!」

 

 私が飛ばした全力の殺気で、メンチ君の身体は瞬時に私とネテロ会長のせいで慣れ親しんだ行動を起こす。それすなわち、0.3秒の包丁の超高速抜刀。普段から警戒している彼女は迫り来るナイフを弾く。相手ももう片方の手で逆手に持ったナイフで攻撃してくるが、そちらも別の包丁を高速で抜刀して弾き、後ろに倒れるようにして襲撃者の幼女の腹を蹴りつける。

 

「くぅっ!」

 

 腹を蹴られた幼女は念能力者としてネテロ会長に鍛え抜かれた彼女の一撃をもって、複数のテーブルを巻き込んで吹き飛び、壁に激突。する直前で方向転換して壁を蹴って戻ってくる。

 

「トリムっ!」

 

 私の袖から出た水銀がトリムマウの姿となり、腕をハンマーとして横合いから殴りつける。相手はこちらの奇襲に気付いてナイフをクロスさせて吹き飛んでいく。そのついでとばかりに複数のナイフを飛ばしてくるが、ハンマーから腕を剣に変えたトリムが弾いてくれる。

 

「きゃああああああああああああああああぁぁぁっ!」

「に、にげろぉおおおおおおおおおぉぉっ!」

 

 一般人が気付いたようで、すぐに逃げだす。それを見た彼女は──

 

邪魔! 

 

 ──当然、周りの人間を細切れにしようとナイフを振るう。私はトリムに指示を出して攻撃を行わせることで妨害させる。幼女とトリムの斬り合いは拮抗しているといえるが、それは彼女が戦い方の素人で、オーラをちゃんと使いこなせていないからだ。逆にトリムマウはネテロ会長との修行で戦えるようにはなっている。また、斬られてもすぐに再生するので対処は可能、と思えるが……宝具を使われたらトリムが消される可能性もあるな。

 それほどに彼女から感じるオーラは禍々しく、膨大だ。

 

「わたしたちは本当のおかあさんを探しているだけなの! だから、邪魔しないで!」

「ちょっと、だったらなんで私に……」

「君が母親かと聞かれて否定したからだろうね」

「え、それって当たり前じゃない」

「そうだね。でも、それが彼女達にとってホワイダニットになるのだろうね」

「殺害する動機がそれだけってたまったもんじゃないわよ」

「彼女達は狂っているのさ。母親に捨てられ、拷問され、友達を殺され、その死体を……その、ね?」

「ああ、確かに狂ってもおかしくないけれど! どうするのよ!」

「どうもこうもない。逃げる。彼女と戦うにはここは場所が悪すぎる。それとも被害を気にせずに戦うかね? あまり立場的にしたくはないが……」

「逃げるわよ!」

「心得た。ただ、この持ち方には文句があるが」

「知るか!」

 

 私は包丁を片方仕舞ったメンチ君に荷物のように抱え上げられる。彼女はそのまま扉ではなく近くの窓を目指していく。このまま彼女を放っておいたら、被害は拡大して手が付けられなくなる。だが、一つだけ方法がある。世間体を気にすると死ぬかもしれないが、まあ男と結婚するつもりはないから私は未婚のままだろう。子供なんてそれこそ念能力で作ってしまえばいいのだし。妊婦ライネスか……それも想像妊娠だろう? やばいな。

 

「逃げるのはいいけれど、追ってくると思う?」

「気は乗らないが、私に秘策がある」

「声が楽しんでいるのをわかるのだけど?」

「いやいや、そんなことはないさ。王族としては致命的になるのだし」

「やりなさい。王族とは国民を守るためにあるんでしょ。ノブレスオブリージュよ」

「ここは私の国じゃないのだが、まあいい。彼女も救ってみせようじゃないか。私は我が儘なお姫様だからね」

「国では王子でしょう」

「まったくだ。変な国だよ、本当に」

「もう到着よ」

 

 後少しで到着する。話しながらもこちらに投げられてくるナイフを水銀で迎撃し、トリムマウを引き戻す。彼女は片手に古いアンティーク調のランタンを取り出していた。アレはまずい。もうやるしかない。

君の母親は私だ!

え? あなたがわたしたちのおかあさん?

「ちょ、ちょっと!?」

「そうだよ。だから、私と鬼ごっこをしようじゃないか。家まで競争だね。はい、スタート! 行け!」

「ああもう!」

 

 メンチ君が片手の包丁で窓を切り裂き、外に飛び出す。ちなみにここは五八階だ。上にはもうない。すくなくともそういうことになっている。そんなところから飛び出したら、そら落ちるね。

 

「メンチ君、これは大丈夫なのかな?」

「ライネス頼りね!」

「君と言う奴は……」

「私じゃ速度を落とすぐらいしかできないし」

 

 オーラで強化した包丁を突き刺し落下速度を落としていくメンチ君。これ、後で私が弁償するのかな? うわぁ、借金がものすごく増えるな。

 

「ちなみに追ってきているわよね?」

「わかりきったことを聞かないでくれるかな?」

「そうよね。上から馬鹿みたいなオーラが降ってきているし……」

 

 私は抱えられているので上が見える。我等が相手の彼女……どう見ても姿がFateのジャック・ザ・リッパーなので、ジャックちゃんと呼称しよう。そのジャックちゃんも何のためらいもなく、飛び降りてきている。

 

待ってよ、おかあさん!

 

 凄く良い笑顔で楽しそうに両手を後ろに下げて壁を蹴って加速しながら追ってきている。それにナイフを投擲してくるのでトリムマウで防ぐしかない。相手がジャック・ザ・リッパーなら、ナイフに当たった瞬間、呪いで即死だってあり得る。

 

「このままじゃ追いつかれるね」

「迎撃は!」

「してもいいが、民間人が馬鹿みたいにいる高層デパートが崩壊するよ。そうなると大惨事だ」

「しなくていいわ! だから、このまま空を逃げるわよ!」

「空、ね。了解だ。トリム、私達を固定してハンググライダーになりたまえ」

「かしこまりました。お嬢様」

 

 やはり、トリムからの呼称はこれだね。こっちの方がライネス・エルメロイ・アーチゾルテに感じられる。

 

「思いっきり蹴ってビルから離れてくれ」

「了解!」

 

 力強く高層デパートの壁を蹴り、空に投げだされる。ジャックちゃんはこちらを不思議そうに見ているが、すぐにトリムマウがハンググライダーに変化したのを見て飛び出してきた。

 

ずるい!

「トリム、乗せるなよ」

「はい」

わわっ!

 

 ハンググライダーの上に無数の杭を生成して貫こうとするが、ジャックちゃんは身体を捻って斬り捨てて着地しようとする。このタイミングでトリムマウを離脱させ、ジャックを包み込むようにさせる。

 

え? え?

「ちょっ、聞いてないんだけど!」

「敵を騙すには味方からだろう?」

 

 月霊髄液を起動し、パラググライダーを再度作りあげる。同時にプロペラも作成してそのままデパートから離れる。その間にジャックちゃんを覆ったトリムマウは内部から切り裂かれて空中で分解されるが、再集結して串刺しにしていくが、中から煙がでてくると事態は変化する

 

「ちっ、ここまでか。戻れ、トリム」

「ちょ、どうしたの?」

「彼女、私の天敵なんだよね」

 

 硫酸の霧を発生させる彼女は水銀にとって天敵ともいえる。硫酸水銀に変化させたとしても、彼女が対象を選べる時点で彼女には効かないし、高濃度の硫酸で変色が起きて毒素が強まる。私にとって致命的だ。

 サーヴァントとしての相性を考えるとさらに最悪だな。彼女はアサシンで私はライダーだ。二倍ダメージな上に女性特攻が入る。

 さて、彼女の弱点はなんだろうか? 実は物理的に倒すか、洗礼詠唱などで浄化してしまうしかない。だが、私に洗礼詠唱など使えるはずもない。アレは聖人とかの力だ。ここに怨霊特化のグレイでもいればよかったんだが……そうも言っていられない。

 

「それでどうするの?」

「このまま家に向かうよ。何処かで足を手に入れられれば勝てるが……」

「なら、車ね」

「頼む」

 

 ハンググライダーで移動していてもエンジンを搭載しているわけではないので速度はでない。ジャックちゃんは普通に走って追いついてくるだろう。鳥の視界を確認すると、空から落ちて車を叩き潰してから即座にこちらを追いかけてきている。

 私達も地面に降りてその辺の車を購入する。どうやるかって? 

 

「この車、ちょっと売ってくれ。緊急事態なんだ」

「そ、そう言われても……」

「600万ジェニーで買ってやる。足りなければ追加もだす。これ、身分証だ」

「こ、これって……」

「追われているからね。後はこの携帯の奴と話してくれ」

「いくわよ!」

「ああ」

 

 パリストンに繋げた携帯を渡して札束を押し付け、さっさと逃げる。後ろからジャックが走っておいかけてきているが、流石に車は大丈夫だろう。そう思ったのだが、メンチ君の運転がやばい。

 

「もっと速度を出せ!」

「無理よ!」

「オーラで強化すればいけるだろう!」

「アンタ達みたいな出鱈目と一緒にするな!」

「なら運転を代われ!」

「馬鹿言ってんじゃないわよ! 子供に運転させるわけがないでしょう!」

「私はライダーだぞ!」

「しるか! なによそのライダーって!」

「ちっ」

 

 高速に入って時速100キロを出すが、普通に追いついてきやがった。流石はジャックちゃん! 化け物か! 原作より強いんじゃないかな! 

 次第に距離が近付いてきて、車の上にガンッという音がしたら、ナイフの先端が現れて穴が開けられる。

 

みつけたよ、おかあさん!

「メンチ君、フルアクセル!」

「了解!」

わわっ!

 

 前方に水銀を具現化し、わざと跳ね上がるようにする。目の前はトンネルだ。そうなると跳ね上がった車は天井ぎりぎりを通過し、その上に居たジャックちゃんは後方に吹き飛ばされていく。

 

「やれやれ、これぐらいで止まってくれたらいいのだが……」

「アンタ、それ……」

 

 鞄から取り出したのは爆弾だ。起爆装置は水銀を使った装置だ。それを窓から後ろに捨てる。何回か跳ねた後、激しい爆発がしてくる。まったく、ツェリードニヒお兄様の殺意は怖いね。

 

「メンチ君、携帯を借りるよ」

「いいけど、どうするの?」

「お爺ちゃんを呼ぶ」

 

 電話をかけてみると、数コールで繋がった。

 

『もしもし、わしじゃ。何の用じゃ?』

「今さ、とんでもないのに追われているんだ。場所はヨークシンだけど、助けてくれないかな?」

『無理じゃな。だってわし、療養に温泉に来ているんじゃ。どんなに急いでも二日はかかるのう』

「そうか。それならいい。会長は駄目か。じゃあ、マチ達は……」

 

 電話をしてみると、こちらもすぐにでた。

 

『なんネ』

「団長は?」

『今、携帯を預けて読書中ヨ』

「繋いでくれ。ピンチなんだ」

『知らないネ。そのままくたばるがよろシ』

「ちょっ!?」

 

 電話を切られた。かけ直しても無駄だ。フェイタン君が出た時点でわかっていたけれどね。仕方ないなあ。ジャックちゃんのおかあさんになるために、ライネスちゃん、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテとして本気を出そうか。ようは浄化属性を水銀に付与したらいいんだろう? ぶっちゃけていえば聖銀、ミスリルの水銀を作ればいいだけだろう。やってやるよ! 

 

「大丈夫なの?」

「自分で解決するしか……前だっ!」

「っ!?」

あは♪

 

 何時の間にか前方にジャックちゃんが現れてこちらに駆けてくる。私達は即座に扉を開けて外に飛び出す。ついでに残っていた爆弾も爆発させる。私は月霊髄液で身を守り、トリムマウにメンチ君を守ってもらう。

 ごろごろと球体で地面を転がり、止まったところで解除して立ち上がると周りは盛大に炎上してトンネルは崩壊している。メンチ君は頭から血を流して気絶しているが念能力者なのだから死ぬほどの怪我ではない。

 問題は炎の中からてくてくと笑いながら歩いてくる幼い少女、ジャックちゃんだ。正直、やばすぎだろう、君。

 

やっと追いついたよ、おかあさん! さあ、わたしたちと一緒になろう!

「断る」

なんでなんで、お母さんなのに! おかあさんじゃないの! おかあさんじゃない? そんなことない! でも、断られた! どうして? どうして? ねえ、なんでなの?

「私はおかあさんだからね。君達と一つになるつもりはないよ。君達は愛される側で、私は愛する側だからだ!」

 

 事実だ。子供である彼女達は愛されるべき存在だ。決して虐げられて殺されるべきではない。私? 私はライネス・エルメロイ・アーチゾルテだが、中身は既に成人している……男性だ。うむ、男性といって違和感がでてきたが、男性だ。取り敢えずアタランテの姉御は良い事を言った。モフモフしてやりたいな。

 

っ!?

「愛する側と愛される側が一つになれば、それはどちらかにしかなれない。君達が求めているのはそういうことじゃないだろう? 私は君を可愛がって愛でたいんだ。故に同一化は断る!」

で、でも……そ、それじゃあどうしたら、いいの?

「簡単なことだ。そのまま私の娘となり、私の庇護下に入ればいい」

おかあさんはわたしたちを捨てない? ちゃんと迎えにきてくれる?

「当然だとも。もしも君達に手を出す輩がいたら、そいつは私の敵だ。全力を以て、大人げない力も使って排除してやろう」

本当に、本当にわたしたちのおかあさん(ますたぁ)

「そうだね。そうなるよ。ああ、そうだとも。私が、おかあさん(マスター)だ。君達の中にいる一人は……」

 

 一瞬言いよどむ。ここにはメンチ君がいる。二人っきりなら大丈夫だが、この真実は知られたらまずい。もしも彼女が気付いていて、この話を聞かれたら? 私の計画が大幅に狂う。

 

……言いよどんだ……言いよどんだな……!

「まちたまえ。私は……」

嘘つき! 嘘つき! お前もやっぱり偽物だ!

「違う、本物だよ!」

信じない! 信じないったら、信じない! お前も死んじゃえ!

「ああくそっ!」

 

 本当に私は彼女の母親なのだが、これは叱らないといけないか。

 

「トリム撤退だ」

「はい」

 

 水銀を極薄にして作り上げた刃をもって周りを切断して崩落させる。この時にチビトリムマウを生成してメンチ君の横に残して守らせ、私は月霊髄液を馬の形に変更して逃げる。

 

待て、待てぇぇぇっ!

「殿を頼むよ」

「かしこまりました。ですが、お嬢様。別に倒してしまってもかまわんだろう?」

「……ああ、できるのならそうしてくれ、()()()()()

「任せたまえ」

 

 トリムが弓を生成して口にしたネタに合わせて魔力は多分に送っておいてやる。しかし、あの子は何故アーチャーにしたのだろうか? 

 そう思っていると後ろから爆発音が聞こえて振り返ると、水銀の弓に水銀の矢を添えて射ていく。その姿はまさにアーチャーだ。それと言うのなら、劣化壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。私の膨大なオーラから生成された魔力を起爆剤として放ち、内部からの爆発で粉砕された礫が弾幕となって襲い掛かる。

 いくら素早いジャックちゃんでも面の攻撃では耐えられないだろう。そして、この攻撃は内包する魔力を消費するので矢に使われた水銀は消失する。つまり、トリムの大部分が使用不可になるという自爆特攻攻撃。もっとも、私の月霊髄液が無事なら相互バックアップで復活は可能だが、死なないでくれよ、トリムマウ。

 

 

 

 




あえていおう。本当にジャックちゃんはライネス・ホイコーロの娘だと!

どうしてこうなった。水銀について硫化水銀とか調べたのですがよくわからない。濃度があれば分解されるのかな?
ちなみにアーチャーにした理由? ジャックちゃんはライネスにとってヘラクレスなみ。

どれからがいいですか?

  • グレイとカイトの兄妹の話
  • ポンズの話
  • ナーサリーライムの話
  • ジャンヌダルク・オルタの話
  • ルサルカ(マリウス)の話

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