ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの真似をする性転換少女   作:ピトーたんは猫娘

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あれ、なんだかジャックちゃんがおかしいよ? でも、きにしないでね。あくまでもジャックちゃんも本人じゃないからね! だから、あんな詠唱をしてもおかしくないんだよ!


恵まれない不幸な少女2

 

 

 

 トンネルが炎で激しく燃え盛る中、わたしたちの目の前から偽物が逃げていく。追おうとしても、銀色が邪魔をする。

 銀色が放つ矢は遅くて避けられるけれど、避けた瞬間に爆発してきてわたしたちを吹き飛ばすからめんどくさい。

 通り抜けるために全速力で駆け抜ける。周りの景色がどんどん遅くなっていく中、矢が放たれてきた。わたしたちはナイフを作り、投擲してぶつける。するとその直前で爆発して礫が飛んでくるので、わたしたちは飛び上がってトンネルの壁を走って避けていく。

 そんなわたしたちの進む先に矢が飛んできて妨害され、後ろに飛び退って相手の攻撃から避ける。速度を殺し切れずに地面をナイフで切り裂きながら止まろうとするけれど、そこに矢が飛んできてわたしたちは地面を蹴って左右に移動して回避するしかない。

 急いで突撃しても、的確にわたしたちの行動を先読みされてせっかく進んでもどんどん炎で燃え盛り、ひびが入って何時崩れてもおかしくないトンネルの中に下がるしかなくて、辛い。

 

「むぅ~通してよ~」

「それはできません。マスターより、殿を申し付けられておりますので」

 

 ナイフを構えながら隙を伺う。でも、相手に隙はない……と思う。

 

「どうしよう? どうすればいいかな?」

 

 考える。考える。それしかできなかったし、わたしたちは得意。そうだよね。わたしたちは考えて、望んで手に入れた。だから、諦めない。絶対におかあさんを見つけて幸せになるんだ。だから、こんなところで止まれないよね? うん、そう。わたしたちは止まらない。

 

「降伏をお勧めします」

 

 考え事をしている間も矢が飛んでくる。それらを両手のナイフで切り落とし、駆け抜ける。矢が爆発するよりも速く、速く駆け抜けて多少の傷は無視する。身体から力が抜けていくけれど、気にしない。

 

「残念です。マスターの娘になればあなたは幸せになれますのに……」

 

 どんなに壁や地面を高速で移動し、トンネルを崩して礫を放っても相手の身体をすり抜けて意味をなさない。逆にわたしたちは無茶な突撃をしているから、身体に無数の矢が突き刺さる。起爆されたら普通なら終わり。

 

「そうかな? そうかもね。でもね?」

「む……」

「抜けたよ?」

 

 銀色の横をボロボロになりながら、倒れながら抜けた。何度も何度も地面に身体を打ち付けて顔を擦りつけて泣きそうになるほど痛いけれど、我慢する。おかあさんに会いたいから。

 

「ですが、それだけです」

「うん、そうだね。でもね? わたしたちにはこれがあるの」

「っ!?」

 

 首と腕を180度、くるりと回しながら銀色に抱き着いて身体を内部から爆発させる。ぼふん、という音と共に身体から硫酸の霧を発生させていく。わたしたちには効かないから大丈夫。

 銀色は腕を剣にして突き刺してくるけれど無駄。それはわたしたちであってもわたしたちじゃない。

 

「どろどろに溶けちゃえ」

 

 銀色はわたしたちの全力で力を籠めた霧を受けて、身体が薄い黄色に変化していく。そうしたら、身体をぷるぷると震わせて、人の形が保てなくなってきているし、何か水蒸気みたいなのもでている。

 

「……汚したな……」

「ふえ?」

「……マスターから貰った、大事な銀色を……汚しましたね……」

「え、えっと……」

「殺します」

「っ!?」

 

 即座に身体が吹き飛ばされる。トンネルからは出られたけれど、空が薄い黄色に覆われていく。わたしたちの上に覆いかぶさり、無数の杭を打ちだしてくる。わたしたちは空中で回転して足から地面に立ち、即座に蹴って移動して回避する。ナイフでも斬りながら偽物を追いかける。

 ナイフは片手にして、ランタンを作ってくるくると振り回す。中から沢山の霧がでてきて、高速道路を覆っていく。霧の中で銀色はわたしたちの幻影と戦っているけれど、無視する。今はおかあさんが優先だから。正直、これはもの凄く疲れるから使いたくない。

 

「むっ」

 

 銀色を抜けて移動すると、黒い車がいっぱいきていて、黒服の人達が銃を構えている。でもね。でもね? 

 

「撃て!」

 

 放たれる銃弾に運動能力をあげて突撃する。銃弾をナイフで弾き、車を飛び越えて撃って来た人を細切れにする。続いて車を蹴り飛ばして盾にしつつ、霧に取り込んであげる。対象に指定せずにわたしたちの姿を乗せて銀色に相手をさせれば時間稼ぎも大丈夫。銀色の相手をするよりも、今は偽物を追う事の方が大事な気がする。

 

「くそがっ! マフィアに逆らったことを後悔させてやる! ロケットランチャーなら流石に大丈夫だろう!」

 

 発射される前にナイフを投げて、発射された直後に命中させる。すると爆発が起きた。とっても綺麗だね。

 

「おかあさんがいないから、この人達はどうでもいいよね。そうだよね」

 

 通り抜けながら、車と人を幾つか切断しておく。偽物の姿を探すけれど気配は感じない。でも、どうしてかな? 不思議と居る方向と場所は感じられるよ? だから、そっちに向かうかな。

 

 

 

 

 高速道路から飛び出してビルの上を全速力で駆け抜けていく。しばらく進んでいくと、馬に乗ってビルの上を走っている偽物を見つけた。相手はこちらに気付いていない。だから、そのまま飛び上がって上から奇襲する。

 

「此よりは地獄。わたしたちは──」

 

 殺戮を……と繋げようとして偽物がこちらを見てニヤリと笑った。その瞬間、嫌な予感がしてオーラを込めた全力攻撃をキャンセルする。その瞬間、周りから一斉にとても小さな銀色の礫が集まってきた。それを避けるためにナイフを消してランタンを取り出して振るい、硫酸の霧で吹き飛ばす。

 飛ばし切れないものが身体を貫いてくるけれど、再生させる。力がごっそりと抜けていくけど、仕方ないよね。この銀色は偽物が操作していて、わたしたちの体内に入れられると困るから排除するしかない。

 

「ふむ。やはりこれだけでは狩り切れないようだね。流石は我が娘だ」

「あなたはわたしたちのおかあさんじゃない」

「いやいや、それはどうかな? どちらにしろ、ついてきたまえ。決着は我が家で付けようじゃないか。まだゲームは終わっていない」

「あなたじゃわたしたちには勝てない。一撃で殺せるんだから」

「やってみたまえ」

 

 偽物が乗っている銀色の馬を撫でると、それが蜘蛛みたいな足になって飛び上がる。ビルとビルの間を蜘蛛の足を使って高速で駆け抜けていく。わたしたちはすぐに追うけれど、建物がいっぱいある場所では動きにくいし、偽物が両手に持つ銃を用意して撃ってくる。

 

「邪を払う銀の弾丸は君達には効くのかな?」

「そんなの……えっ!?」

 

 偽物が銀色の上に筒みたいな大きなのが現れて、物凄い速度で銃弾が飛んでくる。身体が無数の銃弾を受けて吹き飛ばされていく。

 

「GAU-8 Avenger。魔術師としてはこんな物、使いたくはないのだがね。だが、私は魔術師であると同時に王子であり、軍師だ。だから、勝つためには色々と取り入れさせてもらうよ」

「何言ってる、の?」

「気にしないでくれていい。君はただ、この弾幕を抜けてきたまえ」

「こんなの、何時までも続くはずない!」

「その通りだ。サーヴァントの相手を生身でするのだ。なら、全てを燃やさねばならぬだろう」

 

 相手の力はわからないけれど、凄い勢いで力を使っているのはわかる。わたしたちの数人分の力を一瞬で消費している。

 

「なに、君達のためならば惜しくはない」

「うっ」

 

 霧をいっぱい出して、気配遮断も使って隠れる。それから方向から逆算して先回り。奇襲して仕掛ける。でも、その前にまた別の邪魔者が現れた。

 

「ハンター協会だ。双方、そこまでにしろ!」

「待って!」

「止まれ!」

 

 偽物は気にせずに進んでいくので、わたしたちも追う。邪魔な連中は霧に閉じ込めてしまえばいい。そう思ったら、霧が吹き飛ばされた。

 

「流石にこの状況になればハンター協会を止めていられないか。だが、まあ……」

 

 大きく飛び跳ねた偽物はビルが途切れたとても広い土地の場所に着地する。わたしたちも邪魔者もそこに着地する。

 

「ここは私の、カキン帝国の領土だ。ハンター協会の方々にはご遠慮いただこう」

「ちょっと待て!」

 

 偽物は蜘蛛の上に立ちながら、周りいっぱいに現れた邪魔者達に指示をだしていく。全員が銃で武装していて、中には怖い気配の奴もいる。

 

「彼女以外にはお帰り願う。君は私の家で決着を付けようじゃないか。それとも、逃げるかね?」

「……そうだね。逃げるのもいいかもね。でもね、わたしたちはおかあさんを探しているの」

「そうだろうとも。さあ、鬼ごっこは終わりだ。ここから勝負を決めようじゃないか」

「いいよ」

 

 偽物は蜘蛛を飛ばしてそのまま大きな家の中に入っていく。わたしたちも中に入ると……そこは嫌な気配がいっぱいする。振り返ると、入った扉は文字通り消えていた。あるのは銀色の壁だけ。前を向くと、楽しそうに偽物がくるりとこちらを向く。

 

「さて、ゲームをしようか。ジャック・ザ・リッパー。おっと、この名前であっているのかな?」

「わたしたちは魔法少女ジャック・ザ・リッパー」

「ぶっ!? 待ちたまえ。魔法少女?」

「そうだよ?」

「魔法少女……ああ、魔法少女……そうか、魔法少女か……これも私の業という奴か。あはははは……」

 

 片手を顔に当てて笑いだすおかしな偽物。わたしたちは不思議に思いながらもナイフを構える。

 

「おっと、その前にルールを決めよう。私が勝てば君達は私の物になる。君達が勝てば私は君達の望むおかあさんになってあげよう」

「……? あれ、なにかおかしい、ような……?」

「どこもおかしくないよ。それよりも始めようではないか」

「いや、やっぱりおかしいよね? そうだよね?」

「なら、勝った方の願いを叶えるということでいいかな?」

「うん、それならいいよ」

「じゃあ、改めて始めようか」

「行くよ!」

「来い、ジャック・ザ・リッパー」

 

 どちらにしても、偽物を倒さないと外には出れない。だから、足を踏みだして、全力で床を蹴って加速する──はずった。わたしたちが踏み込んだ足先には銀色の杭が現れていて、それを思いっきり踏み抜いた。杭の先端がわたしたちの足を貫通すると先端から無数の返しの付いた針がでてきて抜けなくなる。

 そんなわたしたちに周りから、円錐状の高速回転している槍が無数に伸びてきて、片手のナイフで弾こうとすると巻き取られて吹き飛んだ。身体中が貫かれて仕方ないから身体を霧に変換して室内を硫酸の霧で充満させる。

 どうしたらいいのかな? 逃げればいいかな? お外に出られるかな? 試してみよう。

 窓をナイフで斬りつけようと思ったけれど窓もなくなっていて、あるのは銀の壁と通路だけ。何時の間にか偽物も居ない。その上、どんどん襲われていく。

 

「トリム、教育の時間だ。殺さないように気をつけてくれ」

「かしこまりました」

 

 あの銀色がどんどん出てくる。一人、二人、三人、いっぱい。そいつらは槍と盾を持っていて、こちらに突撃してくる。逃げられないし、敵は強い。

 

「痛いけど我慢!」

 

 わたしたちは一旦逃げる。四方八方、全方位から襲い来る銀色を駆け抜けて切り裂き、傷を負いながらもどうにか隙間を抜ける。頬が削り取られ、腕は千切られる。でも、すぐに再生するから大丈夫。問題はこのままじゃ勝てないこと。わたしたちの力が通用していない。もっと、もっと強くならなきゃ。

 

「何処へ行こうというのだね。我が家に入った者は私の許可なく外に出る事など不可能だよ。ここは私、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの魔術工房。神殿とは行かなくても一種の異界は形成できている。故に外部から干渉も観測も受け付けないし、助けもこない。そう、ここはもう私と君達、トリムだけしかいない。なら、私が全力を出してもなんの問題もないわけだ」

「ひっ!?」

 

 なんだかよくわからないけれど、凄く怖い。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星。巨神が担う覇者(ホイコーロ)の王冠。太古の秩序(カキン帝国)が暴虐ならば、その圧制を我らは認めず是正しよう。勝利の銀光で天地を照らせ。清浄たる王位と共に、新たな希望が訪れる。

 百の腕持つ番人よ、汝の鎖を解き放とう。鍛冶司る独眼よ、我が手に炎を宿すが良い。大地を、宇宙を、混沌を(暗黒大陸を)──偉大な銀炎で焼き尽くさん。

 聖戦は此処に在り。さあ、人々よこの足跡へと続くのだ。約束された繁栄を新世界にて齎そう。超新星──天霆の轟く地平に、闇はなく」

 

 なにか凄い勢いで相手のオーラが消費されている気がしているけれど……なにもおきない。

 

「ちっ、流石に無理か。増幅しているからできたと思ったのだけど、残念だ」

「し、失敗?」

「まあ、失敗作ができた程度だ」

 

 偽物が指を鳴らすと、銀色の巨人が現れる。そいつは鎖がいっぱい取り付けられていて、その鎖がどんどん外れていく。

 

「本当は千手観音を水銀で作りたかったのだが、一ヶ月程度の時間ではデータが足りなかった。だから、こちらにした。申し訳ないが、我慢してくれ。というわけで、言うのならこの台詞かな。殺っちゃえ、トリムマウ(バーサーカー)

「──■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!」

 

 巨大な剣を持った巨人が突撃してくる。巨大な剣の一撃は床を粉砕し、クレーターを作り上げる。底を見ると、数メートル深くまで銀色が吹き飛んだのに、まだ下に銀色があった。

 

「ああ、幼い女の子が恐怖で歪むさまというのは、あまり興奮しないね。やはり、成人している自尊心たっぷりの大人達を虐める方が楽しそうだ。だが、ジャックちゃんも散々私を殺そうと追いかけ回してくれたし、お仕置きは必要だろう。だが、諦めて降参するのならば何時でも受け入れよう」

「わたしたちは負けない!」

 

 わたしたちで話し合ってから、恐怖を押し込めて前に出る。床から攻撃されないかを気をつけながら全速力ではなく、速度の強弱をつけて巨大な剣の一撃を避けて、回転するようにそこに飛び乗って首をナイフで交差するように切り裂いてからすぐに首を蹴って弾き飛ばし、バックステップで巨人の身体から降りる。

 わたしたちが斬った首は空中で断面の両方から糸が紡がれて接触し、結びついて引っ付いていく。そして、何事もなかったかのように赤い瞳が光り輝いて巨大な剣を持ち上げる。

 

「言っただろう。ここは私の魔術工房だ。ほぼ全てに水銀を染み込ませ、屋根や天井に無数の馬鹿みたいな数の神字を天体に見立てて刻み、その他には大地を模して刻み、増幅に増幅を重ねている。つまり、ここは一つの世界であり、私が神だ。ジャックちゃん……ジャック君が勝つには全ての水銀を消滅させるか、術者である私を殺す、または敗北を認めさせる必要がある。うん、そうだね。こう言おう。不死の化け物を討伐し、英雄になってみせるといい。私のトリムマウ(ヘラクレス)は最強だけどね!」

「そうだね。わたしたちの負けかもね。でもね、負けるのは嫌かな。またあんなところに行きたくないもん……だから、だからね……もっと力をちょうだい!」

「おや、おやおや?」

 

 威力が足りない。速度が足りない。なら、どうする? わたしたちが完全になればいい。

 

「ここがお前の世界なら、上書きすれば勝てるよね?」

 

 巨人の攻撃と銀色の攻撃を避けながら聞いていく。

 

「できるかな?」

「できないかな? できるよね? わたしたちはジャック・ザ・リッパー。それなら、できないはずがないよね? あなたがいうように、こんな感じかな? 創生せよ。天に煌めく星はなく、空は滅びの雲に覆われ、地に流れるは全てが溶ける霧。踊るは血が詰まった肉人形。わたしたちは愛されず、ただ消費され、生まれる事も許されずに殺されていく」

 

 首を絞められ、殺される。殴られて殺される。手足を引き千切られて口に入れられ、殺される。生きながら食べられて殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。

 

「おかあさんが迎えに来る日はなく、わたしたちは醜く穢れてしまった。ああ、悲しい。蒼褪めて血が抜けて動かなくなる死人の躯よ、おかあさんに抱きしめられたとしても二度と熱は灯らない。だから、朽ち果てぬ微かな幸せを思い出に、せめて願う。

 わたしたちは、おかあさんたちに、言い残した、遣り残した未練があるから。歩いて、歩いて、冥府を抜け出す。物言わぬわたしたちの骸を一つにしてどうしようもなく切に切に、(おかあさん)の零落を願う。怨みの叫びを天へ轟けと虚しく闇へ吼える。

 いくら願ってもおかあさんは迎えにきてくれないから、わたしたちを苦しめる絢爛たる輝きなど、一切滅びてしまえばいい。苦しみ嘆けど産み落とされるのは万の呪詛。喰らい尽くすは億の希望。死に絶えろ、死に絶えろ、すべて残らず溶けて混ざれ。

 ──暗黒霧都(ザ・ミスト)

 

 無数のカンテラが浮かび出てきて、そこからいっぱいの霧を放出する。わたしたちの力がごっそりと抜けていくけれど、大丈夫。世界は──書き換えられた。

 家だった場所は地下室に代わり、わたしたちが閉じ込められていた場所になる。すると巨人は崩れて銀色の液体になった。それらはどんどん黄色くなっていく。

 

「いやはや、宝具の再現か。これはまいったね。トリム、行けるかい?」

「問題、ありません」

「子供達の呪詛。硫酸の霧なんて生温い物じゃない。呪いの霧そのもの。一般人なら確実に即死だ。ハンターでも生半可な連中は即死だろう。うん、これは予定変更だ。彼女はなんとしても手に入れるか、殺すよ。外に出したら被害が甚大になる。それこそ災厄になれるポテンシャルを持っている」

「マスター?」

「そう、それに……私の銀をここまで汚したんだ。生半可な事で許すと思うなよ」

「知らない。お前はさっさと解体されちゃえ!」

「そうか。そうか。なら、私も容赦しない。隠された庭園(シークレットガーデン)限定解放。鳥達よ、我が呼びかけに答え、集え」

 

 銀色の風がどこからともなく現れる。距離なんて関係ない。まるでそこに居るのが当たり前かのように現れた。銀色の風だけじゃない。銀色の鳥さん達もいっぱい。それも視界を埋め尽くすくらい、いっぱい。

 

「災厄には災厄だ。本来なら継承戦か暗黒大陸に行くまでは取っておくつもりだったが予定変更だ。さあ、ここからが本番だ」

 

 鳥さん達が偽物にいっぱい入っていく。馬鹿みたいに力が膨れ上がった。わたしたちは即座にわたしたち全員で挑む。無数のわたしたちが殺到する。いろんな角度から女性を即死させる呪いを乗せたナイフで斬りかかる。でも、わたしたちは全て銀色でつくられた薔薇の鞭によって迎撃されていく。それにわたしたちの霧は鳥さん達には効かないみたい。なんでかな? 

 それなのに空に残っている鳥さん達からも無数の弾幕が放たれてくる。わたしたちは必死で避けながら、近付いて斬る。何人も何人も犠牲にして、ようやく近づけた。でも、片手以外の手足は全部なくなっちゃった。それでもいい。

 

「此よりは地獄。わたしたちは炎、雨、力──殺戮を此処に」

「させぬよ。月霊髄液」

 

 銀の閃光が煌めいて、わたしたちの腕を切り落とす。でもね、でもね? 

 

「まだだよ」

 

 飛んで行く腕からナイフを噛んで、解体聖母(マリア・ザ・リッパー)を放つ。顔だけになっちゃったけれど、隙をつけた。

 

「ちっ、しまっ──」

 

 解体聖母(マリア・ザ・リッパー)が偽物が頭を守るために上げた腕に命中した。これでわたしたちの勝ち。

 

「──なんてね」

 

 そのはずなのに弾かれて、偽物はピンピンしてわたしたちを蹴り飛ばす。膨大な力が込められたその一撃で骨が折れて壁に埋まる。その衝撃でナイフを落としてしまう。

 

「なんで、なんでっ! なんで効いてないの!」

「いいや、効いているさ。ただ、届いていないだけなのだよ」

 

 偽物の腕は黒く変色していく銀色に覆われていた。それが外れていくと、綺麗な傷一つない腕が見える。

 

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)は対象に命中。正確にいえば命中すれば、という条件が与えられる。つまり、自らと水銀との間に一定の距離を設け、命中した時に廃棄すればそれはもう私の身体ではない。故に呪いが発動するのは水銀の部分のみ」

「そっか。そうなんだね。でもね!」

 

 瞬時に再生して皆で霧に紛れ、気配遮断も使って駆け抜ける。色んなわたしたちが武器を持って挑む。次々に薔薇の鞭に絡めとられ、吊るされていく。それだけではなく、解体聖母(マリア・ザ・リッパー)の盾にもされる。条件は同じ。わたしたちも解体される。でも、すでに死んでいるわたしたちには意味がない。

 四方八方から襲い掛かる鞭と銀の弾幕。それに加えて偽物も近接戦闘が強い。わたしたちが一対一なら瞬殺できるけれど、その前に銀色達が邪魔をしてくる。

 でも、偽物を盾にすればある程度は防げる。わたしたちの力が切れる前に高速で斬りかかる。相手も銀を使って防いでくる。千日手みたいにいくら攻撃しても防がれる。だから、わたしたちはわたしたちを盾にして突撃する。

 

「なに!? ジャックの中にジャックだと!」

 

 身体を貫かれたわたしたちの中から、もう一人のわたしたちを生み出して押し倒す。ナイフを顔に突き刺そうとしたら、両手を掴まれて動けなくなった。このままナイフを放しても、不思議な力で弾かれる。しっかりと押し込まないと駄目。

 

「捕まってしまったね」

「これで終わり。わたしたちの中から、またわたしたちを呼び出せば勝てる」

 

 わたしたちの中からナイフを持ったわたしたちがでてくる。わたしたちは何度もわたしたち自身を食べた。だから、お腹からでてきても不思議なことなんてなにもない。

 

「やはり私は戦闘タイプではないのかな。いや、ジャックちゃんが強すぎるだけか。死の念のジョイント型とか、反則すぎるね」

「何を言っているのか、わからないけれど、これで解体だよ♪」

「私も死にたくないのでね。だから、切り札を使おう」

「まだ何か有るの?」

「ああ、あるとも。私は銀の鳥の制作者だ」

「? わからない。何を言っているの? まあいいや。バイバイ!」

 

 ナイフを突き刺そうとしても身体が動かない。

 

「なんで、なんでなんで!?」

「まあ、落ち着きたまえ。大丈夫。危害は加えないさ」

「これ、あなたの仕業!」

「ああ、そうだよ。さて、2、3質問に答えてくれれば解放してあげよう」

「な、なに? 聞くだけなら聞いてあげる」

「君達の目的はおかあさんをみつけたいという願いだね?」

「そうだよ。わたしたちはおかあさんを探している」

「わかった。では次だ。そのおかあさんを見つけてどうしたい? 幸せに過ごしたいのかな?」

「過ごしたい! わたしたちはおかあさんに愛されたいだけ!」

「最後だ。お母さんに迎えに来てほしいかい?」

「来て欲しいよ!」

「その願い、聞き届けよう……こふっ」

 

 偽物が何もしていないのに血を吐いた。その状態でわたしたちを抱きしめて頭を撫でてくる。するとわたしたちの身体が凄く楽になってくる。

 

「あははは、これはまいったね。溜め込んだ物がほぼ消えているが……まあいいか」

「な、なにを言っているの……?」

「ジャック。あの時言いよどんだのはね……私が銀の鳥の生みの親だからだよ」

「え?」

「君達の願いを叶え、一つの存在として統合したのは私の子供だ。つまり、ジャックも私の本当の子供といえる。だから嘘はついていない。ただ、あの場所には他の人も居たから伝えられなかっただけだ」

「本当に、本当に、お母さんなの?」

「ああ、そうだ。それに喜びたまえ。君の先程の願いは成就された。私は君を愛そう。君と共に幸せに過ごそう。君が望むのなら、どこでも迎えに行こう。これは絶対の制約と誓約だ。私はそれを裏切れば死ぬ事になる。これは証となるのではないかな?」

「……」

「それで、どうかな? 私の家族に、娘になるのは嫌ならその、じょ、除念してもいいが……」

 

 偽物……ううん、おかあさんが不安そうにこちらを見詰めてくる。わたしたちはわたしたちで話し合う。

 

『多数決をとります!』

『鳥さんに助けてもらった』

『地獄から救ってもらったからいい』

『やだ。解体したい』

『鳥さん、わたしたちの一人だから、間違いじゃない』

『おかあさん。おかあさん!』

『おぎゃあ、おぎゃぁあぁっ!』

『どうでもいい。お腹空いた』

『えっと、うんと……おかあさんはお姫様だよね? だったら、わたしたちは……』

 

 話し合いの結果、決定。

 

「ううん。わたしたちはおかあさん(マスター)(魔法少女)になるよ!」

「そうかそうか!」

 

 不安そうな表情が一転してニコニコして、笑顔で頬擦りしてくる。ちょっとくすぐったい。でも、とっても温かいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




力尽きた。本当はシークレットガーデンからジャックちゃんがなんとかして逃走。そこをハンター達に襲われて、ライネスが迎えに来て、消滅仕掛けのジャックちゃんを助ける。という構想でしたが、アレシークレットガーデンからどうやって抜け出すの? 逃げる=死だからライネスが逃がすはずもないし、逆にライネスが瀕死になってもジャックちゃんが止めをささないはずもなし。計画は頓挫。

ジャックちゃんを説得できるフラグ。
1.女性であり、ジャックちゃんに襲われても凌げる程度の力があり、ジャックちゃんを守る力(権力、財力など)があること。
2.実際に統合されている子供の母親であること。
3.大量殺人犯のジャックちゃんを受け入れ、愛すること。
4.必ず迎えにいくこと。迎えにいかないと殺される。

以上の条件を達成すると、星5ジャック・ザ・リッパー(ヨークシン)が手に入ります。難易度? 超高難易度で、聖杯という名のジャックちゃんがもらえるから、聖杯本体と伝承結晶はなし。やったね!


うん、普通は無理。性別を除けばネテロ会長とか、いけそうだが……性転換薬がないと無理。



ライネスのオーラが使用できる割合が一割になりました。以降、ジャックちゃんの維持に一割が消費されます。銀の鳥がリセットされました。暗黒大陸をめざして再度、解き放ってください。(ふりだしにもどる)
オーラ不足により、トリムマウの戦闘力が約70%減少しました。月霊髄液はそのままです。
事後処理でライネスの借金が58億ジェニー加算されました。(ジャックちゃんの引き取りや手配などに関する事を含めて)

邪ンヌの家族が死亡しているかどうか。クルタ予定なので両親は確実に死亡

  • 三姉妹全員生存
  • 姉のみで生存
  • 邪ンヌのみ生存。姉妹死亡
  • 聖女とリリィの姉妹。リリィが邪ンヌ化
  • いっそ邪ンヌとアルトリアオルタのペア

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